第118話 抱っこしてあーん

 あれからスルーし続けていたお仕置きという名のイチャイチャだが、ついにその日が来てしまった。


 たまたまアリアがノワールとミミを連れて買い物に行ったのだ。その隙を突いて、レイティアが俺の部屋にやって来たのである。


「あの、アキ君……」


 恥ずかしそうに頬を染めたレイティアが俺を見る。


「きょ、今日は静かだね。アキ君」

「そ、そうだな……」


 俺もレイティアも何となくお互いに気付いていた。イチャイチャするタイミングは今日なのだと。



 前述のようにアリアたちは出掛けている。


 ジールは一度東方の聖域に戻ったのだ。竜王ゲリュオンに、北方領域での件を説明する為だという。


 クロとシロにはスペシャルなカレーと唐揚げを振舞ったら、良い気分になってお昼寝中だ。

 メニューは、季節の野菜と地鶏のスペシャルスープカレーに、甘辛醤油ベースのタレに付け込んだ鶏の唐揚げである。

 因みに唐揚げは、ザグッとした衣と肉汁がギッシリとしているところから『ザンギ』と命名した。


 シーラとアルテナは多分部屋だろう。きっと本を読んだり絵を描いているから大丈夫だ。


 そんな訳で、今の俺とレイティアはラブラブ感マックス状態だった。



「あの、アキ君♡ アレ……しよっか?」

「アレって、アレだよな……」

「う、うん♡」


 目と目で通じ合い頷く。



 ギュワァアアアアアアーン!


 俺はスキルでおやつを生み出した。生クリームとイチゴがたっぷり乗ったケーキだ。

 なめらかなクリームは甘さを抑えフレッシュなミルクの味を引き立たせている。


 今からこのケーキを使って、抱っこしながら『あーん』で食べさせ合うのだ。


「お、おいで、レイティア」

「うん……ってか、お姉ちゃんだぞ」

「はいはい、レイティアお姉ちゃん」

「もうっ♡」


 文句を言いながらも嬉しそうな顔になったレイティアが上着を抜いた。

 下にはタイトで薄手のノースリーブ一枚だ。


(れれれれ、レイティアさん!? な、何で脱ぐんだ? 体のラインが出まくってエッチなのだが! くぅ……アドミナのビーチで見た水着姿を思い出してしまう!)


「よいしょっと」


 ファサッ!


 レイティアが服を脱ぐ時に、腕を高く上げ綺麗なわきが見えてしまう。

 つい、見惚れてしまった。


(レイティアさん! わわ、腋を見せるんじゃない! 俺を腋フェチにするつもりかっ!)


 そんな俺の視線に気付いたのか、レイティアがジト目になっている。


「アキ君、今ボクの胸を見てなかった?」

「胸じゃない、腋だ!」

「えっ!? わわ、わきぃいいっ!」


 レイティアは両手でギュッと腋を隠すポーズをする。


「アキ君のエッチ」

「ち、違う! レイティアの腋が綺麗だったから」

「むぅううっ……」


 レイティアは俺を睨んでから、プッと噴き出した。


「あはは、前にシーラが言ってたよ。たまにアキ君が腋をチラ見するって」

「待て、それは不可抗力だ。シーラの腋が無防備すぎるんだよ」

「はいはい、そういうコトにしといてあげる」


 呆れたような顔になったレイティアだが、すぐ恥ずかしそうな顔になってモジモジし始めた。


「じゃ、じゃあ、ボクのを見て良いよ……」

「は?」


 ゆっくりと腕を上げたレイティアは、理想的に均整の取れた腋を俺に見せつける。

 小柄でツルツルのシーラの腋も良いが、少し鍛えられた肩とムッチリとした胸から織りなすレイティアの腋も素晴らしい。


「待て待て、見て良いとか言われても困るのだが。エッチかよ」

「も、もうっ! アキ君が物欲しそうな顔をしてたから! バカぁ♡」


 自分の顔が熱くなるのが分かる。二人して真っ赤になってしまった。


「ほら、早く抱っこあーんだよ♡」

「分かった」


 グイッ!


 レイティアが俺に体を預けてくる。俺は彼女の後ろから抱きしめる格好になった。


「じゃあ、行くぞ」

「うん♡」


 レイティアを左腕でギュッと抱きしめ、右手でスプーンを持ち生クリームをすくう。それをゆっくりと彼女の口元に持っていった。


「ほ、ほら、あーん」

「あーん♡」


 レイティアが大きく口を開けた時だった。


 ガチャ!

「アキしゃん、新作が描けたのです――――えっ」


 突然ドアが開き、隙間からアルテナが顔を出したのだ。ラブラブな俺たちと目が合ってしまった。

 気まずい顔をしたアルテナが、無言でドアを閉めようとする。


「そっ閉じするな!」

「はひぃ!」


 一旦は出ようとしていたアルテナだが、再び戻ってきた。


「これはだな、そ、そう、日ごろ頑張ってくれているレイティアにご褒美というかお仕置きというか、イチャイチャ的なアレをな……」


 説明する俺に、アルテナは『分かってます』といった感じの顔で頭をブンブン振っている。


「分かってます。分かってますよアキしゃん。誘い受けですよね。最初の主導権はアキしゃんなのに、ここからレイティアしゃんにグイグイ攻められて上に乗られちゃうんですよね」


