第75話 ちびっこメイド襲来
テーブルの上に置いたレア素材の山を俺は見つめていた。戦闘時にドロップした物だ。
「これがジャイアントスパイダーからドロップした真珠色に輝く何かで、こっちがミノタウロスからドロップしたツノっぽい何か。後は、その他のモンスターからドロップした石だよな」
レア素材を使って武器の強化やアイテム制作を考えていると、俺の後ろでアンニュイな雰囲気を漂わせたアリアがベッドから起き上がる。髪をかき上げる仕草がたまらなく色っぽい。
まるで大人の関係のような感じだが、それは少し違う。俺はアリアに手を出していないのだから。
「ふぁあっ♡ アキちゃん、おはよ」
「アリアお姉さん、もう日が高くなってますよ」
「だってぇ、夜のアキちゃんが激しいんだもん♡」
「ななな、何もしてないから! 誤解を生みそうな発言はダメ」
そうなのだ。このエチエチお姉さんに一晩中抱きしめられたりキスされているのに、何も手を出せない状況なのだ。
三人が代わる代わる添い寝したがるのだが、他のメンバーの目が光っており、ずっとおあずけ状態なのである。
「ふぅ、これ、毎晩がお仕置きされてるみたいだよな?」
「だってアキちゃんが手を出してこないからキツいお仕置きしないと♡」
「もしかして、俺が手を出すまで続くとか?」
「もちろんよ♡」
そんな良い笑顔で言われましても。
どうしたものか。いくら好きな相手とはいえ、他の仲間もいるのに手を出せるはずもない。
「ああ、俺はどうすれば」
「うふふっ♡ アキちゃん可愛いっ♡」
カンカンカン!
アリアに後ろから抱きしめられていると、何やら玄関の方が騒がしくなる。ドアノッカーが鳴っているようだ。
「誰か来たのかな?」
イスから立ち上がり部屋を出る。背中に抱きついているアリアも一緒だ。
大きな階段を下りて玄関ホールに出た。
ガチャ!
「はーい、どちらさん?」
「私です。アキ様のメイドです」
ドアを開け飛び込んできたのは、黒髪パッツンのボブヘアーをした少女だ。頭には小さなツノがある。
ガチャ!
「何で閉めるんですか!」
「目の錯覚かな?」
「違います。ノワールです。アキ様のメイドです」
まさかのまさか。おませ少女のノワールがやってきた。つい驚いてドアを閉めてしまった。
「アキ様、ドアを開けてください」
「う、うん」
ガチャ!
「お兄さん! 来ちゃいました。ここでメイドとして働かせてください」
「ええええ……」
「アキ様を主人として一生涯仕えますね」
「ええええ……」
とんでもない嵐の予感だ。
「えっと、メイドは間に合ってます」
「そ、そう言わずに。何でもしますから」
グギギギギギギ――
ドアを閉めようとする俺に、ノワールは必死にさせまいとする。
ぴょこっ!
その時、ノワールの後ろからもう一人の少女が現れた。柔らかそうなオレンジ色のもふもふの髪をした純粋無垢なネコミミ少女だ。
「お兄ちゃん、ミミも来たの」
その穢れを知らない真っ直ぐな瞳で見つめられると、このまま追い返す訳にもいかなくなる。
「ミミちゃん、どうしてここに?」
「一緒に来たの。ミミもメイドするの」
ちょっぴり大人びた表情のノワールと違い、ミミは純粋にメイドとして働きたいのかもしれない。
「おい、ノワールちゃん、孤児院はどうなったんだ? 小さな子供を働かせるわけには……」
俺の表情を読み取ったのか、ノワールが説明を始めた。
「アキ様のおかげで子供たちは親元に帰されました。でも、私のように親がいない子供は帰る家がありませんから。孤児院で生活する選択もありますが、私たちはアキ様に恩返しがしたいのです」
「でも……」
「ううっ、もう孤児院を退去してしまいました。アキ様が雇ってくれないのでしたら、このまま何処かの男に買われて奴隷に戻るしか……。きっと、また暴力で辛い日々に……。およよ」
「わ、分かった分かった。そうだよな、このまま追い返したら、また何処かの悪い奴に……」
もう子供の泣く姿は見たくない。幼気な少女を暴力で従わせるなんてあってはならないのだ。
「ちょっろ」
「何か言ったか?」
「いえ、何も」
一瞬だけノワールの顔が小悪魔っぽくなった気がする。たぶん気のせいだろう。
「じゃあ、今日からメイドとして働いてもらおうかな」
「ありがとうございます。アキ様♡」
「お兄ちゃん、ありがとうなの」
