第33話 アリアの想いがヤンデレ暴走

 アリアの禁断症状が暴走しているようだ。このままでは間違いを起こしてしまう。


「アキちゃん♡ もう限界なのぉ♡」

「あ、アリアお姉さん、ダメですよ」

「もうムリなのぉ♡ アキちゃん何でもするって言ったぁ♡」

「あ、あれは……料理のことでは……。そうだ、えいっ」


 ギュッ!

 俺はアリアを強く抱きしめた。


「アリアお姉さん……前にも言ったけど俺たちは大切な仲間なんだ。でも、アリアは魅力的だから、俺だって我慢できる自信が無い。それでも、エッチな気持ちに流されて抱いたらダメだと思う」


(これで収まってくれ。サキュバスの禁断症状がどれだけキツいのか分からないけど、これで解消してくれたら……)


 俺は彼女と添い寝したのを思い出す。確か抱き合うだけでも解消されると言ったはずだ。


「あっ♡ あふっ♡ おっ♡ おっ♡」

「あれ? アリアお姉さん?」

「お゛っ♡ おほっ♡」

「どうかしましたか?」


 アリアの様子がおかしい。腕を回した彼女の腰の辺りがビクビクと痙攣けいれんしている。


「ああぁん♡ キスだけにしようとしたのに、アキちゃんに抱きしめられてエッチしたくなっちゃったぁぁああぁ♡」


「まさかの逆効果だとっ!」


 俺がアリアの腰を抱きしめたことで、余計に彼女の欲求不満を刺激してしまったようだ。


「ねえアキちゃぁん♡ いいでしょ?」

「だ、ダメに決まってますって。皆が起きちゃいますよ」

「でもでもぉ♡」


 普段から皆が過ごしているこの部屋はリビングと寝室を兼ねている。しかもそれぞれのベッドは部屋の中を簡単な仕切りで区切っているだけなのだ。

 大きな声を出せば聞こえてしまうだろう。


「アリアお姉さん。サキュバスの禁断症状は理解してますが、そんな簡単にエッチしちゃダメです。もっと自分を大切にしてください」


 アリアが大切だからこそ俺は断った。


 本当なら、こんな美女と一夜を共にできるのだ。誰だってやりたいに決まっている。それなのに、我慢に我慢を重ね断っているのだ。


 しかし、当のアリアは不満そうな顔でぶつぶつと独り言をつぶやき始めた。


「もうっ、もうもうもうもうっ……。嘘なの……に……禁断症状なんて嘘……。ホントはアキちゃんが……好き……だから……何で分かってくれないのよぉ……」


「何か言いましたか、アリアお姉さん?」


「もうっ♡ アキちゃんがイジワルだって言ったのぉ♡」


(マズい……。あまりアリアの心を刺激すると、またスキルが反転してしまうかも……。無下に断るのも悪いよな)


「じゃあ、添い寝なら良いですよ」

「キス」

「えっ!?」

「キス……したい」

「ききき、キスぅ」


(キスってあれだよな! 恋人同士がする甘々でラブラブなやつ……。し、シーラとしたのは人工呼吸だし……)


「良いでしょ? シーラちゃんとはしたんだから」

「でも、あれは人工呼吸で」

「私も人工呼吸みたいなものでしょ? サキュバスの」

「そう言われてみれば……」


(確かにサキュバスの禁断症状を癒すのは人工呼吸と同じか。それに……アリアが他の男とキスするなんて絶対嫌だ。身勝手かもしれないけど、禁断症状を癒すのなら俺に頼んで欲しい)


「分かりました。俺にできることなら」

「よっしゃぁ!」


 アリアが手をグッと握るポーズをした。


「えっ?」

「な、何でもないの。こっちのことよ」

「そうですか……?」


 不安な気もするのだが、俺はアリアの要求を受け入れた。これも人助けだ。


「アキちゃん♡ お姉さんに任せてね♡」


 クイッ!

