第107話 言いたいことは分かる

 色々あって、今俺はジールの背に乗り運ばれている。お姉さんたちの溺愛イチャコラを受けながら。


「アキちゃん♡ もう無理しちゃダメよぉ♡」


 アリアに膝枕されながら、顔の上に凶悪な二つの膨らみを感じている。最初に『お』が付くあれだ。

 しかも、アリアは俺の顔を覗き込もうとするものだから、その膨らみがぐんぐん近くなっているのだが。


「ああ、近い! おっぱいが近いから!」

「だってぇ♡ アキちゃんの顔が見えないでしょ♡」


 顔が見えないのはアリアの胸が大きいからなのだ。肉感的でムチムチに柔らかな太ももと、上から迫るド迫力の胸に挟まれそうで、もう気が気ではない。


「ふふっ♡ 変なアキちゃん。悪い子のアキちゃんは、もっともっと胸で躾けようかしらぁ♡」

「ひぃいいいっ! 許してアリア魔王様!」

「魔王はアルテナちゃんよぉ」


 俺にとってはアリアの方がずっと魔王だった。


「むぅ……アリアとばっかり……。アキ君っ! ボクが脚をマッサージしてあげるよ」


 ちょっぴり拗ねた顔のレイティアが俺の太ももを揉み始めた。アリアとイチャイチャしているのを見て積極的になったのかもしれない。


「ほら、連戦で疲れてるよね。ボクに体を預けて♡」

「お、おい、そこはヤバいから」

「いいからいいから♡」


 モミモミモミモミ――


 俺の股の間に入って、丁寧に脚をマッサージしている。その体勢からだと恥ずかしい。


「ここの血流を良くすると疲れが取れるんだぞ♡」

「他の血流が良くなっちゃうから!」

「もうっ、アキ君のエッチ♡」

「誰のせいだ!」


 気が付けばシーラも密着している。


「ほら、マッサージならアタシに任せなさい!」


 そう言ってシーラが俺の腕を取り足を絡ませる。関節技みたいだが、本人は大真面目にマッサージしているつもりらしい。


「待て待て! くっつき過ぎだろ!」

「はあ? アタシはアキの疲れを取ろうとしてるのよ」

「だから色々なとこに当たってるって!」

「あっ……」


 シーラも気付いたようだ。


「アキ……あんたまた小さな胸に……」

「くっ、こう何度も押し当てられると、小さいのも良いなって思っちゃうだろ」

「そ、そりゃどうも……じゃなくてぇ!」


 怒った態度に見えるシーラだが、顔は照れて真っ赤だ。しかも、俺が文句を言ったら余計に密着してきた。


 ぎゅぅぅぅぅーっ!


「あああ! 癒してくれるのは嬉しいけど、これはやり過ぎだぁああああ!」


 こんな状況になる少し前――――




 俺たちは魔王アルテナの演説で停戦を実現し、双方兵を引く約束をした。


 今まで魔王の責務から逃げていたアルテナなのだが、初めて魔族に対して魔王限定スキル【魔王権限】を使ったらしい。

 魔王が俺たちの仲間になったことで、とりあえずは一件落着となったはず――なのだが……。



「いくらアルテナちゃんが魔王でも、アキちゃんだけは絶対渡さないからぁ!」


 アルテナの『俺の家に居候する』宣言に噛み付いたのは、これ以上嫁を増やすのに大反対のアリアだ。


「ふあぁ、ごめんなしゃい」

「いい、私はアキちゃんの婚約者なの。だからアルテナちゃんはエッチ禁止ね」

「ふひっ、わわ、私は部屋の隅に居候できれば良いのです」

「エッチ目的じゃないの?」

「は、はひっ」


 魔王なのにアルテナがアリアに圧されている。


「なぁんだ、なら大丈夫よぉ♡」

「お願いしましゅ、ママァ」

「ママじゃありません!」

「すびばせん」


 傍目には、どっちが魔王か分からない。

 アリアお姉さん……全部エッチに結び付けないでくれ。



「しかし、アルテナは強いと思ってたけど、まさか魔王だったなんてな。魔王権限スキルまで持ってるのか」


 ズンッ! ズンッ! ズンッ!


