第114話 時空の支配者
突然目の前に竜王と魔王が現れ、帝国軍はこれ以上ないくらい大騒ぎとなる。
「ぎゃああああ! 何で勇者パーティーに魔王が!」
「あの男は魔王を堕としてものにしたのか!?」
「おい、あの噂の! 魔王の処女を奪ったってのは……」
「魔王とエッチしたのは勇者だったのか!」
「そんなん別の意味で勇者過ぎるだろ!」
「勇者アキはアッチも勇者かよ!」
ベルゼビュートの流したデマが真実のようになってしまった。完全に俺がアルテナの処女を奪ったかのように。
「おい待て! それはデマだって! クソっ、誰も聞いちゃいねえ」
どんどん騒ぎが大きくなり収拾がつかない。
「もうこうなったらやるしかねえ! 騒ぎを収めて俺の話を聞いてくれ!」
この大混乱の中、シーラの顔はやる気に満ちている。
「もうぶっ壊すしかないわね! 大暴れしちゃうわよ!」
「ぶっ壊すのは程々にしてくれ!」
そういえばシーラが破壊神と呼ばれていたのを思い出す。
俺が戸惑っていると、隣にレイティアが立った。
「アキ君っ! ボクも張り切っちゃうからね! 全部終わらせて一緒に家に帰ろう!」
「レイティア……は、ノーコンだから大丈夫か」
「ノーコンって何だよぉ! 人をポンコツみたいに」
本人に自覚は無いのかもしれないが、少々ポンコツの上に、拗ねてプク顔で怒るレイティアが可愛いからOKだ。
「アキちゃん♡ 後でアルテナちゃんとの関係を説明してもらうからね♡」
やっぱりアリアが一番怖いかもしれない。
「アリアお姉さん……少し抑えてください」
「攻撃は抑えるけどぉ、アキちゃんへのお仕置きは抑えられないかもぉ♡」
「帰ってから大人しくお仕置きされるからぁああ!」
三人が攻撃態勢に入った。それぞれ武器を構え超破壊力の攻撃を繰り出す。
「行くわよ! 闇より深き漆黒の、光より輝く日輪の、其は精霊王の奇跡! 天地を貫く一閃の雷よ、万雷となり敵を殲滅せよ!
ズドォオオオオオオオオオオオオオーン! バリバリバリバリバリ!
シーラの放った大魔法が周囲の山々に落ちた。まさに幾万もの雷が降り注ぎ、空を紫色に染め上げ轟音を響かせる。
まるで地獄が顕現したかのようだ。
「ああぁん♡ アキちゃんが欲しくて欲しくておかしくなっちゃうそうなのぉ♡ やっちゃうわよ! 地獄の門を開け放ち亡者殲滅の炎は顕現せよ! 大地を融解させ万物を滅し生きとし生けるもの全ては無に帰す永遠の焔!
ドバァアアアアアアアア! ズバババババババ! ゴバァアアアア!
まるで欲求不満をぶつけるかのように、アリアの大魔法が空に向かって放たれた。
天空が赤く染まり、まるで空が落ちてくるような恐怖に襲われる。
「アキ君♡ は、ハグして欲しいんだけど……」
「もうヤケクソだ! 行けレイティア!」
「お姉ちゃんだぞっ!」
ギュッ!
「あっ♡ アキ君を感じる。これなら奥義を出せそうだよ! アキ君と一緒で元気一千万倍! イッけぇえええええええ!
ズドドドドドドドドドドドドドドォォォォーン! ドパパパパァーン! ズガガガガァーン!
レイティアの放った青白い衝撃波は、遠く離れた山の中腹を切断し、ゆっくりと傾きながら地響きを轟かせて山を崩壊させてゆく。
この人知を超えた三連撃に、地上の騎士たちは完全に戦意喪失だ。誰もが頭を抱え逃げまどっている。
「ひゃああああ! もうダメだあああ!」
「助けてぇええええ!」
「こんなの勝てるわけねえ!」
「ママぁあ゛ぁああああああ!」
そんな中でも皇帝オーギュストだけは気丈に兵士を鼓舞しているのだが。
「怯むな! 戦え! 立ち向かうのだ!」
(さすが大帝国の皇帝……これだけの力を見せても挫けないのか……。だが、ここで止まるわけには行かない。魔族はザベルマモンに命じて戦闘を放棄させたんだ。なら、人族も軍を引かせないと!)
俺は新たに追加されたスキルの中から使えそうなモノを選ぶ。
「よし、これならどうだ!」
【超越魔法・
ギュワァァァァーン! グガガガガガ! ズガガガガガガガガガガ!
地面……というか空間が
あくまで俺の頭の中での計算だが、実際にその意思は現実に干渉し空間を動かせるのだ。
ギュワァアアアアアアーン!
「ええええっ! 大地が上がったり下がったり!?」
ズギュワァアアアアアアァーン!
皇帝オーギュストと一部騎士団長の立っていた場所が、まるで塔のようにせり上がった。
「ウオオオオオオォッ! 何じゃこりゃぁああああっ! 空間を操るなど、もはや神の御業ではないか!」
ズギュゥゥゥゥワァアアアアァァーン!
「ヤベっ! これ操作が難しいぜ!」
一歩間違うと帝国軍を壊滅させそうなとんでもスキルだった。大地が変形し大軍を丸ごと飲み込みそうになる。
確か黒竜王の加護だったはずだが。
「こんな危険なスキルを俺に付与するんじゃねえ!」
ズガガガガッ! ドガガガガガガガガガ!
