第34話 認めてくれる人
ちょっぴりご立腹気味のレイティアに背後を取られ、俺は絶体絶命になってしまった。
「え、えと……レイティア様?」
「様じゃなく、お姉ちゃんだぞっ」
「そ、そうでした、お姉ちゃん。見てましたか?」
「見てたとも。バッチリとね」
(ヤバい、キスしたのも見られたのか? どうする?)
「あ、あれは人工呼吸でして」
「えっ? 添い寝してたんじゃないの?」
「ギクッ!」
俺は自爆した。
◆ ◇ ◆
今日も良い天気だ。俺は皆を連れて冒険者ギルドへと向かっていた。ついでに買い物もしたい。本音では買い物がメインなのだが。
「よし、前回はクラーケンを討伐したから
話を逸らそうと俺が話題を振っているのに、彼女たちは全く聞いていない。
「アキ君っ、人工呼吸の話を聞かせてもらおうじゃないか。そんな誤魔化し方は通用しないぞ」
いつにも増してレイティアの距離が近い。もうキスされるのではと思うくらい顔が接近している。
「お、おい、近い、色々近い」
「アキ君が悪いんだぞっ♡ わざとボクを焦らしているんだよね?」
「そ、そんな訳ないだろ……」
レイティアがグイグイ来ている理由は人工呼吸だけではない。朝から……いや、昨夜からアリアの禁断症状が止まらないのだ。
今も俺の肩に顔を乗せながら歩いている。
「あふぅ♡ アキちゃん♡」
「あの……アリアお姉さん?」
「もう離さないからぁ♡」
「解せぬ、禁断症状が解消されてないだと……」
キスという人工呼吸でサキュバスの禁断症状が解消される話だったのに、してみたら余計に激しくなってしまった気がする。
「アリアお姉さん、まだ禁断症状が消えないんですか?」
「だってぇ♡ アキちゃんとキスしたら余計にムラムラしちゃったんだもんっ♡」
俺の耳にアリアの綺麗なくちびるを当て
「それ完全に逆効果だよ!」
「うふふぅ♡ 私のムラムラが解消されるまでぇ♡ イチャイチャして欲しいなぁ♡」
「だだだ、ダメですって。そういうのは恋人同士がするもんですよ」
俺がアリアと喋っていると、反対側にいるレイティアの機嫌が更に悪くなってしまった。
「ズルいズルい! ボクにも構ってよ。アキ君のイジワルぅ! そうやってボクを焦らして楽しんでるんだ。もう知らないっ!」
「ち、違うから、イジワルなんてしてないよ。ほら、機嫌直してよ、レイティアお姉ちゃん」
プリプリとそっぽを向いてしまったレイティアに困り果てた俺は、最後の良心であるシーラに助けを求めた。
「シーラ、どうしようか?」
ズゥゥゥゥゥゥゥゥーン!
「は? あんた喧嘩売ってんの!?」
「ひぃっ! 怒っていらっしゃる!?」
シーラが一番怒っていた。
「な、何でシーラが怒ってるんだ?」
「あんたねぇ……はぁ」
シーラは呆れた顔で溜め息をついた。
「まっ、あんたは女心に疎いみたいだからしょうがないわね。言ったでしょ、二人を焚きつけると後が怖いって。あ、あと……アタシの気持ちも察しなさいよね……ごにょごにょ」
「シーラ、最後なにを言ったか聞き取れなかった」
「なな、何でも無いわよ! アタシの扱いが悪いとエルフの呪いをかけるわよ! ばかぁ」
最後は笑顔になって怖いことを言う。俺のスキル【専業主夫】の【嫁属性】には、加護と呪いが表裏一体となっているのだ。
「そ、そりゃないって、シーラ」
「分かったのならアタシに優しくすることね」
「俺はシーラも大切だと思ってるよ」
「そ、そうよね♡ うん♡ わ、分かってるけど♡」
ナデナデナデ――
とりあえずシーラの頭を撫でておく。
小さいので撫でやすい位置にあるのだ。
「ふへぇ♡ って、ちょっと待って! あんたアタシを子供扱いしてない?」
「そ、そんなことないって……」
「こう見えても年上なんだからね!」
「はいはい、シーラちゃん」
ナデナデナデ――
「あふぅ♡ だから撫でるなぁ」
シーラを可愛がりながら道を歩く。他の二人がヤバ過ぎるので、今は見ないでおこう。
◆ ◇ ◆
俺が冒険者ギルドに入ると、割れんばかりの歓声が上がった。
「兄ちゃん凄いじゃねーか!」
「あの二人相手に完勝しちまうなんてよ」
「あんなに強いなんて知らなかったぜ」
「聞いたぜ、海に落ちた仲間を命がけで助けたんだってな」
「あんたは男だ、凄ぇよ!」
次々に話しかけられ戸惑ってしまう。
「おっ、アキじゃないか。お前さん、良い面構えになったな」
聞いたことのある声が聞こえ振り向くと、そこにはギルド長のガイナークさんが立っていた。鍛え抜かれた腕を腰に当て笑顔を浮かべている。
「ギルド長……」
「ガイナークで良いぞ、アキ」
「はい、ガイナークさん」
「おう」
ポンッ!
ガイナークさんは俺の肩に手を置くと真面目な顔になった。
「お前さんも大変だったな。全部聞かせてもらったぜ」
「はい……」
ガイナークさんは、グリードたちの処遇を説明する。
「グリードとラルフには、そこの
「は? 賄賂で不問……何だそりゃ!」
「まあ、罪は
(まあ自業自得だな。グリードの実家はどうでも良いか)
「それから、グリードとラルフは冒険者の資格を
「そうですか」
あいつらは元から横暴なところがあった。俺に雑用を押し付けたり、美味しいところだけ持って行ったりと。
それでもパーティーとして一年間やってきたのだ。
だが、今回の事件は絶対に許されるはずもないだろう。
「良かったなアキ。良い仲間に巡り合えて」
ガイナークさんの顔が成長した息子を見る父親のようになっている。
「ガイナークさん……」
「お前さんのことは前から気になってたんだ。攻撃スキルは無いが、メンバーの安全を考え計画や準備に真面目に取り組んでいた。追放されたと聞いた時は心配したんだぞ」
「そんな、俺は裏方ですから」
「そんなことはないぞ。パーティーにはアキのような人間が必要なんだ。裏方こそ重要な仕事なのは分かる人には分かるんだ。グリードたちは人を見る目が無かっただけだぞ。お前さんは必ず必要不可欠な人間になるはずだ」
歴戦の戦士であるガイナークさんに褒められて胸が熱くなった。俺は認められたのだ。
「ガイナークも大人になったわね。前はガキンチョだったのに」
「おいおい、それは勘弁してくれ。お嬢は変わらねえな」
貫禄のあるガイナークさんだが、シーラの前では困った顔で頭を搔いている。
「シーラはガイナークさんと知り合いだったのか?」
「アタシは彼が子供の頃から知ってるんだし」
「そんなに冒険者歴が長いのか」
「どうよ」
小さな胸を張ってドヤ顔になるシーラが可愛らしい。
「アタシってお姉さんなんだからね。もっと敬いなさい」
「そういえば……シーラは115歳だったな」
「と、歳のことは良いのよ!」
年上扱いして欲しいのか年齢にツッコんで欲しくないのか、微妙なお年頃のシーラだった。
「そういえば、お前さんたちS級昇格クエストを受けてみる気はないか?」
ガイナークさんの言葉に、俺たちは顔を見合わせた。
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