第100話 魔王を統べる者
自分でも何が起きたのか理解できなかった。突然、俺の中でスキルが覚醒したのだ。
『スキル【専業主夫】に嫁属性【魔王の加護】が追加されました。ステータス上昇。新たに魔法が追加されます』
【付与魔法・全パラーメーター三段階上昇】
【付与魔法・対人族特効】
【限定魔法・魔王権限借用】
【超越魔法・魔王パンチ】
【超越魔法・魔王キック】
【淫紋刻印】
もうお馴染みだが、ステータスが書き換えられ、アビリティとパラメーターが軒並み上昇する。それも信じられないような数値に。
これもオヤクソクだが、怪しげなスキルは見なかったことにした。もう完全にアウトだ。
「がはっ! こ、これは、何が起きたんだ……」
自問自答してみても理由が分からない。
(魔王の加護だと!? い、いや、見間違いか。魔王の加護なんて付くわけないだろ。何で覚醒したんだ……。でも、今はそんなのどうでもいい! 何だか分からんが、これはチャンスだろ!)
何かとんでもないことをやらかした気がするが、今は勝利するのを優先することにした。何事もスルーするのが重要だ。
昔の偉い人も、『石橋を叩いてスルー』と名言を残しているしな。
「アルテナ、危ないから下がってろ」
俺の腕を引っ張って逃がそうとしてくれているアルテナに声をかけた。
「アキしゃん? 何か様子が変わったような」
「俺は大丈夫だ。アルテナ、後でご飯を食べさせてやるから下がっててくれ」
「はひぃ♡ 一生私にご飯を作ってくれるのれすね♡」
何か誤解がある気がする。俺はアリアと結婚すると言ったはずなのに、何故かさっきからアルテナが飯をねだっているのだが。
グググググググッ! ガシッ!
俺はボロボロの強化魔鎧外骨格を脱ぎ捨て立ち上がった。
「どりゃああっ! 行くぞ、第二ラウンドだ!」
【支援魔法・
【支援魔法・
傷口が瞬時に回復した。
『ゴボボボボ――な、何者だ貴様! ガボボ――先ほどまでとは別人のような魔力に――』
エルダーリッチが目を丸くしている。と、言っても骸骨なので元から丸いのだが。
「俺が何者かだって? さっきも言ったろ、俺はスキル専業主夫の
『何をふざけたことを――貴様は危険だ――ガボボ――死ねぇい!』
再びエルダーリッチが青黒い侵食光線を放ってきた。しかし、今の俺にはその軌道が読める。
ズザッ!
「今ならやれる!」
【付与魔法・全パラーメーター三段階上昇】
覚醒によって桁違いに上がっていた俺のパラメーターが、更に三段階上昇した。これなら
(新たなスキル……攻撃スキルのなかった俺に、それっぽいスキルが追加されている。魔王パンチ……だと? 使ってみるか)
攻撃を掻い潜って相手の懐に入ると、拳を握り力を籠める。格闘系は全く専門外のはずなのに、自然と体が動き腰が入った拳打フォームとなった。
「いっけぇええええええ! 魔王パンチぃいいいい!」
ズパァアアアアアアーン!
『グギャァアアアアアア! こ、こんなバカなぁああ!』
空気を切り裂くようなパンチがエルダーリッチに命中する。とっさにガードした腕ごとパンチの破壊力が突き抜けた。
『スキル魔王パンチが発動しました。これは魔王にのみ許される、物質の根源自体を崩壊させる滅殺スキルになります。根源に作用する為、相手が肉体でも無機物でも
俺の中でスキルに解説が入った。難しいことは分からないが、凄い技なのは間違いないようだ。
バキッ! ボロボロッ! グシャ!
『ぐああああ! ワシの体が――無敵で不死身のワシの体がぁああ! ガボボボ――』
エルダーリッチの体が崩れてゆく。凄まじい再生速度を誇っていたはずが、今は攻撃を受けた個所がボロボロと崩れ落ちているのだ。
「これならやれるぞ! 魔王パンチ、どりゃああっ!」
ズガンッ!
