第103話 肉食系マッスル女子

 俺の前に立ちふさがる女魔族。ちょっとケバくて露出度高めの女戦士だ。名をザベルマモンという。


 ビキニアーマーからは零れそうな乳、デカいケツはTバックで強調されている。

 それに輪をかけて目を引くのは、彼女の全身が筋肉でムッキムキなことだ。女性らしからぬ腹筋や鍛え抜かれたパツパツの太ももは、一般受けは悪そうだがマニアには垂涎ものだろう。


「さあさあさあ! やっと婚活の時間ですわよ! 魔獣軍団や死霊軍団を壊滅させ、ギガントパンデモニウムを破壊した実力、存分に見せてもらいますわよぉおお!」


 こっちは疲労で倒れそうなのに、ザベルマモンとかいう女はノリノリだ。婚活と聞こえた気がしたが、たぶん俺の聞き違いだろう。


「約束だ、俺が勝ったら何でも言うこと聞いてもらうからな!」

「良いですわよ! うくぅ、見た目は大人しそうなのに、意外と強引ですことね」


 俺とザベルマモンが対峙している中、レイティアはレヴィアタンとの戦闘が始まっていた。


 キンッ! ガンッ! ズババッ!


「くっ、強いぞ!」

「レヴィアタンは剣技最強なんだモン」


 ゆるキャラっぽい見た目の魔族なのに、あのレイティアと互角に戦っている。魔王軍剣技最強は伊達じゃないらしい。

 だが、レイティアも負けてない。目にも留まらない敵の斬撃を、華麗に受け流し反撃している。


 ドゴォオオオオオオ!


 反対側ではアリアとシーラがグレモリーと魔法を撃ちあっていた。

 しかも変な自動人形オートマタまで居るのだが。


「あははっ、このオートマタは、悪魔人形師であるこの私、グレモリーの最高傑作プリシラちゃんです!」


 腕が四本ある自動人形オートマタの攻撃を、シーラがレイピアで受け流し、隙をついてアリアが魔法で攻撃している。


「アリア、シーラ、大丈夫か!?」

「こっちは任せなさい! さっきの戦闘でアタシのレベルも99まで上がってんのよ!」


 シーラは問題無いようだ。元から災害級に強いのだが、今は風格さえ感じさせる。見た目は小っちゃいが。


「アキちゃん、また他の女に言うこと聞かせようとして! 後でじっくりお仕置きよ♡」


 アリアもいつも通りで問題なさそうだ。

 俺はザベルマモンの方を向く。


「待たせたな」

「いいですわよ。お仲間が心配ですのね。でも心配いらないですわよ」

「どういう意味だ!」


 俺の質問には答えずに、ザベルマモンがファイティングポーズでステップを踏む。


「行きますわよ!」

「ああ」


 間合いを取る俺たちの間に、帝国騎士団長ハインツが入ろうとするが、ザベルマモンの凄まじい闘気で足を止めた。


「勇者殿、助太刀を……」

「下がっていてくれ。この女はヤバい」


 ハインツを下がらせた。

 本当にこのザベルマモンが魔族最強なら、多数で攻撃しても無駄に死者を増やすだけだろう。


(それに……この女魔族、何となく嘘をつけない性格の気がする。さっき超大型ゴーレムから流れてた声と同一人物だよな。単純だけど裏表のない性格。約束通り一対一で戦って勝てば、言うこと聞く気がする……)



 サァァァァ――


 風が吹き、目の前に木の葉が舞った瞬間だった。


「破ぁああああああ!」

 シュパッ――――――ズドドドドドドォーン!

「ぐはっぁ!」


 ほんの一瞬で間合いを詰められ腹に重い一撃をもらった。まるで瞬間移動したようなスピードだ。音が打撃の後から聞こえてきた。


(な、何だ今のは! 思考加速アクセラレーター……じゃない! 単純に踏み込みスピードが速いだけだ)


「おーっほっほっほっほっほ! さすが勇者ですわね! わたくしの一撃を耐えたのは立派ですわ。大抵の男は二割程度の一撃で戦闘不能か戦意喪失して土下座するのですが」


 シュッ! シュッ!


 ザベルマモンはシャドーでパンチを繰り出しながら笑い白い歯を見せる。


「くっ、一撃で内臓をやられたのだが……。肉体再生治癒エクストラヒール!」


 瞬時に傷口を治して再び向き合う。


「まだまだやりますわよね!?」

「当然だ!」

「おーっほっほっほ! 楽しくなってきましたわ!」


 シュパッ――――パンッ! パンッ! パパンッ!


「ぐはあぁっ!」


 パンッ! パパパンッ! スパァーン!


 凄まじい連打が俺を襲う。辛うじてガードしているが、彼女の攻撃はガードの上からでも削ってくる。

 その一撃一撃が骨を砕き肉を削ぐのだ。


(ダメだ! 全く攻撃が見えない! これじゃたとえ思考加速していても目で追えるかどうかだ! 剣も魔法も使ってないのにこの強さかよ。とんでもないバケモンだぞ)


 ズガガガァァーン!


