第4話 必要としてくれているのなら

 追放され新たなパーティーを探していた俺だが、やっと誘われたのが何やら訳ありの捕食姫プレデターである。


 たとえ少々問題の有るパーティーでも入れて欲しいと願っていた俺だが、さすがに欲求不満なお姉さんだらけのパーティーではやっていける自信が無い。


「俺もパーティーを探しているのだが、その、女性だらけのパーティーはさすがに躊躇ちゅうちょすると言うか……」


 やんわりと断ろうとするが、レイティアがグイっと顔を寄せてきた。


「アキ君、それは問題無いぞ。ボクたちパーティーには男手が足りていなくてね。ちょうど男を探していたところなんだ。いや、むしろ男が欲しいんだ」


「あ、あの、顔が近いです」


 相変わらずグイグイ来る女だ。なまじ美人なだけに困ってしまう。


「実のところ……ボクたちは家事が壊滅的なんだ。誰も料理が作れなくて、毎日が飢え死にとの戦いさ。ははっ!」


「は?」


「家計や作戦の管理もいい加減でね。個々の戦闘力は強いのだが、何故かクエストは失敗続き。お金も底をつき破綻状態なのだよ。いやぁあっ、困った困った」


 パーティーは破綻状態と言ったのはそういうことか。


「それなら俺じゃなくても管理が得意な人を勧誘すれば良いですよね」


「アキ君、ボクたちは男なら誰でも良いわけじゃないんだよ。ギルドでは変な噂が広まっているようだけど、ボクたちは皆……だ、男性経験は無いんだからな」


「えっ、そ、そうなんですか……」


(マジか! 巷では捕食姫プレデターにはドスケベ女しかいないとか言われているのに、意外と貞操観念が高いのか?)


「当然だ、女だけのパーティーに男を加入させるのだから、邪な心を抱く輩を入れるわけにはいかないからな」


 若干、邪な心を抱くサキュバスが居た気もするが、そこは大人しくスルーしておく。


「俺なら良いのですか?」


「もちろんだ。ボクの目に狂いはないからな。キミは見ず知らずのボクを助けてくれたし、何の見返りも求めなかった。キミは良い人だよ」


「なるほど。でも、俺のスキルは、ハズレスキルと噂れれる【専業主夫】ですよ。パーティーの役に立つかどうか」


「何を言っているんだキミは! ハズレスキルだなんてとんでもない。あれは使いようによっては超レアスキルなんだぞ。アキ君のスキルはボクたちパーティーに必要不可欠なんだっ! キミが必要だ、頼むよ」


 そう言ってレイティアが頭を下げる。


(そんなに俺を必要としてくれているのは嬉しいな。あれだけ散々利用され捨てられた身の上からしたら有難いことだ。よし、若干不安はあるけど、このパーティでやってみようかな?)


「そこまで言うのでしたら――」

「ちょっと待ちなさいよ」


 それまで黙って話を聞いていたシーラが口を挟んできた。


「アキって言ったわよね。アキのスキルが必要なのは理解したけど、アタシはまだそのスキルを見てないのよね。それを見るまでは認められないし」


 強気なシーラだが、横に座っているアリアが止めに入った。


「シーラちゃん、せっかく好みの男の子が入ってくれそうなのに余計なことしないで」

「あんたの好みは関係ないし」

「でも、これ以上家賃を滞納すると、この家も追い出されちゃうのよ」

「そ、それは……」


 どうやら彼女たちのパーティーは、この一軒家を拠点にして寝泊まりしているようだ。家を追い出されそうなほど困っているのだろうか。


「分かりました。では、俺が皆さんの目の前で料理を作りますから、食べてから判断してください」


 俺は話しながらテーブルの上に料理道具を並べる。



「スキル、専業主夫! 創成式再現魔法術式展開!」

 ギュワァアアアアアアーン!


 鍋の中に固有結界を生み出し料理を再現する。前回の栄養価に寄せた戦闘糧食レーションではなく、少しだけ味に寄せた煮込み料理だ。


 味噌みそという謎の食材を使って煮込んでいる。何故かはわからないが、俺のスキルには基本骨子として、味噌みそ醤油しょうゆ味醂みりんという調味料が備わっているのだ。

 この世界には存在しない調味料なので、もしかしたら異世界の産物かもしれない。


「できました。味噌煮込みっぽい何かです。温かい内に食べてください」


 皆の前に料理をよそった皿を置く。


「これこれ、これを待っていたんだ」

「美味しそうだわ。アキちゃんの料理」

「へぇ、い、意外と美味しそうね。味はどうかしら?」


 三人の女性がゴクリと喉を鳴らした。つかみはバッチリのようだ。


「前のパーティーでは戦闘糧食レーションしか作ってませんでしたが、今回は俺なりにアレンジした家庭料理にしてみました。どうぞ召し上がれ」


「「「いただきます」」」


 良い匂いに誘われるように、皆が一斉に食べ始めた。


「あむっ、あむっ、やはり美味いぞ。アキ君のスキルは凄い能力だ。味もさることながらバフ効果で各パラメーターが軒並み上昇しているのが分かる」


 レイティアが俺を褒めるのが、何だかくすぐったい。凄く強いと噂される女剣士に認められるのは嬉しいものだ。


「うふふっ♡ 本当に美味しいわね。アキちゃんの熱いのが私の体の奥にジンジンしてぇ♡ 火照っちゃうわぁ♡ 何だか興奮しちゃう♡」


 アリアも喜んでくれているようだ。言い方がアレなのと目つきが妖しいのは見なかったことにしよう。


「んっ、な、中々やるわね。美味しいじゃない。確かにバフ効果が有るわね。良いんじゃない、パーティーに加えても。か、勘違いしないでよね! アタシはパーティメンバーとして言ってるんだから。あんたのことを気に入ったわけじゃないんだからね!」


 シーラの許可も出た。聞いてもいないのにツンデレっぽいことを言っているのは何なのか。


「ありがとうございます。そんなに俺のスキルを喜んでもらえるなんて嬉しいです。前のパーティでは役立たずとかザコとか言われましたから」


 俺の言葉にレイティアが気色ばんだ。


「おい、誰がそんなことを言ったんだ! アキ君のスキルはパーティーに必要不可欠なものだぞっ! 食事というのは生きるのに絶対必要だから。それに、アキ君のはバフ効果も凄いし、実はとんでもないレアスキルなのかもしれない。キミのスキルを理解できなかったなんて、そのパーティーメンバーが愚かだったのだろう」


「あ、ありがとう……。そう言ってもらえると救われた気持ちになるよ」


 優しい言葉をかけてもらい、胸に熱いもの込み上げてくる。俺を必要としてくれている人がいるのだ。


「よし、これで新たな仲間も加入して、新生閃光姫ライトニングプリンセスの始動だ!」


 ふと、レイティアの言葉が引っかかった。


捕食姫プレデターじゃないのですか?」


「それはギルドで男どもが噂しているあだ名だぞっ! 正式名称は閃光姫ライトニングプリンセスだっ! うら若き乙女が、自分で捕食姫なんて付けるわけないだろ。どんなネーミングセンスだよ」


「た、確かに……」


 手刀で眠らせてアジトに連行したり、淫魔サキュバスお姉さんに襲われそうになったりと、捕食姫の方がピッタリな気もするが、そこは言わないでおいた。


「よしっ! ではアキ君、さっそく借金返済のために討伐クエストに行こうか」

「は?」


 俺を受け入れてくれたメンバーに感謝したのも束の間、新たな難題が降りかかってきたのだった。


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