第49話 レイド戦

 一夜明け、俺たちはこの街の冒険者ギルドへと向かっていた。


 少しだけ夜の疲れが残っている。全部アリア女王様のせいなのだが。

 そう、それは俺がベッドで寝ている時――――


『ああぁ、アキちゃん♡ ダメだと分かってるのにぃ♡ もう我慢できない♡ ほらぁ、お仕置きの時間よぉ♡』


 目を覚ますと、俺の上にアリアが乗っていて、綺麗な足を顔に向けているところだった。


『だだだだだ、ダメに決まってます! 何してるんですか』

『だってぇ、アキちゃんが私とイチャイチャしてくれないのが悪いのよ♡』

『そういうのは恋人同士がするものです』

『もうっ、やっぱりこの鈍感男にはお仕置しかないわよね♡ えいっ』

 ぺたっ!

『うわぁぁぁぁーっ!』


 鮮明に覚えているアリアの足の記憶から現実へと戻ってきた――――


(ううっ、アリアって足の裏まで綺麗だったな。待て待て待て! 変態かっ)


 途中で起きたレイティアとシーラが止めてくれたので事なきを得た。

 あのままでは本当に一線を越えてしまいそうだった。


 アリアが魅力的過ぎて忘れていたが、あんな変態プレイを受け入れてしまったらドMまっしぐらだろう。危ない危ない。


「アキちゃん?」


 俺の視線に気付いたアリアが優しい笑顔をくれた。


「うふふっ♡」


(くっ、可愛い……。超可愛い……。あの優しいお姉さんオーラには抗えないぜ……)


 可愛いから全て許してしまう。このままでは本当にヤバいかもしれない。


 ◆ ◇ ◆




 グロスフォードの冒険者ギルドは大賑わいだった。


「へーっ、王都から来たんすかー」


 俺たちがギルドに入ると、すぐにボーイッシュな印象の受付嬢が対応してくれた。


「国境沿いは魔物が多くて危険ですよー。あっ、でもS級パーティーなら余裕っすかね。この街にはS級パーティーなんて数えるほどですから」


 どうやら強い冒険者が不足し、魔物スタンピードで困っているらしい。


「じゃあ、国境線の魔物討伐クエストを受けるよ」

「レイドミッションになってますね」


 レイドと呼ばれる集団での討伐クエストを受注する。いくつものパーティーが協力して戦闘をするものだ。

 せっかくなので稼がせてもらおう。


 ここで成果を上げれば領主の目にも留まるかもしれない。それとなく領主の身辺を探れば、スタンピードの理由も分かるというものだろう。


「あそこの集団について行けば良いんだな」


 ギルド前でレイド戦の募集をしている団体を指差す。


「はーい、そうでーす。出来高制なんで倒せば倒すほど儲かりますよー」

「それは助かるよ」


 手続きをしていると、何処からともなく現れた男が高笑いをした。


「はぁーっはっはっはっは! キミたちもS級パーティーなのかね!」


 派手なデザインの甲冑に身を包み、ちょっとスカした顔のイケメンだ。


「誰ですか?」

「よくぞ聞いてくれたね! 俺の名はジェフリー!」

「いや、べつに名前はどうでも……」

「今をときめくS級冒険者ジェフリーとは俺のことだよっ! フォッ!」


 その男の奇声とキメ顔とキメポーズで、仲間の女性メンバーが囃し立てる。


「よっ、ジェフリー様! カッコいい」

「ジェフリー様、素敵!」

「はいはい、素敵素敵」


 ちょっと関わりたくない人たちかもしれない。


「キミたちもS級なんだってね! 話しは聞かせてもらったよ」

「は、はあ……」

「どうだい、勝負をしないか?」

「したくないですね……」

「決まりだっ! どちらが多くモンスターを討伐するのか!」

「誰も決めてねーよ……」


 勝手に勝負が決まってしまった。

 そのジェフリーとか名乗った男は、高笑いと共にギルドの建物を出て行った。


「ふぁーっはっはっはっは! 楽しみだよ、王都の冒険者と勝負できるのが! まあ、俺の勝ちだろうがねっ! フォォッ!」


 そして、その場には俺たちだけが残された。


「何だあいつは?」


 俺のつぶやきにレイティアが反応した。


「アキ君っ、勝負だぞ! 負けられないっ!」

「ここにも単純なのが居たか……」

「こ、こら、一緒にするんじゃない」


 つい乗せられてしまったレイティアだが、俺の言葉で顔を赤くする。


「ち、違うぞ。どうせ討伐クエストやるなら勝ちたいだろ」

「はいはい、お姉ちゃんの為にも勝ちますよ」

「も、もうっ、アキ君のイジワルぅ♡ ばかっ」


 ギュッ!


