第38話 もしかしてスキ?

「うおぉおおおお! ステータスがぐんぐん上がってゆくぞ! これなら勝てる!」


 俺の中で各パラメーターやアビリティが驚異的スピードで書き換えられてゆく。どれもが信じられないような数値に。


「よくも、よくも俺の大切な仲間に手を出してくれたな!」


 ずきゅぅぅぅぅーん♡

「はうぅぅ~ん♡ しゅきぃ♡」


 俺の体の下でレイティアが変な声を上げているが、今はそれどころではない。


「はああああっ! よしっ、回復魔法と一緒に新たにバフをかけるぞ!」

【支援魔法・生命力回復】

【支援魔法・状態異常回復】

【付与魔法・攻撃力上昇大】

【付与魔法・素早さ上昇大】

【付与魔法・クリティカル上昇大】

【付与魔法・獅子心王ライオンハート

「これで一気に巻き返してやる!」


 瞬時に俺とレイティアの怪我を治し生命力HPを回復させる。そしてステータスを一気に押し上げた。


 ザンッ! ガシッ!

 ズガガガガガガガガッ!


「うおぉおおおおおおおお! これがスキル【専業主夫】支援役サポーターの力だぁああああ! どりゃぁああああ!」


 俺は巨大なバジリスクの首根っこを掴んで押し返す。まさかの力業だ。驚異的に力が上がった今の俺なら可能である。

 これで敵の動きが止まった。


「アリア、シーラ、奴の腹に魔法をぶち込め!」

「「了解っ!」」


 上から二人の声が返ってきた。


「はぁああああああぁん! 何かすっごい嫉妬しちゃうんだけどぉ! 火炎槍フレイムランス! 火炎槍フレイムランス! 火炎槍フレイムランス! きゃああああぁん!」


 スガガァン! ズガガァン! ズガガァン!


 アリア怒涛の火炎攻撃だ。声に怒りがこもっていて怖い。


「もぉおおおおおおっ! 何か腹立つわね! 雷槍サンダースピア! 雷槍サンダースピア! 雷槍サンダースピア! くらいなさい!」


 ズババババッ! ズババババッ! ズババババッ!


 シーラ壮絶な雷攻撃だ。やはり怒っているみたいで怖い。


「キシャァアアッ! キシャァアアアアアアアア!」


 二人の攻撃でバジリスクの腹に穴が開き、その長い尾を乱れさせながらのた打ち回る。周囲の木々を薙ぎ倒しながら。


「よし、今だレイティア! 剣技でとどめを刺せ!」

「はぅううぅん♡ しゅきぃ♡」


 肝心のレイティアが呆けていて役に立たない。ポンコツさんかな。


「お、おい、レイティア! レイティアお姉ちゃん! おねえちゃーん!?」

「はっ! いけないいけない! エッチなこと考えてたよ」

「お、おい……」


 戦闘中にエッチなことを考えるなんて、やはりポンコツ娘なのか、それともよほど豪胆なのか。


「うおぉおおおおっ! 恋のパワーで元気百万倍! 今なら何でもできそうな気がするよ!」


 レイティアが剣を高く振り上げる。


「よし、ぶちかませレイティアお姉ちゃん!」


 俺は掴んでいたバジリスクの首を持ったままぶん回して放り投げた。


 ドガガガガガガーン!


「よし、今だ!」

「愛とムラムラの必殺奥義っ! 竜撃破ドラゴニックインパクト! どっせええええええっ!」


 ズババババババババババババババーン! パーン! パパパパパーン!


「キシャァアアアアアアアア! グシャアアアアアアア!」


 レイティアの一撃はバジリスクを両断させた後、まるで爆撃のように敵を爆発四散させる。更に勢い余って後方の木々や岩まで破壊しながら空間を突き抜けた。


「凄い……凄いぞレイティア!」

「ううぅ♡ 好き……のおかげかな……」

「よし、今夜はレイティアの好物のスキヤキにしよう」

「は?」

「ほ、ほら、スキヤキ好きなんだろ?」

「ううぅ……やっぱりイジワルだよぉ♡ ばぁか♡」


 レイティアが拗ねてしまった。

 ただ、スキヤキと言った俺だが、内心はキスの件でドキドキが収まらない。


(あれって……キス……だよな。レイティア……どうしちゃったんだ? もしかして俺のことを……。そ、それはないか。思い上がるな俺っ!)


