第37話 彼女は俺が守る3

 木々に囲まれた谷の奥から奇怪な鳴き声が聞こえた。声だけで体が痺れそうな感覚だ。


「この声は、もしかしてバジリスクか!」


 ギシャアアアアアアアアアア!


 木々を震わせるような鳴き声が木霊こだまのように響き渡った。

 それに反応するようにレイティアが飛び出そうとする。


「よし、ボクに任せてくれっ!」

 ガシッ!

「待ってレイティア!」


 飛び出そうとした彼女を俺が止めた。

 最初の頃は猪突猛進だったレイティアだが、最近はだいぶ俺の言うことを聞いてくれるようになった気がする。


「闇雲に飛び出すと石化されるぞ。落ち着こう」

「う、うん」


 俺は作戦を考える。


 この先は谷になっているようだ。谷底に下りると圧倒的に不利になってしまう。

 しかし、上から攻撃しても遠いし遮蔽物じゃへいぶつも多く逃げられるかもしれない。確実に命中させるには、谷底に下りて敵を足止めする必要があるだろう。


 先ずは前衛だ。俺はレイティアを見つめる。


「レイティアは正面から敵を牽制。石化魔法をしてくるから避けてくれ」

「よしきた!」


 続いて後衛だ。


「アリアとシーラは両側に分かれ、上から魔法で攻撃だ。俺とレイティアで敵の動きを止めるから、確実に当ててくれ」


「分かったわ」

「任せて!」


 戦闘の前に支援魔法だ。


「よし、一気に行くぞ!」

【付与魔法・肉体強化大】

【付与魔法・魔力強化大】

【付与魔法・防御力強化大】

【付与魔法・魔法防御力強化】

【付与魔法・攻撃力上昇】

【付与魔法・素早さ上昇】

【付与魔法・クリティカル上昇】

「強化完了!」


 俺の支援魔法でメンバー全員のパラメーターが驚異的上昇をする。


「す、凄い、凄いよっ! アキ君っ、前より強くなってる」

「これどうなってんのよ! めっちゃ防御硬いわよ」

「アキちゃん素敵ぃ♡ 頼りになるわぁ♡」


 防御系が飛躍的進化だ。これも【魔族の加護Ⅱ】のお陰だろう。


「よし、作戦開始!」

「「「おおーっ!」」」


 アリアとシーラがポイントに向かうのを確認してから、俺はレイティアに声をかけた。


「よし、行こう」

「うんっ!」


 ザッ! ダンッ、タッ、ズサッ!


 岩を覆うようなこけで滑りやすい足場を確認しながら谷底へと下りる。


「レイティア、バフで防御は十分だけど、石化だけは気をつけるんだ。俺の魔法で状態異常を回復できるが、石化した状態で攻撃をくらうとマズい」


「了解だよっ、バラバラにされちゃうと直らないからね。ボクの技を見ててくれよな。あと、お姉ちゃんだぞっ」


「その通りだ。気を付けろよ、お姉ちゃん・・・・・!」


 お姉ちゃんを強調しておく。彼女のテンションを上げるのも支援役サポーターの役目だ。



 ズザザザザッ!


 谷底に到着するとバジリスクの全容が見えてきた。思っていたよりも大きい。


 巨大な蛇のようでもありトカゲのようでもある。緑色の皮膚に茶色と紫色の縞模様が浮かび、背中にはトサカのようなヒレが付いている。


「キェェエエエエエエエエエエッ!」


 バジリスクが咆哮した。


「来るぞ! 石化に注意だ」

「おうっ!」


 俺とレイティアが横に飛んだ瞬間、その場にあった木々が石に変わっていた。


「かなり強力な石化だ。直撃したらマズいぞ。避けながら攻撃だ」

「任せてアキ君っ! どりゃぁああああ!」


 ズダダダダーン!


 レイティアの放った技は、あっさりと避けられてしまう。バジリスクの動きが速いのだ。


雷槍サンダースピア!」

 ズババババッ!

火炎槍フレイムランス!」

 ゴバァアアッ!


 ズサッ! ザッ!


「なっ、何ッ! 全部かわされただと! こいつ、思ってたより頭が良いぞ」


 レイティアの攻撃を俊敏な動きで避けた後は、上からの魔法攻撃を岩や木の陰に入りかわした。このバジリスクは、かなりの経験と戦闘力の持ち主のようだ。


(マズいな、この速さ。動きを止めないと魔法は当たらないか。しかし、止める為に近付けば石化される)


 その時、俺は信じられない光景を見た。


 ズボボボボッ! グガガガガガッ!


