第127話 メイド修行とかイチャラブとか

 屋敷に戻った俺たちは、いつも通りイチャラブ生活を送れる――と思っていたのだが、思わぬ嵐に見舞われていた。



「アキ君っ♡ 抱っこして♡ 抱っこぉ♡」


 今日も今日とてレイティアが赤ちゃんみたいに甘えている。とても人には見せられない。


「えっと、レイティア、今は皆が居ないから良いけど、特にミミが居る時は控えろよな」


 それとなく注意してみた。


「むぅ、今は部屋で二人っきりなんだぞ♡」

「まあ二人っきりなら甘えてくれても良いかな」

「だよね♡ いっぱい甘えたいな♡」


 いつものように俺の膝の上に乗ったレイティアが顔を寄せてくる。


「アキ君、ボク……わ、わわ、私……」

「ぷっ!」

「こ、こらぁ! 何で笑うのさ!」

「ごめんごめん、レイティアが女の子っぽい口調になったからさ」

「ボクだってアキ君の前では女の子になりたいんだよ」


 レイティアが独り言をつぶやいている。


「ううっ、強くなろうとボクって言い続けてきたけどさ……好きな人の前では弱いところも女の子っぽいところも見せたいのに……もうっ、アキ君のばかぁ♡」


 いつも人の話をスルーしている俺だが、好きなの願いなら叶えてあげたい。


「レイティア……俺は、ちょっとぶっきらぼうで大雑把でボクっ娘のレイティアも、エッチに積極的なくせに実際は恥ずかしがり屋なレイティアも、実は乙女な願望を抱いている女の子なレイティアも、全部のレイティアが好きだよ」


 俺の言葉でレイティアの顔がパアッと明るくなった。


「アキ君、嬉しいっ! ボクも大好きだよ♡」

「レイティアがやってみたいなら『私』でも良いぞ」

「うんっ♡ あっ、あとお姉ちゃんだぞ」

「はいはい、甘えん坊で女の子っぽくなりたいお姉ちゃん」

「もうっ!」


 もう一度、二人の顔が近付いてゆく。


「レイティア」

「アキ君♡」


 ボクっ娘が定着しているので笑いそうになるが、そこは真面目に彼女の願いを叶えてやりたい。本当は誰よりも清純乙女なレイティアの願いを。


 二人のくちびるが触れそうになったその時。


 バタンッ!

「ちょっと、平民男! 何で私がこんな格好しなきゃならないのよ!」


 突然ドアが開き、メイド修行を始めたばかりのマチルダが入ってきた。


「って、なな、なにエッチなことしてるのよ! この変態変態へんたーい!」


 せっかくの甘々シチュエーションは見事に破壊された。怒ったレイティアがそっぽを向いてしまう。




 そして別のある時も――――


「アキちゃん♡ 禁断症状が出ちゃったぁ♡ おねがい♡」


 皆が居間でおやつを食べているというのに、物陰に入った俺にアリアが抱きついてきた。

 あの呪いの箱でのイチャイチャ以来、わざとバレそうな場所で迫ってくる悪いお姉さんなのである。


「アリアお姉さん、皆にバレちゃうから……」

「アキちゃん、大きな声を出すとミミちゃんにバレちゃうよぉ♡」

「んんっ……」

「うふふぅ♡ 良い子だから声出さないでね♡」


 熱い瞳を輝かせながらアリアの顔が迫ってくる。


 最近は俺の前でだけサキュバスの催淫スキルが漏れまくっているのだ。俺との愛を確かめ合ったこともあり、もう手加減しないつもりなのだろう。


「んっ♡ ちゅ♡ アキちゃぁん♡ しゅきぃ♡」

「んんんん~っ! ミミにバレたら教育に悪いからぁああ!」

「ほらほらぁ♡ バレちゃうぞぉ♡ んちゅ♡」


 アリアのテンションが最高潮になったその時。


 ガタンッ!

「ちょっと、平民男! 何で私が掃除なんかしなきゃいけないのよ!」


 突然マチルダが現れ、俺とアリアの秘密のプレイを目撃されてしまう。


「って、なな、なにエッチなことしてるのよ! やっぱり、この変態変態へんたーい!」


 せっかくのアブノーマルシチュエーションは見事に破壊された。怒ったアリアがそっぽを向いてしまう。




 そしてやっぱり別のある時も――――


「ほらアキ、アタシを可愛がりなさいよ」


 隙を見つけてシーラが俺に突っかかってきた。

 自分から甘えるのは恥ずかしいから、俺からイチャイチャさせる作戦だろう。


「よし、偉い偉い」

 ナデナデナデナデ――

「ふへぇ♡」


 頭を撫でてやると、いつもシーラは甘えた声を出してくっついてくる。

 しかし、ちょっぴりイジワルしたくなるものだ。


「よし、お終い」

「こ、こらぁーっ! もっと可愛がりなさいよ!」

「どうすれば?」

「もっと色々あるでしょ! こう抱きしめてポンポンするとか、後ろからギュってするとか」


 シーラが熱くイチャコラシチュエーションを語る。ツンツンしているくせに、実は色々したくてたまらないらしい。


「冗談だよ。ほら、こうだろ」

「わ、分かれば良いのよ。ったく♡」


 シーラをバックハグしてギュッと抱きしめようとしたその時。


 バタンッ!

