第9話 どんどん皆の様子がおかしくなるのだが

「新たなる閃光姫ライトニングプリンセスの門出に、かんぱぁーい!」

「「「かんぱーい!」」」


 乾杯の音頭をとるアリアの声で、祝勝会と俺の歓迎会が始まった。


「うふっ♡ アキちゃんが加入してくれて良かったわぁ♡ 討伐クエストでも的確な指示を出してくれたし。色々な管理や手続もしてくれて助かってるのよ」


 俺の隣に座ったアリアが体を寄せてきた。柔らかな体と甘い匂いで困ってしまうが、褒めてくれるので邪険にはできない。


「あ、ありがとうございます。役に立てて俺も嬉しいです」

「もうっ、そんなに謙遜しなくても良いのよ」

「はい」


 テーブルの上には俺がスキルで作った料理が並べられている。酒は買ってきたものだが、料理は全て俺が用意した。

 メインは肉と芋を醤油とみりんで煮込んだもので、地味に見えるが味わい深い家庭料理だ。


「これ、意外とイケるわね。あむっ、やるじゃないアキ」


 シーラも喜んでくれているようだ。


「アキちゃんが居てくれて良かったわね。こんな美味しい料理を食べられるのですから。ふふっ♡ 良いお婿さんになりそう……」


 若干じゃっかん怖い笑顔を浮かべているのがアリアなのだ。基本は優しいお姉さんなのに、たまにマジなのか冗談なのか分からない言動がある。


(でも、俺のスキルが役に立ってるのは嬉しいな。前の煌く剣戟シャイニングソードのヤツらには『こんな田舎臭い料理なんか食べられるか!』ってバカにされたからな)


 だが、このパーティーは違う。俺を必要としてくれているのだから。


 それまで金欠と女子力の欠如でロクな料理を食べていなかったのか、皆が凄い勢いで料理を平らげてゆく。

 さすが飢え死にしそうなほど破綻していたパーティーだ。


 俺はレイティアの方に視線を移す。ギルドの一件からやけに静かになってしまっていて気になっていた。今も一人黙ったままだ。


「レイティア、本当に大丈夫か?」


 どっきぃーん♡

 レイティアに話しかけたら、彼女は体をビクッと跳ねさせた。


「なっ、なな、何でもない何でもない。てか、お姉ちゃんだぞっ」

「そうだったな、レイティアお姉ちゃん」

 きゅんっ♡ きゅんっ♡

「ううっ……だからキミは意外とアレだよな」

「何か言いましたか?」

「はああぁん♡ 恥ずかしくて顔が見られない」


 やっぱりレイティアが挙動不審だ。


「あやしい……」


 そんなレイティアの異変に、アリアが真顔でつぶやいた。目がマジで怖い。


「あ、あやしくないぞっ! アリア」


 レイティアが頭をブルブルと横に振る。


「あやしいわよ。二人でギルドに行った時から。いえ、その前からも」

「何も無いって言ってるじゃないか。ギルドで一悶着あったがな」

「何よそれぇ」


 アリアが心配そうな顔をするので、俺はギルドでの件を軽く説明しておいた。


「――――という訳なんだ。ゴブリンロード討伐クエストも、前に失敗したのがそいつらなんだよ」


 グリードのことを思い出したのか、レイティアがうんざりした顔をする。


「あのゴブリンとかいう男は最悪だな。下種な顔でボクの体をジロジロ見て」


「グリードな」


 彼女の中ではグリードがゴブリンになっているようだ。まあ、似たようなもんだから良しとするか。


「そう、そのゴブリードだよ」


 何故か混ざってしまった。


「それに、アキ君のことを散々悪く言っていたけど、本当にアイツは見る目の無い男だよ。アキ君のスキルは超レアスキルなんだぞっ! このボクが保証する」


「ありがとうレイティア……嬉しいよ」


「なんのなんの、アキ君は期待の星だからな。あと、お姉ちゃんだぞっ」


 レイティアの調子が戻ってきた。


「でも、あの時ボクを助けてくれたのは嬉しかったよ。こう、ボクを守るようにガバッと来て、『俺の大切な女だ!』ってね♡」


「ん?」


 俺は確か『大切な仲間だ』と言ったはずだ。いつの間にか仲間から女になっているような?


