第40話 お仕置き

 久しぶりに閃光姫ライトニングプリンセスの拠点である家に戻ったのだが、部屋に入るなり三人の様子がおかしい。


「ふうっ、ちょっと疲れたな。今夜はゆっくり休むとするか」


 俺がソファーで伸びをしていると、レイティアが寄り添うように座ってきた。


「えっ、レイティア?」

「あ、あの……ボクたち、き、キス……しちゃったね♡」


 ドキッ!

 胸の鼓動が跳ねる。


 普段は少々ぶっきらぼうなレイティアなのに、たまに女の子っぽくなるのは反則だ。可愛くてドキドキしてしまう。


「あ、あれは人工呼吸だよな……」

「ふふっ♡ そだね」


(意識してしまう! レイティアを女の子として意識してしまう。もう顔を見るだけで可愛くて困ってしまう。どうすんだコレ!)


 俺がレイティアにドギマギしていると、拗ねた表情のアリアもソファーに座ってきた。


「アキちゃん、やっぱりレイティアちゃんと仲良いのね。キスしちゃったもんね。寝るの? 抱くの? お仕置するの?」


「あ、あの、アリアさんもキスしたじゃないですか。あと、お仕置きはしないです」


「だぁってぇ♡ アキちゃんとキスしたら我慢できなくなっちゃったんだもん」


 相変わらずアリアの禁断症状が激しい。


(あああぁ、アリアお姉さんのくちびるを見ると思い出してしまう。あの激しくてエッチな大人のキスを。ま、待て! 大人のキスだとっ! き、気になる。アリアの経験とか……。聞いてみようかな?)


「あの、アリアお姉さんって、そ、その、キス上手いですよね? な、慣れてたりとか……」


 当回しに聞いてしまった。

 我ながら変だとは思うのだが、アリアの男性経験が気になるのだ。前に未経験だと聞いたはずなのに。


「うふっ♡ うふふふっ♡ アキちゃんったら可愛い」


 アリアはイタズラな表情になって俺の耳元でささやく。


「安心して、アキちゃんが初めてだから」

「そ、そうなんですね……」

「キス以外も初めてしちゃう?」

「だ、ダメですよ。そんなことしちゃ」

「じゃあ、お仕置きしちゃう?」


 ゾクゾクゾクゾク――


 俺とのキスがファーストキスだったのは嬉しいが、もう本格的にアリア女王様になってきているのは怖い。このままでは調教の危機だ。

 あの受付嬢め。


「もうっ、アキ君っ! アリアとばかり話していてズルいぞ。ボクも構ってよ」


 今度はレイティアが拗ねてしまった。

 ここはやはりシーラに何とかしてもらおう。


「シーラ、今日は早めに休もうか? 皆に――」

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬ!」

「って、怒ってる!?」


 シーラは両手をグニグニ握って怒りを表現していた。


「あれっ? おかしいぞ。パーティー内での女性関係には十分注意しようと思っていたのに、どんどんヤバくなっている気がするのだが……」


 このままでは不適切な関係で修羅場直行だ。俺は荒ぶるお姉さんたちを酔わせて危機回避することに決めた。


「はい、今夜はスキヤキにしますから。お酒をどうぞ」

「ああぁん♡ アキちゃんに飲ませてもらえるなんてぇ♡」

「はうぅ♡ アキ君に勧められると断れないよぉ♡」


 こうして夜は更けてゆく。二人を酔わせて眠らせながら。


 ◆ ◇ ◆




 深夜、物音に気付いた俺は、そっと薄目を開けた。


 ギシッ、ギシッ、ギシッ――


 星明りが微かに照らす暗い部屋の中で、誰かが忍び足で近付いて来るのが見える。


(あれっ? あの長い耳はシーラかな? 何やってるんだ)


 何か見てはいけないものを見てしまった気がして、俺は目をつむり寝たふりをした。


 ギシッ、ギシッ――


 俺の寝ているソファーまで近付き足音が止まった。

 何となく顔を覗き込んでいる気配がする。


「ふふっ、アキったら呑気な顔で寝てるわね。ホント可愛い年下男子って感じね。そうよ、アタシはお姉さんなんだから」


(おい、シーラは何を言っているんだ。どう見てもシーラが妹キャラだろ。まあ、年上ぶるのも可愛いけどな。ふふっ)


「まったくあんたってば、いつも無茶ばかりして。アタシを心配させるんじゃないわよ。で、でも……ありがと。感謝してるんだからね」


(シーラ……ありがとう。俺を心配してくれてるんだな)


「で、でも、ムカつくんですけど。アタシは人工呼吸を覚えてないのに、アリアやレイティアにはキスしたりして。ほっんとムカつく」


(は? もしかして人工呼吸したのに怒ってるんじゃなくて、他の子に人工呼吸したのを怒ってるのか?)


