第120話 ミミとノワール学校に行く

 俺とアリアは、ノワールとミミを連れ王都のメインストリートを歩いていた。通りは活気づき様々な店から人々の声が飛び交っている。

 今日も平和で良かった。


 ミミもノワールも、俺とつないだ手をブンブンと楽しそうに振っている。

 俺の両手を取られてしまい、アリアが少しだけ不満そうだが。


「むぅ……アキちゃんってば、ご褒美いつくれるのかしらぁ?」

「アリアお姉さん、ミミたちの前では『しー』ですよ」

「もうっ、いつもそうやって私を焦らすんだから♡ 悪いアキちゃんね」


 今日はアリアも一緒だ。ある用事がありアリアに頼んだのだが。



「お兄ちゃん、ミミはどこに行くの?」


 つぶらな瞳のミミが、真っ直ぐに俺を見る。いつもの買い物とは違う道を歩いているのを不思議に思ったのだろう。


「ミミちゃん、学校に行くんだよ」

「ガッコウって何?」

「学校はね、読み書きや計算を勉強したり、色々なことを学んだりするんだよ」

「ふーん、そうなんだ」


 ミミは不思議そうな顔をしている。今まで学校に縁がなく、分からないのだろう。

 親の顔も覚えておらず、奴隷狩りに連れ去られ監禁されていたミミを想うと心が痛む。


「アキ様、メイドである私たちを学校に通わせる必要はないですよ。お金も掛かりますし。読み書きなら自分で勉強できます」


 ノワールが遠慮がちに言う。ただ、彼女のつないだ手からは、迷っている気持が伝わってくるのだが。


「お金の心配は要らないよ。国王陛下から使いきれないほど貰ったからね」

「でも……」


 やはり遠慮するノワールだ。仕えていたクソ領主の暴力や罵倒の影響で自己肯定感が低いのかもしれない。


「ノワールやミミには、可能性を無駄にしてほしくないんだ。もしかしたら、将来は俺のことろを出たとしても、学問やスキルを活かして活躍できるかもしれないだろ。」


 俺の言葉に、ノワールは拗ねたような顔になった。


「私はアキ様に全てを捧げると誓いました」

「そ、それは嬉しいけど……もしかしたら、他の職業にも興味が出るかもしれないし?」

「だったら私はアキ様と一緒の冒険者になります」

「それも良いさ。学校を出たら好きにすれば良い」


 俺の言葉でノワールが大人しくなった。何かを考えているような顔をして。


「ふふっ、アキちゃんったら二人のパパみたいね」


 アリアが笑う。ただ、その姿は、まるで二人のママみたいなのだが。

 やっぱりアリアはママみがある。



 ◆ ◇ ◆



 学校の門をくぐったら、元気に子供たちが飛び跳ねている校庭が見えてきた。

 ここは魔族も平等に学ぶことができると評判だ。


 しかし、ミミとノワールを見た悪ガキっぽい顔の子供が指を差してきた。


「おい、あれって獣人族じゃね?」

「うわっ、ネコミミが付いてやがるぜ!」

「ホントだ! もう一人は魔族だぞ」

「やーい、ネコミミ女とツノ女ぁー!」


 子供の冗談のようだが、自分の子供をバカにされたみたいでイラっとしてしまう。


「おい、そこのガキ! 俺の娘になにしてくれてんだ! 仲良くしないとダメだぞ!」


 つい大人げなく文句を言ってしまった。

 しかしイジメにでも発展したら大問題だ。最初が肝心である。


「うわっ、親が出てきたぞ!」

「やけに若くね? デキ婚とか?」

「きっと、あっちのエロいお姉さんとデキ婚したんだぜ」


(おい、最近のガキはませてるな。何処でそんな言葉を覚えたんだ)


 騒いでいいたガキの中の一人が、俺の顔を見て何かに気付いた。


「あれっ? この人って……もしかして?」

「あっ、そうだ、勇者アキじゃね?」

「うおおおっ! アキだ! 見た目は地味なのに魔王軍を倒したアキだ!」


(おい、誰が見た目は地味だ)


「勇者アキって、アレだろ? 魔王と竜王を堕として自分の女にしたっていう」

「ぎょええええっ! 超スゲぇな!」

「ヤベっ、サイン貰っとく?」

「おい、やめとけよ! 勇者アキはキレるとヤバいらしいぜ」


 いつの間にか俺のイメージがヤバい男になっていた。確かに魔王や竜王を従えたり、帝国軍の腰を抜かせたりと、とんでもない行為ばかりしているのだが。


「おい、そこの少年、ノワールやミミと仲良くしないとダメだぞ!」


 一応釘をさしておく。二人を守るのは保護者である俺の役目だ。


「はい! 勇者アキの子供と友達になります!」

「うおおっ、俺、勇者の子供と同級生だって自慢します」

「お、おう……」


 俺は勇者じゃなく勇者(仮)だったはずなのに、何故か勇者にされてしまっている。

 まあ、二人が無事学校デビューできるのならOKか。


「アキさん、僕も将来勇者になりたいです。どうしたらなれますか?」

「俺も俺も! 俺も勇者パーティーになる!」


 子供たちが勇者に食いついてきた。やはり子供の憧れなのだろうか。


「うーん、そうだな。魔族や竜族やエルフ族、それに獣人族と仲良くして、強いパーティ―を結成しないとな。自分だけの力じゃ無理だし、他種族と敵対したら協力してもらえないからな」


