第113話 全てはアキの嫁
「人族に忠誠を示せだと……魔族の首を
そう俺が言い放つと、帝国騎士が一斉に殺気立った。
「おい貴様! 不敬であるぞ!」
「陛下に何て口の利き方だ!」
皇帝オーギュストは失望の色をした目で俺を見る。
「愚かな……。勇者として巨万の富と絶大なる栄光を手に入れるチャンスだというのに。魔族の味方をして何になる。魔族は許されざる敵であるぞ。貴様は千年戦争を忘れたのか」
「忘れるも何も俺の生まれる前の話だ! 確かに人族と魔族は血で血を洗う戦いの歴史を重ねてきた! でも今は違う! こうして一緒に仲間になってるんだ!」
「疑念は消えておらぬ! 魔族が人族へ敵意を向けておる限り、人族の安寧は訪れぬのだ! 今までは均衡が保たれておった。しかし、今は魔族が弱っている好機だ! 魔族領域を占領し全ての魔族を抹殺する。それこそ余の使命! 正義の執行である!」
「けっ、正義だと……罪のない者を殺したり、幼い少女を奴隷にするのが一体どこが正義なんだ! 俺は大切な彼女たちを守る! 勇者なんて称号も金も栄誉も興味が無ぇ!」
「もはや聞くに堪えぬ。新しい勇者は、とんでもない阿呆であったか! ヘイムダル帝国皇帝オーギュストの名において命じる! この反逆者どもを倒せ!」
ザッ! ザザザザザザザザザザッ!
一斉に騎士たちが剣を抜く。もはや話し合いでは収まらないようだ。
「どうして……どうしてなんだ! 人族も魔族も……相手を殲滅だの皆殺しだの……。皇帝も悪魔元帥も、殺すだの滅するだの、そんなのばっかりだ! そんなんだから戦争が終わらないんだろがぁああああ!」
ザンッ!
もう一触即発だ。人族同士で争っている場合じゃないのに、剣を抜いた俺と騎士たちが睨み合ってしまう。
しかし、一部の騎士が人の波に逆らうように動き、オーギュストの前に飛び出した。
「お、お待ちください、陛下!」
帝国第三軍銀翼騎士団団長ハインツ・ランベルトだ。俺たちと共に戦った騎士である。
オーギュストの御前に平伏し、必死の形相で訴えている。
「この者は真の勇者であります! 私は共に戦い直にこの目で見ました! 不死の王や悪魔大将軍と一騎打ちをし、敵をねじ伏せるその力は見事であります! ここで勇者を失うは、人族にとって大きな損失となりましょう!」
「下がれハインツ!」
「下がりませぬ! このまま勇者アキ抜きで北上したとしても、残った魔族どもは
「聞けぬ! いかに忠臣の諫言でも聞けぬ! 成さねばならぬのだ! どれだけ犠牲を払おうとも、魔族領域を撃滅し正義を成すのだ!」
バッサァアアアアアア!
その時、ドラゴンの羽ばたきと共に強風が巻き上がった。
上空にアルテナたちを乗せたジールが現れたのだ。
「乗れ、アキよ!」
ヘンテコな白仮面女がドレスをはためかせる。ドラゴンの上でカッコ付けているつもりだろうか。
「シロさん!」
シュパッ!
長い鞭に形状変化した
レイティアたち三人と一緒に、そのままジールの上に飛び乗った。
「よし! 何としても止めてやる! これは俺の喧嘩だ!」
叫んだ俺に、シーラがツッコみを入れる。
「アキだけの喧嘩じゃないわよ!」
「そうだったな。皆の――」
「勇者パーティー
「お、おい」
世界最大の帝国と喧嘩をするのだから、やらかしが正解だろう。
もう、後の世の歴史書に載りそうだ。好きな女の為に世界を敵に回した勇者と。
「もうヤケクソだぜ! 支援魔法行くぞ!」
【付与魔法・肉体強化極大】
【付与魔法・魔力強化極大】
【付与魔法・防御力強化極大】
【付与魔法・魔法防御力強化大】
【付与魔法・攻撃力上昇極大】
【付与魔法・素早さ上昇極大】
【付与魔法・クリティカル確定】
【付与魔法・防御無効貫通攻撃】
【付与魔法・
【付与魔法・全パラーメーター三段階上昇】
【付与魔法・
【付与魔法・
ギュィィィィィィィィーン!
