第134話 幸せの魔法

【特級魔法・エルフ族の叡智・思考加速アクセラレーター

【特級魔法・竜族の叡智・豪覇竜戦士纏身ドラゴンウォーリアー

【特級魔法・魔族の叡智・強化魔鎧外骨格着装デモニックメタモルフォーゼ


 皆の魔法詠唱と時を同じくして、俺は三連続特級魔法を使った。

 以前でも恐るべきステータス強化だったが、より強くなった今では更に数段パワーアップしている。


 思考加速アクセラレーターのスピードも上がり、豪覇竜戦士纏身ドラゴンウォーリアーは一般の上位竜ドラゴンを凌駕しそうだ。

 強化魔鎧外骨格着装デモニックメタモルフォーゼに至っては、もはや君主級悪魔デーモンロードに匹敵しそうなくらいである。


 コォォォォォォォォォ!


「よし、攻撃開――」


 俺が合図をしようとした時、キングヒュドラの首の一本が、俺たちに向かって即死ブレス攻撃を吐き出した。

 ギリギリまで防いでいたのだが、祝福の剣ブレッシングソードが限界を迎えていたのだろう。


(マズい! もう一度時間停止タイムストップを……ダメだ! 連続で超越魔法を使ったら、巨大核メインコアへの攻撃と毒血を転移する空間操作コントロールオブジェクトが使えなくなる! でも、無敵の軍勢クロノスニュクス不屈の英雄ウラノスメヘラで皆の耐久力は極限まで上がっているはず……いや、そう何度もチャンスは無い! これを外したら敵が警戒して同時攻撃が難しく……。ああ、思考加速アクセラレーターしていても時間が足りない!)


 俺は叫んでいた。


「ブレスが来るぞぉおおお!」

『マイロード、お任せください!』


 その瞬間、祝福の剣ブレッシングソードが俺たちの前で形状を変化させ盾となる。


『この身を糧として最後の防御魔法を展開します。術式完了。展開』


 ゴバァアアアアアアアア!

 ズババババババッ! パリィーン! パリィーン!


 祝福の剣ブレッシングソードは、その身を犠牲にして即死ブレスを防いでいる。

 思考加速アクセラレーターにより加速した時間の中で、俺は祝福の剣ブレッシングソードと意思伝達を行う。


「待て、俺が時間を止めて――」

『マスターは巨大核メインコア攻撃の為に力を温存してください』

「しかし!」

『超越魔法の連続使用はステータス低下を引き起こします』

「だけど、お前が壊れてしまう!」

『マスター……私はマスターと冒険ができて楽しかったです。今まで大切に使ってくださり、ありがとう……』

「おい、聞いているのか!? おおぉい! 祝福の剣ブレッシングソードぉおおおお!」


 ボロボロボロボロ――


 即死ブレスを防いだ祝福の剣ブレッシングソードが、展開している魔方陣と共に崩れ塵になってゆく。


(うぁああああ! 知性の有る武具インテリジェンスウェポンが、その身を犠牲にして俺を守っただと! 俺を……俺の為に……。があああっ! お前は最高の相棒だ! その献身、絶対に無駄にはしないぞ!)


「全員、撃てぇええええええ!」


 俺の号令で全員が一斉に攻撃を放った。


竜王撃爆裂ドラゴンロードバースト!」

獄炎殲滅波デスブレイズ!」

雷神の一閃ユピテルハンマー!」

青竜爆雷炎ドラゴンブレス!」

魔王の炎剣ルシフェロディアス

黒竜混沌波ドラゴンブレス

白竜紫電光ドラゴンブレス

隕石落下メテオストライク!」

神聖光斬剣ホーリーライトセーバー!」


 ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドォォォォォォーン!


 九種の大魔法とスキルが同時に炸裂した。

 闇夜を明るく照らすほどのそれは、王都上空に陽光を出現させたかのように輝く。


 ズバッ! グチャ! ズガンッ! ドドォォーン! バラバラバラ!


 キングヒュドラの九本の首が、全て破壊された。今度は再生していない。


(今なら分かるぞ! 九個のコアが破壊され再生能力が落ちている! 胴体にある巨大核メインコアは……あった! 俺にも感じるぞ! あそこだ!)


 俺は城壁の鋸壁を上り、キングヒュドラに向かって力強く壁を蹴った。


 ズドンッ! バリンッ!


 スキルで超強化された俺の脚力で石壁が陥没する。

 蹴りによる推進力と落下の加速度を重ねたまま、俺は超越魔法の体勢に入った。


「チャンスは一度きりだ! 絶対に外すわけにはいかない! この一撃に全てを賭ける!」

【超越魔法・魔王キック】

「行っけぇええええええええええええええ!」


 ズバババババババババババババ!