肉体再生治癒エクストラヒール!」


 強烈なボディアッパーで吹き飛ばされた瞬間に、ボロボロになった腕を再生させる。


(これは剣技スキルの無い俺が剣で倒すのは不可能だ。嵐のようなパンチに対応するには――)


 スタッ!


祝福の剣ブレッシングソード特性変化! 拳闘手甲ナックルダスター!」


 剣の形状を拳闘手甲に変化させ両手にはめる。

 それを見たザベルマモンの目が輝く。


「あら、わたくしに合わせてくれますのね」

「そういう意味じゃない。俺もこっちが性に合ってるんだ」

「結婚に性格の一致は大切ですわよね」

「何の話だ」


 話しが噛み合っていない。女心に鈍感な俺が悪いのだろうか。


「女の顔を殴る趣味は無いが、あんたを一流の戦士だと認め殴らせてもらうぞ!」

「あらぁ、できるものならやってみなさいな。わたくしに当てられるかしら」

「やってやるさ!」


 シュパッ――――

 ガシッ!


(きたっ! パンチの軌道は全く読めないが、何となくボディ狙いなのは分るぜ!)


 強烈なボディブロウが俺の腹に入ったところを、ガッチリと腕を掴んで捕まえた。


「ぐはっ、くっ、ボディなのは予測してたんだよ。あんたは一度も顔を殴らなかったしな」

「婚活相手の男性の顔を殴るわけないじゃありませんか」

「お、俺は殴らせてもらうぞ」


 また婚活と聞こえた気がしたが、やっぱり聞き違いだろう。


「くらえっ! どりゃああああ!」


 ズドォオオオオォン!


 ザベルマモンの顔面に、渾身の一撃を叩き込んだ。


「や、やったか……?」

「ぐふっ、ふんっ!」


 顔にめり込んだかに見えた俺のパンチだったが、彼女の鼻から一筋の血が流れただけで、全く効いていないように見える。


「わたくしの体に傷を付けられたのは百年ぶりですわね」

「ま、まさか……ノーダメージだと!?」


 鼻血が流れたはずの傷も瞬時に治癒していた。これも再生能力なのか。ある意味エルダーリッチより無敵かもしれない。


「くっそぉおおおお! やはり『やったか』はフラグだったか! どりゃぁああああ!」


 ズドンッ! ドンッ! ドンッ! ズドドンッ!


 ありったけの力を振り絞り、左右の連打を叩き込む。しかし彼女のボディは、びくともしない。

 まるで荒縄を巻き付けた巨木でも殴っているようだ。鋼のような筋肉に全て跳ね返されてしまう。


「き、効いてない……だと」

「なかなか良いパンチですわね。では、こちらも行きますわよぉおお!」


 ズドォオオオオォォォォン!

「ぐっはぁああああああっ!」


 強烈な右ストレートが俺の胸に命中する。打撃の衝撃波が背中から虚空まで突き抜け、胸骨とアバラを粉砕し内臓をグチャグチャに破壊した。


「ガハァッ! つ、強過ぎる……」


 いくら特級魔法のデメリットでステータス低下しているとはいえ、三人の嫁から加護を受け三段階覚醒しているのだ。しかも何故か魔王の加護まである。

 レベルは66を超えた。エルダーリッチを倒した経験値が格別なのだろう。


 それなのに――――


「ぐああぁ! も、もう回復魔法が……」


 目が霞み体に力が入らない。さすがに連戦で限界なのか。


「あらあら、もうお終いですの? もっと殴り合っていたかったですわ」


 サベルマモンが何か言っているが、良く聞こえない。意識が朦朧もうろうとする頭の中で、嫁たちの俺を心配する声だけが響いている。


『アキくぅぅぅぅーん!』

『アキちゃぁぁーん!』

『アキぃぃぃぃーっ!』


(皆、ごめん……ここまでなのか……。ずっと一緒だって言ったのに……。まさか、こんな強い魔族がいたなんて……)


 周囲の音が消え、いよいよ最後の時を迎えようかとしたその時、俺を見下ろすザベルマモンの声が聞えてきた。聞き捨てならない話が。


「仕方がないですわね。貴方のお仲間の女性は、わたくしが責任を持って婚活させてあげますわ」


(は?)


「強くて逞しい男と結婚させますから心配いりませんわよ。子宝にも恵まれ家内安全で夫婦円満ですわね」


(は? はああああ!? 誰が誰と結婚させるだって? レイティアやアリアやシーラを他の男とだと!? そんなの絶対に許せないだろ! 絶対にだ!)


 今にも消えようとしていた命の炎が、再び激しく燃え上がるのを感じた。


 ズキュゥゥゥゥゥゥーン!


「うっおぉおおおおおおおお! 俺の大好きな仲間寝取られるNTRのは死んでも許さぁああああぁん!」


 その時、俺の中に白と黒の炎が灯る。スキルが暴走した。


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