『ウギァアアアアアア! ゴババババ――』
二発目をぶち込むと、あの尊大な態度だったエルダーリッチが膝をついた。
『ガボボボ――ま、待て、降参だ――』
「なにっ!?」
『もう人族への攻撃はしない――ワシは地下に戻り静かに暮らすとしよう』
エルダーリッチが頭を下げ降参の意志表示をしている。
通常このようなモンスターは居ないが、高い知能を持った元大魔法使いだからだろうか。
「本当に人を殺したりしないのか?」
『ああ、約束しよう――ワシは魔法の研究ができれば良いのだ』
「分かった。なら見逃そう」
俺が拳を下ろしたその時だった。降参したかに見えたエルダーリッチが、
『
ビュバァアアアアアアアアアアーッ!
『グギャハハハハハハハハ! 愚かな小僧よ! ワシが降参などするはずがなかろう! お人好しにも程があるわ! 類まれなるスキルを持っておるようだが、未熟な若さが仇となったな。貴様とは重ねた経験が違うのだ! ギィヒャハハハハ! 人族など皆殺しに決まっておるわ! 先ずは貴様の女をヤってやる! 腹を切り裂いて泣き叫ぶ姿を堪能するとしよう。グボボ――』
エルダーリッチが勝ち誇っている。長々と喋りながら。必殺の一撃を俺に入れたと思っているのだろう。
「言いたいことはそれだけか?」
『何ぃいいっ!』
奴が信じられないといった顔をする……まあ顔は骸骨なので分からないが。そう、俺は最初から奴を信用していない。
「悪いな、確かに俺はお人好しでバカな男だった。だが、裏切られた経験から学び、用心深くなっていたんだ。今の俺は、女性関係は不用意にスルーするけど、悪意を持った奴の言葉は信用しないんだぜ!」
そう、俺は攻撃が来るのを見越しており、必殺の一撃を寸前でかわしていたのだ。
『ま、まま、待て、いや、待ってください――ガボボ――こ、今度こそ降参しよう』
「お前は俺の女をヤるとか言ってたよな?」
『そ、そそ、それは言葉の綾で――グボボ』
「俺が一番許せないのは何か知ってるか?」
『は?』
「俺は、俺は、俺は大切な
ズドォオオオオオオオオオオオオオーン!
『グッボォオオオオオオオ――ボバババババ!』
空気の壁を突き抜けるようなパンチがエルダーリッチの頭蓋骨に命中する。ヘッドショットのように。
『ゴボボボボ――ま、まさかぁ、こ、このワシがぁ! 百年前の勇者でさえワシを倒せなかったのにぃ! 地下に封印するのがやっとだったはずだぁ! こ、こんなはずではぁああ! まさか魔王の力を――き、貴様は、勇者というより、ま、魔王――』
サァァァァァァ――
不死の王エルダーリッチは塵となって消えてゆく。俺に莫大な経験値とレアアイテムを与えるのと引き換えに。
普段やらかしてばかりの俺だが、もしかして……もしかしなくても世界を救ったのかもしれない。
あのまま奴を野放しにしていたら、きっと大勢の人が犠牲になっていたはずだから。
「よし、後は……ぐああっ!」
急に
「アキ、しっかりして!」
いつの間にか後ろにいたシーラが俺を支えている。小さな体なので支えきれていないが。
「シーラ……じょ、状況は?」
「レイスとゴーレムは片付いたわよ! あとは城みたいにデカいのだけ」
「よし、じゃあ巨大ゴーレムを……」
「あんたボロボロじゃないの!?」
シーラの言う通り、今の俺は立つことさえままならない。戦闘のダメージだけでなく、特級魔法のデメリットである急激なステータス降下もあるのだろう。
『警告! 警告! スキル【魔王権限借用】ならびに【魔王パンチ】【魔王キック】は、膨大な
今頃になってスキル警告音が鳴っている。遅いって。
だが今は、そんなことは言っていられない。
ズガガガガッ! ズバァアアアアーン!
音のする方に目を向けると、皆が一丸となって超巨大ゴーレムを止めようと攻撃を続けているところだった。
「行かなきゃ……あのゴーレムを倒すんだ」
「アキ、そんな体じゃ……」
「大丈夫だ。俺が
きゅん♡
「も、もうっ、アキったら反則だしぃ♡」
俺は、シーラの小さな体に支えられながら歩き出した。
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