 ドンッ!


 魔王キックがキングヒュドラの胴体に炸裂し、その硬い肉体を破壊する。

 勢いはそのままに、体内深くまでキックをめり込ませた俺は、硬質な球体に足が到達した感触を覚えた。


「ぐあああああ! 硬い! これが黒竜王の魔力で突然変異した超防御力の巨大核メインコアか! だが、俺の魔王キックなら!」


 ズドドドドドドドドォーン!


『スキル魔王キックが発動しました。これは魔王にのみ許される、物質の根源自体を崩壊させる滅殺スキルになります――』


 スキルの解説が入る中で、俺は渾身の力を体に込める。


「どりゃぁあああああああああああああああああああああああああああああ! 俺は大切な嫁を守る、スキル専業主夫の支援役サポーターだぁああああああ!!」


 ドッガァアアアアアアアアアアアーン!

 パァアアアアアアアーン! ドチャ! グチャ!


 キングヒュドラの巨大核メインコアが崩壊し、巨体が肉片となり四散する。俺は奴の大量の毒血を浴びた。


「や、やったか……」


 やったかは何かのフラグだったはずだが、つい俺は口に出してしまう。まあ、根源を消滅させたのだから問題ないだろう。


「こ、これで……ぐああああ!」


 特級魔法や超越魔法の連続使用で、急激なステータス低下や疲労が来た。意識が飛びそうになる。


「ま、まだ倒れるわけにはいかない! 毒血を……奴の毒血を遠くに転移させねば……。このままでは王都の土壌が汚染される……だ、ダメだ、意識が……」


 俺は最後の気力を振り絞って超越魔法を使おうとするが、豪覇竜戦士纏身ドラゴンウォーリアー強化魔鎧外骨格着装デモニックメタモルフォーゼも解除されてしまう。


「ガハッ! マズい……支援魔法の効果も切れてきたぞ……」


 その時、俺の体の中に温かな感覚が湧き上がってくる。


【幸せの魔法・ずっと大好き】

【幸せの魔法・ずっとイチャコラ】

【幸せの魔法・ずっと密着】


「こ、これは……。そういえば、こんなスキルも得ていたぞ。ははっ、お姉さんたちらしいな。でも、皆の笑顔を思い浮かべると元気になれる気がするよ」


 皆の笑顔とイチャコラを思い出し、少しだけ力が湧いてきた。


【自動展開魔法・幸運の女神(竜族)】

【自動展開魔法・幸運の女神(エルフ族)】

【自動展開魔法・幸運の女神(魔族)】


 更に幸運の女神の発動により、体が解毒されてゆく。


「よし、やらないと! 力を振り絞れぇえええ!」

【超越魔法・空間操作コントロールオブジェクト


 ギュワァァァァーン! グガガガガガ! ズガガガガガガガガガガ!


「キングヒュドラの血と残骸を……出来るだけ遠くの地下深くに飛ばして……これで良し……」


 最後の仕事を終えた俺は、急激に眠気が襲い目を閉じた。


 バタッ!


「アキ君っ!」

「アキちゃん!」

「アキぃいいい!」


 皆の声が聞こえる。走って来たのだろうか。


「アキ君、しっかりしろ!」

「アキちゃん、アキちゃん、アキちゃぁあああぁん!」

「アキぃいい! 目を開けなさいよ!」


(お姉さんたち……まだ俺の体に毒血が付いてるかもしれないのに……。そんなに密着したら……)


「死ぬなぁあああ! アキくぅん! アキ君の為なら何でもするから!」

「アキちゃん! アキちゃん! アキちゃんが死んだら私も死ぬぅううう!」

「アキぃいいいい! アタシの初めてはあんたにあげるって決めてんだからね!」


 何やら恥ずかしいセリフが聞こえてきて照れてしまう。


「こ、こら……俺は生きてるぞ」


 嫁が泣いているのは俺も心が痛む。俺は目を開けて生きているアピールをした。

 それを見たお姉さんたちは、急に上気した顔になるのだが。非常時で性欲が増したのだろうか。


「よし、アキ君をベッドに運ばないと♡」

「今夜は朝まで裸で添い寝看病ね♡」

「アタシもやるわよ! 海で溺れた時のお返しをしないと♡」


(おい待て! それはヤメロ!)


 むぎゅ~っ!


 俺はレイティアに担ぎ上げられ、ムッチリした胸の谷間に顔を埋めたまま運ばれて行く。


(この感覚……前にもあったような? ああ、天国やぁ……)


 こうして王都の平和は守られた。


 レイティアの体温と良い匂いに包まれて夢見心地だ。ただ、この後の皆からご褒美のようなお仕置きのような看病を思い浮かべると、エチエチさと恐ろしさで腰がすくんでしまう。


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