第39話 S級冒険者

「バジリスクを討伐しちゃうなんて凄いです! アキさんって、とても強いんですね」


 笑顔の受付嬢が言う。いつもながら意味深な感じで。


 ここは冒険者ギルド。俺たちはバジリスク討伐クエストを終え、王都リーズフィールドに戻ってきたところだ。


「いえいえ、パーティーの皆の協力あってこそですよ」

「うふっ、謙遜するアキさんも素敵です」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 さっきからレイティアとアリアの威圧感が凄い。受付嬢が意味深な発言や俺に目線を送る度に、彼女たちの圧が強まっているのだ。


「受付嬢さん、それで報酬と昇級の話は?」

「もうっ、受付嬢さんとか他人行儀ですよ。私のことはエイミィと呼んでくださいね」

「はあ……」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――


(おい、この女、わざとやってるだろ。前から気になってたけど、俺が皆にグイグイ来られてるのを見て楽しんでた気がするんだよな)


 因みに受付嬢の名前がエイミィなのは初めて知った。


「アキさん、報酬を用意しますので別室に来てもらえますか?」

「は、はあ……」


 受付嬢の後について奥にある個室へと入った。

 ここの部屋は、秘密の会話や商談を行うのに使っている場所なのだが。


 バタンッ!

 俺を入れてから後ろ手でドアを閉めた受付嬢が、ニマァと悪女っぽい笑みを浮かべる。


「お、おい、何をするつもりなんだ?」


 俺の質問をスルーした受付嬢が、ブーツを脱ぎ少々蒸れたタイツ足を俺の顔に向けた。


「はい、アキさん。私の足を舐めてくださいね」

「は?」


(おい、この女は何をやっているんだ? ドSか? ドSなのか?)


「えっと、何の冗談ですか?」

「冗談に見えます?」

「えええ……」

「ほらぁ、早く舐めて。アキさん」

「うわぁ! 変態だぁ!」


 ガチャッ!

「アキちゃん、まだぁ?」


 俺の顔に受付嬢の足が当たりそうな場面で扉が開き、何も知らないアリアが入ってきた。


「ヤベっ、これ死んだ?」

「はい、アキさん、こちらがバジリスク討伐の報酬になります」

「おい、無理あり過ぎだろ!」


 ドSプレイを完全スルーした受付嬢が、淡々と報酬の金貨を用意する。


「えっと……アキちゃん、今のは何かな?」


 優しい声と笑顔で俺に話しかけるアリアが怖い。むしろ怒ってないのが余計に怖い。


「ねえねえ、アキちゃん。受付嬢さんと何かあったの? 足好きなの? 踏まれたいの? ねえ? ねえ?」

「ちょ、アリアお姉さん、落ち着きましょう」

「私は落ち着いてるよ。落ち着いてないのはアキちゃんでしょ」


 俺がアリアにグイグイ迫られていると、受付嬢はクスクスと笑い出した。


「うふふっ、あははっ、ご、ごめんなさい。やっぱり仲がよろしいのですね。冗談ですよ、冗談」


 この女は何を言っているのだ。


「実は前々からアキさんの様子を見ていたんです。アリアさんやレイティアさんに挟まれているのが面白くて。うふっ、実はアドミナの旅館を相部屋にしたのも私なんですよ」


「あんたが原因か!」


「あははっ、すみません。私って女性に免疫無さそうで真面目な男性が調教されてるのを想像するのが大好きなんです。こう、体の奥がゾクゾクしちゃうから」


「へへ、変態だぁ!」


 困った受付嬢さんだ。

 その問題の受付嬢だが、何やらアリアに耳打ちしている。


「アリアさん……アキさんって、さっきみたいなプレイが好きみたいですよ。おススメです」


「おい待て! アリアに変な性癖を植え付けるな」


 俺が止めに入るが一歩遅かったようだ。アリアは『良いことを聞いた』とばかりにニンマリしている。


「しまった……ただでさえアリアの禁断症状が激しいのに、ドS属性まで付いたらどうなっちゃうんだ」

「アキちゃん♡ 大丈夫だよ♡ 優しくするからぁ」

「は、ははは、お手柔らかに……」


 アリアが優しくてエッチなお姉さんから、優しくてエッチでドSなお姉さんにジョブチェンジしたところで、他のメンバーも入ってきて報酬の話になった。



 机の上に報酬の金貨が積まれてゆく。


「はい、こちらが閃光姫ライトニングプリンセスさんの討伐クエスト報酬です」


【討伐報酬 金貨230枚】


 受付嬢が持ってきた金貨が積み上がる。


「けっこう多いな。まあ強いモンスターだったけどさ」

「こんなに強いモンスターばかり討伐するパーティーは珍しいんですよ。他にはS級パーティーくらいです」

「だよな」


 そこで俺は思い出す。レアっぽい素材がドロップしたのを。


「そういえば、この石なんだけど」


 カタッ!

