第73話 ミミとノワールは一緒に行きたい
体力の回復した俺は、晴れて王都に戻る為の馬車に乗ろうとしていた。
一時は指名手配される波乱があったが、こうして無事全員一緒に帰還できることになったのだ。
冒険者仲間や孤児院の関係者も馬車駅まで見送りに来ていた。
「あんたのお陰で助かったぜ。元気でな」
そう言ってレオンが腕を伸ばす。俺はガッチリと握手をした。
「レオン、色々とありがとう」
「なんのなんの、また何かあったら力を貸すぜ」
他の冒険者も集まってきた。
「アキさん、ありがとうございます」
「へへっ、やっぱりアキさんはスゲェぜ」
「あっしらもアキさんが勇者になるのを陰ながら応援してますぜ」
レイド戦で一緒だった冒険者も別れを惜しんでいる。ミノタウロスにやられて治癒した男たちだ。
「冒険者様、いえ、勇者様」
人々の中から孤児院を運営する高齢女性が出てきた。俺は勇者ではないのだが。
「勇者様が救ってくださいました子供たちは、私が責任を持って預かりますから。親元に帰る
「はい、ありがとうございます。ジェフリー……ジョージ閣下が貴族に寄付金を出すよう働きかけてくれるそうですので安心してください。これからはお腹いっぱいご飯を食べられるようになりますから」
せっかく知り合った上級貴族の子息だ。孤児院の子供たちが食べられるように話を付けておいた。この際、利用させてもらおう。
きっと新しい領主は、もっとマシになるはずだ。その辺もジェフリーが国王陛下に上申してくれるそうなので問題無い。
「ありがとうお兄ちゃん」
「勇者さまぁ」
「ありがとう」
子供たちが集まってくる。
その中からネコミミ少女が俺の袖を掴んだ。
「あのねあのね」
「あっ、確かミミちゃん?」
柔らかそうでモフモフのオレンジ色の髪に、くりっと大きな穢れを知らない目をした少女だ。
奴隷収容施設で瀕死だった子だが、今は元気な笑顔をしている。
「ミミね、お兄ちゃんの役に立ちたいな」
「そ、そうなんだ。ミミちゃんは子供だから、大きくなったらね」
「う、うん……」
子供という言葉で、ミミが少し残念そうな顔になった。
ガバッ!
「あ、あの、優しいお兄さん」
もう一人、少女が俺の前に飛び出してきた。ミミより少し大きくて頭にはツノがある。前髪をパツっと切り揃えた黒髪ボブで、年齢以上にマセた顔をしていた。
「あれっ? お嬢ちゃんは確かメイドの……」
「はい、勇者様に救って頂いたメイドです。ノワールです」
「ノワールちゃんって言うんだ」
「はいっ」
まるで心酔したような目でノワールが俺を見る。
(眩しっ! 何の穢れも無い純粋な目で俺を見つめるノワールが眩し過ぎるぜ! やめてくれ、俺は幼女に心酔されるような立派な人間じゃないんだ)
「あの、お兄さん。私も一緒に行って良いですか?」
「ええっ! だ、ダメだよ。まだ小さいから……」
ぷくぅ――
ノワールが不満そうなプク顔になった。顔に出る子のようだ。
「私はまだ小さいですが、男性の喜ばし方くらい知っています」
「お、おい、まさか……」
「ちち、違います! 領主様にはエッチなコトされてません!」
慌てたノワールが全力で否定する。アレクシスがロリコンじゃなくて良かった。もし何かしていたら、今から牢屋にトドメを刺しに行っていたところだ。
「違うのか。俺はてっきり……」
「変な意味じゃありません。お兄さんに喜んでもらうって意味です」
「とりあえず大きくなったらな。ノワールちゃん」
「あっ、お兄さん……」
話を切り上げておこう。このままでは俺が幼女メイドを欲しがっているように見えてしまう。
グイッ!
「アキちゃんは大きい方が好きなのよねぇ♡」
意味深な笑みを浮かべたアリアが俺にもたれ掛る。
バチッバチッ!
一瞬だけ、アリアとノワールの間に火花が飛んだ気がした。きっと気のせいだ。
「お兄さん……私、諦めませんから。私の命を救ってくれた勇者様に全てを捧げると決めたんです。お兄さんになら何をされても構いません。私、何でもします」
スルーだスルー! おませ少女が何か危険なことを言っているが、全て聞こえなかったフリをする。
何だかこの子は危険な気がするのだ。
「じゃあ、そろそろ出発しようか」
ちょっと強引に話を逸らす。馬の手綱を握っている御者に出発を促した。
「へい、じゃあ出発しますぜ」
ヒヒヒィーン!
御者の合図で馬車が動き出した。不満そうな顔のノワールと何かを言いたそうなミミを残して。
ガタガタガタガタガタ――
見送る皆の姿が小さくなってから、ホッと息を洩らした。
「ふうっ、一時はどうなるものかと思ったけど、無事に解決して良かったな」
ぽこぽこぽこ!
