第77話 規格外なパーティー

「アキよ、おぬし……ちょっと見ない間に大所帯になったようじゃな」


 武器屋に入った俺を見た店主の第一声がそれだ。


 今日は武器を強化しようと、前に剣を作ってもらった武器屋へと訪れていた。ノワールやミミも一緒に行きたいとごねて、結局全員一緒に出掛けることとなってしまう。


「前に会った時も、美女三人をはべらせて良い身分じゃと思っておったが、今度は六人もはべらせおって。しかも小さな子まで」


 店主の目がノワールとミミに向いた。もしかして、こいつロリコンじゃね? とか思われていそうで怖い。


「カッコいい剣なの」

「危ないから触っちゃダメよ。ミミちゃん」


 当の二人は仲良く商品の剣を眺めているのだが。姉妹みたいで微笑ましい。


「違いますよ。この子たちは親がいないからメイドとして雇っているだけです。こっちの女騎士は……あれ? 何でジールも一緒なんだ?」


 ジールの説明に困ってしまう。そう言えば何でくっころ・・・・女騎士も一緒なんだよ。


「こら、相変わらずお前は失礼な男だな。私はゲリュオン様の信頼厚き部下の上位竜だぞ! 戦場では一騎当千の力を発揮するとうたわれておるというのに。くぅ、まったくぅ」


 ガタッ!


 ジールの放った『上位竜』という言葉で、店主の様子が一変する。


「な、なんじゃと! じょ、上位竜じゃと!」

「ははっ、上位竜とか言ってるけど、ジールは意外と面白いやつでして」


 ペチペチ!

 ジールの頭をペチペチしてやった。


「こ、こらっ! 私にこんな無礼をするのはお前だけだぞ。くっ、何たる屈辱……。だが、それが良い」


 ガタガタガタ――

 恐れを知らぬ俺の行動で店主が震え始めた。


「ば、ばかもん! おぬしは上位竜を知らんのか! 通常、竜族は人型をしておるのじゃが、その中でも上位竜はな、その身を巨大なドラゴンに竜化できるのじゃぞ! 全ての生物の高位族種であると称しても過言ではないのじゃ!」


「竜化? あっ、ゲリュオンが巨大なドラゴンになったみたいにか。あの時は踏み潰されるかと思ったよ」


「はああ!? お、おぬし、ゲリュオンと戦ったのか? 世界を滅ぼす力を持つといわれる東海青竜王ゲリュオンと!」


 店主が目を見開き後ずさる。

 そんなに驚かなくても。


「ゲリュオンも親バカな父親って感じだったな。でも、娘が大切な気持ちは何となく俺にも理解できるぜ。俺もゲリュオンの娘であるレイティアが大切だし」


 ぽんっ!


 そう言ってレイティアの腰を軽く叩く。手が滑ってケツを叩いてしまったが。


「あんっ♡ アキ君、人前ではダメだよ。全くもう、エッチだぞっ!」

「ご、ごめん、わざとじゃないんだ。セクハラはダメだよな」

「まあ、アキ君なら良いけどさ、ううっ♡」

「良いのかいっ! いやいやいや、ダメだろ」


 ゲリュオンの娘という発言で、更に店主が混乱した。


「な、ななな、なんじゃと! 竜王の娘じゃと……。だ、だだだ、大事件じゃ! 竜王の娘や上位竜をポンポンペンペン叩いておるなんて。おぬしは阿呆あほうか」


 阿呆とか失礼だが、店主の驚きは収まらない。あんぐりと開けた口が閉じないくらいだ。


「レイティアも大きくなれるのかな?」

「ボクはなれないと思うけど。てか、お姉ちゃんだぞ」


 俺たちの会話も聞こえていないのか、店主の視線はレイティアの顔と腰に下げた剣を往復しているようだ。


「や、やはりその青い剣は青竜王の剣であったか」


「そうそう、前に竜王の剣が何とか言ってたけど、本当に竜王の剣でしたよ。青竜騎士の剣ナイトオブゲリュオンって名前だったような。青竜王の鱗で作ったそうです」


「な、なな、なんと! 青竜王の鱗じゃと! 竜王の体の一部を使った剣といえば、もはや伝説級レジェンダリー武具ではないか! あばばば」


 店主が泡を吹きそうなくらい驚いている。ドワーフ特有の髭を揺らしながら。


「それで今日は武器の強化を――」

「おぬしは世界征服でもするつもりか!」

「世界征服じゃなく武器の強化をしたくて」

「おぬしは脳天気か!」


 竜王の娘や上位竜をパーティーに入れている緊張感がないのかと言われるが。レイティアは可愛いし、ジールはくっころだから仕方がない。



「ふー、ふー、ふー、つい熱くなってしまったわい」

「だから武器の強化を」

「この男……存外大物かもしれぬな」


 店主のつぶやきにシーラが口を挟んだ。


「大物というよりムッツリね。アタシのことが大好きらしいわよ。えへへ」


 それムッツリ関係無いぞ。


「テンペストも規格外じゃと思っておったが、それに輪をかけてアキも規格外か……いや、もうパーティー自体が規格外じゃな」


 呆れた表情になった店主の前に、俺はレア素材を並べてゆく。


 カタッ、カタッ!


