溺愛系お姉ちゃんヒロインは寝かせてくれない！ ハズレスキルでS級パーティーを追放された俺、美少女に拾われたらスキル覚醒しました。加護爆盛りで無双しながら甘々で幸せに暮らします。

第123話 抱っこしてむぎゅ～

　怪しげなオーラを放つ木製の箱。それはアリアが何処かで買ってきた呪いのアイテムだ。

　前から呪いの手錠など変なアイテムをコレクションしているのは知っていたのだが、まさか新たなヘンテコアイテムを買っていたとは。

「あの、アリアお姉さん……冗談ですよね？」

「うふふぅ♡　冗談に見える？　アキちゃん♡」

　アリアの目がマジだ。焦らし過ぎてサキュバスの禁断症状が暴走したのだろうか。

「この呪いの拷問（アイゼルネ）器具鋼鉄乙女（ユングフラウ）弐号機（ツヴァイ）は、一度入ったら出れなくなる呪いのアイテムなのぉ♡」

「うわぁああああ！　木製なのに鋼鉄乙女かよぉおお！」

　誰もツッコまないなら俺がツッコむまで。確かに木製の棺桶（かんおけ）形状をしているのに、鋼鉄製拷問器具を名乗るのはおかしい。

　しかし、アリアは『そんなの当然よ』といった感じの顔をしている。

「大丈夫よぉ♡　これは偽物だからぁ♡」

「ほっ、何だ偽物だったのか」

「だから本当に拷問しないから安心して♡」

「はい、冗談だったんですね」

「でも出られなくなるのはホントなのぉ♡」

「冗談じゃねぇええええ！」

　ぐいぐいぐい――

　一度入ったら出られなるなる呪いのアイテムだというのに、アリアは俺を押し込み上に覆いかぶさってきた。二人で箱に入った形だ。

「あ、あの……アリアお姉さん？」

「なにかなぁ？　アキちゃん♡」

「これ、入っちゃってますよね？」

「そうね♡　もう一生一緒よぉ♡」

「うわぁああああああ！　どうすんのこれ？　てか、アリアの体が心地よくて出たくなくなっちゃう！」

　アリアに『むぎゅ～っ』と抱きしめられて天国のような感覚だ。これじゃ呪いが無くても出られない。

「ああ、アリアお姉さんが魅力的過ぎて体が蕩けそうだ。ダメになっちゃう」

「ふふっ♡　安心して、アキちゃん♡　一緒にダメになっちゃお♡」

「ダメになっちゃダメ！」

「大丈夫ぅ♡　この呪いの箱は、ある条件を満たすと出られるのよ♡」

（条件……？　何だ、その条件とは……）

「この箱はね、中に入った二人が、本気で愛し合えば呪いが解除される仕組みなの♡」

「何そのセッ……しないと出られない部屋みたいな！」

「大丈夫よ♡　本当に愛し合えば♡」

「本当に……愛し合う……」

「そう、真実の愛よ。二人の愛が真実なら扉は開く」

　ギギギギギ――バタン！

　アリアは箱の扉を閉めてしまう。完全に密閉するように。

「ごめん……ごめんね……アキちゃんが優しくて私を大切にしてくれているのは知ってるの。でも、不安になっちゃうから。愛されてるって証が欲しいの♡」

　アリアの目がマジだ。きっと、俺が他の人とイチャコラしているのを見せつけられ、ずっと不安にさせてしまっていたのだろう。

（そうだ、俺がアリアを癒さないと。アリアは俺の大切な嫁（仲間）なんだ！）

「アリア！　俺はアリアが大好きだ！」

　ぎゅぅぅ～っ！

「ひゃああぁん♡　アキちゃん急に積極的ぃ♡」

　俺は強く強くアリアを抱きしめる。絶対に離さないように。そして、彼女の耳元で大好きと囁いた。

　やるなら徹底的だ。

「俺は本気でアリアのことを考えてるから！」

「アキちゃん♡　アキちゃん♡　アキちゃぁ～ん♡」

　シュワァァァァァァァァ――

　それは呪いの箱の効果だろうか。アリアの記憶が俺の中に流れ込んでくる。

『うわっ、あの女、魔族だぜ！』

『ホントだ、ツノが生えてるな』

　いつの記憶だろうか――アリアを揶揄（やゆ）する人々の声が聞こえる。

『魔族の血は汚れてるからな。近づかない方が良いぜ』

『でも、見た目はセクシーだよな』

『やめとけよ、魔族なんて商売女として抱くなら良いけどさ』

『だよな。魔族と付き合って半魔でも生まれたら、俺らまで差別されちまうぜ』

（酷い！　アリアのこと何も知らないくせに、何でそんな酷いことを！）

　そこからアリアの心の声も聞こえてきた。これも彼女の記憶だろう。

『私は親に捨てられ孤児院で育った。そんな私を、奇特な老夫婦であるヴァナフレイズ夫妻が引き取り、養女にしたのだ。なんでもヴァナフレイズ夫妻には子供がおらず、何を思ったのか魔族の私を養女にしたのだが』

（アリアも孤児だったのか――）

『夫妻は優しかったが、すでに高齢であり病気がちであった。ほどなくして、夫が、そして妻が、この世を去った。残された私には、優しい夫妻の代わりに少しばかりの財産が残される。しかし、夫妻の親族が私の相続を許さなかったのだ』

（そんな……）

　夫妻の財産を狙う奴らの声が聞こえてきた。

『魔族が相続するなんて許されるわけないでしょ！』

『そうだそうだ！　財産は弟であるワシが相続する！』

『待って、妹の私も相続する権利があるのよ！』

『こんな疫病神を養子にするから兄さんたちは死んだんだ！』

　目を覆いたくなるような、醜い遺産相続争いだ。アリアを放置し、皆が金を奪い合う。

　再びアリアの声が聞こえてきた。

『私は相続を放棄し、一人で家を出た。唯一、ヴァナフレイズ夫妻の思い出だけを持って。後の遺産相続争いは勝手にしてほしい。もう汚い言葉や醜い視線を感じるのはたくさんだ』

（アリア……）

『冒険者になった私は、一人でモンスター討伐を始めた。強い魔力を持ち魔法使いの才能があった私には向いていると思ったのだ。しかし、結果は散々だった。一人では討伐もままならず、思うように報酬も稼げない』

　そこでシーラの姿が見えた。

『ハイエルフの少女が私に声をかけてきた。どうやら私が思い詰めた表情をしていたらしく、心配になったそうだ。少女と言っても私よりずっと年上なのだけど』

　そこから時が流れ、俺の知っている部屋が出てきた。

　忘れもしない、あの小さな借家。捕食姫（プレデター）ではなく、閃光姫（ライトニングプリンセス）の拠点だ。

『あ、貴女は……？』

『私はアリアよ。貴方はアキちゃんだったかしら』

『い、いきなりちゃん付けですか』

『うふふっ、ダメかしら？』

『ダメ……じゃないけど……』

　これは俺だ。俺の記憶と同じだ。

（そうだ、この時に俺はアリアのツノに気付いたんだ。笑いながらも悲しそうな顔をするアリアを見て、俺は言ったんだ。魔族の血を引いているからといって忌み嫌ったり差別する人は最低だと。人間だって魔族だって良い人もいれば悪い人もいるのだと）

　きゅぅぅぅぅーん♡

　アリアから何か危険な音が鳴る。

　またアリアの心の声が聞こえてきた。

『この人……本気で言っている……。魔族を嫌ってもいないし偏見もないみたい。こんな私を受け入れちゃうなんてバカなのかな？　だって、私は愛に飢えてるし、捕まったらもう逃げられないよ。ずっとくっついていたいし、ずっと愛し合っていたい。でも……この人となら幸せになれそうな気がする』

（アリア……そんな風に想ってたのか……）

『くふっ、くふふっ♡　ぐへへぇ♡　よく見るとアキちゃんって好みかもぉ♡　これ狙っちゃうしかないよね♡　既成事実作って一気に行っちゃおうかな♡　〇〇を〇〇〇して〇〇でぇ♡』

（アリアお姉さん！　アウトぉおおおおおおっ！）

　シュワァァァァァァァァ――

　俺の思考がアリアの回想から戻ってきた。

　目の前には、心配そうに俺の顔を覗くアリアが見える。

「アキちゃん！　しっかりして！」

「アリア…………」

「よ、良かった。急に反応無くなっちゃったから心配したのよ」

「俺は大丈夫だ。それより……俺はアリアが心配だ」

　俺は無意識にアリアを抱き寄せた。

　ぎゅぅぅ～っ！

「ふああぁん♡」

「アリア、ずっと俺の近くに居ろ。もう離さないから」

「えっ♡　えええっ♡　アキちゃん？」

　アリアの細い腰を強く抱きしめる。胸と尻が突き出て迫力があるボディだが、彼女の腰は守ってやりたくなるように華奢だ。

「アリア、大好きだぞ！」

「ああぁ～ん♡　私も大好きなのぉ♡　もう離れないからぁ♡」

　むぎゅぅぅ～っ！

　ガシャンッ！

　熱い抱擁を交わしていると、呪いの箱のフタが開いた。俺たちの愛は呪いの拷問（アイゼルネ）器具鋼鉄乙女（ユングフラウ）弐号機（ツヴァイ）（のような謎のアイテム？）に認められたのだ。

「やりましたよ、アリアお姉さん！　フタが開きました！」

　これでやっと出られると思ったのも束の間、そんなはずはなかったのだと気付く。

「アキちゃん♡　ずっとこのままイチャイチャしてようね♡」

「ん？」

「もう今夜は止められないかもぉ♡」

「は？」

「ずっと我慢してたけどぉ♡　もうサキュバススキルを使っちゃっても良いよね♡」

「ええええええっ！」

　ズキュゥゥゥゥーン！　ズキュズキュズキュゥゥゥゥーン！

　ただでさえ魅力的なのに、アリアの催淫スキルが漏れまくり、もう天国と地獄が同時に襲ってきたようだ。

「すきすきすきぃいいっ♡　アキちゃぁ～ん♡」

「うわぁああああ！　完全に退路を断たれただと！」

「ちゅっちゅっ♡　ちゅー♡」

「ぎゃああああああ！　もう限界だぁああああ！」

　朝まで俺は、狭い箱の中でアリアの猛攻を受け続けることになる。もう何処にも逃げ場がない。

「ちゅっちゅ♡　アキちゃんだいしゅきぃ♡　ちゅ♡」

「もう許してぇええええええ！」

　ズキュゥゥゥゥーン！

　そこで、とどめのスキル覚醒だ。

『スキル【専業主夫】に嫁属性【魔族の加護Ⅳ】が追加されました。ステータス上昇。新たに魔法が追加されます』

【自動展開魔法・幸運の女神（魔族）】

【幸せの魔法・ずっと密着】

【幸せの魔法・蕩けるハグ上級者】

【ドMプレイ】

　ステータスが書き換えられ、アビリティとパラメーターは……上昇しなかったが、アリアの熱愛猛攻を受け続け意識が飛びそうになりながらも幸せな気持ちになった。