第5話 その頃パーティー煌く剣戟では1(sideグリード)

 俺はグリード、煌く剣戟シャイニングソードのリーダーだ。剣の腕はギルドトップレベル、陽キャで女にもモテる男である。


「がっははははっ! あの時のアキの顔ったら笑えたぜ! まさか自分が利用されていたとは思いもしなかったようだな」


 俺の言葉にパーティメンバーのラルフが頷く。


「ふふっ、アキも哀れな男だな。あんなハズレスキルの冒険者なんか、拾ってくれるパーティーは見つからないだろう。何処ぞで行き倒れていたりしてな」


「ラルフ、お前も人が悪いな。アキをレベル上げの道具として利用しようなんて思いつくなんてよ。まあ、あの地味で真面目なアキを見てるとムカつくんだけどよ。追放して清々したぜ」


「ふっ、世の中は弱肉強食だ。アキのようなお人好しは利用され搾取さくしゅされるのが世の常。俺たちのような勝ち組の肥やしになる運命だな」


「違いねぇ! がはははは!」


 酒を飲んでいたサラが俺たちの話に入ってきた。


「ねえ、アキの話をしてるの? 今頃何してるのかしら。物乞いにでもなってたりして。あははっ!」


 アキが落ちぶれるのを想像し顔がにやける。

 最高の気分だ。


「あんなザコのことは見捨てて俺たちは成り上がるぞ。なんたって俺たちは国家冒険者になるんだからよ。もう昔のような有象無象の駆け出し冒険者じゃねえ。俺たちはS級冒険者になったんだ!」


「「「あははははははははははっ!」」」

 

 ◆ ◇ ◆




 その日も俺たちは討伐クエストを受けていただけだった。それなのに、何かがおかしい――――


「おい、一体どうなってるんだ! この辺りのモンスターは簡単に倒せたはずだろ。何でこんなに苦戦してんだよ!」


 前よりもモンスターが強く感じる。いつもの俺様ならイージーモードだったはずだ。


「くっ! これは能力向上バフが掛かってないからじゃないのか。認めたくはないが、アキのスキル【専業主夫】で作った戦闘糧食レーションやポーションの効果が無いせいかもしれないぞ。グリード」


 俺の横で戦っているラルフが苦々しい顔で言った。


「そんなはずはねえっ! アキ一人が抜けただけで俺たちが苦戦するはずなんかねえんだよ! おい、サラ! 魔法で援護しろよ!」


 サラに声をかけるが、彼女は襲い掛かるモンスターを倒すのに手いっぱいのようだ。


「やってるわよ! うるさいわね! こっちだって忙しいのよ! そもそも私は攻撃魔法メインで支援魔法は使えないんだから!」


「クソッ! 消耗が激しい、誰かポーションを用意しろ! おい、サラ!」


「それはアキが全部管理してたんでしょ! 私に聞くんじゃないわよ!」


 何もかもが上手く行かない。ボスモンスターに辿り着く前に苦戦しまくりだ。


「きゃあぁああああ! 何で私がこんな目に遭わなきゃならないのよ! もうっ、アキが居れば、こんなに苦労しないのに! グリードがアキをクビにしたのが原因でしょ!」


「うるせぇええええ! 俺のせいにするんじぇねえ! サラだってアキの追放に賛成してただろうが!」


 その日は、何もかもが上手く行かなかった。討伐対象のゴブリンロードまで辿り着かす、俺たちはギルドに引き返すことになってしまう。


 ◆ ◇ ◆




 やっとのことで冒険者ギルドまで戻ったのは良いが、受付嬢からは俺をイラつかせる言葉が発せられた。


「このクエストでは討伐対象のゴブリンロードを倒さないと報酬は出ませんね」


 苦労してゴブリンやホブゴブリンを多く倒したというのに、報酬がゼロなど納得できるはずがねえ。


「おいっ! こっちは大量のゴブリンを倒してんだ!」

「ですが、このクエスト達成条件はボスの討伐ですから」

「うるせぇ! とっとと金を出せよ!」


 バンバンバンバンバンッ!


「俺をイラつかせるな! 俺らはS級冒険者だぞ! 誰のおかげで王都の治安が守られてると思ってやがるんだ!」


 俺は受付のテーブルを叩いて怒鳴り付ける。大抵の女は恫喝どうかつすれば言うことを聞くのだ。俺は今まで、これで何人も女をモノにしてきたのだから。


「や、やめてください。きゃっ!」

「オラッ! 早く報酬を払えよ! 倒した分だけでも払えってんだよ!」

「できません、規定ですから。やめてっ!」


 ガシッ!


「やめるんだグリード!」


 その時、後ろから現れた男に、俺の腕は掴まれた。


「はあ? 何だテメェ! って、ギルマスかよ……」


 現れたのは、このギルドを仕切っているギルド長のガイナークだ。


 何でも昔は国家冒険者の中でも英雄と呼ばれていた戦士らしい。険しい眼光と屈強な体をしながら、妙に落ち着いた雰囲気がいけすかねえ。


「おい、その手を離せよ!」

「受付嬢を脅すのを止めればな」

「お、俺に指図するんじゃねぇ!」


 鍛え抜かれたガイナークの腕がガッチリと俺を掴んで離さない。


「お、おい、俺も悪気があった訳じゃねえんだ。討伐した分だけでも報酬を貰おうとしてな……」


「クエストの条件を確認しなかったお前さんが悪いな。前はクエストの管理はしっかりしていたはずだが。煌く剣戟シャイニングソードも落ちたものだな」


「う、うるせぇ! 前は、あのザコ野郎が全部やってたんだよ。慣れてねえだけだ」


 雑用は全てアキにやらせていた。俺は強いのだからやる必要がない。


「そうか、あの支援スキル使いの若者をクビにしたのか。あれは、お前さんが思う以上に貴重な人材だったのに残念だ」


「は? あんなザコは要らねえんだよ! 俺たちはS級冒険者だからな」


「誰のおかげでS級になれたのも分からないとは情けない。このまま成果が出せないようなら、国家冒険者への推薦も取り消さねばならないな」


「なっ! 何だと…………」


 ◆ ◇ ◆




「クソッ! クソッ! クソッ、クソッ、クソッ!」


 酒屋に移動した俺たちは愚痴を言いまくる。


「どいつもこいつも俺をイラつかせるぜ! ああぁ、イライラする!」


 くだを巻く俺に、ラルフが言い放つ。


「やはりアキを追放したのは間違いだっだかもしれないな」

「ラルフ! お前が追放しようって言ったんだろが!」

「俺のせいにするなよ。リーダーはお前だろ」

「何だとコラッ!」


 俺たちの喧嘩にサラまで喚き始めた。


「ちょっと! 私はゴブリンに襲われかけたのよ! もう嫌ぁ! こんなパーティ!」


「うるせぇええええ! 次は必ず討伐してやるよ! 今回は準備が足りなかっただけだ。ポーションやアイテムを揃えれば簡単なんだ! 俺たちはS級冒険者なんだからな!」


 俺たちは愚痴を言いながら飲み明かした。次は必ずボスを倒すと誓いながら。


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