第48話 マッサージしながら東へ

 準備を整えた俺たちは、馬車に揺られ一路東へと向かっていた。

 表向きはグロスフォード東側国境線の調査である。ただ、何か辺境伯の不審な動きや陰謀めいたものを感じるのだが。


 だが馬車の旅はクラーケン退治で海に行った時以来で、ちょっとした旅行のようでもある。


 前回とは違い、竜王やら魔物スタンピードやらと物騒な話を聞いており、少し緊張しているのだが。


 そんな中、俺はレイティアを元気づけようと考えを巡らせていた。


(よし、俺が何とかしないとな。先ずは疲れているレイティアにマッサージでもしてみるか)


「レイティアお姉ちゃん」

「ん? 何だいアキ君っ」

「ほらほら、疲れてるだろ? 俺がマッサージするよ」

「えっ! ええっ!?」


 レイティアの背後に回ると、艶やかな髪をかき上げ芸術的ラインをした肩に手を置いた。


 きゅっ!

「あんっ♡」


 そのままモミモミと揉みほぐしてゆく。


 モミモミモミモミモミモミモミ――


「んぁ♡ くぅ♡ あっ♡ ダメっ♡ あぁん♡」

「どうかな? この辺りがこってるかも」


 モミモミモミモミモミモミモミ――


「あふっ♡ ちょ、そこはっ、あっ♡」

「腰も疲れているかもな。こっちもマッサージするよ」


 ムッチリと丸みを帯びたヒップを見ないように気を付けながら、キュッとくびれたウエストに手を置く。


 むにっ!


「ああぁん♡ んあっ♡ おっ♡ うくぅ♡」

「この辺もこってるような?」

「んっ♡ そこはっ♡ おっ♡ おほっ♡」

「ほら、少しは楽になったかな?」

「はぁああぁん♡ バカバカぁ!」


 ビクビクビクビクビクっ!


