第25話 包囲される島



 八重瀬が行方をくらまし、島の上空に銀の龍が出現して、約20時間後の昼間には――

 海上自衛隊の護衛艦数隻が、次々に島の沖合に到着した。

 俺たち心療課が乗る艦を守るように、続々とやってくる艦。既にヘリも次々と飛び、島上空の探索にあたっている。

 魔獣討伐の中心となるのは勿論俺たち心療課とその神器だが、こうした大規模討伐となれば、災害出動として自衛隊の手を借りるのも珍しくはなかった。



 心療課課長・円城寺も既にこの場に到着し、俺たちと共に島を注視していた。

 いつも通り呑気そうに口ひげを揺らしながら、感情の見えない糸目で島を見据える課長。


「――状況は?」


 課長がそう尋ねると、すぐ横の宣兄が答えた。


「現在、白龍島全域に警戒レベル4避難指示を出していますが、住民が避難を開始する様子は見られません。というより……

 保護すべき住民が全く見当たらないという報告まで入っているのが、現状です。

 目標たる魔獣――通称晶龍は依然として島上空を旋回中。住民や村への攻撃を始める兆候は今のところありませんが、予断を許さない状態です」


 サイレンと共に上空へ響きわたるのは、住民に護衛艦への一時避難を呼びかけるアナウンス。


《当地区は、避難該当区域に指定されました。

 住民の皆さまは至急、接舷中の護衛艦へ避難して……》


 一言一言はっきりと発音されるアナウンスだが、それに答える住民は皆無だ。

 俺が双眼鏡で覗いてみても、上陸を試みた数人の自衛隊員ら以外、人っ子一人いない。

 みんな白龍山へと――

 晶龍の住処へと、引きこもってしまったのか。


 さらに、背後の女性オペレータ・貞波さだなみが淡々と報告してくる。


「目標『晶龍』は3時間前の観測よりさらに巨大化。

 全長およそ100メートルに達しつつあります。12時間以内に再び動き出す可能性大」

「まさに怪獣か……」


 その報告に、さすがに俺も内心ビビっていた。

 これまでに何度もデカい魔獣と戦ってきたとはいえ、100メートル級はさすがにない。

 一番デカい奴で30メートルちょっと。少々高めの高層マンションってぐらいだ。

 それだって、心療課総がかりで何とか叩きのめせたってのに

 ――今回は、軽くその3倍以上?


 それを知ってか知らずか、七種が相変わらず能天気にはしゃいでいた。


「だいじょーぶだよ、巴クン! ボク、ちゃんとキミを守るからね♪

 巴クンも強いけど、ボクら兄弟もちゃんと強いからダイジョーブ! みんなで力を合わせれば、何とかなるなるー!!

 それより、あーんな強そうな魔獣、久しぶりで超ワクワクするー!!」


 両目キラキラさせながら言うことか。ケーキバイキングじゃねぇんだぞ。

 その横では兄貴たる懐機が、依然として無言で腕組みしたままじっと島を見据えていた。

 ――何のかんの言っても、この兄弟は強い。七種の鎌と兄貴の鉄拳は、完全に心療課のメイン火力と言っていいだろう。


 そんな七種の能天気さに、俺は呆れつつも少しだけ緊張がほぐれた

 ――が、その時。



 ずっと淡々と状況をオペレートしていたはずの貞波の声が、一段跳ね上がった。


「課長!

 目標の体内より、詳細不明の熱源を感知!

 どんどん拡大していきます!」

「!」


 全員の視線が、一気に島へと注がれる。

 同時に課長が、何事かを呟いた。


「……やはりな」


 島の中心に、巨大な天の柱の如く降臨している白銀の龍。

 その全身が、輝き始めていた。

 真昼の晴れた空が何故か急速に暗くなりだしたかと思うと、相対的にその輝きが異様に眩しく海面を照らし出す。

 さらに、静かなる咆哮と共に、その光はやがて島全体を包む霧と化していく。


「これは……?」

「わー、オーロラみたい! キレーイ!!」


 七種の歓声は相変わらず呑気だったが、状況を的確に表現しているとも言えた。

 だがそのオーロラはさらに広がり、島だけではなく――


「まずい……

 こっちまで、巻き込まれる!?」


 艦内に鳴り響く警報。

 しかし誰もその速度に叶うはずもなく、俺たちはいつしか護衛艦ごと皆、オーロラの中へと取り込まれてしまった。


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