第47話 蠢動

 今日も今日とてパーティー閃光姫ライトニングプリンセスの拠点は賑やかだった。


「よし、クエスト報酬に加えて国家冒険者の収入まで入るようになったからな。ここは広い家に引っ越すのはどうだろうか?」


 美女がたむろしているリビング兼寝室で、俺は力強く宣言した。


 国家冒険者になると、国から毎月給金が支払われるのだ。


 本来冒険者とは国家に関わりなく自由な職業の部分が大きい。その代わり収入はピンからキリまでで、生活が安定しない者も多いのだ。

 しかし、その中でも国家冒険者と認められた者は、様々な権利と報酬が約束される。


「そう、安定した収入を得た俺たちは、個室付きの広い家に引っ越して――」


 そこまで俺が話したところで全員からツッコミが入った。


「そんなのダメに決まってるだろ。個室付きの家に引っ越したら、アキ君と添い寝できないじゃないか。却下だ却下。まったくもうっ♡」


 この見た目は凛々しい女騎士のようなのに、実際はポンコツ感が否めないボクっ娘はレイティアだ。

 距離感がバグっていて、常に密着したがるから困る。


 美人でスタイル抜群で超可愛い。


「アキちゃぁ~ん♡ 個室を希望だなんて悪い子なんだからぁ♡ アキちゃんは、私の禁断症状を抑える為に毎晩添い寝だって言ってるでしょ♡」


 優しいお姉さん風な顔で怖いことを言うのはアリアだ。

 普段は優しくて尽くしてくれる女性なのに、たまに凄い威圧感でドS女王様っぽくなるから怖い。どんどんヤンデレ感も強まっている要注意お姉さんだ。


 美人でセクシーで超可愛い。


「アキ! 個室なんて絶対ダメよ。あんた絶対この欲求不満娘たちを連れ込んでイケナイコトするでしょ。だ、だから、あ、アタシが監視しないと。添い寝とかで……」


 この小っちゃい合法ロリっ子はシーラだ。

 小さく見えるけど一番お姉さんでもある。普段はツンツンしているけど、実は仲間思いで優しくて常識的だ。

 たまに大魔法で物をぶっ壊すのはご愛敬でもある。


 美人で愛くるしくて超可愛い。



「くっ、やっぱりダメか……。どうして俺のパーティーメンバーはゆっくり寝かせてくれないんだよ」


 もういい加減ベッドが欲しいのに、この美女メンバーときたら添い寝したがるから問題だ。こんな可愛い女子と添い寝など俺の〇〇〇聖剣が荒ぶってしまうだろう。


(あああ……皆がどんどん可愛くなってる気がするし……何だか俺に好意を持ってくれてる気がするんだよな。まあ、俺の思い込みだろうけど……。どうすりゃ良いんだ)


