第128話 姫様ご乱心とかインテリジェンスウエポンとか

 今日は全員で街に出かけていた。先日の魔族領域でのクエストでドロップしたレア素材を使い、武器を強化するつもりだ。


 いつも部屋にこもりっきりのアルテナも、今日は珍しく一緒である。


「アルテナが自分から外に出るなんて意外だな」


 俺は横にいるアルテナに声をかけてみた。

 返ってきた言葉は予想と違ったが。


「そ、それが……クロ様が有無を言わさず『街に行くのじゃ』と半強制的に……」

「そうなんだ。大変だな」

「はひ……」


 アルテナの肌はインドア派の証のように青白い。

 ずっと部屋で絵を描いたり何かをしているが、王都に来てから楽しそうにしているので問題ないだろう。


 たまに夜な夜な、彼女の部屋から荒い息と共にフヒッと変な声が聞こえてくるが、深く追求してはいけない。

 誰にでも秘密はあるものだから。



 ガランッ!

「オヤジ、また来たぜ」


 武器屋のドアを開け入ると、店主のオヤジは全力で後ずさった。


「ひっ、ひいいっ! お、おぬし、毎回来る度に規格外を増やしておるな」


 ドワーフの店主は腰を抜かしそうなくらい驚いている。その視線は、俺の後ろに立つシロとクロを見ているようだが。


「ああ、シロとクロだよな。俺たちが無事帰還した時にパーティーで会ってるだろ。西海白竜王ヴリドラと北海黒竜王エキドナだよ」


「そそそ、そんなことは分かっておるわい! わわ、ワシが言いたいのは、世界を滅ぼす力を持つ竜王と、そんなフレンドリーに接しておることなのじゃ!」


 特に気にしていなかったが、俺と竜王の関係がそう見えるのだろう。

 だが実際はフレンドリーというほどでもない。向こうから絡まれているだけなのだ。


 しかし、そう言われると、ちょっと悪乗りしたい気がふつふつと湧いてしまうのだが。


「ほら、竜王といっても普通の人ですよ」


 ペチペチペチ――


 フレンドリーさを強調しようと、シロとクロの肩をペチペチしてやった。

 ちょっと手が滑って胸をポヨンポヨンしてしまうのだが。


 ポヨンポヨンポヨン!

「あっ、ヤベっ!」


 一気に二人の魔力と性欲が高まった。


「そなた……恐れを知らぬ男じゃな。わらわの胸を触る男なぞ、この数千年、勇者でも魔王でもおらなんだぞ。これは夜伽しかあるまい♡ ぽっ♡」


 クロが俺の腕をガッシリと掴む。


「あ、あの……」


 反対側からもシロが俺を捕まえてしまうのだが。


「ふふっ♡ いやつよの。我も交尾したくなったぞ♡ 今夜こそ子種を貰うとするか♡」


「あああ! しくじった! 最強の竜王の性欲に火がぁ!」


 これには店主は唖然を通り越して灰のようになり、レイティアとアリアが嫉妬のプク顔で怒り出した。


「アキ君っ!」

「アキちゃん!」



 と、多少トラブルがあったが、俺は話を進めた。今日は、もう一人紹介する人が居るのだから。


「あの、こちらは新しいメイドのマチルダです」


 マチルダを促して前に出す。ただ、彼女の態度がいつもの生意気なのと正反対なのだが。


「あ、あの……わた、私は……アキ様の忠実なる奴隷……ヘイムダル帝国第三皇女、マチルダ・アマーリア・アーサヘイムです。この身は全てご主人様であるアキ様の所有物です」


「うおぉおおおおおおぉい! 何を言い出してんだ!」


 マチルダが問題発言をしたので急いで止めた。


「お、おい、マチルダ、冗談だよな?」

「冗談じゃありません。私は……アキ様に気に入られようと……ううっ」

「誰の入れ知恵だ?」


 追及すると、マチルダはそっとジールを指さした。


「おい、ジール」

「フーフーフー」


 ジールは誤魔化して口笛を吹いている。全く吹けていないが。

 そんなジールは放置して、俺はマチルダを問いただす。


「どういう意味だ? 前はもっと我儘で生意気だったじゃないか」

「だ、だって……お、おお、オモラシしちゃったから……」

「えっ!?」


 マチルダは真っ赤な顔になって一気に言葉を吐き出した。


「だって、殿方の前でオモラシするだなんて無様な姿を晒してしまい……もう帝国には帰れません。こ、ここ、こんな屈辱は初めてよ。もう私には皇女の資格はありません。ここは平民男……勇者アキの女にされて生きるしか……。だからそこのジールという女にアキの好みを聞いたのよ。アキは鬼畜でドSだから、こういうのが好きだと……。ああぁ、もう好きにしてください!」


「ええええ……」


 予想外の展開だ。ワガママお姫様をメイド修行させてから、適当な時期に帰ってもらうつもりだったのだ。

 これ以上同居する女を増やすと嫁の嫉妬が爆発してしまう。

 あえて気が強く絶対に俺に屈しない方を選んだつもりなのに、どうしてこうなった。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


