第129話 閃光姫の快進撃は続く

「アキさん! 随分と久しぶりじゃないですか! アキさんが居なくて、ずっと寂しかったんですよ。アキさんが徹底的にお仕置きされるのを見て喜ぶ私の趣味……じゃなかった、クエストが溜まる一方なんですから!」


 久しぶりに冒険者ギルドの門をくぐってみれば、いきなりエイミィとかいう受付嬢が問題発言するではないか。

 誰が徹底的にお仕置きされるんだよ。


「とにかく、お久しぶりです、アキさん」

「お、おう……色々忙しかったんだよ。ミミとノワールの学校を決めたり、帝国で叙勲を受けたりとな」

「ふふっ、アキさん素敵です」


 エイミィが意味深な笑顔で俺を見る。

 やめてくれ、わざと嫁の嫉妬を増幅させるのは。


「しかし、まだそれほど経ってないのに懐かしいな。やっぱりギルドの空気は馴染むというか何というか。宮廷とか貴族とかは、俺には性に合わないよ」


 この雑多で気楽な雰囲気は自然とリラックスできる。

 ただ、俺の話でエイミィが思い出したように言うのだが。


「そういえばアキさんって貴族になったんですよね? あの前領主が断罪されたグロスフォード辺境伯に就任するとか。もうアキさんじゃなくアキ様と呼ばなければ。あぁあ、アキ様が上級貴族になるのなら、私も誘惑しとけば良かった。無理やり肉体関係を結んだりして。ふふっ」


 心底楽しそうな顔して俺をからかうエイミィだ。わざとアリアたちを嫉妬させて激しくエッチなお仕置きを誘っているのだろう。


「おい、ヤメロ! もうアリアが危険領域だ」

「ふふっ、安心してください。半分冗談ですから」

「もう半分は冗談じゃないのかよ!」

「それは……私だって玉の輿を夢見ちゃいますし。しかもアキさんはドMっぽい雰囲気が私の好みですし」


 もうやめてぇー!

