第2話 そしてお姉ちゃんに連行される
スキル専業主夫、創成式再現魔法術式――――
魔法により料理を生み出すスキルだ。俺の経験により蓄積された知識が、鍋の中に固有結界を作り料理を再現する。
ギュワァアアアアアアーン!
「な、ななな、なんだこの魔法はぁああああ!」
目の前の女性が叫んだ。俺のスキルが珍しいのだろう。
「完成しました。質素な
そう言って女性の前に料理の乗った皿を差し出す。肉と野菜を小麦粉で包んで焼いた何かだ。
「こ、これは……ごくりっ……。はぐっ! はむっ、はむっ、うっ、これは意外と……もぐもぐ……美味いじゃないか」
一心不乱に料理を食べていた女性が立ち上がる。一瞬、短いスカートから下着が見えそうになり、俺は横を向いた。
「た、体調はどうですか?」
「凄いっ! 凄いぞこれは! ボクの各パラメーターが軒並み上昇したのを感じる。これはかなりのバフ効果があるようだぞっ」
「ははっ、俺は支援魔法だけは得意なんですよ。攻撃スキルは皆無なんですけどね。人からはハズレスキルと呼ばれてますけど」
「これがハズレスキルだと? とんでもない! もしかしてキミ、どんな料理でも再現できるのかい?」
「たぶん、自分が食べたことがある料理とか、材料と調理方法を知っているものなら。このスキルで食べ物にだけは困らないのですよ。まあ、パーティではザコ扱いされクビになってしまったのですが……」
「キミは自分のスキルの凄さが何も分かっていないのか! 今、キミは鍋の中で固有結界魔法と、構成素材の複製と、制作技術の模倣を同時に行ったのだぞ」
難しいことはよく分からないが、どうやら俺のスキルは相当に珍しいものらしい。
「これは……この男が居ればボクらのパーティの惨状が解決するかもしれないぞ。それに、王都中の名店料理をパクらせ……じゃない、再現させれば……毎日が美味しいもの食べまくり……ぐふっ、ぐふふっ」
目の前の女が、ちょっと悪い顔をしている。
「よし、決めた! キミ、今パーティーをクビになったって言ったよな?」
「は、はい、言いましたが」
「ではボクらのパーティー
「えっ?」
突然パーティに勧誘された。ただ、
「申し遅れたね。ボクの名前はレイティアだ、レイティア・グランサーガだぞっ。よろしくね」
「あっ、俺はアキ・ランデルです」
お互いに自己紹介をする。
「よし、アキ君、ボクのことはレイティアお姉ちゃんと呼んでくれたまえ」
「あの、歳は同じくらいですよね?」
「アキ君は何歳だ?」
「18ですが」
「ボクは19歳だ。一つ年上だからお姉ちゃんだぞ」
「一つだけでそんな……あっ!」
ガシッ!
レイティアお姉ちゃんと自称するその女性が、無理やり俺の腕を引っ張った。
「ま、待ってください。また加入するとは……」
「ボクらのパーティー
「それ絶対ダメなやつぅうううう! ブラック企業の
「いいから来るんだ。こんな美味しそうな男……じゃなかった、美味しそうなスキルを放っておけないぞ。じゅるりっ! くくっ、これは良い男を見つけたぞ」
グイッ!
俺を掴んでいるレイティアの手に力が入る。そのまま俺は持ち上げられ、地面から足が浮き上がってしまう。
「ぐふふっ! ボクには勝てないよ。ボクは滅茶苦茶強いからね。ほら、聞いたことがあるだろ? 竜族の血を引く女剣士の話を」
レイティアの言葉で全てが繋がった。王都には誰もが恐れる超地雷系欲求不満女と噂されるパーティーが存在するのだと。
その名は、
美女なのにヤバい女しかいない、エッチなお姉さんたちの禁断の花園である。
「りゅ、竜族の血を引く女剣士……レイティア・グランサーガ……。強過ぎて男に避けられ、万年欲求不満の……」
「そそ、それ以上言うなぁああああ!」
ドスッ!
「ぐえっ」
「か、確保ぉおおおお!」
お手本みたいな手刀を首に打ち込まれた。
薄れゆく意識の中、俺はレイティアの肩に担がれて、ムッチリ柔らかな胸に顔を埋める。むせかえるような彼女の甘い匂いを胸いっぱいに吸い込みながら。
視界が暗転し意識が遠くなる。柔らかな彼女の胸の中で
◆ ◇ ◆
目が覚めると、そこは甘く危険な若い女の匂いがするベットの上だった。どうやら俺は、女子が毎日使っているベッドに寝かされているようだ。
「あ、あれっ……俺は……」
(そうだ、思い出した! 俺はレイティアという女剣士に
視界がクリアになると同時に、頭の中も整理されてゆく。自称レイティアお姉ちゃんという欲求不満女子の噂まで。
「あっ……そ、そうだ、
その時、不意に俺の顔を覗き込む女が現れた。
「あら? 目が覚めたのかしら」
視線の先には優しそうな顔をした女が見える。フワフワで
「あ、貴女は……?」
「私はアリアよ。貴方はアキちゃんだったかしら」
「い、いきなりちゃん付けですか」
「うふふっ、ダメかしら?」
「ダメ……じゃないけど……」
いきなり馴れ馴れしい女なのだが、何故か逆らえない。何かの魔法にかかったかのように、その女の瞳と声に魅入られてしまった。
タイトでありながら隙の多い服からは、柔らかそうな体が見え隠れしている。出るとこは出ているのに引っ込むところは引っ込んでいる魅惑のボディだ。
「って、あれ? ツノ……?」
彼女の頭には小さな二本のツノが生えていた。それが生えているのは魔族の証である。
「あっ、これ? あははぁ、見つかっちゃった」
そう言ってアリアは寂しそうな顔をした。
人間と魔族、この二つの種族は争いの歴史を重ねてきた。およそ千年間にも及ぶ血で血を洗う惨劇の歴史を。
だが百年前、長く続いた戦争は終わり、徐々に交流が始まり今に至る。
昔のように表立っていがみ合ってはいないのだが、今でも魔族を嫌う者は多い。
「あの、アリアさんは魔族なんですか?」
「そうよ、私には魔族の血が流れているの。怖い?」
「い、いえ。怖くないです。アリアさんは優しそうですし」
「えっ、あのっ、そ、そうなんだ……」
アリアの顔が赤くなった。照れているのだろうか。
「も、もうっ、そんなこと言ってぇ。優しくされると、お姉さん本気にしちゃうぞっ♡」
アリアが少しふざけたように言う。
「俺は本気で言ってますよ。魔族の血を引いているからといって忌み嫌ったり差別する人は最低です。人間だって魔族だって良い人もいれば悪い人もいる。種族じゃなく本人を見るべきですよね」
きゅぅぅぅぅーん♡
アリアから何か危険な音が鳴った気がする。
「くふっ、くふふっ♡ こ、これはチャンスね。やっと見つけた。私を受け入れてくれる男を……。レイティアちゃんったらぁ、良い人を拾ってきたわね♡」
「ん?」
俺は肝心なことを思い出した。もしかして、もしかしなくても、ここが
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