第12話 その頃パーティー煌く剣戟では2(sideグリード)

「ちくしょぉおおおお! 何であのクソザコ野郎が良い女を連れてやがるんだよ!」


 ダンッ!

「痛っ!」


 部屋のテーブルを叩いてから骨折していたのを思い出す。ギルドでアキに恥をかかされ、テーブルを殴った時に痛めたのだ。


「クソッ! クソッ! アキの野郎、俺に恥をかかせやがって! ぜってぇ許さねえ!」


 この俺様がザコモンスター扱いされたのだ。許せるはずがない。


「おい、グリード、次の討伐クエストで成果を出さないと俺たち煌く剣戟シャイニングソードはヤバいんだ。国家冒険者の推薦を取り消されるかもしれないんだぞ」


 ラルフが俺に正論をぶつけてくるが、そんなヤツにまで腹が立ってしまう。


「うるせぇ! 俺に指図するんじゃねえ!」

「落ち着けグリード、このままではアキを追放したらパーティーが弱体化したと噂されるぞ」

「ぐっ、ぐおぉおお! そ、それだけは俺のプライドが許さねえ!」


 俺たちは一流のS級パーティーのはずなのだ。それが、アキ一人居なくなったからといって弱体化するはずがない。

 あのザコは荷物持ち兼雑用係だったはずだからだ。


「とにかく次はドカンとデカいボスを倒して結果を残してやるぜ」

「ああ、その通りだグリード」


 俺たち二人がクエストの話をしていても、離れた場所で一人酒を飲んでいるサラ乗ってこない。


「おい、サラ! どうかしたのか?」

「えっ、あっ、そうね。何でもないわ」


 アキの野郎が抜けてからというもの、急にツキがなくなったりメンバー同士がギクシャクしている気がする。

 イライラした気持ちを抱えたまま、俺たちは次のクエストに向かう準備をした。


 ◆ ◇ ◆




 ズガァアアーン!

 ズドンッ! ガキィーン!


「ぐあああぁあっ! 何でこんなに苦戦するんだ!」


 討伐クエストで北のダンジョンに潜った俺たちだが、またしても敵に囲まれ苦戦している。オーガの群れが現れたのだ。


 ボスのジャイアントトロルを討伐する予定なのに、途中のザコで進めなくなってしまった。


「おい、ラルフ、援護してくれ!」

「ダメだ! こっちも手いっぱいだ」

「ちくしょぉおお!」


 人の倍はありそうなオーガの体に、無数の筋肉の束が盛り上がる。力任せに斧を振るっているだけのように見えて、その攻撃力は凄まじい。


「グギャアアアアアア!」

 ガッキィイイイイーン!


「ぐあああああっ! ダメだ、折れた指に力が入らねえ!」


 オーガの一撃を剣で受けるも、もう腕が痺れて動かせそうにない。


「おい、サラ! 何やってやがる! 魔法で援護しやがれ! この無能女が!」


「ああああっ! もう嫌ぁああああ! 何なのよ! 怒鳴らないでよ! 無能はあんたでしょ、グリード! 口ばっかりで強くもないくせに!」


 俺が強くないだと。そんなのは有り得ない。


「お、俺は強い! あのアキみたいなザコよりもな!」


「あんたなんかよりアキの方がマシよ! アキがいたらポーションで体力や魔力も回復していたのに。あんたがアキを追放したから、私がこんなに苦労してるんでしょーが!」


 有り得ない。俺がアキより下なんて。アキはスライムも倒せねえクソザコなのだ。

 俺はS級冒険者になった。次は国家冒険者として国王から認められ、ゆくゆくは勇者となる男なのだから。


「グギャアアアアアア! グオオオオッ!」


 何体ものオーガが迫ってくる。巨大な斧を振り上げながら。


「お、おい、一旦逃げるぞ!」

「ああ、それが良い」

「待ってよ! 置いてかないでよ!」


 俺たちは一目散に逃げ出した。一旦退いてから体勢を立て直すためだ。



「おい、この道はさっき通らなかったか?」


 迷路のようなダンジョンを進んでいるのだが、同じ場所を何度も回っている気がする。

 幸いオーガの群れを撒いたというのに、次はダンジョン内で迷ってしまうとは。


「疲れたぜ……。誰かポーションは持ってねえかよ?」


「くっ、グリード……もうポーションが無いんだ。次に戦闘になったらヤバいぞ」


 バッグの中を確認したラルフがつぶやいた。


「それに、アキが作るような上級ポーションは高価なんだ。そんな頻繁に買うわけにも……」

「クソッ! 何で俺がこんな目に! これも全部アキの野郎が悪ぃんだ!」


 全てが上手く行かない。何もかもが空回りだ。


「悪いのはあんたでしょ、グリード!」


 それまで荒い息をしてうつむいていたサラが、怒りで捲し立てやがる。


「もう、うんざりなのよ! あんたの大口ビッグマウスは! 口ばっかりで役に立たない男のくせに! 私、今ハッキリ分かったわ。このパーティーはアキのおかげで成り立ってたのよ。彼が計画を立てて、彼が準備をして、彼が私たちにバフを掛けて、全部彼のおかげだったのよ! 何もかも、S級冒険者になれたのも!」


 まるで後頭部をハンマーで殴られたようにサラの言葉が響く。

 陽キャでモテ男で勝ち組の俺が、あんな地味な陰キャ男に負けて良い訳がない。あってはならねえんだ。


「ぐっ、ぐぅううう! 俺がアキに負けるなんて有り得ねえ!」

「負けてるでしょ! 怒鳴ってばかりで中身がスッカラカン男!」

「な、何だと! このアマぁ!」

「何度でも言ってやるわ! アキの方が百倍マシよ!」

「うがぁああああ!」


 ズドドドドドドドド!


 その時、通路の奥から無数の足音が近付く音が聞えてきた。


「ヤベェ! さっきのオーガだ! 逃げろ!」

「もう嫌ぁああああああ!」

「サラ、早くするんだ」


 再び逃げようとした俺たちだが、急に床が崩れて飲み込まれた。


 ガラガラガラガラガラガラガラ!


「ぎゃああああああああああ!」

「いやぁあああああああ!」

「ぐあぁああああああああ!」


 崩れ落ちたダンジョンの石床と一緒に、俺たちは下の階層まで転落してしまう。


「ぐぎゃああああああ! 足がっ! 足が折れた! 動けねえ! 助けてくれぇええええ!」


 俺はダンジョン奥深くで怪我をして、絶望的な状況を迎えてしまった。


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