第135話 無自覚なでなで
「ううぅん……朝……か?」
目を覚ますと、そこは天国だった。
俺の体に寄りそう柔らかな感触と良い匂い。まるで優しさに包まれているようだ。
(ああ、俺はどうなっちゃったんだ……。確か特級魔法や超越魔法を連発して……そのデメリットで気を失ったんだっけ……?)
まだボンヤリした意識のまま横を向くと、そこには艶やかな青髪の美少女が添い寝していた。しかも裸で。
きっと、裸で看病するアレだ。
「ん?」
(待て待て待て! そうだ、この普段はボーイッシュなのに実は人一倍乙女で可愛い女子はレイティアだ。いつもは恥ずかしがっているのに、何で今日は大胆なんだよ……)
「ごくり……」
無防備なレイティアの寝姿に、俺は生唾を飲み込む。
(レイティアは俺の嫁! レイティアは俺の嫁! くぅ、ちょっとだけなら触っても良いのだろうか? いや良い! 何故なら俺の嫁だからだ!)
そんなことを考えながらも実際には一線を越えられない。
彼女を大切にしたい想いと、他の子の前でエチエチする恥ずかしさが俺を踏みとどませるからだ。
「んぁ……アキちゃん……」
寝言で俺を呼ぶ声が聞こえる。
そう、反対側から強烈なインパクトで主張する膨らみがあるからだ。
「で、ですよね……俺を離さないですよね」
今度は顔を反対側に向ける。
そこにはフワフワな
(ううっ、このエチエチな雰囲気を漂わせる女性はアリアだ。見た目がエロいが中身もエロい。いつも欲求不満で禁断症状が出ているのに、他の男には一切なびかず俺にだけベタ惚れしている奇跡のようなお姉さんだ)
「ごくり……」
やっぱり生唾を飲みながら考える。
(アリアは俺の嫁! アリアは俺の嫁! ああ、もう我慢の限界だ! アリアお姉さんの胸で思いっきり甘えたい! だって俺の嫁だから!)
こんなに俺を好きでいてくれるアリアなのだから、いつでもYES/YESで準備オッケーでバッチコイなはずだ。
しかし、彼女に溺れてしまいそうで怖い気持ちと、やっぱり他の子の前でエチエチするのはマズい気がする。
「むにゃむにゃ……こらぁ、アキぃ……アタシとエッチしなさいよぉ……」
腹の上から変な寝言が聞こえた。かなりの問題発言だ。
「くっ、更に俺の本能を揺さぶってくるのか」
布団の中から現れたのは、サラサラの金髪をしたエルフ美少女だ。やっぱり裸で出てきた。
(うおおっ! この見た目がロリっぽいのに一番お姉さんなのはシーラだ。普段はツンツンしているようでいて、実は甘えん坊で、さり気なく密着しようとする可愛いやつだ)
「ごくりごくり……」
もう何度目かの生唾を飲み込む。
(シーラは俺の嫁! シーラは俺の嫁! ああ、シーラの華奢な体を思い切り抱きしめて俺のものにしたい! 何故なら、シーラは俺の嫁だから!)
シーラと爛れた愛の生活に突入したいところだが、見た目が禁断な雰囲気なところと、やっぱり他の子の前でエチエチするのは問題な気がしてしまう。
「あああ、シーラとエッチしたい!」
「んんん……って、あ、アキ、あんた今……」
何かシーラの声が聞こえた気がするが、俺はスルーしたまま心の声を漏らす。
「シーラが大好きだから……」
「えっ、ええっ! ああぁ、急に恥ずかしくなってきたしぃ♡」
もう暴走気味の俺は止まらない。
アリアへの想いまで漏れてしまう。
「ああ、アリアお姉さんと思いっきりエッチしたい!」
「んぁああぁん……っ! えっ、アキちゃん? 今……」
アリアの声が聞こえた気がするが、たぶんこれは夢だ。
「アリア、大好きだ!」
「ふあぁぁああぁん♡ アキちゃぁん♡ しよ! 今すぐしよっ♡」
何かトンデモナイしでかしをしている気がするが、大切な嫁の話になると止まらないのはいつものことだ。
「レイティアと毎日エッチしたい!」
「うう~ん、って、今何て? アキ君っ!?」
レイティアの声まで聞こえた気がする。だがきっと夢だから問題ない。
「レイティア大好きだぞ」
「はううっ♡ アキ君しゅきぃ♡ らいしゅきぃ♡」
そこで気付いた。いつから俺は夢だと思っていたのかと。
「あれ? 夢じゃない……? そ、そうだ、俺はキングヒュドラを倒して……」
気付いた時にはもう遅かった。
目がハートマークになっている三人の嫁が、俺の上に覆いかぶさろうとしているではないか。
「えっ! ちょ、ちょっと待て! 今のは心の声が漏れていたと言いますか……」
「アキっ! それ心の声が漏れてるってレベルじゃないわよ! もう容赦しないしぃ♡」
「アキちゃん♡ 今すぐしよっ♡ もう我慢できないかもぉ♡」
「アキ君っ♡ 子供いっぱいつくろうね♡」
「うぎゃぁああああ! 一度に来るなぁああああ!」
こうして俺は、朝っぱらからお姉さんたちのラブラブ攻撃を受けるのだった。
◆ ◇ ◆
「ううっ、朝からトンデモナイ目に遭ったぜ……」
まだ戦闘の疲れが残っているのに、寝起きに三人の嫁から猛烈アタックを受けていたら体が持たない。
俺の嫁はどんだけ欲求不満なんだよ。
ガチャ!
