第126話 究極の選択
俺の前に二人の姫が居る。
長い髪を編んでいる令嬢がアーデルハイド。いかにもお姫様な見た目の21歳だ。お淑やかで礼儀正しい。
ウエーブがかったセミロングの髪を振り乱して吠えているのがマチルダ。気が強そうな見た目の18歳だ。美人で気品はあるのに態度がキツくて残念な印象がある。
この二人のどちらかを俺の人質にしたいらしい。
どうやら帝国は、俺に姫をお手付きさせ婚姻関係を結ぶ画策を企んでいる気がする。
「えっと、確認しておきますが、俺には大切な人がいるので皇女様とは結婚はしません。人質と言っても、少しだけ滞在していただくだけで、しばらくしたら帰ってもらいますが。それでよろしいですか?」
俺の話を聞いたカール殿下は、少しだけ考え込む仕草をしてから顔を上げた。
「勇者様の考えは理解しました。しかし、若い男女ですから、何があっても不思議ではありません。ここは成り行きに身を任せるということで」
(おい、それって無理やり既成事実を作って結婚させるつもりだろ)
カール殿下の策に
それに、マチルダ殿下が怒っているのも合点がいく。きっと兄に『勇者と肉体関係を結んでくれ』と頼まれたのだろう。
それにしても、ずっと俺を仇のように睨みつけているマチルダ殿下の視線が痛い。
「ぐぎぎぎぎ! ふんっ! ちょっと張り手が強いからって良い気にならないことね! アナタと私じゃ身分が違うのよ!」
「あの、張り手が強いわけじゃないのですが……」
「と・に・か・く! 私は反対なの! こんな男の人質にされて、そのイヤラシイ目で私をジロジロ見られて、夜な夜な体を求められるなんて! ぎゃあああ! このケダモノ男!」
誰もそんなことは求めていないのに、酷い言われようだ。
それに引き換え、第二皇女のアーデルハイド殿下は覚悟の決まったような顔で俺を見ている。
「勇者様。でしたらわたくしをお選びくださいませ。わたくしでしたら覚悟ができております。どんな理不尽で無慈悲な
(怖っ! アーデルハイド怖っ! 自己犠牲もここまでくると恐怖だぞ。兄や帝国を守る為に、妹の身代わりとして身を捧げる気なのか?)
もう、どっちを選んでも地雷な気がする。
俺の頭の中でシミュレーションが始まった。
アーデルハイドを選んだとしたら――――
『勇者様、さあ溜まりに溜まった
『あああ……体が勝手に……』
となって――
『お兄さま、アーデルハイドはやりましたわ! 見事、勇者様の子を懐妊いたしました。これで帝国は安泰ですわ』
『こ、こんなはずでは……』
そしてレイティアたちが大激怒して――
『アキ君なんか大っ嫌い!』
『アキちゃぁーん、死刑執行ね♡』
『アキ……あんたなんかもう知らないし!』
ガァアアアアアアーン!
(ダメだ! それだけは避けなければ! アーデルハイド殿下は無しだ)
しかしマチルダ殿下を選んだとしたら――――
『はあ? アナタのような雑魚が高貴で美しい私とつり合うと思ってるわけ!?』
「あああ……体が勝手に……』
となって――
『ざぁこ! ざぁこ! ざこ勇者ぁ! アンタって戦闘ではつよつよなのに、ベッドではよわよわなんだぁ! この、ざこ男! アンタの子を懐妊しちゃったわよ! この、ざこパパ』
『こ、こんなはずでは……』
そしてレイティアたちが大激怒して――
『よわよわアキ君なんか大っ嫌い!』
『ベッドでざこアキちゃぁーん、死刑執行ね♡』
『ざこアキ……あんたなんかもう知らないし!』
ガァアアアアアアーン!
(ダメだ! それだけは避けなければ! マチルダ殿下は無しだ)
どっちも懐妊間違いなしだった。
(待て待て待て! 何でどっちも懐妊間違いなしなんだよ! 俺の脳内シミュレーションおかしいだろ!)
