第110話 俺がぶっ壊す
目の前にいる悪魔元帥ベルゼビュートが、とんでもない発言をした。聞き違いではないはずだ。
「この城の魔族もろともって、どういう意味だ」
俺の問いに、ベルゼビュートは鼻で笑う仕草をする。
「ふっ、知れたことよ。勇者に屈するくらいなら、暗黒騎士を道連れに一矢報いてやると言っておるのだ!」
「な、何だと……」
俺が反論する前に、後ろでオドオドしていたリュシフュージェが声を張り上げた。
「な、なな、何を仰るのだ、ベルゼビュート殿! もはや我らに勝ち目はない! ここは潔く負けを認め命を守ろうではありませんか!」
「やかましい! 勇者に媚びへつらう負け犬の戯言など聞かぬわ! 我は最後まで誇りを胸に戦い、この城を墓標としてやる! ハハハハハっ!」
完全に自分に酔っているかのようにベルゼビュートは笑う。
だが、そんな暴論、俺は聞き捨てならない。女性関係はスルーする俺だが、これはスルーできないのだ。
「誇りを守って滅ぶのなら、あんた一人でやれよ! 何で他人を犠牲にするんだ! この城には何も知らない接待役の女性も居るんだぞ!」
「フハハハハっ! どうせ滅ぶのなら一蓮托生よ! 貴様諸共、この城を破壊して生き埋めにしてやるわ! そこの女も一緒にな!」
ベルゼビュートがレイティアたちを指さした。
「なっ! お、おい、お前は言っちゃいけないことを言っちまったな!」
大切な人を傷つける発言を聞き、俺の頭が沸騰する。そんなの許せるはずがない。
「あちゃー、禁句を言っちゃったわね」
シーラが『やれやれ』といったジェスチャーをして下がった。
レイティアとアリアはテンション上がったようだが。
「アキ君、やっちゃえ!」
「アキちゃん♡ 素敵♡」
(まだ完全じゃないけど、
サッ!
「ベルゼビュート元帥は、わたくしが止めますわよ。貴方様♡」
「あんたは下がってろ。これは俺の喧嘩だ!」
「んぁああ♡ 貴方様ぁ♡」
ザベルマモンが割り込んできたので強引に下がらせる。何故か目がハートマークになっている気がするが、そこはスルーだ。
「来い! 俺が相手だ! 大好きな
「望むところだ! 貴様もお仲間とやらも道連れにしてやる!」
ギュワァアアアァーン!
ベルゼビュートから膨大な魔力が放出される。さすが魔王軍の実質トップといったところか。
「
ズバババババババッ!
ベルゼビュートから放たれたいくつもの
同時に相手も大魔法の詠唱に入ったのだが。
「くそっ! させない!」
【付与魔法・肉体強化極大】
【付与魔法・魔力強化極大】
【付与魔法・防御力強化極大】
【付与魔法・魔法防御力強化大】
【付与魔法・攻撃力上昇極大】
【付与魔法・素早さ上昇極大】
【付与魔法・クリティカル確定】
【付与魔法・防御無効貫通攻撃】
【付与魔法・
【付与魔法・対魔族特効】
【付与魔法・
【付与魔法・
『付与魔法
俺の中で何かスキルの説明が入ったが、そんなのはどうでもいい。ただ、俺は好きな女を守りたいだけだ。
「原初の炎よ天地を乖離する終焉の崩壊よ! 今、我の前に顕現し世界を滅ぼせ!
ベルゼビュートの魔力が可視化できるほど爆発的に上昇する。
(マズい! 何の魔法か知らんが、これはマズい! 城ごと崩壊させる気か!)
「させない! 俺は守ると決めたんだぁああああああ! おりゃぁああああああ!」
「な、何ぃいいいい! 我の大魔法をその身で受ける気かっ!」
俺はベルゼビュートに飛び込み、放とうとしている大魔法の炎を抱え込んだ。体ごと
ピカッ! ズドドドドドドドォォォォォォーン! ガラガラガラガラ!
