第19話 その頃パーティー煌く剣戟では3(sideグリード)

 ここ、王都にある診療所のベッドに寝かされている俺は、イライラが収まらずにいた。ムカついて文句が止まらねえ。


「クソッ! クソッ! クソッ! 俺様がアキより下なんて有り得ねえ! 何で助けられて恥をかかされた挙句に親からも怒られなきゃならねえんだ!」


 この俺、グリード様の実家はそこそこ裕福な勝ち組家系なのだ。つまり、俺も勝ち組のS級冒険者である。


 そんな俺が、親から『お前のせいで無駄に報奨金を出すことになったんだ。反省しろ』などと怒られたのだから腹が立つ。

 勝ち組であるこの俺が、貧乏庶民のアキなんかに負けるはずがねぇんだ。



「おいグリード、あのアキが加入したパーティーだが、何か変だと思わないか?」


 隣のベッドで寝ているラルフが、そんな疑問を口にする。


「ラルフ、変って? お前、何か知ってるのか?」

「俺も詳しいわけじゃないが、変な噂を耳にしてな」

「噂?」

「ああ、アキの隣にハイエルフの女が居ただろ。あれ、テンペストじゃないのか?」

「なにっ!」


 天災級暴風雨テンペストの二つ名は、冒険者界隈では知らぬ者はいない。

 災害級エルフのシーラ・テンペスト・エメローダスと言えば、俺たちが生まれる前から伝説やら問題を起こしている有名人だからだ。


「まさか、テンペストと一緒ということは……あのパーティーは捕食姫プレデターか!」


 ギルドでも関わるとヤバい要注意パーティーとされている奴らだ。


「他にも白金プラチナの剣士とセクシーな魔族の女、間違いない。あれは捕食姫プレデターだろう」

「な、何だと! アキの野郎、そんなのチートじゃねぇか!」


 ヤバい噂の有る捕食姫プレデターだが、アキが強いメンバーに囲まれ得をしているのは許せない。


「クソッ! ぶっ潰してやる! あと、アキが美女に囲まれてるのも許せねぇ!」

「同感だ、グリード」

「ふふっ、奴らのパーティーに亀裂を入れ潰してやるとするか」

「ああ、このままじゃ俺たちのプライドが許さないしな」


 ガチャ!


 俺とラルフがアキをおとしいれる作戦を練っていると、ドアを開けてサラが入ってきた。


「グリード、ラルフ、元気そうね……」


 サラが浮かない顔をしている。


「サラ、何かあったのかよ?」


 俺が声をかけるが、返事はサラの後から入ってきた男から返ってきた。


「お前さんたち、体調はどうだ? ちょっと話があるのだがな」


 屈強な体つきと険しい眼光の男。ギルド長のガイナークだ。


「何だよオッサン、俺に用でもあるのかよ」

「その分なら体は大丈夫そうだな」

「うっせぇ、皮肉を言いに来たのかよ。俺様はS級冒険者だぜ。これくらい大したことねえ」

「その件だがな、残念な知らせがあるんだ」

「は?」


 ガイナークは肩をすくませて溜め息を吐く。


「お前さんたち煌く剣戟シャイニングソードの国家冒険者への推薦だがな、ありゃ取り消させてもらったぜ。あと、冒険者ランクもS級からA級に格下げだ」


「なっ、な、な……んだと……」


「まあ妥当な決定だろう。お前さんたちは討伐クエストも失敗続き、挙句の果てに行方不明になって報奨金付きの捜索クエストまで出す始末。ギルドに捜索費用の支払いも残っている」


 も当然だとばかりにガイナークは俺を見る。


「この勝ち組の俺様が格下げなど有り得ねぇ! たまたま運が悪かっただけだ! 次はぜってぇ成功させる!」


「まだ分からんのか、愚かな男だ。お前さんはアキのおかげでS級になれたんだぞ。彼のスキルで様々なバフをかけてもらっていたのに、自分が強いと勘違していたのだからな」


 脳天をカチ割られたような衝撃が走る。


「そんな……そんなはずはねぇ。俺は勝ち組のエリートなんだ。あんな地味な陰キャに負けるはずは……。あいつはスライムも倒せねぇザコなんだぞ」


「はあ、これだけ言っても分からないとはな。グリード、お前さんは現実を認めるべきだな。アキは新しいパーティーでも活躍し、万年C級と言われていたのを短期間でA級に押し上げたんだ。彼は優秀な冒険者だ」


