第31話 チート能力の呪い

 まさか観衆も、攻撃スキルの無い俺が戦闘に特化した二人を圧倒するとは思ってもいなかっただろう。まさに大番狂わせだ。


 グリードとラルフが罪を暴露したことにより、奴らの評判は地に落ちた。デマを広げる為に女を海に落したなど最低の所業だ。

 もはや王都で冒険者をやるのは不可能だろう。


 ブゥゥゥゥゥゥゥゥ! ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!


 担架に載せられ運ばれて行く二人に罵声が飛んでいる。裏切り者に相応しい最後と言うべきか。まさに因果応報だ。



 試合を終え通路へと向かうと、大喜びで俺を出迎える三人の姿があった。


「やった! やったぞ! アキ君っ!」

「アキちゃん♡ 凄いわ」

「アキ、やるじゃない! か、カッコよかったわよ」


 目をキラキラさせ見つめる皆の視線が少し照れくさい。そんなに褒めてもらえるとは。


「皆、応援ありがとう。皆の声が聞こえて力になったよ」


 心なしか皆の顔が蕩けている気がする。こんなことを考えるのは自意識過剰だろうか。


「アキちゃん♡ 素敵よ♡」

 きゅぅぅぅぅーん♡

「あっ♡ アキ君って、結構男らしいんだな♡」

 きゅんっ♡ きゅんっ♡

「や、やるわね、アキ♡」

 きゅんきゅんきゅん♡


(な、何だろう……やっぱり俺を見つめる目が熱く潤んでいるような? くっ、俺までドキドキしちゃうだろ)


 このままではセクハラしてしまいそうなので話を変えよう。

 俺はシーラと向き合う。


「シーラ、かたきを討ったぞ」


 シーラの目を見つめると、彼女は恥ずかしそうに上目遣いになった。


「あ、ありがとう……アキ。あんたってやっぱり頼りになるわね」

「俺は仲間を大切にしたいだけなんだけどな」

「もうっ、でもキスはやり過ぎだし♡」

「だからあれは――」


 興奮したシーラがポロっとバラしてしまう。

 人工呼吸だと訂正しようとしたが、先にアリアの威圧感が急上昇した。


 ゴゴゴゴゴゴゴ!

「キス…………?」


 ハイライトの消えた目になったアリアがつぶやく。


「お、おい、アリア、キスじゃないから。人工呼吸だから」

「人工呼吸……」

「そうそう、シーラが海で溺れて」

「そ、そうよね。シーラちゃんを助けたのよね」


 アリアの威圧感は収まったのだが、俺を見つめる瞳が何かを訴えているようだ。


「シーラばかりズルいぞ。ボクにも人工呼吸をしてくれ」


 今度はレイティアが迫ってきた。

 俺はキスから話題を変えようと腰に下げた剣を持つ。


「そうだレイティア、剣を返すよ。ありがとう」

「そ、それだよ! アキ君、剣技を使ってたよね?」

「ああ、それなんだけどな――」


 剣技の前にスキル【専業主婦】に【加護】が付いた説明をしていないのを思い出す。


(そうだ、まだ詳しい説明をしていなかったよな。ちゃんとレイティアたちに話さないと)


「レイティアお姉ちゃん、どうやら俺とレイティアは特別な関係らしいんだ」

「ふえっ♡ と、とと、特別ぅ♡」

「ああ、スキルの嫁属性がだな……って聞いてるのか?」

「ボクとアキ君が特別な関係……俺の嫁♡ ふわぁ♡」


(あれっ? 何か間違えたかな? スキルに加護が付いた説明をしようとしたのに)


「そ、そうなんだ。ボクが特別なんだね♡ なら人工呼吸……じゃない、キスも待っていようかな」


 レイティアが体をクネクネし始めた。変なスイッチでも入ったのだろうか。


 ゴゴゴゴゴゴゴ!


 再びアリアの威圧感が急上昇する。今度はマジにヤバいレベルだ。


「アキちゃん……ううっ……。シーラちゃんとはキスして、レイティアちゃんは特別なの? 私だけ何も無い……。ヒドいよぉ……」


「あ、あの、違います。アリアさんも――」


 ビーッ! ビーッ! ビーッ! ビーッ!

 俺の中でスキル警告音のようなものが鳴り響く。


『警告! 警告! スキル【専業主夫】の【嫁属性】に異常発生! 対象の感情が暗黒面に入り、【魔族の加護】が【魔族の呪い】に反転する危険あり。ステータス下降。新たに呪いが追加されます』


(待て、待て! 待てぇええぇい! そんなデメリット聞いてないぞ! 付与魔法爆盛りで超使えるスキルだと思ってたけど、もしかして嫁対象になった相手を不幸にするとデバフに変わるのか?)


「あ、あの、アリアお姉さん! 何も無いなんて言わないで。アリアお姉さんも特別な存在ですよ」


 ギュッ!


 俺はアリアの手を握る。

 スキルの反転も怖いが、泣き出しそうな彼女を放ってはおけない。


「えっ、私も特別なの?」

「はい」

「それって、特別な嫁的なの?」


(スキルの嫁属性だから同じだよな)


「はい、嫁属性というスキルのですね――」


 ぎゅぅぅぅぅ~っ!

 アリアに強く抱きしめられる。


「嬉しいっ♡ ずっと一緒よね?」

「は、はい」

「ぐへっ♡ ぐへへぇ♡ アキちゃぁ~ん♡」

「ええっ!」


 やはりアリアの顔が蕩け切っている。ますますヤンデレ化している気がするのだが、怖いので考えるのを止めた。


『スキル【専業主夫】の【嫁属性】異常は解除されました。ステータス上昇。呪いも解除されます』


 アリアの暗黒面が解消され、スキルの呪いも解除された。どうやら危機は去ったようだ。



「俺のスキル専業主夫って……実は恐ろしいレアスキルなのでは……? 使いようによっては最強にも最凶にもなるような……」


 自分のスキルが、ただ飯を作るだけじゃないことに気付いたが、そんな俺の心配など知らない彼女たちはグイグイ来ている。


「ほら、アキちゃん♡ 帰りましょ。お姉さんが耳かきしてあげるわね♡」


 ご機嫌になったアリアが俺の腕をギュギュっと抱きしめる。


「あのっ、アキ君っ♡ ボクも何かサービスしたいんだ。して欲しいことが有ったら何でも言ってくれよな」


 レイティアも負けじと俺の腕にしがみ付く。


「お、おい、当たってるから。離してくれ」

「当ててるのよ、アキちゃん♡」

「ぼ、ボクも当てるぞ。負けてられない」


 むぎゅっ♡ むぎゅっ♡


 二人がライバル意識を燃やしたのか、更に激しくなってしまう。

 もう最後の良心シーラに頼むしかない。


「おい、シーラ、二人を止めてくれ」

「ふんだっ! アタシを放置して良いご身分ね」

「あれっ? なに怒ってんだよ」

「うっさい! ばーかっ」


 シーラまで挙動不審になってしまい、俺のパーティーライフは、ますます混迷を極めてしまう。


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