「ううっ♡ 今思い出しても恥ずかしくて顔が火照ってしまうぅ♡ 『俺の女に手を出すな』ってね」


 レイティアが体をクネクネさせている。

 俺が訂正しようとするが、先に横にいたアリアの威圧感が強まった。


「ねえ、アキくぅん……。レイティアちゃんを自分の女にしたの? もしかして付き合ってるの? キスしたの? 寝たの? ねえっ、ねえっ」


「お、おい、誤解だって。俺は『俺の仲間に手を出すな』って言ったんだ」


「ホントぉ? まだ付き合ってないのよね? でも、アキちゃんってレイティアちゃんと仲良いわよね。私には冷たいのにぃ」


 アリアが拗ねた顔をする。


「俺はアリアも大事な仲間だと思ってるから。誰かがアリアを傷つけようとしたら、俺が全力で守る。もちろんシーラもだ」


「あ、アキちゃん……」


「アリア、俺はアリアに冷たくなんかしないよ。今回はたまたまレイティアだったけど、アリアが困っていたら必ず俺が助けるから」


 きゅぅぅぅぅーん♡


「うへっ♡ も、もうっ、アキちゃんったら。悪い子なんだからぁ♡ レイティアちゃんだけでなく私も狙ってるってことで良いのよね? うふふっ♡」


 アリアまで挙動不審になってしまった。どうしたことか。


(あれっ? 俺、変なこと言ったかな? 大切な仲間なんだから守るって言っただけなのに。女心はよく分からないな)



 二人がおかしくなりながら酒宴は続く。もちろん予想通り、レイティアとアリアがは酔いつぶれてしまった。


 俺とシーラで二人をベッドに運び一段落する。少し風に当たりたくて、窓を開けて外を眺めた。


「ふうっ、二人とも飲みすぎだろ。テンション高いな」

「嬉しかったんでしょ。アキが加入したのが」


 俺のつぶやきにシーラが答えてくれた。


「ははっ、前のパーティーではお荷物扱いだったのに、ここでは喜んでもらえて嬉しいよ」

「まあ、あんたが来る前は酷いもんだったから……」

「そ、そうなのか? 破綻状態って聞いたけど」


 俺の横に来たシーラが並んで外を眺める。


「そりゃクエストは失敗続き、物は壊す、変な噂が広がってトラブル続きだったから。何故か稼いでも稼いでも借金が増えてくのよ」


「そ、それは大変だったな……」


「アタシなんてテンペストの名をもじって災害級エルフとかあだ名付けられるし。失礼だっての、ちょっと山を破壊したくらいで」


 それは事実なのではと思ったがスルーしておく。神話の時代には森の民と呼ばれたエルフが、森や山を破壊するのはどうなのだろうか。


「でも、良かったよ。超地雷系とかドスケベ女パーティーとか悪い噂があったけど、実際にシーラたちと話してみたら良い人だったから。人の噂なんて当てにならないものだな」


「あの子たちにも色々あるのよ。特に魔族の血を引いているアリアは人から偏見を持たれやすいし」


「そうだよな。色々あるよな……」


 俺もグリードにデマを流されていたから分かる。悪意に満ちた噂は、あっという間に広まり事実のようにされてしまうのだ。


「えっと……でも、ドスケベ女なのは当たってるかも……」

「ええっ!?」

「あんた気をつけなさいよね。あまりあの二人を焚きつけると怖いわよ」

「は? 何のことだ」

「あんた……あれ無意識でやってたの……」


 何のことだか分からないが、シーラは呆れた顔で戻って行く。


「そろそろ寝るわね。おやすみアキ」

「ああ、おやすみ」


 そこで俺は重要なことに気付いた。


「おい、シーラ……俺のベッドは何処にあるんだ?」

「あっ!」


 俺はシーラと顔を見合わせる。

 そう、俺の寝る場所が無いのだ。


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