 俺が何気につぶやいた独り言に答えるよう、突然見知らぬ二人の男が出てきた。


「ふんっ、吾輩が説明しよう! 魔王権限とは、歴代魔王様だけに継承される特殊スキルであるぞ。グハハハ!」

「そうであるな。魔王様の命令は絶対! それゆえ魔族は一致団結できるのである」


 熊のようにデカい男と、目が鋭い痩せた男の二人だ。


「解説役まで出てきたぞ。どこのモブだ?」

「吾輩は魔王軍幹部だ! 第三軍司令官バルバトスだぞ!」

「同じく幹部の第四軍司令官ダンタリオンである」

「知らん!」


 ガァアアアアアアアァーン!


 俺が一蹴すると、二人はガックリと肩を落とす。

 そういえばエルダーリッチと仲間割れして腹に大穴を開けられたモブがいた気もする。もう回復したのだろうか。



 モブは放置し魔王城に向かおうとした俺だが、疲れが膝にきたのか足がもつれた。


「ぐはっ、やっぱり疲れが……」

「アキ君!」


 すぐにレイティアが俺を支える。毎回抱きかかえられている気がするのだが。


 いくら何度も覚醒して強くなったとはいえ、さすがに疲れがたまっているようだ。もう限界なのか体に力が入らない。


「アキ君、一旦休もう」

「でも、早く魔王城に行かないと……」

「アキ君……」

「そうだ、ジールに乗って行こう」


 ドラゴンなら険しい地形も関係ない。一気に距離を縮めることも可能だ。

 ジールを探し周囲を見回すと、ちょうどジールが肩を怒らせてコチラに向かっているところだった。


「おい、ジール」

「き、貴様ぁ……」

「何だ?」

「また私を放置してからに……」

「おいジール、そういえばパンツが前後逆だぞ」


 かぁぁぁぁ――


 ジールはこっそりパンツを確認してから赤面する。


「くっ、こんな屈辱……。今直すぞ」

「直さなくて良いよ。どうせ脱ぐから」

「は?」

「今ここで服を脱げ。ドラゴンになって移動するぞ」

「うくぅううっ♡ こんな羞恥プレイ耐えられぬぅ♡」


 ズルッ!

「だが、それが良い! もう色々限界だぁ♡」

「お、おい! 本当に脱ぐなよ!」


 本当にジールが公衆の面前で脱ぎ出した。冗談のはずだったのに。とっさに皆で布を被せて隠す羽目になる。変態さん多過ぎだろ。



 と、こんな訳で、双方軍を撤収させ、俺たちはジールに乗って出発したのだ。

 ジェフリー一行並びに帝国騎士団長とはここで別れ、彼らは国境線の最終防衛ラインまで下がることになる。




 そして現在――――


 俺は三人の嫁にイチャコラされながら、ドラゴンジールに乗って魔王城へと向かっているのだった。

 他にアルテナとシロ&クロのコンビ、そして強引についてきたザベルマモンが乗っている。



 そのザベルマモンだが、クロの顔を見てからずっと驚きっぱなしだ。今もクロにウザ絡みしている。


「それにしましても、黒竜王エキドナ様もご一緒でしたのね。ご機嫌麗しゅうございますですわ」


「こら、わらわの名はクロじゃ! 本名を言うでない!」


 ジュバッ!

 クロがツッコみのデコピンをする。


「痛いですわ! お許しくださいエキドナ様ぁ」

「また言うたな! シュバッ! シュバッ!」

「痛い、痛いですわぁああ! エキドナ様ぁあ!」


 懲りないザベルマモンがデコピンをくらい続けている。むしろクロの攻撃に耐えている彼女の耐久力に感服しそうだ。


「ねえ、アキ……」


 シーラが耳打ちしてきた。


「何だ? まあ、言いたいことは分かるけど」

「あんた最初から分かってたでしょ、シロとクロが竜王だって」

「ま、まあな。加護を……って、何でもない」

「なによ、怪しいわね」


 竜王や魔王の加護まで付けてしまい、この先が思いやられる。彼女たちの機嫌を損ねたら、その加護は呪いとなって返ってくるのだから。


「いいこと、アキ! あんたの料理で竜王を垂らし込むのよ。世界を滅ぼす力を持った竜王を敵に回したらお終いなんだからね」


 シーラの言う通りだ。幸いにも黒竜王も白竜王も俺の料理を気に入っている。このまま大人しくしていてもらうしかない。


 そんな、わちゃわちゃと緊張感のないパーティーは、一路魔王城へと向かっているのだった。

 俺がアリアの大きな胸に埋もれそうになりながら。


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