第35話 昇格クエスト

 ガイナークさんにうながされてギルドの受付へと向かう。待ってましたとばかりに、いつもの受付嬢が依頼表を取り出した。


「アキさん、試合見ましたよ。カッコよかったです」

「ど、どうも」


 受付嬢が余計なことを言い出して、両脇に密着している二人から圧が強まってしまった。


「アキちゃん♡ 浮気はダメよぉ」

「あの、アリアお姉さん……?」


 アリアの威圧感が凄い。

 そしてレイティアはせつない顔になる。


「どうしよう……アキ君が他の子と楽しそうにしていると胸が苦しくなるんだけど」

「レイティアお姉ちゃん?」


 ぎゅっ♡ ぎゅっ♡

 ぎゅっ♡ ぎゅっ♡


 両サイドから胸の圧が凄い。これがホントの胸熱展開だ。


「あぁ、ぱい圧が凄い!」


 冗談はこれくらいにして受付嬢から説明を聞く。

 若干じゃっかん、両側からの視線が怖いが気にしてはいけない。



「最近西の街道へと続く森に魔獣が住み着いたようなのです。その魔獣により帝国との貿易にも影響が出ているそうで……。アキさんたちには、そのレアで狂暴な魔獣を退治していただきたいのです」


 受付嬢は話しながら期待を込めたような目で俺を見つめる。


「そのレアで狂暴な魔獣とは一体?」

「よくぞ聞いてくれました! バジリスクですよ、バジリスク!」


 ちょっと芝居がかった話し方の受付嬢だ。ノリノリである。


「バジリスクは強敵だな。戦闘力自体が強い上に石化魔法まで使う。近付いたら石にされるぞ」


「はい、仰る通り並みの冒険者では倒せません。でも、アキさんたち捕食姫プレデターじゃなかった、閃光姫ライトニングプリンセスならお任せできますよね」


 正直なところ以前の俺なら断っていただろう。だが、今の俺はスキル覚醒し様々な加護が付いている。状態異常回復魔法が使えるからイケるはずだ。


「よし、やってみようか」


 俺が彼女たちの方を向くと、皆が力強く頷いている。


「アキ君と一緒なら何でもやれそうな気がするよ」

「私もアキちゃんと一緒なら地獄の底でもついて行くわよ♡」

「地獄の底は遠慮したいけど、アタシに任せなさい!」


 話はまとまった。

 俺たちはS級冒険者への昇格クエストを受けることとなる。もし成功したのなら、こんなに短期間での三階級アップは初らしい。


 ◆ ◇ ◆




 冒険者ギルドを出て、賑わう商店街を皆で歩く。まだ買い物が残っているのだ。


「夢のようだよ。万年C級だったボクたちが、まさかS級冒険者になれるだなんて」


 まさに夢見心地な顔でレイティアがつぶやいている。


「まだS級になれると決まったわけじゃないぞ」

「もうっ、アキ君は慎重派だなぁ」

支援役サポーターとは慎重なものですよ」

「でもアキ君って結構強引なとこもあるよね。じょ、女性関係で」

「そうかな?」


 (俺が強引? むしろ女性には奥手というか消極的だと思うけど……)