「アキ君、また女を堕としたんだね! ぐぬぬぬ!」

「アキちゃん♡ まだお仕置きが足りないのかな?」

「こらアキぃいいい! あんたまた他の女を……。し、しかも帝国のお姫様よ」


 レイティア、アリア、シーラの三人が俺の体をギュッと掴む。やっぱり嫉妬が爆発した。


「何でだぁああああ! 俺のせいじゃないのに!」


 ◆ ◇ ◆




 ひと悶着あってから、やっと落ち着いた。


 その間ずっと俺は、お姉さんたちから『誰にも渡さない』と密着攻撃を受け続けてしまう。三人の溺愛がどんどん激しくなっているようで心配だ。


「やっと本題に入りますが、この素材で武器の強化をお願いしたいのですが」


 俺がそう声をかけるが、店主は呆けたままだ。


「おお、おおお、今度は帝国の皇女だと……いったいこの男はどこまで……。世界征服では飽き足らず、世界美女征服でも企んでおるのか……」


「世界美女制服じゃなく、武器の強化です」


「じゃから、おぬしは阿呆あほうか! 制服ではなく征服じゃ! コスプレ好きか!」


 やっとオヤジの調子が戻ったところで、ゲットしたレアアイテムを鑑定してもらう。


「ん? こ、これは……」


 オヤジが眉をひそめた。何か問題でもあるのだろうか。


「アキよ、おぬしこれを何処で手に入れた?」

「魔族領域にいたエルダーリッチからです」

「な、なにぃいいいい! エルダーリッチじゃと!」


 サササァァァァ――


 店主が机の上のレア素材から離れる。


「お、おい、アキよ……これは、とんでもない呪物かもしれぬぞ」

「呪物? 危険な物なんですか?」

「おぬし……これをずっと持っていて体に変調はなかったのか?」

「おい、怖いこと言わんでくれ……」


 どうやら店主の話だと、このレア素材は『死霊呪縛魂』という呪いのアイテムらしい。

 その身をアンデッドモンスターに変えるのと引き換えに永遠の命を手に入れる核となるものだ。

 この呪物と古代黒魔術を使いエルダーリッチになるのだろう。


「うげぇ、これ要らない。オヤジにあげます」

「こりゃ! こんな危険なもんを置いてゆくな! 持って帰れ!」

「触って大丈夫なのかよ……」


 俺が触るのに躊躇ちゅうちょしていると、クロが手掴みして俺のバッグに押し込んだ。


「ほれ、そなたは加護があるから問題なかろう」

「ええっ、加護って嫁の?」

「わらわの加護もあるでの」

「嫁の加護で呪いが防げるのか?」

「それに、最近は『幸運の女神』というスキルが追加されておるようじゃな」


 確かに最近は、お姉さんたちの溺愛が進み、三種類の自動展開魔法『幸運の女神』が付与されている。


「あらゆる呪いを退け幸運を呼び込むスキルじゃな」

「な、なるほど」

「特に対象の種族からモテるのじゃ」

「ちょ待てやぁああ!」


 ただでさえ嫁が多いのに、これ以上女性関係を増やすわけにはいかない。


「ヤバい……俺のスキル専業主夫って、やっぱり恐ろしいスキルだぞ。これ以上加護を増やしたら危険だ。もう体が持たない」


 俺のつぶやきを聞いたマチルダが、不敵な笑みを浮かべた。


「くひっ、では私がこの平民男を溺愛すれば、幸運の女神(人族)を植え付けてやることに……。こんな屈辱を味あわされたのだ。私からの細やかな仕返しに……」


「お、おい、やめろ。絶対に殿下とは恋愛関係にならないからな。てか、もう帰ってください」


「いやでーす! 私にこんな屈辱を与えた平民男には、もっともっと苦しませないと気が済まないから」


「くっ、とんでもないお姫様メイドだぜ……」


 とりあえず女性関係はスルーするとして、レア素材が危険な呪物では武器の強化もできない。

 今日のところは引き返そうとするのだが、竜王の気まぐれが発動してしまう。


「ほれ、わらわの体を素材にするのじゃ。感謝せよ」


 クロがテーブルに何かの素材を乗せた。


「面白い! では我も提供しよう」


 シロまで素材を取り出した。


「な、ななな、こ、これは……」


 また店主の様子がおかしくなった。テーブルの上に置かれた二つの素材を見て固まっている。


 黒曜石のように妖しく光る素材と、白銀のように美しく輝く素材だ。

 俺はクロとシロの顔を交互に見る。


「も、もしかして、これって?」

「わらわの鱗じゃ」

「うむ、我の鱗であるな」

「やっぱり!」


 こうして、俺の祝福の剣ブレッシングソードは、二種類の伝説級レジェンダリー素材を使い、史上かつてない超伝説級ウルトラレジェンダリー武具へと進化するのだった。


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