【
『竜王スキル二種の同時展開を確認しました。世界改変スキル【
「待て待て待てぇええええぇい! 何か危険なスキルっぽいから無しで!」
恐ろしいスキル説明が入り、俺は無理やり止めてみた。俺のやらかしで世界が滅んだら洒落にならん。
「凄い力が溢れてくるよ! アキ君と一緒なら怖くない!」
「アキちゃん♡ アキちゃん♡ アキちゃぁーん♡ 私はずっと一緒よ♡」
「アキっ、アタシが
レイティアとアリアとシーラがやる気満々だ。
当然、俺はやり過ぎないよう釘を刺す。
「お姉さん方、殺しちゃダメだから!」
「ボクは分かってるぞ!」
「あんたアタシを何だと思ってるの?」
「私はアキちゃん以外の男なんてどうでも良いけどぉ♡」
ちょっと不安だが信じよう。
ただ、もっと不安なメンバーが居るのだが。
「よし! シロよ、今がその時じゃ!」
「うむ、ここが我らの見せ場であるな」
「はわわっ、シロ様、クロ様、変なことしないでぇ」
クロがシロに目で合図を送っている。何か良からぬことを企んでいる顔だ。
二人の間でアルテナがオロオロしているのだが。
「お、おい、まさか!?」
そのまさかだった。
二人は仮面を外すと、地上の騎士たちに向けて両腕を広げる。
「我は森羅万象を支配せし者、西海白竜王ヴリドラである!」
「わらわは世界の理を超越せし者、北海黒竜王エキドナじゃ!」
シュパァアアアアアアアアアアアーン!
ズドドドドドドドドドドドドドドドォォーン!
「やっぱりやりやがったぁああ!」
二人は帝国王国連合軍の目の前で竜化し、翼を大きく広げた巨大なドラゴンになった。
一方は、神々しく光のように輝く純白の竜に。もう一方は、禍々しくも美しい漆黒の竜に。
この常軌を逸したような超展開に、帝国軍は大混乱だ。一部騎士隊長には正体がバレていたものの、多くの者は初めて知ったのだ。勇者パーティーに竜王が居るのだと。
その伝説の姿を見た人々は、畏怖と恐怖と絶望が入り交じりパニックとなる。
「ぎゃあああああああ! 竜王様だぁああ!」
「何でヴリドラ様が居るんだぁああああ!」
「黒竜王エキドナ様まで居るぞ!」
「世界の終焉を執行する最凶の魔竜だ!」
「殺される! 殺されるぅぎゃぁああ!」
「終わりだ! この世の終わりだ!」
神にもひとしき二柱もの巨大な竜王の翼が空を覆い、もはや騎士団は阿鼻叫喚の
混乱した兵士は蟻のように逃げまどい、人と人とがぶつかり合い這いつくばる。
「おぉおおおおおおおおぉぉおおぉーい! 何でここで! 最初からこれが目的だったのか! 一番盛り上がる場面を見計らって正体を明かす作戦だったのか!」
まさかの俺がツッコむ展開になった。こんなの予測不能だ。
しかし、騒ぎはそれだけでは終わらなかった。
「ほれ、アルテナよ、そなたもやるのじゃ!」
「そうであるぞ! アルテナも見せ場を作れ!」
赤く妖しく輝くクロの瞳と、青白く冷徹に光るシロの瞳で挟まれたアルテナが死にそうな顔をしている。
ただでさえ圧が強い二人なのに、巨大な竜になった顔で挟まれたら恐怖でしかない。
「わわわ、わたっ、私っ」
「そうじゃ! ここで名乗りを上げるのじゃ!」
「ここが一番の見せ場であるぞ! もう腹が減ったからの」
ガタガタガタガタ――
「わ、分かりましたぁああ! やります! やるから食べないでぇ!」
アルテナが覚悟を決めた。食べられるよりはマシなのだろう。
「わわ、私はデキる子。やればデキる子でしゅ。私は魔王、ままま、魔王……やってやるです……」
バンッ!
ぶつぶつ独り言をつぶやいてから、急に顔を引き締めたアルテナが前に出る。
「余は新たなる魔王アルテナである! そして、アキしゃん……勇者アキの女でしゅ! 勇者アキの為に全魔族は従うでしゅ!」
「うぉおおおおぉい! 何言ってんだぁああ! アルテナ!」
いっぱいいっぱいのアルテナが暴言を吐き出した。
しかも、慌てる俺を放置したまま、クロも主張を始めたのだ。
「わらわも勇者アキの女じゃ! もう身も心もトロトロでイケイケなのじゃ! 今よりわらわはアキの為に戦うぞ!」
クロに張り合うよう、シロまで主張し始める。
「当然、我も勇者アキの女であるぞ! 同じく身も心もトロトロに煮込んだカツカレーにゾッコンである! 我もアキに加勢する!」
もう完全に面白がっている顔だ。
「うぎゃああああああ! どうすんだこれ! もう、やらかしってレベルじゃねーぞ!」
俺は連合軍15万人以上の前で、世界を支配するバランスブレーカー竜王や、魔族の支配者である魔王を堕とした、とんでもない恐れ知らずなやらかし男として認知されてしまった。
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