溺愛系お姉ちゃんヒロインは寝かせてくれない! ハズレスキルでS級パーティーを追放された俺、美少女に拾われたらスキル覚醒しました。加護爆盛りで無双しながら甘々で幸せに暮らします。
第108話 その頃魔族領域では3(sideベルゼビュート)
第108話 その頃魔族領域では3(sideベルゼビュート)
「た、大変です! ベルゼビュート元帥閣下! うわぁっ、たた、大変です!」
けたたましい音と共に部下が執務室に飛び込んできた。このベルゼビュートが騒音を嫌うのを忘れたとは言わせぬぞ。
「やかましい! 静かにせぬか、愚か者め!」
我に一喝され、部下が襟を正す。ただ、口調は慌てたままなのだが。
「ご、ご報告します! まま、魔王軍が、魔王軍が!」
「魔王軍がどうした!? 落ち着け!」
「魔王軍が、我が軍が壊滅しました!」
「は?」
我の聞き違いか? まだ進軍してから数日しか経っておらぬのだ。こんな短期間に壊滅するはずがない。人族の軍との交戦にしても早すぎる。
「報告によりますと、第三軍魔獣部隊は全滅。第四軍死霊部隊も全滅。第五軍ゴーレム部隊も全滅。第二軍暗黒騎士部隊は降伏した模様です!」
聞き違いではなかった。あれだけのモンスター軍団、考えられる最強最大の兵力を差し向けたのだ。
それなのに部隊が壊滅とは、いったい何が。
「そ、そうだ! エルダーリッチはどうした!? あのモンスターは不死の王、物理的に排除不可能であるぞ!」
あらゆる魔法攻撃も物理攻撃も無効化し、圧倒的な再生能力を持つ魔物なのだ。
エルダーリッチを倒せる者などおらぬ。
「それが……」
「何だ、申してみよ!」
「勇者を名乗る男が殴って消滅させたそうです」
「は…………」
グラッ!
余りのデタラメな話で立ち
物理無効化する不死の王を殴って倒す者が存在するなどありえない。もし、そんな超越者が存在するとするならば、それは魔王か竜王くらいだろう。
「は、ははは……そんなバカな……不死の王が……。新しい勇者は化け物か……。夢だ、これは夢だ……」
「事実です。夢見てる場合ですか」
「うるさああああい!」
「ひいいっ!」
部下の喋り方が癇に障る。
「そ、そうだ、魔導要塞ギガントパンデモニウムはどうしたのだ!? 錬金技術の粋を極めた傑作ゴーレムだぞ。そ、それに、あのザベルマモン大将軍がいる。あの女の腕力と防御力は前魔王様を凌ぐほどであるぞ」
あの婚活女……悪魔女将軍ザベルマモンは規格外なのだ。ふざけた女ではあるが、純粋に強さだけなら魔族最強である。
あの女を倒せる男など存在しない。それこそ竜王ゲリュオン様でもない限り。
「ええ……大変申し上げにくいのですが……なんと申しますか……」
部下の話が要領を得ない。
「ギガントパンデモニウムは一刀両断にされました。そして、ザベルマモン大将軍は勇者と一騎打ちのすえ、ボコボコに殴り負け……部下全員の前で尻を鞭で打たれるという見せしめの刑にされたそうです」
ガタンッ!
「何だと! あ、有り得ぬ! ギガントパンデモニウムが一刀両断? ザベルマモンが鞭打ちで見せしめだと!」
信じられないことが立て続けに起こっているというのに、部下の話はまだ続きがあった。
「ええ……そして、部下にケツ丸出しで屈辱の敗北を喫したザベルマモン大将軍は、勇者の女になると宣言させられ、身も心も堕とされ自ら人質に志願したとか」
「あああ、ああああ、ああ……あのザベルマモンが男に屈服だと……」
もう頭の回路がショートしそうだ。もし考えられることならば、アレしか思い浮かばない。
「デマではないのか? そうだ、我らがデマを流したように、人族もデマで混乱させる作戦なのだ」
「それ閣下の感想ですよね。残念ながら事実です」
「うるさああああい!」
「ひいいっ!」
何度もイラつかせる部下に頭が混乱するが、次の言葉が決定的だった。
「そして、勇者パーティーには魔王アルテナ様と黒竜王エキドナ様も参加しているとの情報まで」
「なっにぃいいいいいいいいいいいい!」
「ひいいっ!」
「何故、それを先に言わぬかああああ! このクソがぁああがりゃくりょうがぁうがあああああ!」
ガッシャァアアアアアアーン!
「ひぃいいいいいい! ほ、報告は以上であります! ひゃああああ!」
我がブチギレ大理石の置物を倒して破壊すると、部下は悲鳴を上げ逃げだしてしまった。
「くっそぉおおおおおおおお!」
ガシャン! バリィィーン!