 さっきから俺の腕を掴むアリアとレイティアの手に、ギュウギュウと力が入っているのだが。


 俺が困っているのを察したのか、ギルド長のガイナークさんが近寄ってきた。


「おう、アキじゃないか。楽しそうで何よりだな」

「ガイナークさん」

「ちょうど良かった、お前さんたちに頼みたいクエストがあるんだよ」


 ガイナークさんは俺の前に依頼表を出した。その紙には、S級限定クエスト(危険)と書かれている。


「えっと、どれどれ……北の迷宮に住み着いたキングヒュドラ討伐だと…………って、超危険モンスターじゃないか!」


 依頼表を見て愕然とした。キングヒュドラといえば伝説級の魔物だ。一般の冒険者が相手にできる代物ではない。


「おう、超危険なモンスターだぜ。こんなのお前さんたち閃光姫じゃねーと倒せねえだろ。ははっ!」


 ガイナークさんの俺を見る眼差しは、全幅の信頼を寄せているように見える。

 こんな即死の猛毒を吐く巨大モンスターが出没しているのに、俺たちなら倒してくれると思っているのだろう。


「分かりました。やってみます。こんな危険なモンスターが街に侵入したら大惨事ですからね」

「おう、そう言ってくれると思ってたよ。頼りにしてるぜ、アキ」


 S級限定クエストを受けた俺だが、何かが頭の隅に引っかかる。


「キングヒュドラってドラゴン系の魔物だよな。ま、まさか……」

「そのまさかじゃな。わらわの眷属じゃぞ」


 冒険者ギルドに良く通る声が響いた。美しくも妖艶な声だ。

 その声がするのと同時に、室内の冒険者たちがサァァーっと後ずさり、人の波が割れたのだが。


 声の主、クロこと北海黒竜王エキドナが現れた。今日は訳あって一緒に来ているのだ。


「こ、これは、黒竜王様……。よ、ようこそお越しくださいました」


 エイミィが震える声で挨拶する。

 この非常事態には、普段はふざけているエイミィも全く余裕がないようだ。


「ちょっと、クロさん。皆が怖がってますよ。外で待ってるように言ったのに」

「良いではないか。わらわとアキの仲ぞよ」

「そ、それより、キングヒュドラがクロさんの眷属というのは?」

「わらわが街に出たので追ってきたのであろうな」

「大迷惑だよ!」


 どうやらクロの後を追って眷属であるモンスターまで北方領域から移動してしまったようだ。黒竜王の極大魔力が生み出した凶悪無比なモンスターらしいのだが。


 まあ、眷属といっても部下でも身内でもなく、討伐して構わないようだが。


「クロさんが良いと言うのなら、遠慮なく討伐させてもらうとするか。強化した武器も試したいし」

「面白そうじゃから、わらわも冒険者になってやるぞよ」

「マジか……」


 今日はクロの他に、シロとアルテナも一緒だ。ついでにマチルダまでついてきていた。

 まあ、マチルダは俺が困れば困るほど喜んでいるみたいだが。


 今回皆が一緒なのは、実はアルテナの仕事を探す目的もあるのだ。

 俺がアルテナを誘っても出かけないので、クロやシロに頼んで連れ出したという訳である。


「よし、アルテナは君主級悪魔デーモンロードより強いからな。冒険者になれば何でもこなせそうだぞ」


 俺の言葉とは裏腹に、アルテナはやる気が無いようだが。


「仕事したくない……仕事したくない……お家にいたい……」

「えっと……何かごめん」


 王都で仕事を探していると聞いたから紹介したのに、どうやら有難迷惑だったのかもしれない。




 と、まあ色々あって、パーティー閃光姫ライトニングプリンセスに新たなメンバーが加わった。


 受付嬢のエイミィが手続きを行っている。


「あ、アルテナ様はS級冒険者です」

「初心者だからE級からスタートでは?」

「ちょっとアキさん、口を挟まないでください」

「お、おう」


 パーティーで実績を上げれば同時に個人の冒険者ランクも上がるはずだが、完全に初心者なら登録時はE級スタートのはずだ。


「クロ様とシロ様もS級です」

「は?」

「当然マチルダ様もS級になります」

「おい」


 こうして、アルテナとクロとシロは忖度そんたくにより、マチルダは皇帝特権でS級冒険者のランクが与えられた。


 パーティー閃光姫ライトニングプリンセス


 勇者(仮) アキ・ランデル 専業主夫 Lv.68

 剣士 レイティア・グランサーガ 青竜嫁 Lv.73

 魔法使い アリア・ヴァナフレイズ サキュバス嫁 Lv.81

 魔法剣士 シーラ・テンペスト・エメローダス ハイエルフ嫁 Lv.98

 くっころ騎士 ジール 竜騎士ドラゴンナイト Lv.82

 黒竜王 クロ 居候 Lv.999

 白竜王 シロ 居候 Lv.999

 魔王 アルテナ BL作家 Lv.32

 皇女 マチルダ・アマーリア・アーサヘイム 言いなりメイド Lv.15


 新生閃光姫ライトニングプリンセスの始動である。

 たぶん……過去も未来も合わせ、歴史上最強のパーティーだ。



「じゃあ計画を立ててから出発しよう。あっ、パーティーには入れちゃったけど、マチルダは留守番な。ミミとノワールが心配だから」


 俺の話でマチルダが気色ばんだ。


「私も行きます! 私はアキ様の忠実な奴隷ですから」

「でも危険だから。家で留守番してくれ」

「見たくせに……私のオシッコ見たくせに! この変態変態へんたーぃ!」

「お、おい、声が大きいって!」


 サァァァァ――


 マチルダのオシッコ発言で周囲の冒険者たちが引いている。これでは俺が本当に変態みたいだ。


「わ、分かったから……くそっ、自分でオモラシを広めるとか……この女」

「あははっ、言ったでしょ、私はアキ様の奴隷だって。まあ、本当は平民男……アキに迷惑かけるのが目的だけど」

「おい、心の声が漏れてるぞ」

「漏らしてるんですー! オモラシでーす!」

「くっそ……」


 マジで腹が立つ女だが皇女なのでどうにもならない。

 いっそのことジールみたいにくっころ・・・・させれば、どれだけスッキリすることか。



 カンカンカンカンカン! カンカンカンカンカン!


 その時、急を告げる鐘の音が鳴り響いた。

 ギルド内が騒然とする。


「何だ? 緊急事態か!」

「もしかして魔王襲来か!?」

「おい、魔王ならそこに居るぞ」

「そうだった! 今はアキの女だったな!」


 周囲の視線を集めてしまったアルテナが、そっと俺の背中に隠れた。引っ込み思案なところは、ちょっと可愛い。


 ガタンッ!


「た、大変です!」

「どうした!?」


 ギルドに駆け込んできた男が、ガイナークさんに何か報告している。


「そうか……」


 報告を聞き終えたガイナークさんは、厳しい顔をして俺の方を向く。


「アキ、緊急事態になった。例のキングヒュドラが移動を開始したそうだ。真っ直ぐ王都に向かっている。このままでは王都民が全滅の危機だ!」


 さっきまでの冗談が嘘のように、冒険者ギルド内の空気が凍り付いた。

 緊急クエスト発動である。






 ――――――――――――――――


 勇者と魔王と竜王と皇女が同じパーティーとか!

 それより嫁にサービスするんだアキ!


 もしよろしかったら、星評価やフォローで応援してもらえると嬉しいです。

 作者のモチベがぐんぐん上がります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る