第101話 とっておきの秘策
天空を見上げるほど大きなゴーレムが、一歩、また一歩と大地を踏みしめながら進んでいる。それはまるで、神話の時代から語り継がれる終末の破壊神のように。
ズシィィィィーン! ズシィィィィーン!
皆で攻撃を集中させているが、その巨体は全く止まる気配すらない。
「うおおっ! 硬い! 何だこのゴーレムは!」
「アーサー卿、攻撃を一か所に集めましょうぞ!」
「分かっておるわ、ハインツ!」
「でやぁああああ! このゲオルク・シュターデン、一歩も引かぬ!」
帝国騎士団長の三人がゴーレムの足に攻撃を集中させている。
それに合わせるように、ジェフリーたちも一斉攻撃だ。
「ぐおおっ! 民の安寧の為、ウィンラスター公爵家の名誉の為、ここで食い止めねばならぬ!」
「ジェフリー様、危険です!」
「危険は承知の上だよ! 上級貴族たるもの、有事において民の盾となるのは必定! フォォーッ!」
ズガガガガガガァァーン!
反対側の足ではレイティアたちが奮闘していた。
「くらえ、
「
ズバァアアアアーン!
ゴバァアアアアアア!
レイティアの剣技とアリアの魔法が命中した。ついでにジールは腕力で止めようとして吹っ飛ばされている。
こんな時でも笑いを提供してくれるところがジールの長所だ。
ズシィィィィーン! ズシィィィィーン!
しかし、その怒涛の連携攻撃でも超巨大ゴーレムはびくともしない。恐るべき耐久力だ。
「ダメだ、質量がデカすぎるんだ。火力が足りていないぞ!」
シーラの肩を借りながら皆のところに向かっているのだが、何処からともなくクロが現れた。
「どうした、苦戦しておるようじゃな、アキよ」
相変わらずクロはお気楽な感じだ。
「わらわの夫となる男ならば気張ってみせるのじゃ」
「おい、誰があんたの夫だよ。俺には心に決めた人がいるんだ」
「三人もいるのであろう」
「ギクッ!」
クロの顔が、『嫁が三人なら四人でも五人でも同じであろう』と言っているようだ。
ぺしぺしぺし!
「アキよ。あの不死王を倒したのは、なかなか面白かったぞ。我も応援しておるのだ。あのデカいのも倒して見せろ」
シロまで出てきた。俺の背中をペシペシ叩いているのだが。意外とフレンドリーかよ。
(この二人は何処に居たんだ? 完全に気配を消してたけど……。でも、もし本当にこの二人が神にも等しい至高の存在だというのなら……。いや、ダメだ! 本当にそうなら、どちらかに加担して直接手を貸すことは決してないだろう)
「シロさん、クロさん、あんたらはそこで見守っていてくれ。俺、この戦いが終わったら美味しい料理を御馳走するよ」
「それ死亡フラグだし!」
シーラがナイスタイミングでツッコミをくれる。
俺たちのやり取りを見ていたシロは、透き通るように美しい顔をほころばせて笑った。
「ふふっ、ふふふっ、そう来たか。やはり我が見込んだ男は面白い」
シロの隣に並んだクロも一緒に笑い出した。
「ふほほっ、聖域を離れて良かったであろう。シロよ」
「うむ、面白い男だ。美味なる料理。不死王を殴って倒すデタラメさ。実に楽しいぞ」
「そういう訳じゃ、アキよ。そなたには、わらわたち二人の加護があるのを忘れるなよ」
(加護か……まるで嫁属性みたいだな。まあ、そんなはずはないけど。まさかな…………)
ビィィィィィィー!!
ズガガガガァーン! ドッガァァーン!
