第121話 パーティー当日へ
フランツとマリーアが珍しく恋バナをしていると、ハイディとグレータ、ルッツの話が終わった。
「フランツ、二人のことは私に任せて!」
テンションが高めなハイディのその言葉に、フランツは安心して頷く。
「ああ、よろしく頼む」
するとグレータとルッツが、フランツに向けて勢いよく頭を下げた。
「フランツ、今回は本当にありがとう! あんたのおかげであたしたちの今後が開けたよ!」
「マジでありがとな! フランツたちと出会えて良かったぜ……!」
「礼には及ばない。私はハイディを紹介しただけだからな。後ろ盾を得ることができたのは、二人の実力だ」
本心から告げたフランツの言葉を聞いて、二人の瞳には感激の色が滲んだ。そしてグレータがフランツの腕をバシッと強めに叩く。
「フランツは本当にいい男だね!」
「俺もフランツみたいになりたいぜ……!」
二人からのそんな言葉に苦笑していると、ハイディがパンっと手を叩いてその場を纏めた。
「じゃあグレータとルッツ、二人は執事と打ち合わせをしてね。その後はこの屋敷にいてもいいし、工房に戻ってもいいし好きにしていいよ。とりあえず、この屋敷にも二人の部屋は作っておくから」
「はいっ。ありがとうございます!」
「よろしくお願いしますっ!」
これからは上司的な立場になるハイディにビシッと答えた二人は、フランツとマリーアに笑みを向ける。
「改めて今回は本当にありがとう。何か欲しい魔道具があったらいつでも言ってくれ。フランツたちからの依頼なら最優先で作るよ」
「また会いにきてくれよな!」
ここでとりあえずの別れとなる二人からの挨拶に、フランツとマリーアは穏やかな笑顔で応えた。
「ありがとう。何か欲しいものがあれば連絡させてもらう。またハイディと共に魔道具研究をするのであれば、会う機会もあるはずだ。これからもよろしく頼む」
「わたしもまた会える時を楽しみにしてるわね。あとできれば、カタリーナにも声をかけてあげて。一人だけ挨拶できなかったって後で知ったら、多分拗ねるから」
笑いながら伝えられたマリーアの言葉に、グレータが苦笑しつつ頷く。
カタリーナはしっかりとした芯を持ち、一人でも生きていけるような強さを持っているが、結構寂しがりやな部分もあるのだ。
「もちろんだ。声をかけにいく」
「ありがとう」
そうして挨拶が終わったところで、屋敷の使用人に案内されながら去っていくグレータとルッツを見送った。
「じゃあ、またな!」
ルッツの元気な言葉に手を振って、二人とはしばしの別れだ。二人の姿が見えなくなったところで、瞳を輝かせたハイディがフランツとマリーアを振り返った。
「二人とも、研究しようか!」
切り替えが早すぎるハイディに、二人は共に苦笑を浮かべる。しかし研究をするのは元々の約束なので、素直に頷いた。
「分かった。しかし、ちゃんと休息はとりながらだぞ」
「わたしは魔道具について初心者なんだから、それも忘れないでよね」
「もちろんもちろん。まずは何からしようかな〜!」
本当に納得しているのか怪しいハイディの適当な返答に不安を覚えながら、二人は軽い足取りで研究室に入るハイディの後に続く。
そしてそれからの一週間は、マリーアがげっそりするほど研究漬けの日々となった。
トレンメル公爵家で過ごす一週間はあっという間に過ぎ去り、ついにパーティー当日だ。パーティー会場はトレンメル公爵家の離れに位置している大きなホールで、すでに続々と参加者が集まっていた。
そんな中でフランツたちは、準備を終えて控室で待機している。
「フランツ様……どう、でしょうか」
侯爵家の令嬢として一週間で完璧に仕上げてきたカタリーナは、誰に聞いても完璧と評するだろう可愛らしさだ。
そんなカタリーナから上目遣いで問いかけられ……フランツは爽やかな笑みを浮かべた。
「さすがカタリーナだな。とても可愛らしい」
「か、可愛らしいだなんて、そんな……!」
照れて頬を赤くしているカタリーナのことを、ハイディとマリーアが微笑ましく見守っている。
ちなみにハイディは侍女に整えられたので、カタリーナ同様に文句のない仕上がりだ。そしてマリーアも冒険者としてパーティーに出席するにあたって、ちょうど良いドレスを着ていた。
カタリーナがとにかく可憐で可愛らしい仕上がりだとするなら、ハイディは明るく元気さのあるドレス、そしてマリーアは余計な装飾のない美しいドレスだ。
そんな三人に負けないよう、フランツも装飾過多で豪華な服を着こなしている。想定以上の豪華さになったのはカタリーナの指示だが、フランツはそんな服装も着慣れているため着こなしは完璧だ。
「そうだ、マリーアはそろそろ行かなくて良いのか?」
マリーアは、トレンメル公爵家のお抱え冒険者枠で参加するのだ。フランツたち三人よりも早くに会場入りする必要がある。
ちなみにフランツたち三人は、同時にトリでの会場入りだ。事前にフランツとカタリーナの参加は周知されていないので、会場は騒然となるだろう。
「そうね、そろそろ行ってくるわ。フランツ、カタリーナ、ハイディ、わたしとは他人のふりでお願いね」
ビシッと指を突き立てながら強調したマリーアに、フランツはすぐに頷く。
「分かっている。今回の私たちは貴族としての参加だからな」
「そうよ。そしてわたしはソロ冒険者。ハイディはともかく、フランツとカタリーナと接点があったらおかしいもの」
「ちゃんと分かっているわ。他人のふりだなんて寂しいけれど、マリーアもパーティーを楽しんでね」
カタリーナの気遣わしげな言葉に、マリーアは苦笑しつつ頷いた。
「ええ、そこは心配しないで」
――三人と関わらずに一人で気楽な方が楽しめそうよね。こうなったら、美味しいご飯を端から食べてやるわ。
「じゃあ、またパーティーが終わった頃に」
マリーアはそう言いながら軽く手を振って、控え室を出ていった。
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