第10話 添い寝
この家にはベッドが三つしかなかった。レイティアとアリアは酔いつぶれて寝ている。あと開いているベッドは、シーラのものだけだ。
「そうか、まだベッドが無かったな……」
俺がつぶやくと、何故かシーラが両手で胸を隠す仕草をする。
「おい、シーラ?」
「だ、だだ、ダメよ! アタシと一緒に寝ようとしてるんでしょ!」
「は?」
「ううっ、いくら小さい胸が好きだからって、そんなのダメに決まってるし」
彼女は何か誤解しているようだ。
「俺はソファーで寝るよ。女子と同じパーティーなら配慮が必要だからな」
そう言って宴会で散らかっていたゴミや物を片付け始める。
(いやいやいやいや、冷静に考えると女子と一つ屋根の下で生活するのかよ。これはヤバくないか? 何か間違いでも起こったらメンバー間の人間関係が
ガサガサガサ――
俺が片付けている間も、後ろでシーラがモジモジしたままでいる。
「どうしたんだ、シーラ? 俺は何とかするから先に寝ていろよ」
「そ、その、そんなとこで寝ると風邪ひくわよ」
「えっ?」
(どうしたんだシーラは。俺を気遣ってくれているのか? シーラって、少々口は悪いけど性格は良さそうなんだよな)
「俺は大丈夫だよ。慣れてるから。ありがとうな」
「じゃなくて……あんただけソファーだと気が引けるっていうか……」
「ははっ、シーラって意外と律儀だよな」
「な、なによ、心配してあげてるのに」
そっぽを向いてしまったシーラが可愛い。
「そ、その……あんたが何もしないって約束するのなら……あ、アタシのベッドで寝ても良いわよ」
「えっ、それって……」
シーラの爆弾発言に、俺は固まってしまった。
「だ、だから、アタシのベッドの端っこを使わせてあげるて言ってんの! か、勘違いするんじゃないわよ! あくまで使わせてあげるだけなんだからねっ! 触ったりしたらぶっ飛ばすわよ」
「あ、ありがとう。じゃあお言葉に甘えて。もちろん約束は守るよ。女子パーティーに入ったんだから、皆から信頼を得られるようにしないとな」
「当然よ。じゃ、来なさい」
小さな体で胸を張っているシーラの後について行く。簡単な
「いいっ、ここから絶対に入るんじゃないわよ」
シーラがベッドの上に指で境界線を引く。
「分かってるって。さっきも言ったろ」
「まあ、あんたのことは信頼してるけどさ。でも、小さい胸が好きだって……」
「おい、それは誤解だ」
これ以上話していると俺がロリコン認定されそうなので早々に眠ることにした。
ベッドに入って出来るだけ隅に行く。
「そんなに隅だと落ちるわよ。もっとこっち来なさいよ」
「お、おう」
やっぱりシーラは優しかった。
今日一日の疲れた体を横にして夢の世界に……と行きたいところだったが、そうは問屋が卸さない。
「ううぅ~ん」
ゴロゴロゴロ――
寝返りを打ったシーラが、ゴロゴロと俺の方に寝転がってきた。そのまま俺の胸にゴールインだ。
「すぅ、すぅ、むにゃぁ……」
「おいシーラ……」
まるで俺を抱き枕にするようにシーラが手足を絡ませてくる。
「触ったらぶっ飛ばすとか言ってたけど、シーラから触ってきたからセーフだよな?」
「むにゃむにゃ……ぶっ飛ばすぅ」
「何だ寝言か」
仕方がないのでシーラの抱き枕になったまま眠った。若い(実際は115歳だが)女性に抱きしめられながら眠るのは緊張と興奮で眠れたものではないのだが。
◆ ◇ ◆
「ううぅ~ん、朝か……」
温かく小さな女子を抱きしめながら俺は目を覚ました。最初は緊張で眠れなかったはずが、いつの間にか深い眠りに落ちていたようだ。
「抱き枕……じゃない、シーラを……」
「むにゃむにゃ……アキのエッチぃ」
「おい、起きろ。こんなの見られたら誤解されるぞ」
慌ててシーラの体を揺する。
ベッドで抱き合いながら寝ているのがバレたら大問題だ。レイティアやアリアに見られるわけにはいかない。
「ねえ、アキちゃん、どう誤解されるのかしら?」
その時、俺の背後から甘美でありながら冷徹な声がかかった。背筋が凍りそうなくらいの。
「えっ、あの、アリアさん?」
振り向くとアリアが俺を覗き込んでいた。ハイライトが消えたような目で。
「ちょっと待ってください、これには深い訳が」
「訳ねぇ……私の誘いは断ったのに、シーラちゃんとは寝るんだぁ」
「寝てませんから。いや、寝たんだけど。じゃなくて、違う意味で」
一緒に寝たのは事実だが、アリアが言っている意味では寝ていない。
「ふーん、二人は仲良しなのね。ねえっ、シーラちゃんと付き合ってるの? キスしたの? 寝たの? あやしい。ねえっ、ねえっ」
グイッ! グイッ!
