第124話 帝都アースヴェル
ガタガタガタガタガタ――
俺たちは今、国境線となっている西の森を抜ける街道を、一路帝国へと馬車で向かっている。
帝国から迎えが来て、国賓待遇で招かれたのだ。
帝国が用意した豪華な馬車に揺られながら、俺はお姉さんたちの甘々サービスを受けているのだが。
いつもより溺愛増量で。
「アキちゃん♡ 疲れてない? お姉さんが全部癒してあげるからね♡」
フェロモン全開のアリアが、俺の背中に抱きつきながら色々なところを揉み解しているところだ。
正直なところ、アリアの柔らかな体で密着され、濃厚なサキュバスフェロモンをくらいまくり、マッサージどころではないのだが。
「あの、アリアお姉さん……くっつき過ぎでは?」
アリアの機嫌を損ねないよう、さり気なく俺が言うのだが、当の彼女は俺を想う溺愛が止まらない。
「あふっ♡ アキちゃん、言ったよね?」
アリアが俺の声真似をする。
「コホンっ、『アリア、ずっと俺の近くに居ろ。もう離さないから。大好きだぞ!』きゃぁああああぁん♡」
アリアが身悶えしてクネクネしている。自分で言っておきながら興奮したのか。
「あああ、恥ずかしいから皆の前ではやめてくれ」
「だぁめ! もう一生言い続けちゃうからぁ♡」
「せ、せめて人前ではヤメロー!」
「うふふぅ♡ そういわれるとぉ、もっともっと言いたくなっちゃうかもぉ♡」
俺の対面となる座席には、帝国第三軍銀翼騎士団団長ハインツ・ランベルトが気まずそうな顔をして座っている。
俺たちをエスコートする為に、騎士団長である彼自ら迎えに来たのだ。
「ん、んんっ、勇者様はお盛んでありますな。さすが魔王や竜王を手懐けたお方です。このハインツ、感服いたしました」
俺たちを極力見ないように気を使っているハインツが、言葉を選びながら苦々しい顔で話している。
こんなバカップルのようなエチエチシーンを見せられるのだから、彼の苦悩も理解できるというものだ。
しかも、俺に抱きついているのはアリアだけではない。
さっきからレイティアが俺の膝の上に乗り、若干、赤ちゃん言葉っぽくなりながら甘えまくっているのだ。
「はうぅ♡ アキ君っ♡ ちゅーしよ♡ ちゅー」
「お、おい、レイティア……いくら何でもデレ過ぎだぞ」
「こらっ、お姉ちゃんだぞ♡」
「お姉ちゃんは赤ちゃんみたいに甘えないだろ」
「たまには赤ちゃんみたいに甘えたい日もあるんだぞ♡ ばぶぅぅ~♡」
もう手遅れだ。凛々しかったレイティアの姿は何処にもない。今の彼女は俺に甘えたくて仕方がない赤ちゃんお姉ちゃんだ。
まあ、そんなところも可愛いのだが。
そして、アリアとレイティアに抱きつかれた俺を、さっきからチラチラ見てはソワソワと落ち着かない仕草のエルフ少女が居た。
もちろんシーラだ。
「んっ、え、えーと、アタシも何か癒してあげようかしら? しょ、しょうがないわね。ったく、アキったら」
実は構って欲しいのが見え見えなのに、自分から言い出せないらしい。
「間に合ってます」
「こ、こらぁー! アタシにも構いなさいよ!」
やっぱり図星だった。シーラが小さな体で地団駄を踏む。
ギュッ!
