第20話 助かった?
「――巴クン。
巴ク~ン、ってばぁ!?」
脳天に響くレベルに陽気な声で、俺は目を覚ました。
まず目に入ったのは、白い天井を照らす古びた蛍光灯。ただの蛍光灯だが、何故かすごくホッとする――
そしてどうやら俺は、清潔なベッドに寝かされているようだ。
そんな俺の眼前にいたのは、栗色のポニテにセーラー服。つまり例の美少女『もどき』、七種。
大きな群青の瞳を爛々と輝かせ、寝ている俺を一心に見つめている。ただし決して心配そうなツラではなく、ものすごくワクワクしている表情だ。
――何やら、非常にイヤな予感がする。
「な、七種……かよ。
ここは……?」
「あっ、よーやくお目覚めだ、巴クン!
助け出されてから半日ぐらい寝てたから、みんな心配してたんだよ?」
七種本人はちっとも心配そうでないツラだが。
しかし、ということは俺――
あの状況から、助かった……のか?
「ボクたち、この島でとんでもないことが起こってるって聞いてね。
新宿の件が意外に早く終わったから、急いで来てみたんだよね。巴クンと八重瀬クン助けに。
そしたら巴クン、ぼろぼろのずぶ濡れで島の海岸に流れ着いててさ~」
俺が何も聞かないうちに、ニコニコ顔でまくしたてる七種。
「いやぁ、滅茶苦茶コーフンしちゃったなぁ! あそこまで色々はだけちゃった巴クン見るの、ひっさびさだったし~!!」
「おい、七種……」
「何を隠そう、気絶した巴クンを海から引きあげたの、ボクなんだよ!
巴クン、ワイシャツもズボンもかなり破けてて、太ももとか二の腕とか鎖骨とか全部見えてて滅茶苦茶色っぽくってぇ~」
「あの……おい」
「しかも、とぉ~ってもカワイイ顔で気絶してるんだモン。
抱きしめたら、濡れた服を通して体温と肌と血の匂いが感じられて、ボクが昇天しそうだったよぉ~!!
いつもと違って、ぐったりしながらボクに体重預けてくれる巴クン、超絶カワイかったなぁ~♪♪」
「……オイって」
うっとりしながら、ひたすら一方的に俺の醜態を喋りまくる七種。
こいつ、皮肉でも何でもなく心の底から本気で俺たちのそーいう姿を、カワイイだの色っぽいだの劣情がどうのだの評するのだから手に負えない。
何度か経験してるから分かるが、こうなった時の奴は人の話を聞きやしねぇ。
「でもボク、すっごくガマンしたんだよ!」
「何を」
「巴クンにぶっかけるのもぶちこむのも、滅茶苦茶にガマンしたの。っていうか今まさに、現在進行形でガマンしてる!!
だから、そこは褒めてぇ~!!」
「ぶち殺すぞてめぇ!!」
憤怒に任せて思い切りツッコんでも、七種は待ってましたとばかりに
「ほわぁ~ん♪ もっとぉ~♪」とか謎の歓声をあげるだけ。話にならねぇ。
とにかく――今の状況はどうなってる?
八重瀬は。寧々は――それに、『晶龍』はどうした?
すると七種の後ろで扉の開く音がして、男が二人入ってきた。
俺の先輩、宣兄こと宣洋輔。それに七種の兄貴で心療課の一員、懐機だ。
懐機は無言で七種に近づくと、俺からいも……否、弟を引き離す。
七種は少々不満げに頬を膨らませたが、何だかんだで懐機には逆らわないのが七種だ。
そして宣兄が、静かに俺に告げた。
「巴――意識が戻って良かった。
今俺たちがいるのは、白龍島沖合に停泊中の護衛艦だ。
島の異変を感知して、俺たち心療課は全員ここまで来ている。課長も含めてな」
「異変を感知? 一体どうやって?
この島は――」
「お前たちが上陸するしばらく前から、島は監視対象にあった。
あの魔獣の影響範囲外とされる沖合で、調査員はずっと島を張っていたのさ。お前たちの調査が進んでいる間にもな」
ってことは――
俺たちが島の中で人柱騒動に巻き込まれている間も、安全圏に調査員がいたってことか?
八重瀬があれだけ血みどろになって、命張ってた間も。
「……八重瀬は。
アイツ、一体、どうなっちまったんだよ……」
目を逸らし、微かに首を振る宣兄。
「それを聞きたいのは俺たちの方なんだ、巴。
一体、あの島で――何があった?
八重瀬は、どうなったんだ?」
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