「付き合ってませんから! お、おい、シーラ、誤解を解いてくれ」
「うーん、うっさいわねぇ……むにゃ」
「目を覚ませ」
俺の胸に抱きついているシーラは寝惚けたままだ。
ちょうどタイミング悪いことに、レイティアまでやってきてしまう。
「おはよう! 良い朝だな……って! 大事件だっ!」
「大事件じゃねー!」
「ズルいズルいっ! ボクも添い寝したいぞぉ!」
さすがに騒がしくなったからなのか、胸の中のシーラが目を覚ました。手で目をこすりながら俺を見る。
「んんっ……あれ? アキ……てか、何触ってんのよぉぉおお! バカぁ!」
ボカッ!
「ぐえっ、理不尽だぁああああ!」
◆ ◇ ◆
「わ、悪かったわよ。いきなり殴ったりして。寝惚けてたんだからしょうがないでしょ。で、でも、あんたがアタシの胸を触ってたのも悪いんだからね」
エルフ特有の長い耳を赤らめながらシーラが話している。やっと誤解が解けたのだが、胸を触っていたのは事実なのだ。
何となくシーラの胸は平らで触りやすい。
「ま、まあ、誤解が解けて良かったよ。説明してくれてありがとう」
シーラが説明してくれて皆も納得したようだ。一時は襲いそうなくらい興奮していたアリアも落ち着いたのか、今は冷静に話している。
「ごめんなさいアキちゃん。たまに私って興奮しちゃうけど……サキュバスの特性で、男性の精気を補充していないと禁断症状が出ちゃうの……」
「そ、そうなんですか。た、大変ですね……」
「だ、誰でも良いわけじゃないのよ。アキちゃんは、こ、好みというか……吸いたいというか……って、私ってば何言ってるのかしら。ああぁん♡」
アリアが体をクネクネしている。大きな胸がプルンプルンと揺れ目の毒だ。
何とか彼女の欲求不満を解消する術はないだろうか。
「そうだな、アキ君のベッドは私と一緒というのはどうだろうか? うん、それが良い!」
とんでもない提案をレイティアが言い出した。こっちはこっちで問題だ。
「ダメに決まってますって。レイティア……お姉ちゃんは、色々と大きいんだから」
長身でムッチリと胸や尻が破壊力抜群のレイティアと添い寝など、健全な青少年には無理に決まっている。それこそ拷問レベルだ。
「ちぇっ、シーラだけズルいぞっ」
「とりあえず俺はソファーで寝ます。近いうちにベッドを買いましょう」
「ボクは一緒でも構わんのだがな。むしろ一緒が良い」
本気なのか冗談なのか分からないが、レイティアがグイグイ来る。
(落ち着け俺! これを本気にしてエッチとかしちゃったら、『ボク、そんなつもりじゃなかったのに』とかなるに決まっている。女心は複雑だと聞いたことがあるからな。アキ・ランデルはクールにおあずけするぜ!)
「それより今日はどうするんだ? またクエストに行くとか?」
「そうだな。今日は食べ歩きしようか。昨日の報酬も入ったし」
「レイティア、借金の返済を先にした方が?」
「はっはっは、大丈夫大丈夫。アキ君のスキルを開発すれば問題無い」
若干、いやだいぶ不安になるが、俺は皆と食事に行くことになった。
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