メイドの許可を出すと、二人は満面の笑みになる。子供の笑顔は純粋で良いものだ。
「と、言う訳で、屋敷でメイドとして働かせようか、アリア……って、うわああっ!」
アリアの方を振り返ると、そこにはヤンデレ目で俺を睨む女王の顔があった。
「アリア女王様、もしかして怒ってます?」
「アぁキぃちゃぁ~ん!」
「は、はい」
「ふうっ」
アリアは溜め息をついてからヤレヤレといった表情になった。
「小さな子供を追い返すのも酷だから仕方ないわね。でも、子供だからといっても甘くしないわよ。アキちゃんに何かしたら許さないから」
女王然としたアリアの態度にもノワールは物怖じしない。正面から堂々と胸を突き合わせる。
巨乳のアリアに対してペタンコのノワールだが。
「それは大丈夫です、アリア様。私はまだ子供ですから。でも、あと何年かしたら大きくなって、きっとアキ様が私にお手付きしたりして♡ ふふっ、見事アキ様の愛人に」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
「はあ? 何ですって!」
「そのままの意味です。アリア様」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ」
いつも優しいアリアが、いつになく熱くなっている。同族女性ということで、何らかのライバル心でも有るのだろうか。
「アリアお姉さん、もうその辺で。相手は子供だから冗談だよ。きっと」
「アキちゃんは女の怖さを知らないのよ。女は何歳でも女なの」
「そうかな? ほら、ミミちゃんは純粋な感じだろ」
ニマニマと小悪魔的笑みを浮かべるノワールと違って、ミミは行儀よくちょこんと待っている。
「ほら、可哀想だから中に入れてあげようよ」
「もう、分かったわ。でもアキちゃんにはご褒美貰うから」
「ご褒美?」
「毎晩超密着添い寝の刑ね」
「何それ、怖っ!」
より俺を抱きしめるアリアの圧が強まったところで、更にもう一人の来訪者が現れた。
「おい、そろそろ良いか?」
屋敷の門柱の陰に隠れていた女が顔を出す。
気の強そうな顔をした騎士の身なりをした女だ。長身で肉体美な肌を惜しげもなく出した姿。何処となく後ろが弱点な気がする。
「あっ、くっころ女騎士ジール」
「誰がくっころだ!」
ジールが絶妙のツッコミをする。
「ジール、どうしてここに?」
「この子たちがお前に会いたがっていたからな。私が連れてきたのだ」
「そうだったのか」
「そうだったのかではない! お前、私を放置して帰るとは何事だ!」
仰る通りなので何も反論できない。
「すまん」
「すまんで済まぬわ! 全くこの男は」
「ちっ、さーせん」
「余計悪いわ!」
ジールが相手だと、ついふざけてしまう。そんな気が強そうな顔して『くっころ』とか言うのが悪いのだ。
「まあ立ち話もなんだから入ってくれ。どのみち北方領域には行く予定だから、ジールが来てくれて助かったよ」
「分かれは良いのだ。私は役に立つぞ。ふんっ」
子供たちだけ中に入れドアを閉める。
バタンッ!
「こら、何で私だけ締め出すんだ!」
ドンドンドンドン!
やっぱりジールの顔を見ているとふざけたくなってしまう。
ガチャ!
「冗談だよ。入ってくれ」
「ううっ、何て鬼畜な男なんだ」
「悪い悪い」
「くぅ、こんな雑な扱いをされると、体の奥がゾクゾクしてしまうのだが」
狙ってやっていないのに、何故かジールのドM心に火をつけてしまう。困ったものだ。
「アキちゃぁ~ん! その人と楽しそうね?」
ゾクゾクゾクゾクゾク!
抱きついているアリアの手に力が入る。
「あ、あれ? やっぱり怒ってる?」
「アキちゃん、それわざとやってるよね?」
「えっと、何のことですか?」
「わざと私を嫉妬させてイジワルしてるんだ……」
「ち、違うから」
こちらも意図せずアリアの嫉妬心を燃え上がらせてしまった。狙ってやっていないのに。困ったものだ。
「もうしょうがないよね。お仕置きとして、アキちゃんと私の両手両足を呪いの手錠で繋いで、一緒に
「死んじゃうから! それ拷問だから!」
それからしばらくアリアは俺を離してくれなかった。
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