第38話 独白――八重瀬の説得――
そう。晶龍はずっと、自らの死を願っていた。
自分が死ぬことで、島民たちの時間を元に戻し、今の時代でも生きられるようにと。
だけど魔獣は基本的に、自ら死を選ぶことは出来ない。彼らは他者に殺害されるか、寿命を待つか以外で死ぬことは出来ない。
それは、魔獣としては非常に高度な知能をもつ晶龍も同じだったんです。
彼は言っていました。何度も試したと――
だけど自ら毒を盛ろうが、どれほど自分の身を自分で喰らおうが、どんなに核を叩き壊そうとしようが、彼の再生能力はその傷を大幅に上回り、どうやっても自死には至らなかった。
だから晶龍はずっと、依代を求めていた。つまり、自分の魂を降ろすことが出来る身体を――
要は、僕――八重瀬真言を。
そこで晶龍は、島を覆う結界の力を敢えて緩めました。
つまり、外からある程度情報を取り込もうとしたんです。同時に少しずつ白龍島の存在も外部に漏れだし、国が秘密裡に調査を行なうことになった。
やがて晶龍の情報は、国も知るところとなり。
ほぼ同時に彼は、自分の血液を使って神器を操り、魔獣を封じる者たち――つまり心療課の存在を知った。
その流れについては、あまり僕からはうまく説明できません。僕が直接知っているわけではないし、僕よりも円城寺課長の方が詳しいと思いますから。
とにかく、僕が知っているのは――
晶龍が、課長を始めとする地域守備局上層部と、長らく秘密裡の交渉を続けていたことぐらいです。
晶龍が出した条件は、自分の依代となる血を持つ人間。
それに対し、心療課側の条件は、晶龍の持つ能力――
つまり、魔獣との戦いを圧倒的に有利に進められる力だった。
特に戦闘が起こった際、晶龍が生み出す結界。周囲と魔獣を隔絶する幻を生み出し、戦闘による被害を最小限に留めるあの結界は、心療課にとっては非常に魅力的なものですからね。
あの結界があれば、巴君たちがどんなに派手に戦っても、周辺への被害も抑えられる。
確かに、心療課や国にしてみれば、一刻も早く欲しい力には違いない。
魔獣や心療課の戦闘で酷い被害がしょっちゅう出ているのは、大分前から問題にはなっていましたからね。
だから課長は、その交換条件として僕を差し出した。
あぁ……巴君。怒らないで。
僕、そこまでおかしなことだとは思ってないから。
僕はむしろ、自分にそういう力があったんだって、すごく嬉しかったから。
というか、巴君には心から謝りたかった。何も知らなかったとはいえ、僕のことなのに君を巻き込んで、本当に迷惑かけちゃって。
ホントは、とても嬉しかったんだよ? あの海での戦いの時、元気な巴君に会えて。
晶龍が暴れまくってて、僕は殆ど『表』に出られなかったけど。
とにかく、僕の身体に晶龍が降り、僕が死ぬことによって、晶龍も死ぬことができる。
だから晶龍は、ひたすらに僕を求めていたんです。
僕が最初に接触した時の彼は、若干正気を失っていた。だから暴れ狂い、無理矢理僕の中に入ろうとしてきた。
襲われた時もだけど、『核』に触れかけた時もそうだった。
さっきは簡単に説明しましたけど、ちゃんと晶龍から真相を聞きだすまでは、そこそこ大変だったんです。ただ触れただけで知識が流れ込んできてくれれば、楽だったんですけどね……
『核』から突然、実体を伴った光が何本も飛び出してきたかと思ったら――
一気に僕の体内へ、直接入ってきたんです。具体的には、傷口を通して。
え、痛かったかって? そりゃ痛かったですよ、既に致命傷負っているところに蛇を突っ込まれたような感覚でしたから。
同時に晶龍は、ひたすら訴えかけてきました――
――儂と一緒に、死んでくれ。
――共に死んで、この島を救ってくれ。
最初はとにかく、全然意味が分からなかった。
自分の身体が、晶龍に奪われかけている。その時の僕には、それぐらいしか分からなかった。
だから僕は、無我夢中で問いかけました。
――どうして、死にたいのか。
――貴方が死ぬことで、本当に島が救われるのか。
晶龍は魔獣でありながら、長い間、島の人たちに守り神として崇められてきた存在です。
その信仰は非常に強固なもので、彼らは最早晶龍なしには生きていけない状態になっている。
晶龍が突然姿を消したところで、そこへ無理矢理国が乗り込んだところで、その信仰はそう簡単には消えやしない。
時代の流れを拒み、巴君が襲われ、僕が撃たれたように――
無駄な血が次々と流れるのは目に見えている。
晶龍が消えるだけでこの島が救われるなんて、僕にはどうしても思えなかったんです。
だから、必死で彼に呼びかけました。
――貴方が死ぬだけじゃ、この島は決して救われない。
――島の人たちを本当に救うには、それだけじゃ、きっと足りない。
――今貴方がいなくなっても、島の人たちは時代に適応なんて出来ない。
――何も分からないまま、貴方に助けを求めたまま蹂躙され、搾取されるしかない!
何度も何度も繰り返し、叫びました。
島の人たちをそうしたのは、貴方の責任のはずだと。
だったら貴方はまだ、死ぬべきじゃない。本気で島を助けたいのなら、その方法を一緒に考えようって……
気が付いたら僕は、『核』を直接、両腕で抱きしめていました。
そうしたら少しずつ、晶龍も落ち着いてきたんです――
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