砕けた置物の破片を蹴り上げた。この抑えようのない怒りをぶつけるように。
「な、何故、黒竜王エキドナ様は我らの味方なのでは……? いや待て! あのエキドナ様だ。一度も味方するとは言っておらぬ。ま、まさか、ただの暇つぶしで面白がって……」
そういう女なのだ。あのごく潰し竜王め。
「ど、どうする!? どうするどうする! どうするのだ! こ、このままでは我は破滅だ。人族を皆殺しにしようとしていたのに、これでは我らが抹殺されてしまう」
もはや一刻の猶予もない。我は緊急幹部会議を開いた。
◆ ◇ ◆
「と、いう訳である!」
魔王城執務室に集めた面々を前に、我は状況の説明をした。
「そ、そんな……栄光の魔王軍が……私の夢が……か、壊滅……だと。ははっ、ははははっ、ひひひっ……」
悪魔大公爵アシュタロスが呆けた顔で虚空を見つめている。ショックでおかしくなったのか。もうダメだ、このオヤジは。
しかも悪魔宰相リュシフュージェに至っては、よからぬ妄想をしているのだが。
「ま、まさか、魔王アルテナ様が人族に辱められたとデマを流したら、逆にこちらのザベルマモン大将軍が辱められるとは……。皆の前で露出プレイで尻打ち……。ぐへっ、ぐへへへ」
これは人選間違えている。誰だ、こんな幹部を揃えたのは。我だった……と、自分で自分を叱りたい。
ガタンッ!
「くっ、ここは魔王城を守らせている第一軍で迎え撃つしか……。もう徹底抗戦だ! 何として勇者を抹殺せねば!」
立ち上がった我に、悪意のない嫌味な顔でリュシフュージェがつぶやいた。
「無理でしょうな。その勇者パーティーには新魔王アルテナ様もおられるのでしょう。アルテナ様が魔王権限を発動されたら、我らの勝ち目は皆無ですな。もう詰んでおるのですよ」
「リュシフュージェ殿! ならばどうするのです!? このままでは、我らは勇者に討伐されるのみ! このまま座して死を待つだけで良いのか! 人族を根絶やしにし世界を魔族の国にする理想を忘れたのか!」
我はリュシフュージェを正面から睨み、強く問いかける。
「それも致し方ないですな。まあ、ここにいる三人の首を差し出して、暗黒騎士団と魔族住民への寛大な沙汰を願い出るしかありますまい。まあ、私は土下座でも何でもして助命嘆願するつもりですがな」
「リュシフュージェ殿、貴方にはプライドが無いのか! これまでも人族からは散々屈辱を受け続けてきたのだ! この期に及んで人族の靴を舐めるような真似を。勇者に頭を下げるくらいなら、最後の一兵になるまで戦い滅びる方がマシである!」
声を張り上げる我に対し、リュシフュージェは椅子に座り背もたれに深く寄り掛かったままだ。
「ベルゼビュート殿……私はね、賄賂は貰うし不正蓄財はするし愛人もつくった。決して褒められた宰相じゃないでしょうな。でもね、魔族滅亡の切っ掛けを作った愚か者と呼ばれるのだけは嫌だ」
「リュシフュージェ殿……」
「新生魔王軍で帝国や王国を落とせたらそれで良し。だが、こうまで完敗したのなら仕方がない。後は、少しでも魔族が生き残る道を探るべきでしょうな。だから私は恥も外聞もなくやらせてもらう。まあ、本音を言うと、私は女の尻を追いかけていたいだけですがね。ぐへへ」
ガタンッ!
我の体から力が抜け、再び椅子に腰かけた。
「終わった……」
そう、我らは負けたのだ。この魔王軍再興の戦いで。まさかザベルマモンを倒す勇者が現れるなど想定外である。
しかしアルテナ様が勇者側につくなどありえない。きっとザベルマモンと同じように、無理やり自分の女にされ勇者の言いなりになっているのだろう。
奇しくも我の流したデマと同じようになってしまった。
勇者は魔族を狩る者。奇跡でも起きて、魔族の女を愛する勇者でも現れない限り、我らが生き残る術はないだろう。
「アルテナ様……まさか家出して勇者の女にされるとは。こんなことになるのなら、あまりキツく言うのではなかったか……。いや、やはり小娘にはビシビシ行かねば! 鉄は熱いうちに打てだ!」
ガルルルルルル――
我が小娘にはパワハラ上等と思ったその時、城の外からドラゴンの鳴き声が聞こえてきた。
――――――――――――――――
パワハラダメ絶対!
まさか、魔族の女を愛し、悪魔女将軍をペンペンして躾ける勇者など……アキ君だった。
どうなるアキ君!?
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