第18話 竜族の加護
本来は高額報酬を得て高級な店でディナーと行きたいところだが、皆が俺の料理を食べたいとせがむのだから仕方がない。
「アキ君っ! もう待ちきれないよ」
「ああぁん♡ お姉さん我慢できかいかもぉ」
「アタシもお腹空いたわ。早くしなさいよね。あ、後で労ってやってやるんだから」
レイティア、アリア、シーラの三人が、待ちきれないとばかりに俺の料理をねだっている。
「何だかお姉さん方……俺の料理の
ふと俺がつぶやくと、真剣な目をしたアリアがグイっと顔を寄せてきた。
「料理だけじゃないのよ。私、アキちゃんの
「ははっ、そういう冗談はダメですよ」
そっとアリアを離すが、今度はレイティアがグイグイ寄ってきた。
「ぼぼぼぼ、ボクもアキ君の
「ちょ、ちょっと落ち着きましょう。男性に対して距離感近いと誤解されちゃいますよ」
レイティアの顔を押して距離を取る。
(待て待て待て! これでモテ期が来たとか誤解しちゃダメだ。アリアは
俺は
「じゃあ料理をつくりますね。スキル、専業主夫! 創成式再現魔法術式展開!」
ギュワァアアアアアアーン!
スキルを展開して気付いた。スキルレベルが上がったことにより、より詳細な設定が可能になったようなのだ。
「凄い! 今までのようなアバウトな感じじゃなくなってる。細かな調整や設定が色々と――」
頭の中に浮かんだ料理から選択したり、選んだ食材から完成品を映し出すことに成功している。これなら色々と試せそうだ。
「今夜は豚肉料理にしようか。そうだな
「ちょっと待てよ、この料理にはパンより米の方が合う気がする。この辺りでは米は貴重だが、先日行った店でリゾットを食べたよな。あの米から最適解を導き出してやる」
ギュワァアアアアアアーン!
「完成だ! 揚げ豚肉の卵とじ
テーブルの上にカツドンを並べる。
「うぁああああ! これは美味しそうだぞ!」
「やっぱりアキちゃんの料理は最高ね」
「これ凄いじゃない! 匂いがたまらないわよ」
美味しそうな匂いが立ち込める丼料理に、三人の乙女も一気に心を掴まれたかのような顔になる。
「じゃあ食べようか」
「「「いただきまぁーす」」」
冒険者ランクアップとクエスト成功を祝って乾杯だ。
「これ凄っ! サクサクの
シーラがご満悦の顔になる。
「ああぁ♡ この醤油ってのを使ったつゆが肉汁と絡んで最高よ♡ もうアキちゃんと結婚したいわぁ♡」
アリアが発情した顔をする。料理で堕ちてしまったかのように。
これがホントのメス顔ならぬメシ顔だ。
「アリアお姉さん、俺みたいなモテない男をからかっちゃダメですよ」
そう言って密着してくるアリアを押しとどめる。
「ううっ♡ ど、どうしよう……。もう気持ちが抑えられないよっ」
やっぱりレイティアが挙動不審だ。カツドンを食べながらオロオロしている。
(どうしたんだ皆? もしかして……本当に俺のスキルで作った料理に依存症になる効能があるとか? まさか、そんなはずはないか)
料理を食べ終わる頃には、アリアの酒も進み酔い始めたようだ。さっきから俺の肩にもたれ掛ってきては、耳元で色っぽい声で
「あんっ♡ アキちゃぁ~ん♡ しゅきしゅきぃ♡」
「ちょっと、アリア、飲み過ぎですよ」
「うふふふっ♡ 飲んでませぇーん♡ でも、好きなのぉ♡」
「やっぱり酔ってるって」
(落ち着け俺! 好きというのは、俺の料理が好きという意味だ。勘違いするなよ。くっ、これ我慢できるのか……)
グイグイと柔らかな体を押し付けてくるアリアに、俺の理性が限界を迎えそうになってしまう。
(待てよ? もっと飲ませて寝かせれば危機回避できるかもしれないぞ)
「はい、アリアお姉さん、お酌しますよ」
「ありがとぉー♡ アキちゃん好きぃ♡」
「もう一杯どうぞ」
作戦が功を奏したのか、出来上がったアリアが熟睡してしまう。
「ほら、こんなとこで寝ると風邪ひきますよ。ベッドに行きましょうね」
「ふぁああぁん♡ アキちゃあぁぁん♡ むにゃむにゃ」
