第99話 〇〇の加護

 ジェフリーたち援軍が到着し形勢は逆転した。S級冒険者であるジェフリー一行もさることながら、帝国騎士団長の実力もかなりのものだ。


 第一軍銀獅子騎士団団長アーサー・エルトマンが、その剛腕から繰り出すスキルでゴーレムに向かってゆく。


「うおぉおおおお! スキル【剛腕鉄心】どりゃああああ!」


 ズダダダダダダダダダダーン!


 豪快な一撃がゴーレムを一刀両断した。


「ふはははは! どうだ、これが帝国一の剣であるぞ! 冒険者風情などに負けてはおれぬ!」


 冒険者風情とは俺のことだろう。どうもお貴族様はプライドが高いらしい。

 ただ、慎重な者もいるようだ。第三軍銀翼騎士団団長ハインツ・ランベルトが、飛び出したアーサーに苦言を呈す。


「アーサー卿、先行し過ぎですぞ!」

「なんのこれしき! ハインツは相変わらず臆病風だな!」

「先陣を切り武勲を立てるのは騎士の栄誉なれど、功を焦り命を落としては元も子もありますまい!」

「ふん、分かった分かった。たく、小うるさいやつよ」


 何だかんだ言いながらも帝国騎士団長たちの連携はできている。並みいるゴーレム軍団を次々と撃破しているのだから。

 こいつらは好きにやらせておけば問題ないだろう。



 反対側ではレイティアの美しい肢体が躍動していた。惚れ惚れするような瑞々しい肉体からは、凄まじい威力の斬撃が繰り出される。

 ただ、相変わらずノーコンなのだが。


「アキ君が大好きだぁああああ! 竜撃斬ドラゴニックスラッシュ!」


 ズバババババババババァァーン!


(お、おい、レイティア……。好いてくれるのは嬉しいけど、あまり人前で主張されると恥ずかしいぞ)


 俺と密着していなくて心配だったが、ノーコンでも問題無いようだ。敵の数が多いので、どれかのゴーレムには命中している。


 アリアもジールも問題無いようだ。強力な魔法や剣技で押しまくっていた。


「シーラ、俺はエルダーリッチを相手する。周囲に他のモンスターが近寄らないよう援護してくれ」

「分かったわ!」


 すぐにシーラが近付いてくるゴーレムを魔法で攻撃し始めた。

 これで俺は正面のエルダーリッチに専念できる。


 そのエルダーリッチだが、よほど余裕があるのか、さっきから悠然と俺を待ち構えている。


『ゴボボボボ――くくくっ、貴様が新たな勇者か――勇者には恨みがあるのでな――ガボボ――百年前、ワシを封印した恨み、奴の代わりに貴様で晴らしてやるわ――』


「そんな俺が生まれる前の話をされてもな。あんたには恨みはないが、街や人族を滅ぼすと言うのなら討伐させてもらうぜ」


『ゴボボ――できるものならやってみよ――』


 俺は特級魔法の体勢に入る。


(もうやるしかない。こんな伝説的モンスターを相手にするのなら、スキルを温存する余裕なんかない!)


【特級魔法・エルフ族の叡智・思考加速アクセラレーター

 シュパァァァァーン!


【特級魔法・竜族の叡智・豪覇竜戦士纏身ドラゴンウォーリアー

 グググググググググッ!


【特級魔法・魔族の叡智・強化魔鎧外骨格着装デモニックメタモルフォーゼ

 グゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!

 ガキッ! ガキッ! ガキッ!


 三連続特級魔法を使った。今の俺は、思考速度により超速度の攻撃が可能であり、上位竜ドラゴンのパワーと支配級悪魔アークデーモン身体能力を兼ね備えた戦士だ。


『ガボボ――ほう、ただの冒険者ではないようだな――ワシを楽しませろよ――小僧』


 ダンッ!

「アクセラレーター!」


 思考加速し周囲の時間がスローに感じる中、俺は一気に距離を詰める。


『アクセラレーター!』

「な、なんだと……」


 敵も同じ魔法を使った。さすが自らを不死の存在に昇華させた元大魔法使いだ。


『くく、残念だったな――そのような魔法、ワシは二百年前に到達済みよ――』

「悪いが年寄りの昔話は興味ないんでね」

『年長者の話は聞くものだ――くらえ、闇の刺突ダークスピア


 ズババババッ!


「だあっ! これでどうだ!」


 エルダーリッチが放った魔法をギリギリのタイミングで掻い潜り、奴の懐に祝福の剣ブレッシングソソードを突き立てる。


『ふっ、そのような攻撃、効かぬわ――』


 エルダーリッチの言うように、俺の剣が斬ったはずの奴の体は、何事も無かったかのように即再生する。

 だが!


「そうかな?」

『なにっ!』


(よし、取った! 俺の剣は真珠色の奇跡と剛力の魔角により、ユニーク武器ウエポンの特性を付けてあるんだ! この間合いなら確実に入るはずだ!)


 祝福の剣ブレッシングソードの柄に力を籠める。


「特性変化! 鞭になれ!」


 シュルルルルルルルルル!