何故かシーラが俺の腹をポコポコ叩いている。
「こらアキっ、小さな子が好きだからって、まさか子供に手を出す気じゃないわよね!?」
「おい、だれがロリコンだ?」
「だって、小さな胸が好きって……」
まだシーラは俺が貧乳好きだと勘違いしているようだ。ここはハッキリと否定しておこう。
「勘違いするなよ。俺は小さな胸が好きでも小さい子が好きでもないぞ。どちらかと言えば年上……」
ピクッ! ピクッ!
何故か近くにいる別の年上女子の肩が動いたが気にしない。
「えっと、つまりだな。俺はシーラが小さいから好きになったんじゃない。さり気なく気遣ってくれるところや、皆を大切にする優しい性格を好きになったんだ」
かぁぁぁぁぁぁ――
「えっ、そ、そうなんだ……」
シーラの顔が真っ赤になった。耳まで赤く湯気が出そうなくらいに。
(あっ、ヤベっ! 無意識に恥ずかしいセリフを言ってしまったような)
「もうっ、しょうがないわね。アタシが
シーラが一人でうんうんと頷いている。
(シーラが姉さん女房……? ふふっ、小さくて妹みたいな姉で可愛らしいな。まあ、色々とお世話してくれそうではあるけど)
つい顔が緩んでしまい、両側から性欲強めお姉ちゃんと嫉妬が激しいお姉さんの圧が強まる。
「アキ君っ! ボクと結婚する話を忘れてないだろうね! は、裸も見られちゃったし……キスも……。はぅっ♡」
自分で言っておきながら恥ずかしくなってしまうんもが、やっぱりレイティアだ。
「レイティア、恥ずかしいなら言うなよ」
「もうっ、アキ君のばかっ♡」
「怒ってるレイティアも可愛い……って俺は何を」
「はぁああぁ♡ アキ君のイジワルぅ♡」
やっぱりレイティアは可愛い。
「ア~キぃちゃぁん♡ お姉さんとの約束忘れてないよね? もう婚約破棄はできないんだよ。絶対なんだよ。やっぱり年下の娘の方が良いとか言わないよね? ねえ? ねえ?」
強烈な圧を加えながらヤンデレ目でアリアが迫ってくる。
(アリアの嫉妬も可愛いな。たまに凄く怖い時もあるけど。そうだ、もっと嫉妬させたらどうなるんだろ?)
ちょっぴりイタズラ心が出てしまう。
「そうだね、あのノワールって子は可愛かったな」
ピキッ!
一瞬でアリアの雰囲気が変わる。まるで暗殺者のようなオーラだ。
どうやら俺は間違えたらしい。
「ねえ、アキちゃん……。年下が好きだったの?」
「えっ、違っ……」
「悪いアキちゃんね。もう手加減できないかも」
ゾクゾクゾクゾク――
「アキちゃんには年上しか愛せないようにキツーい調教をしないと。そうね、もう私なしでは生きられない体にしちゃおうかな? しょうがないよね。アキちゃんが浮気性なのが悪いんだもん」
ほんの軽い冗談だったのに、アリアが本気にしてしまったようだ。これは何とかして誤解を解かないと。
「あの、アリアお姉さん、俺は年上好みです」
「ふーん、今更言い訳しても遅いんだよ」
「本当です。年上の方が包容力とか……」
俺は、お姉さん彼女の良さを力説する。ちょっぴり暴走して余計なことまで言ってしまうのだが。
「特にアリアお姉さんは俺にとってドストライクなんです。優しくて尽くしてくれそうな笑顔と、柔らかくて癒される雰囲気。そして、え、エッチな……。俺はアリアお姉さんが大好きです」
きゅぅぅぅぅーん♡
アリアから危険な音が鳴った。
「ぐへっ、ぐへへっ♡ も、もう、しょうがないなぁ♡ アキちゃんったら悪い子なんだからぁ♡ そんなコト言われたら、たっぷりご褒美しちゃおうかな♡ ふひっ、ぐへへぇ♡」
アリアの顔が緩みっぱなしだ。意外とチョロかった。
「ふうっ、危機は去ったぜ」
危機は去ったが新たな危機が増えたかもしれないが。
重要クエストを無事に終え、指名手配も解除された。これにて一件落着だ。
後は家に帰ってベッドを買ってもらえば完璧だろう。
「あれっ? 何か忘れているような? まっ、良いか」
何か重要なことを忘れている気がするが問題無い。世の中には重要な事柄など少ないと聞く。きっと些細なことだろう。
出来るのなら世間のしがらみや難しい人間関係も忘れて、まったりとスローライフをしたいところだ。
重要クエストの報酬も入るのだから。
馬車は王都へと進む。新しい家と新しいベッドを買い、ぐっすりと眠る生活を夢見ながら。
――――――――――――――――
皆様いつもありがとうございます。
ここで第2章を終了し、引き続き第3章に入ります。
肝心なことを忘れて王都に帰るアキたち一行。後から大変な目に遭いそうな予感が……。おい、あの女騎士はどうした!?
そして、一緒に行きたがっている二人の少女の運命は?
ご期待くださいませ。
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