 テーブルの上にドロップした石を置く。


「これは幻魔鉱石ですね。稀に強い魔力を持つモンスターからドロップされるようです」

「金か素材になるのか?」

「売れば金貨500枚、素材ならレア武器の原料になります。どうされますか?」


 換金すれは、かなりの大金だ。

 どうしようか考えていると、レイティアが口を開いた。


「せっかくだからアキ君の武器を作ろうよ」

「レイティア?」

「ずっとアキ君にお世話になりっぱなしだからね。お礼もしたいんだ」


 レイティアの意見に皆も賛同する。


「そうよね。アキちゃんにお礼しないと」

「そうね、アタシも何かプレゼントしたかったのよ」


 皆が笑顔で俺を促す。


「あ、ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて武器にさせてもらうよ」


 皆の好意で胸が熱くなる。


 グリードたちに奪われたアイテムは、結局返してもらっていないのだ。たぶん売ってしまったのだろう。最初から期待していなかったが。

 それだけに、皆の優しさが胸に染みるのだ。



 報酬を受け取って部屋を出ようとする俺に、受付嬢が声をかけた。


「アキさん、この後、ギルド長からお話があるそうですよ」

「ガイナークさんから?」

「はい、昇級の件だと思います」


 話が終わったかと思った俺に、受付嬢は耳元でささやく。満面の笑みで。


「今夜はお楽しみですね。オ・シ・オ・キ・」


 勘弁してくれ。


 ◆ ◇ ◆




 四人揃って二階のギルド長室へと向かう。

 部屋のドアを開けると、ガイナークさんが笑顔で迎えてくれた。


「やあ、よく来てくれた。バジリスク討伐ご苦労さん」

「ガイナークさん、話って昇級の件ですよね」

「ああ、勿論だ」


 頷いたガイナークさんが続ける。


閃光姫ライトニングプリンセスのS級冒険者への昇級を認めよう。今日からお前さんたちはS級冒険者だ」


「「「やったぁああああぁ!」」」


 S級冒険者と聞いた皆が歓声を上げる。


「ついにボクたちがS級パーティーに」

「やったわね。S級よ、S級っ!」

「夢みたいだわ。アタシたちがS級だなんて」


 喜ぶ皆を見ていると俺も嬉しくなる。皆で協力して成し遂げたのだと。


 ガイナークさんが真面目な顔で俺を見る。


「こんなに短期間でC級からS級に昇級したパーティーは初めてだよ。アキ、お前さんは良くやってるよ」


「ガイナークさん……」


「お前さんたちになら任せられるな。今度こそ国家冒険者にならないか? 俺が国王陛下に推薦状を書くよ。前回は残念なことになってしまい、俺も後悔していたんだ」


 一年でS級に上り詰めた煌く剣戟シャイニングソードを推薦しようとした矢先に、あの内紛からの凋落ちょうらくだ。

 推薦したガイナークさんとしても、さぞがっかりしただろう。


「ありがとうございます。やっと……やっと取り戻したんだ……。仲間も……S級冒険者も……国家冒険者への道も」


 感極まって震える俺の肩に、ガイナークさんはそっと手を置く。


「良かったな。お前さんの努力が報われたんだ。地味だと思われがちな支援役サポーターだが、人知れず苦労を重ね人の為に尽くしてきたのだからな。それに、今の仲間に巡り合えてかえって良かったじゃないか」


「そうですね。裏切られた時は絶望しましたが、それがあったから今のメンバーに逢えました」


 そうだ、裏切られ絶望していた俺に、生きる希望と明日への展望を与えてくれたのは、ここに居る三人の美少女なのだ。

 俺は皆を大切にしようと改めて誓った。


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