「あ、有り得ねぇ……や、奴が優秀……だと。お、俺よりもか……」


 あってはならないのだ。地味な陰キャに、俺のような陽キャが負けるなど。


「俺は優秀なんだ。アキのようなザコより優れているはずなんだ。なあ、そう思うよなラルフ!」


 隣のラルフに話を振るが、何やら浮かない顔をする。


「あ、ああ……そう思いたいのだが……。俺たちが思っている以上に、アキのスキルは凄かったのかもしれないぞ」

「おい、ラルフまで何言ってやがるんだ!」


 俺たちの間にガイナークが入ってきた。


「おいおい、仲間割れはよせ。グリード、お前さんは自分を見つめ直してみるんだな。一から真面目にやり直すんだ」


 そう言ってガイナークは帰って行った。



「クソッ! クソッ! クソッ! クソクソクソクソクソォオオオオ! 俺は負けてねぇ!」


 バンバンバンバンッ!


 ベッドのフレームをぶっ叩く。イライラしたら他人の物を壊してストレス解消だ。俺は今までもそうして生きてきた。


 ガシャァアアアアアアーン!

「ぐあぁああああ! 痛ぇ! 腰が折れた!」


 ベッドが壊れて腰を床にしこたま打ち付けた。

 最悪だ。


「あっ、それじゃ私も帰るわね」


 冷めた目で俺を見ていたサラも出て行った。あの顔もイライラする。どいつもこいつも俺をイラつかせやがって。


 どうにかしてアキと捕食姫プレデターの仲を引き裂いてやらねぇと気が済まねえ。卑劣な罠で陥れて、その罪を全てアキに被せてやろう。


「ぐはははははっ! やってやるぜ! 地獄に突き落としてやる」

「ふっ、面白そうだな。グリード、俺も協力させてもらうぞ」


 俺とラルフは、アキと仲間の関係を破壊する計画を練った。


 ◆ ◇ ◆




 その頃サラは――――(sideサラ)


「はぁああああ…………」

 病院を出た私は深いため息を吐く。


 もう私たちのパーティー煌く剣戟シャイニングソードはガタガタだ。

 国家冒険者への推薦も取り消され、ランクもA級に落とされてしまった。クエストも失敗続きで、この後もランクダウンは必至だろう。


「やっぱりアキが……アキのおかげで私たちはS級冒険者になれたの……」


 地味で真面目なだけが取り柄の男……。そんな印象だったのに、今では何もかも輝いて見える。


 あの時の惨めな気持ちが忘れられない。

 私の頭にギルド前でのやり取りが再生される――――



『あ、あの、アキ……』

『何か用かサラ? てっきりグリードと一緒に行ったのかと思ったけど』

『そ、それが……』


 私がアキに話しかけると、彼の隣にいた女が腕に抱きついた。私に見せつけるように。


『あっ…………』

『サラ、用が無いなら俺は行くぞ』

『ま、待って!』


 悔しい! 本来なら私が成り上がって富も名声も手に入れるはずだったのに。今じゃ落ちぶれてこのザマなんて。

 アキの隣にいる女……美人でスタイルが良くて……私より輝いてるなんて許せない!


『ご、ごめんなさい! 私が間違ってたの――』


 やり直そうと打ち明けた。このプライドの高い私が頭を下げたのに。チョロいアキなら簡単に許すと思っていたのに。


『今の俺には大切な仲間がいるんだ。悪いが元には戻れない。じゃあな』


 悔しい! 悔しい! 悔しい!

 私は冒険者として負け、女としても負けてしまった。それも完膚なきまでに――――



「うっぎゃああああっ! 何で私はグリードなんかについて行っちゃったのよ! あんな自称陽キャのカス男なんかに! 完全っに見誤った! ちっくしょぉおおおお!」


 カンッ! カランカラン!

 道端の石を蹴っ飛ばした。


「こんなんならアキと一緒に行くべきだった。あいつチョロそうだから簡単に堕とせるはずだったのに。それなのに他の女と一緒だなんて! しかも私より美人と! あぁああああ! 悔しいぃいいいい!」


 私は何度も後悔を口にしながら酒場に向かった。今夜も浴びるようにお酒を飲んで憂さを晴らす為に。






 ――――――――――――――――


 何処までもクズムーブのグリードとラルフに、惨めに飲んだくれるサラ。

 成り上がって行くアキとは正反対な三人です。

 果たしてどうなるのか……。

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