全身エロ凶器のように魅惑的なアリアを抱きかかえてベッドまで運ぶ。途中で理性が飛びそうになるが、気合で押しとどめた。
アリアの泥酔で祝勝会はお開きになり、皆がそれぞれベッドへと移ってゆく。
◆ ◇ ◆
その夜――――
ソファーで寝ている俺を、何者かが覗き込む気配を感じた。
(誰だ? アリアか? また禁断症状で発情したとか? でも、泥酔しているから朝まで起きないはずだけど……)
恐る恐る薄目を開けると、眼前にまで接近していたレイティアと目が合った。
「うわっ……んっ」
「しっ! 皆が起きちゃうだろっ」
俺の上に覆いかぶさっているレイティアが手で俺の口を塞ぐ。
俺が頷いても、彼女は手を退けてくれない。
「アキ君、ボクはもう我慢の限界なんだ。つ、つまり……す、す、すき……スキヤキ食べたい……なんちゃって」
意味不明なレイティアの行動に俺は困惑する。とりあえず俺の口を塞いでいる手を外して欲しい。
「ぷはっ! お、おい、さっきカツドン食べたばかりだろ。明日にしてくれ」
「そそそ、そうじゃないんだ。す、すき……ああぁ! 察してくれ!」
「察しろと言われても……」
グイグイグイ!
更にレイティアがグイグイと俺に密着してソファーに寝そべった。
「待て待て、狭いって」
「今夜はここで寝る。決めたんだ」
「おいおい……」
「ちょ、ちょっと話をしようじゃないか」
「話し?」
レイティアは熱く潤んだ瞳で俺を見つめながら話し始める。
「ダンジョンでボクを助けてくれてありがとう」
「当然だよ。レイティアは大切な仲間なんだ」
「でも、嬉しかった。えへへっ」
そう言って笑った顔が、とても可愛い。
「ボクは竜族の血を引いているだろ」
「ああ」
「小さな頃から周りの人より強くてね。怖がられたり女として見てもらえなかったり……」
「それでボクっ娘なのか?」
「それも有るんだけど……」
少し間をおいて彼女は話し続ける。
「でも、アキ君に出会ってから、ボクを大切にしてくれて……女の子として扱ってくれて……凄く嬉しいんだ」
「当然だろ。レイティアは女の子だからな。それも、とびきり美人で可愛い。俺は、そんなレイティアを守りたいんだ」
「うっ、ううっ♡ そ、そんなの言われたの初めてだよぉ♡ どどど、どうすれば……や、やっぱり好きぃ♡」
最後の部分が良く聞こえなかった。
「何か言ったか?」
「ななな、何でもない……」
「もう寝るぞ」
「うん……おやすみアキ君」
「おやすみレイティア」
俺は一晩中、長身でムッチリと張りがあるレイティアの体に包まれ眠ることになった。
◆ ◇ ◆
チュンチュンチュン――――
小鳥のさえずりと共に俺は目を覚ました。眠れないと思っていたのに、レイティアのムッチリとした体に抱かれ眠りの国に堕とされていたようだ。
長身ボクっ娘恐るべし!
「んぁあああぁ♡ アキくぅん」
ギュゥゥゥゥ!
俺の首に抱きつき締め込みながらレイティアが色っぽい声を上げる。
「お、おい、苦しっ! 締めるなレイティア」
朝から色々と密着され締め技まで食らい、俺の理性や諸々が限界突破しそうになったその時、体の中でスキルがレベルアップする感覚があった。
『スキル【専業主夫】に嫁属性【竜族の加護】が追加されました。ステータス上昇。新たに魔法が追加されます』
【付与魔法・攻撃力上昇】
【付与魔法・素早さ上昇】
【付与魔法・クリティカル上昇】
【
ステータスが書き換えられ、アビリティとパラメーターが軒並み上昇する。
「えっ、ええっ! また!? これって、毎回スキルがレベルアップするのか? 今度は竜族の加護って……。しかもステータスが急上昇して強くなってるぞ」
支援魔法も追加され格段に強化されたのは嬉しいが、やっぱり最後の一つが気になる。
「房中術……何か放送禁止っぽい感じがする。見なかったことにしよう」
当然ながら、俺は怪しいスキルを見なかったことにした。だが、他のメンバーに添い寝を見られたのは言うまでもない。
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