 更にシーラの顔が近付く気配がする。


「アキ…………ちゅっ♡」


 そっと俺のくちびるに触れる柔らかな感触があった。


(えっ? ええっ? 何だ今のは?)


「えへへっ、キスしちゃった。こ、これはお仕置なんだからね。あんたがアタシにだけキスしないんだから。か、勘違いしないでよね」


(ええええええっ!? ききき、キスぅううっ! シーラ……何やってんだ? てか、一人でツンデレコントしなくても)


「んっ……えへっ、えへへっ♡ アキとキスしちゃった♡ らったったぁ♪」


 シーラが一人で踊っている気がする。


「よし、もう一回キスしとこう。んちゅ♡」


(あああぁ、これどんな状況? 俺はどうすれば良いんだぁ!)


「も、もう一回……ちゅっ♡ あ、あと一回……ちゅっ♡ さ、最後に一回……ちゅっ♡ ど、どうせだからいっぱいしようかしら……ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ♡」


 キスの嵐のようにチュッチュッチュッチュされた。


 目をつむっているのに小さくて可憐なシーラのくちびるを思い出してしまい、胸の鼓動は早鐘のように激しくなってしまう。


「ふうっ、お仕置き完了ね……って、ああ、アタシ、何やってんのよぉ……。こ、こんなの人にバレたらおしまいだわ。バレたら消さないと」


(消されるぅううううっ!)


 ギシッ、ギシッ、ギシッ――


 俺の不安を他所に、キスし終わったシーラは忍び足で自分のベッドに戻って行った。


(おい、どうすんのこれ? こんなドキドキしてたら眠れないんだけど)


 この胸のドキドキが収まるどころか、体の中ではスキルがレベルアップしてしまう。またしてもキスで覚醒だ。


 『スキル【専業主夫】に嫁属性【エルフ族の加護Ⅱ】が追加されました。ステータス上昇。新たに魔法が追加されます』

【支援魔法・生命力回復大】

【支援魔法・解呪ディスペル

【支援魔法・肉体再生治癒エクストラヒール

【防御魔法・防御障壁プロテクション

【やみつきエッチ】


 ステータスが書き換えられ、アビリティとパラメーターが大幅に上昇する。

 いつものことだが最後の一つが気になる。もう絶対にエロい魔法なので見なかったことにした。


 ◆ ◇ ◆




 チュンチュンチュン――――


 小鳥のさえずりと共に俺は目を覚ました。朝チュン展開のようだが、決して朝チュンではない。

 しかし深夜のキスを思い出してしまい顔が熱くなってしまう。



「アキ君おはよう。ふぁ~」

「おはようアキちゃん♡」


 レイティアとアリアが同じタイミングで起きてきた。


「おはようございます」


 勘の良いアリアが俺の表情の変化に気付いてしまう。


「アキちゃん? 顔赤いわよ」

「えっ、こ、これは……」


 丁度その時、シーラがやってきた。


「おはよう……って、あ、アキ……」


 俺の顔を見るなり、シーラが赤面する。耳まで真っ赤だ。


「あ、あははぁ、アキったら朝っぱらからエッチな顔してるわね。アリアにお仕置でもされたの?」


 何かを誤魔化すように、シーラは俺に絡んできた。


「さ、されてないから。お仕置きならシーラが夜にしただろ……あっ、ヤベっ」


 ちょっとだけ口が滑った。


 ワナワナワナワナワナワナワナワナ――


 これ以上無いくらいシーラが動揺している。こんなシーラを見るのはレアかもしれない。


「あ、ああ、あんた……ま、まさか起きて……」

「ななな、何のことだ? 何でもないぞ」

「う、うそっ! もしかして……アタシのアレ……」

「えっと、俺は何も見てない、人工呼吸とか」


 必死に誤魔化そうとするが、俺も動揺しているので再び口が滑ってしまう。


 ワナワナワナワナワナワナワナワナ――


「うっぎゃぁああああぁ! 消すしかねぇ!」

「うわっ、落ち着けシーラ! 人工呼吸だから」

「あああぁん♡ クールな大人の女であるアタシのイメージがぁ!」


 ポカポカポカポカ!


 クールな大人かは知らないが、羞恥心が限界になったシーラのポカポカ攻撃を受け続けることになってしまった。


「人工呼吸なら問題無いということで」

「ばばば、ばかぁ! あれは、おお、お仕置よ!」

「じゃ、そういうコトで」

「あああぁーん♡ もう忘れなさい!」


 アリアのお仕置を警戒していたら、まさかのシーラにお仕置されてしまった。


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