第106話 魔王誕生、そして隠居
今から魔王軍との大事な局面だというのに、肝心な勇者(仮)の俺はこんな状況である。
「アキ君っ! もうホントにキミは、ちょっと目を離すと他の女に求婚されちゃうんだから!」
「こらぁ、アキっ! あんたが他の女に狙われないよう、もうずっとアタシが一緒にいるしかないじゃない!」
「アキちゃぁん♡ Sもイケたんだぁ♡ うふふふぅ♡ そうなんだぁ♡」
もう一生離さないとばかりにレイティアが俺を抱きしめ、シーラは背中におんぶ状態だ。そしてアリア女王様が新たな境地を開発しそうな顔をしていて怖い。
「今から重要な話があるから。そういうのは後にしてくれえええ」
俺はアルテナとザベルマモンを待たせていた。
どうやらアルテナの要請を受けたザベルマモンが、俺との一騎打ちの敗北を受け入れたという
俺は人族代表の勇者として参加しなくては。
「うん、そうだよね。最初の調査クエストから大幅に変わっちゃったけど、ボクたちに世界の平和がかかってるんだよね」
何度もレイティアが頷く。分かってくれたようだ。
「じゃあ、アキ君っ♡ お、お願いがあるんだけど」
「う、うん、俺にできることなら」
「帰ったら……そ、その、抱っこで『あーん』しながら食べさせっことか……はうぅ♡」
レイティアが、超甘々なプレイを言い出したぞ。
「ぷっ!」
「こらっ、笑うなー! あとお姉ちゃんだぞ」
「はいはい、お姉ちゃん。分かりましたよ。その、あーんで食べさせ合い」
「抱っこで『あーん』だからね♡」
「う、うん」
恥ずかしくてお互い顔が真っ赤になってしまう。どんなお仕置きが待っているのかと身構えていたが、意外と可愛いのだった。
「あっ、そういうお仕置きもOKなんだ」
それを聞いたシーラの耳がぴょこぴょこしている。
「じゃ、アタシはアキの腕枕で、お腹ポンポンしながら添い寝で♡」
「わ、分かった。お腹ポンポンな」
「腕枕は必須よ♡」
「うん」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――
二人のお仕置きという甘えん坊プレイが決まったところで、アリアのサキュバスオーラが全開になっている。
禁断症状かな。
「じゃあ私はぁ♡ 一晩中抱きしめられながらぁ♡」
「は、はい」
「ずっとキスしたままでぇ♡」
「ううっ、わ、分かりました」
「朝まで子づくりぃ♡」
「はい――って、ちょっと待ったぁああ!」
アリアお姉さんは完全にアウトだった。
「なによぉ♡ そろそろエッチしてもいいでしょ♡ アキちゃんのケチぃ♡」
長くなりそうなのでアリアお姉さんの要望は後にした。まあ、後回しにすればするほど怖くなりそうだが。
「待たせたな。アルテナ」
やっと解放されアルテナたちのところに向かったのだが――
「あ、あの、アキしゃん……」
「あああぁん♡ 見せつけるだなんて酷いですわぁ」
二人の表情で何となく察し後ろを向くと、レイティアたち三人がピッタリと俺の背後に張り付いていた。
「これは気にしないでくれ。いつものことだから」
もうベッドの中だけでなく、日中まで密着されている気がする。気にしたらダメだ。
ザワザワザワザワザワ―――
俺たちが魔王軍暗黒騎士部隊の前に立つと、魔族たちが一斉にどよめいた。
「あ、あお、あれって?」
「ああ、間違いない」
「アルテナ様だよな……」
ちらほらアルテナの名前が出ている。
(もしかしてアルテナって有名人なのか? その道では名の知れたミリオタとか?)
そんな風に考えていると、ザベルマモンが高らかに演説を始めた。
「皆の者、お聞きなさい! ここにおわすお方は――」
(おいおい、ジェフリーみたいな名乗りだな)
「新たに魔王になられたアルテナ様である!」
「ん゛ん゛っ!!」
(えっ、魔王? えええっ! はぁああああああ!? アルテナが魔王? まてまてまて! マオさんという名前とかじゃないよな。で、でも、アルテナが魔王だと『魔王の加護』の理屈が通るような?)