 レイティアがふざけて俺の腕に抱きつく。調子が戻っているみたいで嬉しい。


 ギュッ!


 当然、反対側にはアリアも抱きつく。


「はいはい、アリアお姉さんにも勝利を捧げますよ」

「私はアキちゃんの初めてを捧げて欲しいなぁ♡」

「そ、それはダメですって」

「もうっ、ケチぃ♡」


 俺たちは冒険者ギルドを出て、レイド戦の集団と共に東に向かった。モンスターが大量発生しているという森だ。

 若干、後ろにいるシーラの視線が怖いのだが。


 ◆ ◇ ◆




「グギャァアアアアアア!」


 俺たち一行が東の森に到着すると、ちょうど大量のモンスターが押し寄せる現場に遭遇した。目の前には数え切れないほどのゴブリンやオークやオーガがいる。


「何だこりゃ! 想像以上に多いな……」


 予期せぬ光景に立ち尽くしていると、後ろから聞いたことのある声がかかった。


「おい、あんたは昨夜の」


 振り返ると、そこに立っているのは酒屋で話を聞いた生真面目そうな男だ。


「あんたらも討伐クエストに来たのか」

「はい、実は王都で冒険者をしていまして」

「ならちょうど良いぞ。ここはモンスターが多いからな」

「そのようですね」


 その男が剣を構える。


「来るぞ! 俺はレオンだ」

「あっ、アキです。こっちの仲間はレイティアとアリアとシーラ」

「おうっ、よろしくな!」


 レオンは前方のゴブリンに向かって走り出した。

 俺たちも戦闘態勢をとる。


「よし、バフをかけるぞ!」

【付与魔法・肉体強化大】

【付与魔法・魔力強化大】

【付与魔法・防御力強化大】

【付与魔法・魔法防御力強化】

【付与魔法・攻撃力上昇大】

【付与魔法・素早さ上昇大】

【付与魔法・クリティカル上昇大】

【付与魔法・獅子心王ライオンハート

「これで行こう!」


 俺の付与魔法で各パラメーターが驚異的上昇をする。


「これなら何も怖くないよ、アキ君っ!」

「ふふっ♡ 力が溢れてくるわよ」

「相変わらず凄いバフね」


 レイティア、アリア、シーラも驚いた表情をする。前よりバフが強化されているのだから。


「あっ、俺のレベルや各アビリティやパラメーターが上がったからか」


 自分でもビックリだ。


「戦闘開始だ!」

「「「おおぉーっ!」」」



 いざ戦闘が始まってみると、俺たちのデタラメさにグロスフォードの冒険者たちも呆気にとられてしまう。


「アキちゃん、私の活躍を見ててね♡ 地獄より顕現せし炎は万物敵を灰燼に帰せ! 地獄の業火ヘルファイア! ほらほらほらぁ! アキちゃんの敵は皆殺しよっ♡」


 ゴバァアアアアアア! ドババババババッ!


 鬼気迫る表情のアリアがモンスターを焼き尽くしてゆく。ちょっと、いや、かなり怖い。


「アキっ! アタシの活躍を見てなさい! 大気と大地の精霊に命ず! 古の契約に基づき神雷の雨よ降り注げ! 神罰の雷ジャッジメントサンダー! はぁああああっ!」


 ズババババババババ! ズドドドドドドーン!


 ドヤ顔のシーラが大魔法でモンスター共々周囲を破壊してゆく。これは天災級暴風雨テンペストと言われても仕方ない。


「よしっ、ボクも負けてられない! アキ君に良いとこ見せないと! 竜撃破ドラゴニックインパクトぉおおおお! どっせぇええええっい!」


 ズババババババババババババババーン! パンパンパーン! パパパパパーン!


 何故か二人に対抗意識を燃やしたレイティアが剣技を炸裂させる。ただ、攻撃は明後日の方向に飛んでいるのだが。


「ギュエェエエエエエエッ! ギシャァアアアア!」


 モンスターの断末魔と吹き荒れる爆風とで現場は大混乱だ。


「えっと……皆の攻撃力が凄く上がってるような? これ、俺のバフのせいなのか?」


 これならば楽勝かと思ったその時、離れた所から土煙が巻き上がり悲鳴が聞こえた。






 ――――――――――――――――


 レイド戦に挑む閃光姫ライトニングプリンセス

 他を圧倒する破壊力です。(多少ノーコンだけど)


 次回、アキが活躍します!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る