「お、おう……分かってるじゃねーか。普段はぶっきらぼうで元気なレイティアだけど、いざそういう場面になると恥ずかしがり屋で純情で可愛い彼女なんだよ。でも、たまに暴走してドスケベレイティアになっちゃうんだよな」


「分かります。普段エッチな女子ほど実は清純派というギャップですよね。でも、ドスケベな体は火照って止まらない……」


 俺とアルテナの会話で、レイティアは真っ赤な顔を両手で隠して恥ずかしがる。


「もうやめてぇええぇぇ……」



 やっとアルテナを帰して、再び二人っきりになった。


「よし、行くぞ」

「うん♡ 来て♡」


 あーんで食べさせるだけなのに、何だか意味深な雰囲気になってしまう。


「ほら、あーん」

「あーん♡」


 その時、俺は部屋のドアが少しだけ隙間が開いているのを見つけてしまった。


「ちょっと待て……」

「どうしたの? アキ君」


 俺はドアの方に顔を向けた。


「アルテナ……こっそり覗くのはやめてくれ」

 ガタッ!


 俺の声でドアが鳴った。ビックリしたアルテナが音を立てたのだろう。


 ギィィィ――

 アルテナはドアを開け顔を出した。


「ごめんなしゃい……今後の創作のネタにしようと……」

「俺たちをネタにしないでくれ。もうレイティアが限界みたいだ」

「あわわわっ、ずびばせん!」


 ガチャ!


 羞恥心の限界でピクピクしているレイティアを見たアルテナが、申し訳なさそうな顔をして帰っていった。


「レイティア、大丈夫か?」

「は、恥ずかしいっ♡」

「大丈夫じゃなかった!」

「いつも威厳があるボクのイメージがぁ」

「やっぱり大丈夫だ。いつもレイティアはあんな感じだから」

「あんなんじゃないよー!」


 威厳があるかどうかは知らないが、最近のレイティアは普段からイチャコラしているので問題ない。

 出会ったばかりの頃は凛々しい女騎士みたいだったが、すぐにポンコツ可愛いレイティアになったから。


「ほら、あーんだぞ」


 俺はケーキを乗せたスプーンをレイティアの口元に持っていく。


「あーん♡ もぐもぐ」

「どうだ、美味しいか?」

「うん♡ アキ君のケーキ美味しぃ♡」


 レイティアは俺からスプーンを奪うと、今度は俺の口元にケーキを乗せたそれを持ってきた。


「はい、アキ君っ♡ あーん」

「お、おう……あーん」


(くぅ! 照れる! これは照れる! 予想以上に恥ずかしい! こんなの他の人には見せられないな)


 もう一度ドアの方を確認してしまった。

 アルテナは居ないようだ。


「えっと、あの、アキ君?」

「何だ?」

「今度は……その……あの……く……ちうつしで」

「ごめん、何て言ったか聞こえなかった」

「だから口移しで欲しいの♡」

「は? はぁああああああ!?」

「ちょっと、そんなに驚かないでよ」


 恥ずかしがり屋のレイティアにしては、意外とアグレッシブだ。まさかそう来るとは。


(超恥ずかしいけど……いつもレイティアは頑張ってくれてるし……。一途に俺を想ってくれているし……。ここはサービスしないとだよな)


 俺は覚悟を決めてケーキに乗っているイチゴを咥えた。


んしよしんふお行くぞ

「う、うん……」


 目を閉じてキス顔になったレイティアの口に、俺が咥えたイチゴを持ってゆく。

 心臓がドキドキと暴れまわり、胸はキュンキュンと切なく締め付ける。


「んん~っ」

「あーん♡ んっ♡ チュっ♡」


 イチゴを口移しさせたまま、俺のくちびるはレイティアの柔らかなくちびると合わさった。口移しさせながらのキスだ。

 イチゴと生クリームの味がした。


「ううっ♡ うううーっ♡ これ、想像以上に恥ずかしいね♡」

「そ、そうだな……」


 恥ずかしくて顔が真っ赤なのに、レイティアはお返しとばかりにイチゴを咥えて迫ってきた。


んーんくんあーき君、ん~ん♡」

「あーん……んっ……」


 両手を恋人つなぎしながら見つめ合い、口と口を合わせる。完全に恋人のラブラブキッスだ。


「んんぅん♡ チュ♡ チュパ♡」

「ん、レイティア……んん」

「アキ君っ♡ 好きぃ♡ 大好き♡ チュっ♡」


 レイティアは熱の入ったキスを続け、一旦くちびるを離してから名残惜しそうにもう一度キスをした。


「はうぅううっ♡ これじゃボクがアキ君を大好き過ぎて止まらないみたいだよぉ♡」

「う、嬉しいよ、レイティア」

「もうっ、お姉ちゃんだぞ♡」

「はいはい、お姉ちゃん」

「こらぁ♡ チュ♡ チュっ♡」


 その後も、レイティアは何度も何度もキスをせがんだ。愛されている実感と、幸せな気持ちが溢れてくる。


 ズキュゥゥゥゥーン!


 そこで、もうオヤクソクとなっているスキル覚醒だ。


『スキル【専業主夫】に嫁属性【竜族の加護Ⅳ】が追加されました。ステータス上昇。新たに魔法が追加されます』

【自動展開魔法・幸運の女神(竜族)】

【幸せの魔法・ずっと大好き】

【幸せの魔法・あーん上級者】

【誘い受けプレイ】


 ステータスが書き換えられ、アビリティとパラメーターは……上昇しなかったが、幸せな気持ちで胸がいっぱいになった。


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