「うわぁあああっ!」
「おおおおっ!」
突然、超巨大ゴーレムから光線が発射され、戦っている皆が衝撃波で吹っ飛ばされた。
直撃はまぬがれたものの、光線が走った場所は森も山も熱線のようなもので尽く破壊されている。命中したらただでは済まないだろう。
「皆、一旦退いてくれ! ポーションを配るから!」
「「「おおーっ!」」」
俺が皆を集めていると、何やらゴーレム頭頂部付近からは魔法の音声が流れてきた。
『おーっほっほっほっほ! キテますわね! この魔導要塞ギガントパンデモニウムには、魔導兵器人族皆殺し主砲を計6門も搭載していましてよ! さっきまで機材トラブルで撃てませんでしたが』
ボンっ! プスプスプス――
『あらっ? また機材トラブルですって! もうっ、あれほど手入れは欠かさぬようにと言ったではありませんか! しょうがないですわね』
続いてトラブっている音声まで聞こえてきた。しばらく主砲は撃てないようだ。敵に内情をバラすとか、魔王軍は何ていい加減な組織だろう。
まあ、その隙に回復させてもらうとするか。
「レイティア、ポーションを!」
「うん、ありがと、アキ君っ」
皆にポーションを手渡してゆく。
「これバナナミルク味なのね、アキのエッチ」
「アキちゃんのミルクいただきまぁす♡」
一部変な発言があるようだが、そこは聞かなかったことにしよう。
「おい、何だこのポーションは! 一気に体力が回復したぞ」
「こんな上級ポーションは初めてであるな。さぞかし高価な品なのだろう」
「これ程の高価なポーションを惜しげもなく配るとか、新たな勇者は気前が良い」
帝国騎士団長の面々に至っては感嘆の声を上げている。それは俺が作っておいたバナナシェイク風ポーションなのだが。
「アキ君、どうしよう? あのゴーレムが頑丈過ぎて倒せないんだ」
レイティアが熱い瞳で俺を見る。
「大丈夫だ、俺に作戦がある」
「アキ君っ♡ 凄いっ♡」
ドキッ♡ ドキッ♡ ドキッ♡ ドキッ♡
(ああぁ! どうしたんだ俺の胸は! レイティアに見つめられると鼓動が速くなってしまう! もう思い切り抱きしめたい! そんな場合じゃないのに……)
「こほん……」
気を取り直して説明を続ける。
「このゴーレムはデカ過ぎて上部まで物理攻撃が届かない。それに質量が大き過ぎて魔法でもダメージが入り難いんだ。たぶん魔法抵抗も相当強いのだろう」
「うんうん♡」
恋する乙女みたいな顔で俺を見つめるレイティアが可愛すぎる。
「アキちゃん♡ アキちゃん♡ はぁ♡ はぁ♡」
一方、アリアは息が荒い。それは疲れているだけなのか、それとも別の何かなのか。
まあ、そこはスルーして説明を続ける。
「先ず、シーラとアリア、それにステイシーとカーラが同時に魔法で――」
顔が近いレイティアやアリアに戸惑いながらも作戦の概要を説明する。
「――――という訳だ」
「「「おうっ!」」」
全員がフォーメーションを取り配置につく。最初は俺を舐めていた帝国騎士団長も、今は勇者として認めたのか従ってくれるようだ。
「作戦第一段階、攻撃始め!」
攻撃の
『おーっほっほっほっほ! メンテ完了ですわよ! この魔導要塞ギガントパンデモニウムは無敵ですわ! 超魔法防御術式がかけられているうえに、ボディ部分の装甲は大魔法や対城兵器にも耐えますのよ!』
いちいち説明してくれる敵に感謝だ。
ズシィィィィーン! ズシィィィィーン!
「今だ、魔法一斉攻撃! 目標、ゴーレムの足元!」
スダァアアアアーン!
ズババババッバリバリバリバリッ!
ゴバァアアアアアアッ!
ピカァァァァーッ!
一点集中でゴーレムの上げた足が踏むであろう地面を攻撃する。
どんなに強靭な防御力を誇るゴーレムでも、地面が崩れては立っていられまい。
ズガガガッ! ドゴォォォォォォーン!
『あれぇええええぇえっ! ギガントパンデモニウムが傾いてますわぁああぁ!』
ズドドドドドドドドドッ、ドッガァアアアアーン!
大魔法一点集中攻撃により足元の地面が崩れ、ゴーレムが盛大にズッコケた。まるで空が落ちてくるような迫力で倒れ込み、地響きを立てながら横になる。
「今だ! 作戦第二段階! 全員でゴーレムの間接部分を集中攻撃だ!」
「「「うおぉおおおお!」」」
ズガガァァーン!
ズバッ! ズドドォーン!
『うっぎゃぁああああ! 関節は弱点ですわよぉおお! 何で分かったのですのぉおおおお!』
一斉に関節部分を攻撃され、敵司令官らしき女性が騒いでいる。どうやら図星だったようだ。
(いや、見れば分かるだろ。装甲部は分厚い防御だが、可動部は細いし装甲が無いぞ。あの司令官、適当すぎるような……)
倒れたところを攻撃されたゴーレムは、立ち上がれずにされるがままだ。
しかし決定打に欠ける。この超大型ゴーレムを破壊するには火力が足りない。
だが、俺には秘策があった。
「レイティア!」
ガバッ!
「ふわぁ♡ なな、何かな♡」
突然抱きしめられたレイティアが困惑している。
「レイティア、俺と初めての共同作業をやってくれ」
「ふえっ? ふえぇええええ♡」
「だから一緒に斬るアレだ!」
「けけけ、結婚式ぃ♡ ケーキ入刀♡」
何かレイティアが勘違いしている気もするが、俺はスルーして少し強引に進めた。
俺と
――――――――――――――――
初めての共同作業といったらアレですよ。心と体とスキルを合わせて斬る――やはり誤解があるような。
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