「ぐっはぁああっ!」
一瞬だけ俺の体がバラバラに千切れた気がしたが、瞬き一つもしない内に再生していた。痛みも恐怖もなく、まるで少し前に時間移動したみたいに。
これがセーブポイントが何とか言っていたやつか。
「アキ君!」
「アキちゃん!」
「アキぃいい!」
三人が俺を気遣う声を上げる。
「大丈夫だ! 言ったろ、俺は大好きな人を守るって」
きゅん♡ きゅん♡ きゅん♡
きゅぅぅぅぅーん♡
皆の目が蕩けている。もしかして、また問題発言したのだろうか。
ガタッ!
魔法を邪魔されたベルゼビュートの方は愕然とした顔で足元をよろめかせる。
「バ……カな……ありえない! 我の大魔法をその身で受けて無傷だと! き、貴様ぁ! 不死身か!」
「違う、俺は不死身でも勇者でもない」
「な、何を言って……」
「俺は専業主婦の
ズドンッ!
俺の右フックがベルゼビュートの顔面をとらえた。
「ぐっはぁああああ! バカなぁああ! 何だこの一撃は! ただ殴っただけで、このダメージだとぉおお!」
ズドンッ! ドスッ! ドンッ! ズバンッ!
立て続けにパンチを繰り出す。その全てがクリティカル確定で対魔族特効の防御無効貫通攻撃だ。
「もう降伏するんだ! 魔族はお前の道具じゃない!」
「黙れ! 勇者の戯言など聞かぬ!」
「馬鹿野郎! 戯言でも綺麗ごとでもねえ! お前の誇りに他人を巻き込むなって言ってんだよ!」
「うるさい! 人族に何が解る!」
ズガンッ! ドッガァァーン! バリバリバリ!
壁に飛ばされてボロボロになったベルゼビュートだが、まだ目はギラギラと俺を睨みつけている。
「クソっ! クソっ! クソクソクソ、クソがぁああああ! 我は引かぬ! 我は媚びぬ! 人族を抹殺する! それが魔王軍よ!」
「何がそこまでお前を……」
「貴様には分からんのだ! 人族の勇者として持て囃される貴様にはな! 魔族というだけで差別され虐げられる者の
その言葉で、俺の心にアリアやノワールの顔がちらついた。
「わ、分かるさ。全ては理解できないかもしれない。でも、俺は知っている。魔族というだけで心無い言葉をぶつけられるアリアの気持ちを。奴隷として理不尽に虐げられたノワールの痛みを」
「な……んだと……」
「俺が勇者として持て囃された? ははっ、そんなのちゃんちゃらおかしいぜ。俺はハズレスキルとバカにされてきたからな」
「ハズレスキルだと? き、貴様が?」
「ああ、昔の俺はパーティーでも荷物持ちの底辺扱いだったからな。それに、俺は勇者になりたいわけじゃない。ただ、平穏に暮らしたいだけなんだ。それが、魔族であるアリアや、竜族のレイティアや、エルフのシーラと一緒なら、それだけで俺は幸せなんだ」
きゅん♡ きゅん♡ きゅん♡
後ろから好き好きオーラが押し寄せている気がする。
「人族だとか魔族だとか竜族だとかくだらねえ! 誰がそんな区分を決めたんだ! どっちが上だとか、どっちが偉いだとか、そんなの俺には関係ねえ! 大好きなら人族でも魔族でも関係ないんだ! そんな区分だか序列なんて俺がぶっ壊してやる!」
「馬鹿な……こ、こんな男が存在するだと……。そ、そうだ、ザベルマモンもアルテナ様も、この男に堕とされたのだったな……。人族でありながら魔族や竜族までも堕とす男だと……」
覚悟を決めたようだったベルゼビュートの顔が、初めて恐れや困惑の表情になった。
「分かったか! 俺は魔族を滅ぼすつもりもなければ奴隷を容認するつもりもねえ! 世界の
ドッゴォオオオオオオオオオオーン!
「ぐっはぁああああああぁぁぁぁ!」
ガラガラガラ――――
俺の強烈なパンチで、ベルゼビュートは壁ごと吹っ飛ばされて城外に落下していった。
「あ、あれ? つい熱くなってやり過ぎたかな?」
ふと、冷静さを取り戻した俺はつぶやく。
壁に空いた大穴から吹き込む風が冷たい。いつの間にか夜になっているようだ。
そこには、壁に大穴が空いて見晴らしが良くなった部屋と、腰を抜かしてへたり込むリュシフュージェと、何故か瞳がハートマークになった全員の女がいた。
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