 俺の言葉に子供たちが頷く。


「「「おおおーっ!」」」

「なるほど、アキさんみたいに女を堕とすんだぜ」

「おい、違うぞ」


 ませガキの俺に対するイメージが心配だ。


 さっそく他種族と仲良くする教えを実践しようとしたのか、一人の子供がノワールの前に出た。


「あ、あの、僕と友達になってください」

「お断りです!」

「がぁぁーん!」


 速攻でノワールに撃沈された。


「おい、ノワール……少しは仲良くしてやれよ」

「アキ様がそうおっしゃるのでしたら……」


 続いてノワールが、とんでもないことを言い出した。


「私の初めてはアキ様に捧げると心に決めてますから。だから男友達も彼氏も作りません。ノワールはアキ様のモノです」

「ぶッふァぁああああ!」

「当然です。私の処女はアキ様のモノです」

「お、おい……」


 気持ちは嬉しいけど、これでは誤解されてしまう。


 ギュっ!

 話を聞いていたミミが、俺の服の裾を掴む。


「ミミも初めてはお兄ちゃんにするの」


 ミミまで同調してしまった。意味は分かってないのだろうが。


「アぁぁキぃぃちゃぁ~ん!」


 当然ながら、アリアの嫉妬が爆発した。


「ちょ、待て、アリアお姉さん! 子供の言うことだから」

「うふふっ♡ 子供っていっても、あと数年もしたら女になるのよ、アキちゃん♡」

「俺は何もしないから。てか、子供に嫉妬するとか大人げないですよ」

「ふーんだ、どうせ私は子供に嫉妬する大人げない女ですよぉ♡」

「お、落ち着きましょう」



 こうして、多少トラブルはあったが、無事に二人の入学が決まった。

 今日は手続きだけで登校は後日となるのだが。


 因みに、やはり学校関係者からもアリアがママだと思われたらしい。



 ◆ ◇ ◆



 少し日用品を買い物してから、来た道を戻っている。四人で仲良く手をつなぎながら。

 こうしていると本当に親子みたいだ。


「うふふふふっ♡ 私もアキちゃんとの子供が欲しいな♡」


 唐突にアリアがつぶやく。


(子供が……まだ俺には早いけど、やはりいつかは親になるのだろうか。その時は……アリアと……)


 そこでレイティアとシーラの顔も浮かんだ。


(待て待て待て! レイティアとシーラの子供もつくるのか? シロとクロも子種とか言ってるし……。もしかして、凄い大所帯に……)


「アキちゃん、何を考えてるのかなぁ?」


 いつの間にか、アリアが俺の顔を覗き込んでいる。


「そうですね、いつか俺も親になるのかなって?」

「ふふっ♡ 私はいつでも準備OKよぉ♡」

「うう、圧が凄い……」


 あと少しで屋敷だと思ったその時、後ろから聞いたことのある声がかかった。


「あっれぇええ!? あんたアキじゃない! うぃっ」


 酒に酔ってベロベロだが、聞き間違えるはずもない。少しだけ苦い記憶も甦った。


「サラ……何か用か……?」


 そこに居たのは元パーティーメンバーのサラだった。あれから顔を合わせることもなかったのに、偶然会ってしまったようだ。


「あっれぇ、元気にしてた、アキぃ! ういぃ、ひくっ!」

「俺に用は無い。行くぞ」

「そんなこと言わないでさぁ。お金持ちになったんでしょ?」

「金は貸さないって言ったはずだぞ」


 伸ばしてきた手を振り払うも、サラは勝手にしゃべり続ける。


「ねえ、聞いてよ、グリードったら地方領主の娘を襲おうとして捕まっちゃったらしいわよ。今は牢屋に入ってるとか。それでね、ラルフの方は借金返済の為にキツい仕事をしてるんだって。あははっ、もうプライドもあったもんじゃないわよね」


 特に聞きたくもないが、勝手にサラがしゃべりまくり耳に入ってしまう。


(グリード……何やってんだよ。それじゃまるで野盗と同じだろ。性格は最悪だが冒険者の腕は良かったはずなのにな。まあ、シーラを殺そうとした奴のことなど、どうなっても関係ないが)


「話は済んだか? じゃあ俺は行くから」


 俺が背を向けると、サラはやっとノワールたちの存在に気付いた。


「えっ! ちょ、その子って……。アキ、もう子供をつくったの! そんな大きな子まで!」

「そんな訳あるか」


 まだそれほど時間が経っていないのに、子供ができるはずもないのだが。


「もしかして母親は……」


 サラの視線がアリアに移る。


 ニコっ!

「アキちゃんの前に現れたら殺すっていったぞ♡」

「ひぃいいいいっ!」


 アリアの顔を見たサラが震え上がる。


「ぎゃあぁああああああ! 殺さないでぇえええ!」


 アリアにトラウマでもあるのか、サラは一目散に逃げて行った。


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