いつものように
「こら、貴様はいつまで寝ているのだ! もう昼過ぎだぞ!」
そう、くっころ女騎士だ。不満そうな顔のジールが寄って来た。
「もうそんな時間か。疲れて完全に寝落ちしてたよ」
「ま、まあ、朝方まで戦闘で活躍したのは立派だと思うがな」
「おう、ジールも無事で良かったな」
「んっ……」
「何だジール?」
ジールが無言で頭を俺の方に向ける。
「くぅ、貴様は……少しは私を労わろうと思わぬのか?」
「あっ、そうだったな。ジール、偉い偉い」
わしゃわしゃわしゃ!
少々雑に頭を撫でてやると、ジールが蕩けたような顔になった。
「ぐあぁ、こ、こんな雑な扱いなのに♡ くぅ♡ 私の体が喜んじゃってるぅ♡ もうダメだ! もう全てをアキに曝け出して隷属してしまいそうだぁ!」
「程々にしとけよ、ジール」
今日も怪し気なジールは放置して、椅子に深く腰掛けた。
ふと、自分の体が綺麗になっているのに気付く。
(あれ? そういえば俺はヒュドラの毒血で汚れていたはず……。誰かが俺を風呂に入れたのか?)
自分の体を確認してから、視線をレイティアたちに移す。恥ずかしそうな顔をしながらも、ニマニマと笑っているのだが。
「お、おい、まさか……」
「あ、アキ君って意外と……凄いんだね」
「ふーん、アキって大人なのね」
「アキちゃん♡ うふふぅ♡」
(待て! ま、まさか……)
これ以上は追及しないでおこう。事実を知ったら恥ずかしさでおかしくなりそうだ。
「アキしゃん、アキしゃん」
続いてアルテナが寄って来た。目を輝かせて何かをねだるような顔で。
「アルテナも無事で良かったな」
「はひっ」
「えっと……」
(やっぱりアルテナも褒めて欲しいのかな?)
嫁たちの視線が気になるが、ここは平等に扱うべきだろう。
俺はアルテナの頭に手を置いた。
ポンポンポン――
「偉い偉い」
「ふひっ♡ アキしゃん♡」
「なでなでなで」
「おほぉ♡」
「変な声は出すなよ」
アルテナの変な声でアリアがグイッと迫ってきた。
「アルテナちゃん?」
「あひっ、冗談です! 冗談ですから!」
「何が冗談なのかな?」
「お許しを、アリア魔王様ぁ」
「魔王はアルテナちゃんでしょ」
喧嘩というよりコントのように見える。アリアとアルテナが仲良くなって安心だ。
サササッ! ササッ!
いつの間にか俺の横にオモラシ姫メイドが立っている。無言で背後をとるのは怖いからやめてくれ。
「マチルダも無事か?」
「わ、私はべつに……」
「俺の服にオシッコ――」
「わあああー! わあああー!」
マチルダが俺の口を塞いだ。
「ほっんとアンタって最悪! 私の弱みを握って脅す気?」
「べつにそんなつもりは……」
「わ、悪かったわよ……アンタの服を汚しちゃって」
「気にしてないよ。あんな恐ろしい魔物を前にしたら、誰でもそうなるよな」
「ううっ……」
マチルダだけ除け者にしたくないので、同じように頭を撫でてやった。
ナデナデナデ――
「ううっ……悔しい……私がこんな平民男にぃ♡」
「どうした? 顔が赤いぞ」
「どうもしないわよ! この鬼畜勇者ぁ!」
「何か近いぞ」
「う、うるさい♡」
マチルダまで挙動不審になっている気がする。たぶん気のせいだからスルーだな。
「アキ様! ご無事で良かったです」
「お兄ちゃん! ぎゅ~っ!」
ノワールとミミも寄って来た。ミミはいつものように抱っこをせがむのだが。
「怖い思いをさせちゃったな。二人で大丈夫だったか?」
二人の頭を撫でると、ミミはくすぐったそうな顔で笑い、ノワールは顔を赤くして
「えっとね、えっとね、ギルドのお姉ちゃんが一緒だったの」
「そうか、良かったな、ミミ」
「うん」
いつもと変わらないミミとは違い、ノワールの様子がおかしい気がする。
「ノワール、どうかしたのか?」
「ううっ……アキ様……」
ナデナデナデナデ――
「顔が赤いぞ、ノワール?」
「はぁあぁん♡ アキ様、イジワルです」
「どこか調子悪いのか?」
「ち、違います……胸が……きゅんきゅんして」
「えっ! 胸が苦しいのか?」
ガシッ!
突然、アリアが俺の腕を掴んだ。
「こらー、アキちゃぁん」
「あれ? アリアお姉さん?」
「アキちゃんは無自覚に女性を堕とすから危険なのよ」
「ええっ? 何もしてないのに……」
頭を撫でていただけなのに、変な空気になってしまった。女心はよく分からない。
「とにかく皆無事で良かった。俺は疲れてるから、もう少し休ませてもらおうかな」
ガシッ!
ガシッ!
自室に戻ろうとしたところを、もの凄い魔力を放出している二人の女に止められる。魔力探知スキルの無い俺でも分かるほどの迫力だ。
「これ! わらわの朝食と昼食はどうなったのじゃ!」
「我の食事もまだであるぞ! この不届き者めが!」
ご立腹なクロとシロが俺を掴んで離さない。どうやら食事が出てこなくて怒らせてしまったようだ。
よし、やっぱり寝よう。
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