 レイティアが腰をビクビク痙攣けいれんさせている。白い肌はピンク色に火照っているようだ。


「もうっ! アキ君のバカぁ! キライっ」

「ええええ……」


 良かれと思いやってみたが、どうやら彼女を怒らせてしまったようだ。逆効果だったのかもしれない。

 女性経験が無いから仕方がないのだが。


「アキちゃぁ~ん! 何してるの? エッチなの? 触りたいの? 寝たいの? 付き合ってるの? ねえ?」


 一部始終を見ていたアリアがヤンデレ化した。いつものヤンデレ目で迫ってくる。


「ご、誤解です。俺はレイティアを労わろうとして」

「ふーん、そうなんだぁ。じゃあ、私も労わってくれるよね♡」

「は、はい、もちろん」


 こうして俺は、アリアにも同じようにマッサージするのだった。


 モミモミモミモミモミモミモミ――


「あはっ♡ あんっ♡ アキちゃん……そ、それ反則よぉ♡ あっ♡」

「アリアお姉さん、動くとマッサージし難いです」


 アリアは大喜びしてくれたようだ。顔がトロトロに蕩けていて怖いのだが。


「ふうっ、一仕事終えたぜ」

「ちょっとアキ! あんた相変わらずアレよね」


 シーラにツッコまれた。


「や、やっぱりやらかしてたか……」

「やらかしまくりよ! この天然エッチ」


 天然エッチの称号を得てしまった。セクハラには気をつけていたはずなのに。


「ふっ、うぷぷっ、あははっ! ほんとアキ君は面白いな。こ、この天然エッチのアキ君めっ」


 レイティアが笑っている。


「ううっ、大真面目だったのに……」

「ふふっ♡ もう、しょうがないアキ君だな。ボクを焦らしてばかりで悪い男の子だよ」

「もうマッサージはしないよ」

「そ、それなんだけど……こ、今度、添い寝した時にさ♡ して欲しいと言うか……ううっ♡」


 さっき怒ったはずなのに、またして欲しいと言われてしまった。

 まあ、結果的にレイティアの笑顔が戻ったから良しとしよう。


 ◆ ◇ ◆




 途中の街で宿屋に泊まりながら旅は続き、三日目の夜になってグロスフォードに到着した。


「ふうっ、やっと着いたか……。って、やっぱり部屋は一つなのかよ!」


 もう何度目かのツッコミを入れてしまう。途中の宿屋も一部屋しかとっていないのだから。


「やっぱりと言われても、アキ君はボクと添い寝する役目が有るし」


 当然だと言わんばかりのレイティアだ。

 とうとう役目とか言い出したぞ。


「そうよね、アキちゃんは私の性欲……禁断症状を解消する義務があるのよね♡ ぐだぐだ言ってるとお仕置きよ♡ アキちゃん♡」


 もうアリアは性欲を隠そうともしない。お仕置きには興味あるが、このままでは我慢の限界で一線を越えそうだ。


「アキっ! エッチなのは許さないんかからね! あ、アタシが監視として……そ、添い寝してやっても良いけど……ごにょごにょ」


 最近様子がおかしいのはシーラだ。

 前はもっとツンツンしていたはずなのに、今では何かと理由を付け添い寝したがる。


「と、とりあえず、先に飯にでも行くか。この地方の調理を研究したいし」


 このままだとグイグイ来られそうなので外出しようとする。しかし皆はモジモジと変なリアクションだ。


「ああぁ、アキ君のスキルの為だと分かっているのに……」

「分かるわ。アキの料理が美味し過ぎて、他のじゃ満足できなくなっちゃったのよね」

「ああぁん♡ もうアキちゃんの料理しか食べられない体に調教されちゃったぁ♡」


 こんな調子だ。


 ◆ ◇ ◆




 結局、街の酒場で食事をすることになった。

 情報収集と言ったら酒場だろう。


「グロスフォードの冒険者ギルドには明日行くとして、今夜はここで情報収集をしましょう。おあつらえ向きに地元の人が多いようですし」


 俺は適当なオッサンに声をかけてみることにした。酒を奢って情報を聞き出す戦略だ。


「一杯どうですか? 聞きたいことがありまして」

「おっ、わりいなニイチャン」

「えっと、最近変わったことはありますか?」

「ぐへへっ、良い女連れてるな。一晩いくらだ?」

「おおお、俺の女に手を出すんじゃねー!」


 いきなりブチギレて失敗した。


「はうっ♡ 俺の女とか……アキ君……」

「アキちゃん……イケない子ね♡」

「だから本音が漏れまくってるって言ってるでしょ、アキ」


 また問題発言してしまったようだ。皆が恥ずかしそうに頬を染める。

 俺に自覚は無いのだが、大切な仲間に害が及びそうになると、つい熱くなってしまうのだ。


「こ、今度は失敗しないぞ。次は、あそこの紳士そうな人に声をかけてみよう」


 今度は生真面目そうな男性に声をかけた。


「あの、俺たちは旅をしているのですが、ちょっと良いですか?」

「何だい?」


 その男性は気さくに返事をしてくれた。


「あの、変な噂を聞きまして。何でも最近は魔物の群れが多いと聞いたのですが?」


「ああ、あれか。ありゃ、たぶん東の聖域に居る竜族が非協力的になったからだな」


 王都で聞いた竜王が関係している話だろうか。


「俺はこの街で長いこと冒険者をしているんだけどな。昔は竜王の力が凄まじくて、魔物が街に近付こうとしなかったんだよな」


「つまり、この街は竜王の結界のようなもので守られていたと?」


「ああそうだ。竜王は存在しているだけで神みたいな威光と畏れがあるからな。しかし、ここの領主様が何かやらかしたのか、もう竜王の威光が届かないようになったとの噂だぜ」


(竜王の威光が届かなくなっただと? 領主と竜王の間に何かいざこざが有るのか?)


「ここだけの話だがな……」


 その男は、周囲に聞こえないよう小声で話を続ける。


「領主のアレクシス様は色々と悪い噂が絶えないお方でな」


「あくどい商売をしているというアレですか?」


「ああ、噂じゃなく事実なんだよ。少なくとも、ここグロスフォードでは公然の秘密だ。獣人族や魔族の娘を奴隷売買をしていたりとな」


「なっ!」


 俺は怒りで言葉に詰まった。


 数十年前までは、このアストリア王国でも奴隷売買が行われていた。

 しかし、奴隷として扱われている多くが魔族や獣人の若い娘ということもあり、近年では北方の魔族領域との摩擦を避ける為に禁止されているのだ。


「そういった領主様の行いが竜王の逆鱗に触れたとの噂があるんだよ」

「つまり、領主の悪行が原因だと?」

「ああ、この話は秘密だぜ。役人に知れたらヤバいからよ」


 そう言って男は捕まるといったジェスチャーをする。


「グロスフォード辺境伯、アレクシス・バールデン……。いったい、どんな男なんだ……」


 俺は何ともいえない気持ちになった。


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