「ほら、こうしてやるんだから。感謝しなさいよね」
とうとうシーラまで抱きついてきて、俺は三方向を全て嫁に囲まれた形になった。
「ほらほら、アタシが脇腹を揉んであげるわよ」
「脇腹は凝ってないのだが」
「うっさいわね。アタシに任せなさい♡」
モミモミモミモミ――
小さなシーラの手でマッサージ―されるのが、ことのほか気持ち良いのだが。ちょっとくすぐったいのもポイントだ。
(ミミとノワールを連れてこなくて良かった。こんなエチエチを見せたら教育に悪いからな)
二人は屋敷でお留守番だ。
ちょうどアルテナが帝都に行きたくないと駄々をこねたので、彼女に二人の世話を任せてきた。
魔王が自宅警備で我が家は安泰だ。
そして、シロとクロも同じくお留守番だったりする。
帝国が竜王を恐れているらしく、ハインツが丁重に断ったのだ。
まあ、激怒した竜王二人に食われそうになったのを、俺が
『シロさん、クロさん、言うこと聞かないと二度とカレーを作りませんよ!』
『ガァアアアアアアーン! わ、我のカレーが……』
『グググッ、卑怯な! 料理を人質にとるとは……』
と、こんな感じに――――
世間から恐れられている恐怖の竜王だが、ミミやノワールは懐いているようなので問題ない。屋敷で大人しくしてもらおう。
「ふうっ、帝都までの旅をのんびり行くとするか。お姉さんたちの愛が激しいけどな」
全方向を女体に密着され、何とも言えない良い匂いに包まれてたまらない。もういつものことだ。
「コラぁああ! きぃ、貴様というやつは! 毎回私をスルーするとは! グギギギギ!」
もう一人いた。
ゲリュオンの命令で俺を監視している。
俺のところに残るように命じられてからというもの、何故か顔がニコニコで上機嫌なのだが。
「ジールのことは忘れてないぞ。まあ、ゆっくりしててくれ」
「貴様はいつもいつも、私の目の前でイチャコラ見せつけおって」
「我慢しろ」
「くっ……こんな放置プレイばかりなのに、私の体は火照ってしまう」
どうしよう。ジールが限界だ。
そんなジールだが、急に真顔になって話し始めた。
「ふふっ、普段はバカなことをしている貴様だが、本当は優しいのを知っているのだぞ。ボロボロだったグロスフォードの孤児院を、クエスト報酬を使って建て替えているのだろ。東の聖域に戻る途中で孤児院に寄ったのだが、皆が喜んでいたぞ」
「何だ、もう知ってたのか。そんなの当然だろ。もうじき俺がグロスフォード辺境伯に就任するからな。領民の暮らしを支えるのも仕事の内だ」
「ふふっ、照れ隠ししおってからに。
ジールはニヤニヤと含み笑いをすると、腕組して満足そうな顔になった。
「まあ、子供の泣く姿は見たくないからな」
俺のつぶやきに、お姉さんたちも反応する。
「アキ君は優しいね♡」
「アキちゃん♡ 一生ついて行くからぁ♡」
「ふふん、アキったら、そこは尊敬できるのよね♡」
と、こんな感じに旅は続く。
森を抜け、途中の街で泊まりながら帝都を目指して。
◆ ◇ ◆
馬車が帝都の城門をくぐり大通りを進んで行くと、周囲から大勢の人が集まって来た。よく見ると人族ではないようだが。
俺は車窓から顔を出す。
「あれは……魔族なのか?」
俺の顔を見た民衆から歓声が上がった。
「「「うぉおおおおおおおお!」」」
「勇者アキ様だ! 俺たちの救世主だ!」
「ありがとう! ありがとう! アキ様!」
「アキ様は私たちの命の恩人よ!」
あまりの歓迎ぶりに驚いた俺は、皆と顔を見合わせた。
「えっ、何で俺が?」
一部始終を見ていたハインツが、俺の前で態度を改めた。
「あの者どもは強制収容所に入れられていた罪なき魔族たちであります。皆、勇者アキに感謝しておるのですよ。貴方は多くの魔族を救った英雄なのです」
「買いかぶり過ぎですよ。俺はそんな偉大な人物じゃない。俺はアリアたち仲間を救っただけです」
「貴方は謙虚でいらっしゃる。結果的に多くの魔族の命が救われたのです。それに……貴方が我が軍の暴走を止めてくれなかったら、帝国騎士の多くが犠牲になっていたはずでしょう。貴方は我ら人族の命も救ったのですぞ」
ハインツが褒め過ぎるので気恥ずかしくなってしまう。何度も言うようだが、俺はそんな大人物ではないのに。
「ふふっ、やはりジョージ殿下の言う通りであった」
ハインツの口からジョージ殿下(ジェフリー)の名が出た。
「ジェフリー……ジョージ殿下がどうかしたんですか?」
「彼が言っておりました。アキは素晴らしい人物だと」
「ええっ!?」
「ただ、次々と女を堕とす好色家なところは誰も敵わないと」
「おおぉおおい!」
俺のイメージが、どんどんエロくなってるのだが。
「これならば皇女殿下との婚姻も問題ありますまい。帝国は安泰でありますな」
グギギギギギギ――
「痛っ! イタタタっ!」
ハインツが皇女との婚姻の話を始めてしまい、お姉さんたちの手に力が入った。
俺は、何としても皇女様との婚姻を阻止し、嫁の嫉妬が爆発しないよう努めなくては。
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