「し、しまったぁああ! コントロールをミスった! どど、どうすんだコレ!」
空まで高くなった周囲の山が帝国騎士たちの上に崩れてゆく。完全に生き埋めコースだ。
「ぎゃあああああああ! 殺される!」
「もうダメだぁああ!」
「俺、この戦争が終わったら彼女と結婚するんだ」
「変なフラグを立てるんじゃねぇええええ!」
騎士たちがパニック状態になってしまう。このままでは俺が人族を壊滅させた犯人になりそうだ。
「ま、待て待て! と、止まれ! ダメだ、上手く動かせない! そ、そうだ、時間よ止まれ!」
【超越魔法・
シュピィィィィーン!
白竜王の加護である
「よ、よし、シーラ、魔法で崩れた山を吹っ飛ばしてくれ」
声をかけども返事はない。
完全な静寂の世界である。
「って、シーラも
たぶん特定範囲の時間を止めるスキルなのだろう。術者以外は止まるはずだ。
いや、この完全停止した世界の中で動いている規格外の存在が居た。約二名……というかドラゴンだが。
「ほれ、アキよ、早うせぬと時間切れになるぞ」
「そうじゃそうじゃ、同族を生き埋めにしたら気まずかろう」
そう、言わずと知れた
「シロさん! クロさん! 手を貸して……って、あんたらは直接手を貸さないんだったな」
竜王が俺たちの争いに干渉しないのを思い出す。
「良く分かっておるではないか、アキよ」
「わらわは面白ければ良いのじゃ」
「くっ……分かってはいたけど」
シロとクロは楽しそうに笑う。ドラゴンの顔だが何となく分かった。
「早くせぬとスキルが解除されるぞ。何とかせよ」
「わらわたちの他にも動けそうな者もおるはずじゃがな」
クロの言葉で思い出した。見た目は弱そうなのに、実は最強レベルに強い魔族を。
「そ、そうだ! おい、アルテナ! 起きろ! 緊急事態だ!」
ゆっさゆっさゆっさ――
俺はアルテナの肩を掴んでゆすってみた。
「おい、アルテナは魔王だろ!? 本気を出せば俺のスキルなんかで止まるわけないよな!」
「――――っ、ホ、ホ……ンキ」
微かにアルテナのくちびるが動いた。
「アルテナ?」
「そ、そうでしゅ……わわ、私は本気だせば……やればデキる子でしゅ!」
アルテナが復活した。やればデキる子だ。俺より年上だが。
「あ、あの、これはどういう状況で……」
「説明は後だ! 騎士たちの上空に倒れ掛かっている山を魔法で吹き飛ばしてくれ!」
「ええっ、ええええっ!」
「頼む! もう時間がない!」
その瞬間に
山の下敷きになりそうな騎士たちが悲鳴を上げる。
「うわああああ! 俺の結婚がぁああ!」
「変なフラグを立てるなって!」
「もうダメだああああ!」
「助けてぇええええ!」
崩壊する世界と絶叫する騎士たち、期待に目を輝かせる竜王に見守られる中で、アルテナが叫んだ。
「わわ、私なら魔王スキルが使えるはずでしゅ! アキしゃんのバフでアビリティも超強化されてるはずでしゅ! ま、魔王アルテナの命により顕現せよ! 地獄の最下層ジュデッカに封印されし
ペカァァァァーッ! ズババババババババァァアアアアアアーン! ドッガァアアアアアアァーン!
アルテナが突き出した両手の先に幾重もの魔方陣が収束し、そこから巨大な炎の剣が発射された。
その剣は爆炎を伴いながら前方に崩れかかっていた巨大な山を吹き飛ばす。
バラバラバラバラ――
目の前が真っ白になる閃光と耳をつんざく爆音の後には、綺麗さっぱりと消え去った山と、茫然とへたり込む騎士たちが居るだけだ。
「お、おい、今の……」
「魔王が俺たちを……助けた?」
「やっぱり魔王は勇者アキの命令に従うのか?」
「そ、そうだ! そうに違いない!」
「勇者は魔王を自分の女にしたんだ!」
やはり誤解が広がっている気がする。
だが、もうそれも利用するしかない。
俺は、ゆっくりと大きく息を吸うと、思い切り言い放った。
「勇者アキの名にもとに宣言する! 魔族は勇者の支配下に入った! 戦争は終わったのだ! 速やかに停戦して軍を引け!」
アルテナの頭に手を乗せ堂々と宣言した。
その直後、俺の意識が薄れてゆくのを感じる。竜王スキルである超越魔法の影響だろう。
「終わったか……少しだけ……眠らせて……くれ」
「アキ君!」
倒れ込んだ俺は、レイティアの胸の中に顔を埋めた。これ、前にもあったような。
俺は柔らかな感触と心地よい香りの中で眠りに入った。次に目が覚めた時に、とんでもない成り上がりをしているとも知らずに。
それも伝説級の。
――――――――――――――――
魔王軍を屈服させ、世界最大帝国をもビビらせてしまったアキ。竜王二人と魔王を従え、誰も逆らえない高みへ。
いや、お姉さんたちにはお仕置きされる運命だが。
次回から新章に入ります。
成り上がり&イチャラブ多めの溺愛編です。
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