隣のアルテナに耳打ちしてみた。
「あの、アルテナって魔王だったのか?」
「は、はは、はひぃ、まお、魔王でしゅ」
「えええっと……」
「い、今まで隠していて……ごめんなしゃい」
「まあ、良いけど」
想像していた魔王と全然違った。
魔王と言ったら竜王クラスに恐ろしい存在のイメージだ。見た目が俺より地味でコミュ障な魔王だなんて予想外だろう。
「あ、あの、アキしゃん……」
「うん?」
「わ、わた、私を倒しちゃったり……しますか?」
「えっ、アルテナを倒す訳ないだろ。もうアルテナは仲間だよな」
「ふわぁああぁっ♡」
アルテナの目が輝いている。
「でもアルテナが魔王で良かったよ。ほら、和平もスムーズに行くだろ」
「は、はいっ! で、でで、でも、まだ魔王城には主戦派幹部が……」
「大丈夫だ。俺たちなら負けない。全部終わらせて、また一緒にご飯を食べよう」
「はいぃいっ」
俺とアルテナが顔を前に向けると、いつの間にかザベルマモンが関係ない話をしていた。
「ですから、わたくしは一生の伴侶として、この勇者アキを夫にすると決めましたわ。やはり和平への近道は魔族と人族の婚姻ですわね♡ このわたくしザベルマモン、人質として勇者の女になるのもやぶさかではありませんことよ♡ おーっほっほっほっほ!」
「おい、誰が俺の女だ。お断りだぞ」
ガァアアアアアアアァーン!
「またフラれましたわぁぁー!」
再びサベルマモンが崩れ落ちた。
途轍もなく強い敵だったが、こうして見ると何だか悪いやつじゃないみたいで不思議だ。
「とりあえず話を進めよう」
俺はアルテナの肩を抱き前に出る。
「話はザベルマモン大将軍から聞いた通りだ。一騎打ちで両部族の雌雄は決した。最強の魔族が破れ、魔獣部隊やゴーレムも破壊された。これ以上の戦いは無益だ。兵を引いてくれ。これは魔王アルテナも同意している」
俺の話を聞いた暗黒期師団の面々が顔を見合わせる。いきなり人族の勇者に言われても困るのだろう。
「ほら、アルテナ。後は頼む」
横にいるアルテナの肩をポンっと叩いた。魔族を説得するようにと。
しかし肝心のアルテナの様子がおかしいのだが。
「わわ、私はデキる子。やればデキる子でしゅ。私はマオゥ、私は魔王、ままま、魔王……やってやるです……」
「おい、大丈夫か?」
ビシッ!
自分で自分に気合を入れたアルテナは、胸を張り息を吸い込んだ。
「すーはーっ、わ、私……じゃない、余は新たに魔王として即位したアルテナである! 魔王権限にてこの場の全魔族に命じる! 速やかに争いを止め帰還するでしゅ! 最強の魔族ザベルマモンは勇者の軍門に下った。これ以上は命を粗末にするだけでしゅ!」
ザッ! ザザザザザザザザッ!
魔族が一斉に平服した。アルテナの声に強制力でも有るのだろうか。
(魔王権限……俺の嫁スキル【魔王の加護】にも似たようなのが有ったな。もしかして、魔族に対して絶対遵守の力なのか?)
サッ!
「えっ、わ、私まで」
その証拠に、後ろにいたアリアまで優雅な仕草で膝をついた。
「あれっ? もしかして、俺のスキル【限定魔法・魔王権限借用】で、アリアを思うがままにできるとか?」
キラキラァン!
「うふふふっ♡」
「あっ、ヤベっ!」
今のをアリアに聞かれた気がする。俺を見るアリアの目が、『何でもエッチな命令OKよ♡』と言っているようだ。
この北方領域クエストで、色々と女性関係が問題山積になった気がする。スルーが得策だと思ってきた俺だが、実は女性の話をスルーするのは悪手だったのだろうか。
しかし、この時の俺は、更に事態を混乱させる問題が起きるとは思ってもいなかった。
今、アルテナが続けている演説によって。
「――――そして、この魔王である余自ら、勇者の家に居候すると決めた。余が全魔族の代表として、この身を犠牲とし自宅警備……じゃない、勇者を監視します! 勇者や人族は、余が全魔力を使い全身全霊で抑え込むから安心してくだしゃい!」
「は? アルテナ?」
俺の家に居候とか聞いてないのだが。
「おおお、お労しや……」
「魔王様が我らの身代わりに……」
「その身を捧げて勇者をお止めになるとは」
「きっとエッチな調教とかされちゃうんだぜ」
「おい、不敬だぞ!」
「でもエッチだよな。絶対」
「それな」
魔族たちがざわめき立つ。魔王自ら人族の街に住むという自己犠牲に嘆く者、俺とアルテナの関係を勘ぐる者と様々だ。
「どうしてこうなったぁああああああああ!」
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