「あれっ? 何か素材みたいなのがドロップしてるな」


 魔石を回収しようとすると、その横に見慣れぬ物体が落ちている。


「何だこれ? 変な色の鉱石だな。あっ、【自動展開魔法・幸運値上昇】でドロップ率も上がったのかな」


 魔石と一緒にかばんにしまっておく。


「じゃあ戻ろうか、レイティア」

「う、うん♡ はうぅ……」


 まだレイティアの様子がおかしい。

 俺も、何度も何度もキスシーンを思い出してしまう。


(き、きっと、生命の危機で混乱していたんだよな。ほら、人は危機に瀕すると性欲が増すって言うし……。きっとそうだ)


 自分にそう言い聞かせながら谷を登る。後ろからついて来るレイティアの息遣いにドキドキしながら。



 皆と合流すると、待ち構えていたのは強烈なハグだった。


 ガシッ! ぎゅぅぅぅぅ~っ!


「バカっ! バカバカぁ! アキちゃんのばかぁ! どうしてあんな無茶なことするのよ。アキちゃんが死んじゃったらどうするの……」


 俺の胸でアリアが涙を流す。


「ごめん、ついムキになって……。泣かないで、アリアお姉さん」


 ぎゅぅぅぅぅ~っ!

 背中にシーラがくっついてきた。


「無茶するんじゃないわよ! あんたが無茶する度にアタシが心配するんだからね。も、もうっ、アキがいなくなったらアタシは……」


「ごめんな、シーラ。仲間を助けようと必死で……。これからは気をつけるよ」


 しんみりとした雰囲気になったのはそこまでで、泣いていたアリアの威圧感が高まってゆく。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ――


「アキちゃぁーん! キスしてたよね? レイティアちゃんと付き合ってるの? 寝たの? エッチしたの? あやしい。ねえ? ねえ?」


「うわぁああっ、怖っ!」


 ヤンデレ目になったアリアが怖い。マジで怖い。


「アキちゃん、さっきレイティアちゃんのこと大好きって言ってたよね?」

「えっ、スキヤキの話では?」

「うふふふふっ♡ ふざけてるの? お仕置けってぇーい♡」

「やっぱり怖っ!」


 俺のお仕置が決定したところで帰還の準備となる。家に戻ってからが恐ろしい気がするが。



「と、とりあえず戻りましょう。家に帰るまでが冒険ですよ」


 歩き出すと、レイティアが俺の袖を掴んできた。


「アキ君……そ、その……あれは……ううっ、恥ずかしい♡」


 さっきからレイティアが真っ赤になって俯いている。普段は積極的なのに、実は恥ずかしがり屋なのかもしれない。


「えっと……あれは、そ、そう、人工呼吸だよな?」

「そ、そうだね。えへへっ♡ 人工呼吸しちゃったね♡」


 照れているレイティアが可愛い。凄く可愛い。


(お、落ち着け俺! ああ、レイティアの綺麗なくちびるに目が行ってしまう。意識しちゃうじゃないか)

 

 そこでアリアがポツリとつぶやく。


「アキちゃんって、全員と人工呼吸しちゃったんだ」


 シィィィィーン!

 その言葉で皆が押し黙る。


「こ、これは仕方がなかったんだ。そう、緊急事態だよ。シーラの時は溺れていたし、アリアの時は禁断症状だろ。レイティアは……何かアレ的な?」


 ガシッ! ガシッ!

 シーラが俺の足を蹴っている。


「おい、シーラ、何で蹴るんだ?」

「ムカつくし。何かアタシの時と違わない?」

「それはだな……」

「アキのエッチ」


 ギュッ! ギュッ!

 俺の腕に抱きついているレイティアの腕に力が入る。


「仕方ない? アレ的? アキ君っ、ボクの純情を返してよぉ」

「れ、レイティア? レイティアお姉ちゃん?」

「ううっ♡ ばかばかぁ♡ 勇気を出して……したのにぃ♡ ごにょごにょ」

「ちょ、近い! 顔が近い! てか、くちびるが近い!」


 もうキスしそうな勢いでレイティアがグイグイ来る。


「アキちゃぁん♡ 悪い子のアキちゃんはキツいお仕置するからねっ♡」

「アリアお姉さん、お、お手柔らかにお願いします……」

「うふふっ♡ 楽しみだなぁ♡」


 反対側からアリアがグイグイ来て逃げ場が無くなる。


「ホントしょうがないわね! やっぱりアタシがついてないと」

「おい、シーラまで……」

「か、勘違いするんじゃないわよ! あんたがエッチだから監視よ、監視!」


 監視とか言いながら、シーラが俺の背中に張り付いている。


「あああ、こんなの我慢できないぞ……。俺はどうしたら……。無下に断ったら加護が呪いに反転しそうだし」


「だからボクと添い寝するんだよ」

「私と添い寝決定よ、アキちゃん♡」

「見張る意味でもアタシが添い寝しないと」


 皆が添い寝を所望する。

 俺のベッドは当分買ってもらえそうにないようだ。


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