 アリアが俺のあごをクイっと上げる。


「アリアお姉さん……」

「うふふっ♡ いっただきまーす♡」


(ああぁ、アリアの瞳が凄く綺麗だ。近くで見ると奇跡のように美しい顔をしているな。こんなに美人で可愛いお姉さんとキスできるなんて……)


 アリアの柔らかいくちびるが触れた瞬間。夢のような心地よさで、天にも昇る快感が体を突き抜けた。


「んっ♡ ちゅっ♡ んぁ♡ アキちゃん♡ しゅきぃ♡ ちゅっ♡ ちゅぱっ♡ んっ~っ♡ ちゅっ♡」

「んんっ? んんん~っ?」


(えっ? 長くね? 長いよね? これ、どうすんの? 息継ぎとか?)


 想像では軽くチュッとくちびるを合わせるキスを思い浮かべていたのに、アリアのキスは想像を超えていた。


「んちゅ♡ んぁ♡ アキちゃぁん♡ しゅきしゅきぃ♡ ちゅっ♡ んっ~ちゅ♡ ペロッ♡ チロチロッ♡ ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ♡」

「んんんん~っ! ぷはっ! な、長いです、アリアさん」


 黙っていたら永遠にキスしていそうなので顔を離してみた。


「うふふふっ♡ アキちゃんってば分かってないなぁ♡」

「えっ?」

「私に捕まって逃げられると思ってるのぉ♡」

「そ、それって……」

「絶対に離さないよ、アキちゃん♡ 朝までキスしてよっ♡」


 その時になってやっと気付いた。いや、薄々前から気付いていたのだ。気付かないフリをしていたのかもしれない。

 アリアはとんでもないヤンデレお姉さんなのではと。


「ちょ、ちょ、ちょっと待って」

「待てないよぉ♡ アキちゃ~ん♡ んちゅ♡」

「んひぃ、た、たすけてぇ――」

「ちゅっ♡ んっ♡ むちゅ♡ れろっ♡ くちゅっ♡」


 その夜、俺は天国と地獄を同時に味わった。アリアのキスは想像の百万倍くらい凄まじいのだ。当然、舌はインの大人のキッスである。


 しかも、執拗にネットリとねぶり回すように舌を使い、俺の気が遠くなるまで徹底的に催淫侵食ラブラブしてくるのだからたまらない。


 ◆ ◇ ◆




 チュンチュンチュン――――

 小鳥のさえずりと共に俺は目を覚ました。


 長い間アリアにチュッチュチュッチュされていたのだが、いつの間にか俺は気を失っていたようだ。


「あ、あああ……アリアお姉さんのキス……凄過ぎる……」

「んぁ♡ アキちゃぁ~ん……」


 まだアリアは密着したままだ。幸せそうな顔で寝言を言っている。


 当然だがキスのみで最後まではしていない。魅惑的なアリアの催淫オーラを、自分でもよく耐えたと思う。自分で自分を褒めたいくらいに。


 その時、体の中でスキルがレベルアップする感覚があった。何度か経験しているアレである。


『スキル【専業主夫】に嫁属性【魔族の加護Ⅱ】が追加されました。ステータス上昇。新たに魔法が追加されます』

【付与魔法・肉体強化大】

【付与魔法・魔力強化大】

【付与魔法・防御力強化大】

【付与魔法・魔法防御力強化】

【四十八手】


 ステータスが書き換えられ、アビリティとパラメーターが大幅に上昇する。


「ええっ! 更にスキルが覚醒しただと! しかも凄く強くなってる」


 もうオヤクソクかもしれないが、最後の一つが気になった。


「四十八手……明らかに怪しいスキルだ。やっぱり見なかったことにしよう」


 俺は怪しいスキルを見なかったことにして体を起こした。これ以上アリアと密着していたら、他のメンバーから誤解されてしまう。


「ふうっ、危機は去ったぜ」


 そっとアリアの腕を解いて立ち上がると、背後から凄まじい圧を感じた。


「アキ君、何の危機が去ったんだい?」


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