「お、おいおい、ドロップ素材まで規格外とはな……」


 どうやらドロップした素材は、どれも珍しいものらしい。これも【自動展開魔法・幸運値上昇】によるものだろう。


 店主の鑑定でレアアイテムの詳細が判明した。


「この白い石は【真珠色の奇跡】、こっちのツノ形のは【剛力の魔角】、そしてこれらの石は【魔縞瑪瑙イビルオニキス】、【虹魔水晶レインボーオーラ】、【金剛石】、おおっ、また【幻魔鉱石】があるわい」


 詳しくは知らないが、どうやらどれも珍しいドロップ品のようだ。


「これで武器を強化してくれ。北方領域に行くから準備を万端にしたいんだ」


「北方領域か……何やらきな臭い感じじゃの。何も起こらねばよいのじゃが」


 最近の魔物が活発化している話を知っているのだろうか。店主の顔が曇る。


「そんな訳で頼みます。えっと、レイティアの剣は……」

「ボクのは強化が必要ないよ」

「だよな」


 誇らしげにレイティアが剣を見せる。父親とはギクシャクしていたのに、実際のところ絆を感じているのかもしれない。


「じゃあ、シーラとアリアの杖の強化と、後は俺の剣も頼みます」

「任せておけ。ワシが最高の武器にしてやるぞい」


 しばらく武器と素材を見つめていた店主が口を開く。


「この杖はそれぞれ金貨200枚ずつ、おぬしの剣は金貨500枚じゃな」

「高くないか?」

「がはは、陛下から金貨を貰ったのじゃろ」

「もう知ってたのか」

「まあ、これだけのレア素材を特別な手法で強化に使うのじゃ。適正価格じゃな」


 まあ、腕は確かだし前は値引きもしてもらったのだ。余った素材も買い取ってもらえるようなので、少し節約になりそうだ。

 この人に任せてみよう。


「ではお願いします」

「おう、最高の武具に仕上げてやるわい」


 ◆ ◇ ◆




 屋敷に戻った俺たちは夕食を終え居間でくつろいでいた。後は寝るだけだ。


「よし、寝ようかな」


 スタッ! スタッ! スタッ!


 俺の声で一斉に立ち上がった三人の女がいた。言わずと知れた俺の嫁……じゃなくて、嫁属性の加護を受けている三人だが。


「おい、部屋はたくさんあるから別室に……」


 もう部屋にベッドも運び込まれ、交代で添い寝をせがまれているというのに、それでも毎晩悪あがきをしてしまう。

 全て却下されるのだが。


「アキ君っ、ボクのこと大好きって言ったよね! 忘れたとは言わせないよ」

「そうよ、アキちゃんを一生離さないんだから♡ もう運命なのぉ♡」

「仕方がないわね。アキがアタシのこと大好きなんだから。感謝しなさいよね」


 こんな具合である。


「えっと、子供の教育に悪いと言いますか……」


 ミミとノワールの方を向く。


「ミミも一緒に寝たいの」

「はい、ミミちゃんは私と一緒の部屋ですよ」


 ノワールがミミを連れて行こうとする。家に来て最初は、『一緒に寝たい』などと言われたらどうしようかと心配したが、意外とノワールが聞き分けのいい子で助かっている。


「ミミちゃん、アキ様は夜のお勤めがあるのです。大人にならないとダメなのですよ」

「ミミも大人になったら良いの?」

「はい、大人になったらアキ様が寵愛ちょうあいをくださりますから」

「ならがまんするの」


 何か二人が恐ろしい会話をしている気がするがスルーしておこう。これ以上嫁が増えたら体が持たない。


「はぁーい、アキちゃんはこっちね♡ みっちり添い寝の時間ですよぉ♡」

「こら、アリアは昨日添い寝しただろ。今夜はボクの番だぞ」

「もう三人一緒で良いじゃない。ベッドも大きいし」

「それだ! シーラ」

「それね! シーラちゃん」


 ズルズルズルズル――


 「それじゃねぇぇぇぇーっ!」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る