 こうして俺の眠れぬ日々は続く。――と、言いながらも、添い寝でぐっすり眠っている気もするが。

 そこにツッコんではいけない。


 ◆ ◇ ◆




「えっ、重要なクエストの依頼が出ているのですか?」


 冒険者ギルドに呼ばれた俺たちは、受付嬢から重要クエストの説明を受けている。なんでも、依頼主は国王とのことだ。


「はい、アストリア王国の東側にある街グロスフォードの様子がおかしいのです」

「グロスフォード?」


 王国の東側一帯は、確か評判の悪い辺境伯が治めているはずだ。あくまで噂だが、何やらあくどい商売をしているという。


「最近、グロスフォードでは魔獣の群れが頻繁ひんぱんに現れるようなのです」

「スタンピードか?」

「どうやら他にも不可解なことが多いようでして……」


 受付嬢の表情が曇る。


「グロスフォード辺境伯のアレクシス・バールデン様の動きも気になるようなのです……。ここだけの話ですが」


 辺境伯の名前を出したところで、受付嬢が小声になった。


「何だか陰謀めいた話だな……」

「噂では国王陛下と辺境伯の関係も悪いとか」

「うわっ、何だか行きたくない」


 モンスター討伐ならやる気になるが、国家の陰謀めいた話ならご遠慮願いたい。

 余り危険な話には巻き込まれたくないというものだ。


「報酬は良いそうですよ。詳しい話は王城で貴族様からあるそうです」

「陛下の依頼なら断れないか。だけど陰謀関連の話は無いかもしれないな」


 国家や貴族間の陰謀なら、たぶん冒険者に説明は無いだろう。表向きは別の調査だと言うはずだ。

 調査という名目で現地の情報が欲しいのかもしれない。まあ、その分報酬は高いのだろうが。


「皆さん……気をつけてくださいね」



 心配そうな顔をした受付嬢に手を振り、俺たちは冒険者ギルドを出て王城へと向かった。



 さっきからレイティアの様子がおかしい。

 グロスフォードの名が出てからずっとだ。


「レイティア、どうかしたのか?」


 声をかけると、レイティアは取り繕ったような表情になる。明らかにいつもの彼女とは違う。


「えっ、な、何でも無いよ。ってか、お姉ちゃんだぞっ!」

「そうだったな。お姉ちゃん」


 ふざけて合わせてはいるが、やっぱりレイティアが無理しているように見えた。


 ◆ ◇ ◆




 王城に入ると、いつぞやの気難しそうな顔をした貴族が対応に出てきた。ちょっと苦手なのだが。


「――――という訳で、お前たち閃光姫ライトニングプリンセスはグロスフォードに向かい魔物のスタンピードを調査せよ」


 一呼吸おいてから貴族が声色を変えた。


「これは他言無用なのだがな、もしかしたら竜王が絡んでいるのやもしれぬのだ……」


「えっ、りゅ、竜王……ですか?」


 貴族の口からとんでもない名が出で、俺は戸惑ってしまう。竜王と言えば、魔王と並ぶ程の最強の存在だからだ。


「何やら東海青竜王の力が弱まり、その結果、グロスフォード領内に魔物の進入を許しているのではとな」


「それは大問題では」


「本来ならば我が国の正規軍を動かさねばならぬところだ。相手が竜王とあらば一介の冒険者には荷が重かろう。しかし、こちらにも事情があるのだ。グロスフォード辺境伯は高度な自治が認められた存在であるからな」


「つまり、軍を送ると陛下と辺境伯の間に、無用な疑心暗鬼や衝突を招くという訳ですね」


「そうだ! お前は無知蒙昧な冒険者風情であるが頭が回るようだな」


 やはり一言多い貴族のようだ。褒めているようで貶された感が強い。


「承りました。グロスフォードに赴き東海青竜王の住まう聖域との国境線を調査します」


「それでは確と頼んだぞ! お前たちは国王陛下に認められた国家冒険者であるからな。報酬は十分出すつもりだ。期待に応えられるよう励むのだぞ!」


「「「はっ!」」」


 ◆ ◇ ◆




 王城を出てから、俺は後ろを歩いているシーラに歩を合わせて並んだ。


 やはりレイティアの様子が気になるからだ。何となくアリアまで気を遣っているのか、いつものように密着してこないのだから。


「シーラ、ちょっと良いか?」

「なによ」


 さっきから黙ったままのシーラが口を開いた。


「その……レイティアの様子が変じゃないか?」

「あの子はいつも変でしょ」

「それはそうなのだが」


 シーラが真面目な顔で俺を見つめる。


「ねえ、あんたって本気であの子たちの運命を背負う気が有るの?」


「俺は……。あの時は、追放され全てを失い途方に暮れていたんだ。成り行きとはいえ、そんな俺を温かく向かい入れてくれた皆には感謝している。だから、レイティアや皆が困っていれば、俺は全力で支えたい。これは本心だ」


 俺は静かだが力強く言い切った。


「そう、アキの気持ちは分かったわ」

「ああ」

「グロスフォードはレイティアの故郷なのよ」

「なっ、何だって……」


 俺は思い出した。バジリスク討伐クエストの時に、テントの中でレイティアがささやいていたあの言葉を。


『あの頃は……辛くて悲しくて……生きるだけで精一杯だったけど……』


(そうだ、レイティアは言っていたんだ。昔は辛く悲しかったと。でも、今は幸せだって。もし、その幸せの中に俺も居るのなら支えたい。レイティアが笑顔でいられるように)


「シーラ、ありがとう。俺はレイティアの味方だよ。彼女の力になりたい」

「あんたならそう言うと思ったわよ、アキ」

「大切な仲間だからな」

「故郷には良い思い出が無いみたいなの。あの子を元気づけてあげなさいよね」

「おう」


 少し間をおいてから、シーラが小声でつぶやいた。


「――――あと……アタシにも優しくしなさいよね……ごにょごにょ」

「シーラ、何か言ったか?」

「う、うっさいわね! 肝心なところで鈍感になるんじゃないわよ。ばかっ♡」


 こうして俺たちは重要クエストへと向かうことになった。

 レイティアを元気づけるよう色々と考えながら。


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