今のはちょっと無しだ。マチルダ殿下の歳でメ〇ガキキャラはおかしい。
「勇者様、どうでしょう、ここは姉妹共々というのは?」
俺が悩んでいるのを誤解したのか、カール殿下が両方押し付けようとする。
どちらか選べないのは両方気に入ってる訳ではないのだが。
「殿下、両方だなんて恐れ多いです。一人で十分ですから。で、では……俺が選ぶのは……」
俺の視線がマチルダとアーデルハイドの両殿下を行き来する。決断の時間だ。
「マチルダ殿下、貴女を人質として我が家に招きます」
俺の言葉で二人の姫が対照的な表情をする。
アーデルハイドは、自分が選ばれず悲しそうな表情に。
マチルダは一瞬だけ信じられないといった表情になり、その後、真っ赤な顔で激高した。
「は!? はあ!? 何で私が!? 何で私なのよ!」
「何でと言われましても、マチルダ殿下の方が気に入りまして」
「はあああ!? アンタバカなの!?」
「バカじゃないです」
「はっ! もしかして、嫌がる私を無理やり手籠めにして喜ぶ鬼畜野郎とか?」
「全然違います」
何か誤解されているようなので真意を説明せねば。
俺はマチルダ殿下が落ち着くのを待って――一向に落ち着く気配が無いので説明を始めた。
「これが一番皆が幸せになる選択だと思ったからです」
またマチルダ殿下が騒いでいるが、一呼吸おいてから説明を続ける。
「アーデルハイド殿下の覚悟は素晴らしいと思います。きっと兄上の気持ちを汲んで、大切な妹君を守ろうとし、帝国の存亡の為にご自身が犠牲になろうとしたのでしょう」
アーデルハイド殿下は黙ったまま静かに頷いた。
「しかしそれではアーデルハイド殿下が幸せになりません。それに、辛そうな顔の殿下を見ている私も心苦しくなってしまいます。皇族ということもあり、必ずしも好きな相手とはいかないかもしれませんが、もっと条件の良い貴族や王族と結婚して幸せになってください」
そこでマチルダ殿下が俺に突っかかってきた。
「私だったら良いって言いたいのかしら!?」
「まあ……」
「まあじゃないわよ!」
我儘で自分勝手なマチルダ殿下を見ていると、ほんのちょっぴり心が痛まないのもあるかもしれないが、本心はそこじゃない。
「マチルダ殿下は俺に屈する気が無いのだから好都合じゃないですか。俺には心に決めた人がいますから。殿下には、家でメイドの修行でもやってもらい、適当な時期に帰ってもらいますから」
「はあ? 私はメイドなんてしないわよ! あんなの下女の仕事じゃないの!」
「人質になったら煮るなり焼くなり好きにしろとカール殿下から言われてるんですよね。メイドが嫌なら……」
サァァァァァァ――
マチルダ殿下の顔がどんどん青ざめてゆく。やっと自身の立場を理解したのだろう。
「ああ……あああ……わわ、私は…………」
マチルダ殿下が茫然自失だ。
まあ、変に色恋沙汰になってお姉さんたちの嫉妬を爆発させるよりはマシだろう。
一方、カール殿下は真っ直ぐに俺を見つめてきた。
「勇者様がお決めになられたのでしたら。
「それは大丈夫です」
「しかし、その気になれば竜王の怒り一つで国は滅びます」
「あの人たちって、カツカレーでも食べさせとけば機嫌が良いから」
最強の存在の竜王。最初は人を超越した価値観を持っていると思っていたが、実際は暇を持て余しているだけで普通の竜族と変わらないのかもしれない。
「ははは、大丈夫ですよ。竜王といっても面白い人たちですから。そういえば先日、青竜王のゲリュオンが家に来たのですが、やっぱり料理を食べたら大人しくなりましたから。腹ペコ竜王多過ぎですよ」
サァァァァァァ――
何気なく言った俺の一言で、カール殿下の顔が青ざめた。
「ああ……あああ……アキ様は青竜王様とも
カール殿下まで茫然自失だ。
こちらは全く理解していないかもしれない。
◆ ◇ ◆
そんなこんなで、戴冠式と叙任式もつつがなく執り行われ、カール殿下はカール皇帝に即位した。
そして俺は、神聖金翼騎士大勲章を授与され、金貨100万枚とマチルダ殿下を貰い受け、王都リーズフィールドへと戻ることになる。
俺の甘々でイチャラブな生活に、嵐が訪れることになるのだが。
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