「ほら、ボクのお尻に硬いモノを押し付けたり。はうっ♡」

「ん? 何のことだろ」


 相変わらずレイティアが挙動不審だ。この距離感がバグっているお姉ちゃんを何とかする為にも、俺には重要なミッションが有るのだが。


「今日はベッドを買いに行こうと思うんだ」


 さすがに毎日ソファーで寝るのもキツくなってきた。しかも何度か添い寝されたりと落ち着かない。

 そろそろベッドでぐっすり眠りたいところだ。


「そ、それなんだけどさ……。あ、アキ君はボクのベッドで寝るのはどうかな?」


 真っ赤な顔でレイティアが言う。


「お、おい、そんな恥ずかしそうな顔で冗談を言うなよ」

「はううっ♡ 冗談じゃないのにぃ♡」

「そういうのは恋人同士でやるものだぞ」

「も、もうっ、アキ君のばかぁ♡ イジワルぅ♡」


 ますますレイティアがおかしくなったところで、案の定アリアの威圧感が増してしまった。


「ねえねえ、アキちゃぁん♡ アキちゃんはお姉さんと一緒よねぇ♡」

「えっと……それはどういう?」

「ほらほらぁ、私はサキュバスの禁断症状が出ちゃうでしょ」

「そ、それはそうですけど……」

「一緒に寝れば一石二鳥よね♡」


(いやいやいやいや! どこが一石二鳥やねん。セクシーで超エロいアリアと一緒に寝るなんて、絶対間違いを起こしちゃうだろ。イケナイコトしまくっちゃう未来しか見えないぞ)


 二人のエロいお姉さんたちに挟まれる俺に、久しぶりとなるシーラからの助け船が出された。


「ちょっと、あんたたち! いい加減にしなさいよね。アキが困ってるじゃない」

「シーラ!」


 そのシーラだが、何やらモジモジと小さな体を震わせ落ち着きがない。


「そ、その……アキさえ良ければだけど、あ、アタシのベッドを使わせてあげても良いわよ」


「えっ?」


「か、勘違いするんじゃないわよ! べつにあんたと一緒に寝たい訳じゃないんだからね。ほ、ほら、アタシは小さいからベッドが余ってるのよ」


 ツンツンしているようだが、シーラの耳が赤くなっている。


「シーラに迷惑はかけられないよ。俺がベッドを買えば済む話だ」

「それはイヤっ!」

「反対はんたぁーい!」

「絶対だめよぉ!」


 全員から猛烈なツッコミを受けた。


 こうして、俺のベッド購入計画は、脆くも頓挫とんざしたのだった。


 ◆ ◇ ◆




「くっ、何故ベッド購入だけ反対されるんだ。他のことでは優しくしてくれるのに……」


 家に戻った俺は愚痴をこぼしながら夕食の準備を進める。

 皆はニコニコした顔で待っている状態だ。


「はぁ♡ アキ君の料理が楽しみでたまらないよ」

「んふふっ♡ 絶対逃がさない。アキちゃんをお婿さんに」

「うっ、やっぱり我慢できない♡ アキの料理ってば反則よ」


「すぐ用意するから待っててくださいね。スキル、専業主夫! 創成式再現魔法術式展開!」

 ギュワァアアアアアアーン!


 スキルのレベルアップで料理関係も更に使いやすくなっている。様々なバリエーションから食材を選ぶのも可能だ。


「よし、今夜はこの米料理にしようかな」


 タマネギとニンジンを刻み鶏肉と一緒に炒めて塩コショウを。そこにホカホカご飯を加えバターとトマトソースで味付け。

 その上に焼いた半熟卵を乗せ、煮詰めたトマトソースをかけて完成だ。


「よし、完成したぞ! 何となく以前食べたオムレットスイーツに似てるからオムライスと名付けよう」


 並べた皿の上にオムライスを乗せ、おまけでハンバーグも添えておく。完璧に食欲を誘う見た目だ。


「きゃぁああああっ♡ 凄く美味しそうだよアキ君っ!」

「ああぁん♡ たまらないわぁ♡」


 レイティアとアリアの興奮が止まらない。


「わぁ、今夜のも凄いわね!」


 俺の股の間に座っているシーラも大喜びだ。お子様ランチを喜ぶ子供に見えなくも無いが、それを言ってはいけない。


「ところでシーラの座る場所はここで決定なのか?」


 美味しそうに食べるシーラに声をかけた。


「んっ、あ、アタシの勝手でしょ。この場所が楽なのよ。ほら、背もたれもあるし」


 そう言って俺の方にもたれ掛る。


「お、おい、あまり密着されると……」

「アキのエッチ♡ アタシの体温で変な気起こすんじゃないわよ。もうっ♡」


 シーラがそんなことを言うものだから、案の定レイティアとアリアの圧が強まってしまう。

 俺は三人に囲まれながら特製オムライスを食べるのだった。


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