第102話 初めての共同作業

「いいか、俺とレイティアで青竜騎士の剣ナイトオブゲリュオンを握ってだな」

「ふえぇええっ♡ ダメだよぉ、それは結婚式まで取っておかないとぉ」


 どうも二人の話しが噛み合ってない気がする。しかし、今は緊急事態だ。このまま強引に行くしかない。


(前に俺がレイティアの剣を借りた時、確か青竜騎士の剣ナイトオブゲリュオンがスキルの使用を許可してくれたんだ。俺の予感が正しければ、きっと――)


 東海青竜王の鱗から作られた超レア武器、この青竜騎士の剣ナイトオブゲリュオンには意志がある。

 剣が主を認めれば、その力を何倍にも引き出してくれるはずだ。つまり、俺とレイティアの二人が同時に剣を振るうことで、その相乗効果で凄まじい威力を発揮するはず。


「レイティア、俺を信じてくれ」


 俺がレイティアの瞳を見つめると、彼女は恥ずかしそうな顔で頷いてくれた。


「う、うん、アキ君を信じるよ。ボクはアキ君と幸せになるんだ」

「よし、合体(合体技という意味で)しよう!」

「ががが、合体ぃいいっ!」

「今ここでやるぞ!」

「はうぅううっ♡ アキ君、強引すぎるぅ♡」


 俺はレイティアの背後に回り抱きしめた。二人で一緒に剣を握り力を籠める。


『使用者のステータスに青竜姫と竜族の加護Ⅲを確認、青竜騎士の剣ナイトオブゲリュオンの全能力を解放、更に特殊竜王スキル竜王撃爆裂ドラゴンロードバーストの使用を許可する』


 青竜騎士の剣ナイトオブゲリュオンから俺の中に何かが流れ込む感覚が有る。


「特殊スキルだとっ! これは予想以上だぞ!」

「えええっ! また剣が喋った!」


 レイティアと見つめ合う。もう心と心で通じ合っているみたいだ。


「レイティア、お義父さんには悪いけど、俺たちで合体技をやるぞ」

「アキ君♡ お父さんに隠れて合体しちゃうんだね♡」

「ああ、俺たちのスキルを合わせて超巨大ゴーレムを撃破だ!」

「うんっ、ボクたちの体を合わせて超エロいハーレムで出来婚するんだね!」


 やっぱり同じ気持ちだ。


 ズゥゥゥゥゥゥーン!


 剣を高く掲げる。二人一緒に、どんよりした暗雲を切り裂くように。


「いくぞ、レイティア!」

「うん、アキ君っ!」

「「竜王撃爆裂ドラゴンロードバーストぉおおおおおお!」」


 ピカァァァァーッ!

 ズドドドドドドドドドドドドドドォォォォーン! ドパパパパァーン! ズガガガガァーン!


 青白い光と共に、天地を切り裂きそうな凄まじい衝撃波が迸った。それはゴーレムのボディを切断し、勢い余って後ろにあった山をも破壊する。

 ついでに空を両断し雲が割れた。


 ガラガラガラガラ――ドドドォーン!


「やった、超巨大ゴーレムを撃破したぞ!」

「やったよ! 凄いよアキ君っ!」


 予想以上のド迫力に、皆も驚きの声を上げる。


「な、何だ今の斬撃は! 山と雲が二つに割れたぞ!」

「これが勇者の剣技か……」

「勇者アキ・ランデル……まさに伝説の再来」

「ふっ、勇者アキ、やっぱりキミは凄いね。フォォーッ!」


 一人だけ嫉妬のオーラを出している者もいるのだが。


「アキちゃぁん♡ さっき親に内緒で合体するって言ってなかった? 言ったよね? セッ……するの? 子づくりするの? 子沢山なの? ねえ? ねえ?」


 もちろんそれはアリアだ。最近めっきりと魔王のような風格を出している。


「あの、アリアお姉さん、誤解です」

「アキちゃん♡ もうその手には乗らないんだよ」

「だから初めての共同作業……」

「私の初めても貰ってくれるよね♡ よね♡」

「あ、あの……」

「もう拒否できないんだよ♡ 帰ったら私が満足するまで抱いてくれるんだよね? よね?」


 戦闘中だというのにアリアの暴走が止まらない。どうしたものか。

 ただ、敵の魔王軍も戦意を喪失しているようだ。虎の子のエルダーリッチと超大型ゴーレムが倒されたのだから。


「ああああ! お終いだぁあ!」

「圧倒的戦力差が覆されただと!」

「もうダメだ……」

「勇者の強さが桁違いだ……」


 最後尾に温存しておいた魔王軍暗黒騎士団の面々が、次々と膝をつき天を仰いでいる。



(よし、俺の作戦通りだ。前衛の魔獣部隊を壊滅させ一気に講和に持ってゆく。後は魔王と話を付ければ。余計な血を流さずに済めば良いのだが……)


 そんな俺の予想は、高らかな女の笑い声でかき消された。


「おーっほっほっほっほっほ! この魔導要塞ギガントパンデモニウムを剣で破壊するなんて、勇者の力は本物のようですわね! それでこそ、わたくしの夫に相応しい男ですわ!」