「なっ! 地面に潜っただと!」


 バジリスクは地面を掘り地中に消えてしまった。そして次の瞬間には――


ズダァアアアアーン!

「ぐあぁああっ!」

「レイティアぁああああ!」


 レイティアの真下から現れたバジリスクが、彼女を跳ね上げる。


「キェェエエエエエエエエエエッ!」

「ああっ! 体が――――」


 レイティアの体が石に変わって行く。


「させるかぁああ!」

【支援魔法・状態異常回復】


 シュワァアアアア!

 石化されたレイティアの体が元に戻る。


「よし、これなら行ける」


 元に戻ったレイティアが攻撃を繰り出そうとするが、体勢を崩してしまう。


「ボクに任せて、って、ああっ!」

「レイティア、足を怪我したのか!?」

「だ、大丈夫だよっ! これくらいなら」

「待て、一旦下がるんだ」


 ポーションとスキルで回復させようとしたその時、再びレイティアが石化魔法をくらってしまう。


「キェエエエエエエッ!」

「ぐああああっ!」


 足を石化され、レイティアはその場に倒れた。


「レイティア、逃げろぉおおおお!」


(マズい! レイティアが動けない! このまま攻撃されたら彼女は!)


 動けないレイティアにバジリスクの追撃が迫る。その巨大な蛇頭を砲弾のようにして突っ込んで行く。

 俺は体が勝手に動いていた。


「俺のレイティアに手を出すなぁああああああ!」


 ズドドドドドドーン!

「ぐあぁああああ!」


 レイティアの上に覆いかぶさった俺の背中に、バジリスクの一撃が落ちてきた。地面を振動させる程の衝撃だ。


「キェエエエエエエ!」

 ズドォオオオオーン! ズドォオオオオーン!


「ぐあぁああああ! 【支援魔法・生命力回復】【支援魔法・状態異常回復】ぐおぉおおおお!」


 一撃一撃が一気に生命力を削られる。俺は自身に支援魔法をかけ、ゴリゴリ削られる生命力を回復させ続けた。

 だが、このままでは長くは持たないだろう。


「レイティア、俺が石化を解くから逃げろ!」

「い、嫌だぁ! アキ君を置いて逃げるなんて」

「一旦逃げて体勢を立て直せ!」

「アキ君っ! アキ君っ! アキ君が死んじゃう!」


 ズドォオオオオーン! ズドォオオオオーン!


「ぐああぁっ! お、俺は……俺はレイティアを守る! この身に代えても大好きなレイティアを守るんだぁああ!」

「だだだだだ、だいしゅきぃ!?」


 何か重大な問題発言をした気がするが、今はそれどころではない。何とかして、この危機を回避しなくては。


「あっ♡ ああっ♡ らいしゅきぃ♡ あ、アキ君がボクを大好き♡ はぅううううっ♡♡」

「お、おい、レイティア! 話を聞いてるのか!?」

「しゅきしゅきぃ♡」

「おい、どうした?」


 レイティアが挙動不審だ。いつも挙動不審なのだが、今回のは極め付けにおかしい。


「はうぅ♡ ボ、ボクは、もう我慢できないよぉ♡ こ、こんな状況なのに、おかしくなっちゃうぅううっ♡ んちゅっ♡」

「んっ!?」


 レイティアにキスされた。


(えっ? 何で? キス……だよな? 俺、レイティアにキスされてるのか?)


 その時、体の中でスキルがレベルアップする感覚があった。この非常事態に、まさかの覚醒だ。


『スキル【専業主夫】に嫁属性【竜族の加護Ⅱ】が追加されました。ステータス上昇。新たに魔法が追加されます』

【付与魔法・攻撃力上昇大】

【付与魔法・素早さ上昇大】

【付与魔法・クリティカル上昇大】

【付与魔法・獅子心王ライオンハート

【カーマスートラ】


 ステータスが書き換えられ、アビリティとパラメーターが大幅に上昇する。

 もうオヤクソクで最後の一つが気になるが、ヤバい雰囲気なので見なかったことにした。


「ぐああああああああっ! ここでまさかのレベルアップだと! す、凄い! 力が溢れてくる!」


 キスでパワーアップなど後が怖い気もするが、反撃の時間がやってきた。


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