「ちょっと、平民男! だから何で私が下女の仕事なんかしなきゃならないのよ!」


 突然マチルダが現れ、俺とシーラのギュッギュポンポンを目撃されてしまう。


「って、なな、なにエッチなことしてるのよ! エロ勇者ぁ! この変態変態へんたーい!」


 せっかくのポンポンタイムは見事に破壊された。怒ったシーラがそっぽを向いてしまう。


 ◆ ◇ ◆




「困った……姫メイドのせいでお姉さんたちがお怒りに」


 ただでさえ竜王が居候していてイチャイチャタイムが限られるというのに、マチルダが邪魔しにきて寸止めばかりだ。

 このままでは性欲強めな嫁たちの欲求不満が爆発してしまう。


 最初こそ人質の立場を受け入れ大人しかったマチルダだが、すぐに元の我儘マチルダに戻ってしまったのだ。


「よし、この俺がガツンと言ってやるか」


 ここは俺が何となしなくては。俺はメイド修行をしているマチルダに注意しようと立ち上がった。



 屋敷内を歩いていると、ミミに掃除の仕方を教わっているマチルダに出くわす。


「お姉ちゃん、ここはこうするの」


 ミミが丁寧に説明しているが、マチルダは全く聞いていないように見える。


「はあ、面倒くさ! 何で私が」

「お姉ちゃん?」

「だから何で私が、こんな小さいガキに……」


 マチルダがイライラしている。いつもはノワールが指導係をしているが、今日はより小さいミミが指導しており不満なのだろうか。


「お、おい」


 俺はミミを守る為に近づいて行く。

 だが、俺が行く前に事件が起きてしまった。


「だから、アンタみたいな亜人のガキに、何で私が指図されなきゃならないのよ!」

「うう……ううう……うわぁああぁん」


 マチルダに怒鳴られ、ミミの目に涙が溜まってゆく。


「おい、俺の娘に何をしてるんだ!」


 二人の間に飛び込んだ俺は、ミミを抱きしめる。


 ギュっ!


「ミミ、大丈夫だぞ。俺がついてるから」

「お兄ちゃん……」

「ミミは何も悪くないからな。悪いのは全部この姫だから」

「うん」


 ミミを優しく抱きながらマチルダを睨む。

 さすがに小さな子相手に大人げないのを感じているのか、マチルダは気まずそうな顔で下を向いた。


「ち、違っ、私は別に……」

「ほら、マチルダ、ミミに謝るんだ」

「何で私が! 私は高貴な生まれなのよ!」

「ここでは皆同じだ」

「ぐっ!」


 マチルダが言葉に詰まった。


「確かに殿下は高貴なお方です。本来なら私など対等に話すこともできないでしょう。でも、今はメイドの修行をしているのです。だから、どっちが偉いとか亜人がどうとか関係ない」


「わ、悪かったわよ……。子供相手に……」


 俺に諭されて謝罪の言葉を口にするマチルダだ。その顔は不満そうだが。


「ほら、ミミにも謝って。怖がってるだろ」

「くっ、も、もうっ!」


 不満そうな態度をとりながらも、マチルダはミミの前にしゃがんで目線を合わせる。


「ご、ごめん……怒鳴ったりして」

「うん、一緒におそうじしようね」

「そ、そうね」


 何とか丸く収まったようだ。

 我儘で傲慢なマチルダだが、性根までは腐っていないのかもしれない。


 しかぁーし、まだ俺には言わなくてはならないことがある。


「もう問題を起こすなよ、マチルダ。あと、俺の部屋に勝手に入ってくるな。嫁が不機嫌になるから」

「はあ!? 平民男なんかに使うマナーなんてありませーん!」


 プイッ!


「お、おい」

「ふんっ、この変態勇者!」


 前言撤回したい。やっぱり性根が腐っているかもしれない。

 しかし、そこで思わぬ災難がマチルダに襲い掛かった。


「これ、そなた亜人がどうとか申しておったな」

「亜人が嫌いなのか? つまり、わらわに文句があるのかえ?」


 白竜王ヴリドラと黒竜王エキドナが現れたのだ。

 先ほどのマチルダの発言を聞いていたらしい。


「あっ、あ、あの……ヴリドラ様に不満などありません」


 竜王二人に挟まれたマチルダが、恐怖で死にそうな顔をしている。


「人族の言うところでは、我も亜人というのではないのか?」

「い、いえ、滅相もございません」

「わらわも竜族じゃから亜人であるな」


 ヴリドラだけでも恐ろしいのに、エキドナにまで詰められてしまう。やめたげて、もう姫殿下のライフHPはゼロよ。


「ももも、申し訳ございません! もう二度と亜人をからかったりしませんからお許しを! あ、あひぃ」


 ガタガタガタガタガタガタ――

 ジョバァァァァァ――


 恐怖に耐えられなくなったのか、マチルダの足元に液体が広がってゆく。オモラシだろう。


「はぁああああぁん! ごめんなさぁああぁい!」


 それからマチルダは、真面目にメイドをするようになった。


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