 露出狂――ビキニアーマーを着たケバい女――女性魔族が、壊れたゴーレムの中から降りてきた。

 はち切れそうなパツパツの肉体を小さなビキニに収めている。いや、収まりきってない。胸はギリ隠しているものの、デカいケツは見えまくりだ。


「何だあのケツは! じゃなくて、何だあの女は! 敵の大将なのか!? はっ、まさか魔王」


 シリアス展開になろうとしているのに、俺の嫁がそれを許さない。


「はーい、アキちゃんは見ちゃダメでちゅよぉ♡」

「アキ君! 他の女の裸を見るんじゃない!」

「こらぁ、アキぃ! あれは痴女よ! 見ちゃダメなんだからね!」


 彼女たちが一斉に俺の目を塞ぎ何も見えない。おい、今は戦闘中だぞ。


「そういうのは後にしてくれぇええっ!」


 俺たちがゴタゴタしている内に、その魔族女性が勝手に話を進めてしまう。さてはコイツ、人の話を聞かないタイプだな。


「わたくしは勇者に一騎打ちを申し込みますわ! やっと見つけた強い男なのですから。もちろん拒否は認めませんことよ!」


 俺は皆の手を振り払い前に出る。


「ちょっと待ってくれ、今このお姉さんたちを落ち着かせるから」

「あら、意外と若い男ですのね。ぺろっ、若い男は好みですわ」


 ゾクゾクっ!

 背中に悪寒が走った。


「と、ところで質問なのだが、何で俺たちがそちらの条件を飲まなきゃならないんだ。戦いはこちらの勝ちだ。大人しく降参してくれ」


 魔獣部隊もゴーレムも壊滅した。数で言えば魔王軍残党より帝国王国連合軍15万の方が圧倒的に有利なはず。


「あらあらあら、分かっていませんわね。拒否は認めないといいましたわ。私が貴方たちを皆殺しにして、一人で南進して人族の軍隊を全滅させてもよろしいのですわよ」


(な……んだと、この魔族はそんなに強いのか!?)


「お前は魔王なのか?」

「おーっほっほっほ! 魔王様じゃありませんわ」

「じゃあ何者だ!」

「わたくしは悪魔大将軍ザベルマモン! 魔族最強の女子ですことよ!」

「女子……?」


 女子というワードに何か引っかかるが、どうやらこの女魔族が最強らしい。


「ちょおぉおおっと待ったぁ!」


 ジールが『先ず私と戦ってからにしてもらおう』という感じに入ってきた。おいやめろ、それはフラグだぞ。


「何ですの貴女は、わたくしの邪魔をしないでくださるかしら」

 パシッ!

「アヒッ!」


 やっぱりジールがサベルマモンのデコピンで伸びてしまった。地面に顔から突っ込んで気絶してしまう。

 しかも、例の可愛いパンツは前後逆さに穿いているではないか。もう気になって仕方がない。


「くっ、パンツが……もう、俺がやるしかないのか」


(まだ特級魔法デメリットでのステータス低下が解消されていない。しかも魔王属性スキルの疲労で今にも倒れそうだ……。こんな状態で勝てるのか? でも……)


 まだ倒れる訳にはいかない。大切な皆を守らないと。倒れるのなら、帰ってベッドの上でなくてはならないのだ。

 たとえエッチな添い寝やマッサージで、お姉さんたちからお仕置きされようとも。


「いいだろう、あんたを倒せば魔王軍は降伏するんだな」

「いいですわよ。倒せたらですけどね」

「じゃあ俺が勝ったら、何でも言うことを聞いてもらうぞ」

「なな、何でも……ですって」


 当然、何でもというのは魔王軍が兵を引き人族と和平を結ぶという意味だ。


「わたくしに何でもさせるだなんて、この坊や思い上がってますわね。逆にわたくしが肉体言語で躾けてさしあげますわよ」


 ザベルマモンが剣を捨て、拳を握り華麗なステップを踏む。肩や脚の筋肉美と相まって凄い迫力だ。


「拳闘スタイルか、それともハンデのつもりか?」

「わたくしは殴り合いが好きなのですわ」

「なら遠慮なく行かせてもらう」


 俺が構えると、隣にレイティアが並んだ。


「ボクも一緒に戦うよ」

 ザシュッ!

「そうはさせないモン。ザベルマモン様の邪魔はさせないモン!」


 そこに一人の魔族が現れ、レイティアと俺を引き離した。

 喋り方は変だが、司令官のような豪華な騎士装備をまとっている。


「第二軍司令官レヴィアタンだモン! 剣の腕なら誰にも負けないモン!」


 レヴィアタンという女魔族が剣を抜く。相変わらず喋り方は緩いが、剣を構えた姿は様になっている。


「はあ、魔王軍がこんなに苦戦するだなんて。私まで戦う羽目になっちゃいましたね。仕方ありません。あっ、私は第五軍司令官グレモリーです」


 もう一人の幹部も出てきたようだ。こちらも見た目はゆるふわ少女に見える。

 アリアたちを牽制するように前を塞いだ。



 魔王軍最強の女戦士と一騎打ちすることになってしまった。ただ、この女の目が妖しいのだが。若い獲物を狙う女豹の目をしている。

 俺は、ボロボロ体に喝を入れ、ムキムキ痴女戦士と対峙するのだった。


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