 一瞬で剣が鞭の姿に変化した。そう、これが俺の秘密兵器。

 その長い鞭はエルダーリッチの体に巻きついて動きを封じた。


 レア素材を複数使用することにより、使用者の意志で形状を変え、より俺のスキルを活かせる超レア武器に進化させているのだ。

 しかも魔法伝導率は更に高く、形状から精密操作まで俺の意のままである。このまま更に強化させ、目指せ知性の有る武具インテリジェンスウェポン


『なっ、これは――』

「ここからだ! 物理も魔法も効かないそうだな! でも、これならどうだ!」


精霊の七層盾ロードエレメンタル

 ギョウワァァーン!

「どうだ! 高次元魔法防御障壁を体内と外側の両方から展開された気分は!」


 ミノタウロス戦の時の戦法を更に進化させた技だ。あの時より強力な七層盾を使い、鞭状剣を巻き付けたエルダーリッチに複合結晶正多面体で魔法障壁マジックシールドを展開した。

 体内(と言っても骨だが)から複雑に絡み合う魔法障壁マジックシールドと、周囲を包み込む魔法障壁マジックシールドを組み合わせ、完全に敵の動きを封じる技なのだ。


 ズババババババババ! ブババババ!


「どうだ! 動きを封じられた気分は! このまま高次元魔法防御障壁を圧縮して消滅させてやる!」

『グガガガガガァアア! ゴボボボボ――』


 エルダーリッチの体がひしゃげてゆく。腕が折れ曲がり肋骨は砕け頭蓋骨も圧し潰される。


『ゲボゲボゲボ――こ、こんなはずではぁああ』

「ふっ、勝ったな」

『ゴボボボボ――ふっ、ふふふふっ! 果たしてそうかな?』

「な……んだと!」


(し、しまったぁああああ! 『勝ったな』はフラグなのを忘れていたぁああ!)


 俺の精霊の七層盾ロードエレメンタルを使った捕縛技が途中で止まってしまう。これ以上は圧し込めない。


『解析完了だ――このような技は百年前には存在せなんだから、少し手間が掛かったがな――ワシはあらゆる魔術に精通しておるのだ――』


 グガガガガガガガガ――


『魔法術式解析完了、侵食開始――完了――解除』


 パリィィィィィィーン!


 精霊の七層盾ロードエレメンタルが破られた。漆黒の光が七層盾に侵食し、内部から術式を解除してしまったのだ。


「くそっ! 祝福の剣ブレッシングソード特性変化! 槍になれ!」

『効かぬわ! 闇の呪縛ダークバインド!』


 シュルシュル!


 エルダーリッチの手から黒いロープが現れ、俺の手足を拘束する。今度は俺が捕まってしまった。


「ぐああっ! 支援魔法・魔法術式解除マジックキャンセル

『遅い! 暗黒侵食物質ダークマター!』


 ビュバァアアアアアアアアアアーッ!


「ぐああああああああああああっ! マズい、強化魔鎧外骨格着装デモニックメタモルフォーゼがっ!」


 動けない俺に、高出力の青黒い光線魔法が直撃した。超防御を誇っていたアークデーモンのような甲冑が壊されてゆく。


 ビュババババ、バリ、パリィーン! 


「アキくぅううううううーん!」

「アキちゃぁぁぁぁーん!」

「アキぃいいいいいいっ!」


 皆の声が聞こえる。俺はまた何かやらかしたのだろうか。皆を困らせてばかりだ。



「アキしゃぁぁぁぁん! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 急に視界が傾き、それが地面に倒れてゆく途中だと気付いた時、視界の隅に走り寄るアルテナの姿が映った。


(アルテナ……? 何で俺の方へ? 危ないから下がってろよ。なんか危なっかしくて放っとけないんだよな。ああ、ダメージがデカいな。これはダメか……)


「アキしゃん、私が悪いんです。私がダメダメだから……。魔族も人族もこんな状態に……。私がもっとしっかりしていたら」


(アルテナは何を言っているんだ? ただのミリオタ魔族が責任を感じることはないだろ)


 アルテナが俺の体を引っ張っている。


「アキしゃん! アキしゃん!」

「お、俺は、守るんだ……大好きな……」

「アキしゃん?」

「魔族だとか関係無い……」


(魔王軍が街に侵攻したら……もう取り返しがつかない。そうだ、大好きなアリアが……。こんなくだらない戦争で、俺たちの関係が引き裂かれてたまるか)


「アキしゃん……もしかして私のこと?」

「一緒に暮らすんだ……あの屋敷で……」

「はっ? もしかして、私を養って♡」

「結婚するのに種族なんて関係無いよな……」

「アキしゃん♡ そんな優しくされると……。わわ、私、アキしゃんの嫁(三食昼寝付き家事はしない)になります」


 ズキュゥゥゥゥゥゥーン!


『スキル【専業主夫】に嫁属性【魔王の加護】が追加されました――』


 その日、俺はとんでもないやらかしをした。






 ――――――――――――――――


 アルテナさん……チョロすぎやしませんか?

 アキ……ついにやっちまったな。


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