第61話 瞬く星空と恋人のキス
その夜、俺はレイティアとアリアからキスの嵐を受け続けた。
しかも、目を見つめ合いながら『好き』と言って欲しいとのリクエストがあり、何度も何度も愛の告白をさせられる。
こんなの童貞の俺には耐えられない。好きと言う度に、俺の心の中にトクトクと愛の火が灯り、どんどんそれが大きくなってしまうのだ。
もう、本当に大好きで離したくないくらいに。
そして数時間が過ぎた――――
「はぁ、はぁ、やっと寝てくれたか。ううっ、これどうすんだよ。本当に我慢の限界だぞ。ううっ、人の気も知らないで……」
俺が必死に耐えているというのに、この二人ときたらグイグイ迫ってくるのだから。俺がどれだけ我慢しているのかを知らないのか。
もう大好き過ぎて滅茶苦茶に抱いてしまいたい欲望に駆られてしまうのだ。
俺は生涯一人の女性を愛し大切にしようと考えていたのに、このままではハーレムまっしぐらだろう。
「ああっ、俺は何か間違えたのか?」
その時、ふと俺の顔の上に人影が見えた。
「ひぃっ――んっ」
「しっ、静かに」
俺の枕元に立っていたのはシーラだった。小さな手で俺の口を塞いでいる。
クイクイッ!
シーラが指で来いと言っているようだ。
俺は二人を起こさないよう、そっと布団から出る。
無言のまま歩くシーラの後について行った。
パタッ!
宿屋のドアを開け外に出ると、そこは二人以外は誰も居ない静寂の世界だった。昼間は賑やかな街だが、どうやら夜は寝静まっているようだ。
空にはキラキラと無数の星が煌き幻想的な雰囲気を醸し出している。
「えっと、どうしたんだ、シーラ? も、もしかして消される」
「消さないわよ!」
どうやら俺は許されたらしい。
「あの子たちが密着してたら落ち着いて話せないでしょ」
「確かに」
シーラは夜空を眺めながらポツリポツリと話し始めた。
「アキ、あの子たちの心に寄り添ってくれて感謝してるわ」
「シーラ……」
てっきり怒られるのかと思っていたら、まさかの感謝だった。
「アタシがあの子たちと会った頃は、二人とも思い詰めた顔をしてたのよね。アリアは他の誰にも心を許さないような……。レイティアは何か重いものを抱えたような……」
「うん」
「三人でパーティーを組んでから、少しずつ笑顔が増えたのよね。アリアはだいぶ丸くなったのよ。でも、レイティアは、いつも自分が頑張らないとって張りきって。クエストでもパーティーの管理でも」
家計が破綻していたのは知っている。
「でも、アキが加入してからはクエストも成功するようになって、家計も助かってる。あんたは良くやってるわ」
「ははは、どうも」
「辺境伯にブチギレてお尋ね者になっちゃったのはアレだけど……」
そこは済まないと思っている。
「でも、あそこでキレなかったら男じゃないわ。あんな屈辱を受けてヘコヘコしていたら見損なってたところね」
「だな、人は金の為に我慢を強いられるものだけど、我慢には限度ってものが有るよな」
「そうよ、だからアタシはアキに感謝してるって言いたいわけ。あの、ちょっと面倒くさい女子二人に懐かれてるってのも、凄いことなんだからね」
自然と顔がほころんでしまう。面と向かってシーラに感謝されているのだから。
「で、ここからが本編だけど――」
「ん?」
シーラの態度が激変した。
「アキ、いい加減にしなさいよね! 隙あればチュッチュチュッチュとイチャイチャしまくって! アタシを放置して、あの子たちとばかり良い感じになるなんて失礼しちゃうし!」
「え、えっと……」
「レイティアとアリアには愛の告白したそうじゃないの!? アタシにはないわけ? あ、アタシはどっちでも良いけど……。す、好き……とかじゃなく……ごにょごにょ。と、とにかく、ちゃんとアタシにも優しくしなさいよね!」
ビシィィーッと指を突き付けられる。
「た、確かに平等に接しないとだよな。って、待てよ。平等って、あんなにキスしたりハグしたり……」
「うっ…………ちょ、なに見てんのよ。エッチな目でアタシを見んなっ!」
シーラの耳がぴょこぴょこしている。
「えっと……もしかして、シーラも『好き』って言いながらキスして欲しいのか?」
「あ、ああ、あんたバカぁ!?」
「違ったのか」
「違わないけど!」
「どっちなんだ?」
「どっちもよ!」
結局どっちなんだ。
「だからアタシにも優しくキスしなさいって言ってんの! 分ったら抱っこしてキスしなさいよ!」
耳まで真っ赤にしたシーラが主張している。月明りでも分かる程だ。
(レイティアとお風呂でキスしたばかりなのに、今度はシーラとしてしまって良いのだろうか? でも、ぴょこぴょこ小動物みたいに動くシーラを見ていると、愛おしさが込み上げてくるぞ)
俺はシーラを抱き寄せる。
(ああ、ハーレムはダメだと思ってたのに……。パーティー内の異性関係は気をつけようと思ってたのに……。もう彼女たちへの想いが止められない)
後で恐ろしいことになる予感がするのに、止めどなく溢れてくる想いが止められないのだ。たとえ、彼女たちの俺に対するものが恋ではなく仲間意識だったとしても。
グイッ!
シーラを抱っこするように抱え上げた。身長差が有るので、立ったままではキスしづらいのだ。
「こ、こらぁ、子供扱いすんなぁ♡」
「子供扱いじゃないよ。お姫様扱いだよ」
「な、なら許すぅ♡ ううっ」
ぎゅっ、ぎゅっ!
シーラが俺の首に腕を回した。同時に足も絡めるようにしてきた。
これは完全に『だいしゅきホールド』状態だ。
「シーラ、いつも俺を気遣ってくれてありがとう。す、好きだよ」
「うううぅ~っ♡ アタシも好き♡」
「シーラ、大好きだ」
「あ、アタシも、だ、大好きなんだからね♡」
二人のくちびるが近付く。
「ちゅっ♡ んんっ♡ アキぃ……」
「んっ、シーラ」
ズキュゥゥゥゥーン!
またしてもキスをしたまま覚醒した。
『スキル【専業主夫】に嫁属性【エルフ族の加護Ⅲ】が追加されました。ステータス上昇。新たに魔法が追加されます』
【支援魔法・生命力回復極大】
【支援魔法・
【支援魔法・
【防御魔法・
【特級魔法・エルフ族の叡智・
【目眩く世界】
連続での三段階覚醒だ。
更にステータスが書き換えられ、アビリティとパラメーターが急上昇する。
もうオヤクソクだが、怪しいスキルは見なかったことにした。
「ううっ、凄い……」
急にふらついた俺を心配したのか、シーラの不安な顔になった。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「あ、ああ、大丈夫だよ。またスキルが上がって」
「それ、どんな原理なのよ」
「うーん、嫁との親密度なんだろうか?」
抱っこされているシーラがドヤ顔になった。
「きっとアタシが
「ふふっ、シーラは可愛かったぞ。必死にしがみ付いてるとことか」
かぁぁぁぁ――
シーラが自分の状況を確認して顔を赤くする。
完全に『だいしゅきホールド』なのを。
「ちょ、お、降ろせぇ♡」
「はいはい」
「わ、忘れなさいっ♡ 今のは忘れろぉ!」
「忘れて良いのか?」
「忘れるなぁああぁ♡」
「どっちだよ?」
「どっちもよ!」
いつも通りのシーラで安心した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます