第118話 パーティーに参加
フランツとカタリーナの言葉に現状を把握したハイディは、落ち込むように肩を落とした。そして難しい表情で考え込む。
そんなハイディに、さらにカタリーナが声をかけようとしたのをフランツが手で制した。ハイディは興味関心が一つのものに向きすぎるだけで、頭が悪いわけではないのだ。ちゃんと広く物事を見て思考すれば、適切な解決策を考えることはできる。
「問題の大元は、ルプタント商会が素材を独占していること。そしてそれによって、他の商会やルプタント商会と関わりが薄い工房の健全な運営も困難になっている。さらに私への婚約打診と、素材の独占による自然環境への影響も――」
現段階で考えつく問題をぶつぶつと呟いたハイディは、真剣な表情で顔を上げた。
「フランツ、ルプタント商会の素材独占方法は分かる? あと独占してる素材の種類も」
「もちろん分かっている。一番のメインはホーンデッドブルの素材だ。方法は市場に出回る素材の買い占めと、さらに街の近くにいるホーンデッドブルを狩り尽くしているらしい。ただその大量の素材をどうしているのか、詳細までは不明だ」
ホーンデッドブルという名前を聞き、ハイディは大きく反応した。
「一番最悪なところだね……」
やはりそれほどに、ホーンデッドブルの素材は有用なのだろう。
「ルプタント商会が明確な犯罪を犯している証拠は掴めそうなの?」
「いや、それは難しいだろうと思っている。ルプタント商会は黒に近いグレーなところで、今回の事態を起こしているようなのだ」
ここが特に、問題を難しくしている点だ。ルプタント商会が明らかな犯罪を犯しているのであれば、その犯罪を理由に取り締まって、すぐに街の問題は是正できる。しかし犯罪を犯していなければ、強い対処をするのも難しい。
「そっか……」
それからまたしばらく考え込むと、ハイディは覚悟の決まった表情で告げた。
「分かった。じゃあルプタント商会による素材の独占については、新法立案か法の改正で対処するよ。その方が今後に同じような事件が起きないと思うし。――私の魔道具と向き合う時間が減るのは痛すぎるけど……!」
最後に本音を叫んだハイディは、自分の時間を奪ったルプタント商会に対して、ぶつぶつと呪詛の言葉を吐いている。
そんなハイディに苦笑しつつ、フランツは口元を緩めた。
「そこは貴族の務めだ。仕方がない」
「分かってるけどさ〜……はぁ、早くお父様とお母様、お兄様も帰って来ないかな。だから留守番なんて嫌だったんだ」
唇を尖らせて文句を言うハイディに、一度説教をして吹っ切れた様子のカタリーナがビシッと告げる。
「ハイディ様、留守を任されるということは、ご家族から信頼されているということなのですよ! その信頼に応えなくてどうしますか! 貴族令嬢は殿方に嫁げばその家を守る存在となるのです。この程度の留守番ができないようではいけませんわ!」
カタリーナの熱弁に、さすがのハイディも気圧されたのか何度も首を縦に振った。
「た、確かに……そうかも」
「ええ、そうですわ。ですからトレンメル公爵夫妻がこちらにご帰還されるまでに、トーレルの街の問題を全て解決しなくては」
そこでカタリーナは言いたいことを言い切ったのか、少し肩の力を抜く。すると何かを思いついた様子のハイディが、ハッと顔を上げた。
フランツをまっすぐ見つめたかと思うと、楽しそうな笑顔で口を開く。
「フランツ、私の婚約者候補として今度のパーティーに出席してくれない!?」
突拍子もない提案に、フランツは怪訝に思いながら問いかけた。
「……それは、どんなパーティーなんだ? 私が出席することに意味はあるのか?」
「大アリだよ! 今度のパーティーはこの街の魔道具に関わる人たちが大勢集まるパーティーで、さすがの私でも欠席できない規模なんだ。多分そのパーティーで、改めてルプタント商会から婚約の話が出ると思う」
そこまでの説明を聞いただけで、フランツは大体の事情を理解できた。要するにそのパーティーで、ルプタント商会が婚約をあたかも事実であるかのように喧伝する可能性があるということだろう。
そしてハイディにそれを上手く躱すのは……不可能とは言わないが、難易度が高いことだ。
「法律面の整備はパーティーまでに間に合わないんだな?」
「うん。全然間に合わないと思う。だってパーティーは一週間後だから」
一週間後という日程に、フランツはついため息を溢してしまった。あまりにもタイミング良すぎるそのパーティーは、ルプタント商会が裏で手を回して日程を決めたのだろうとすぐに分かったのだ。
「フランツ、お願い。私の婚約者候補として一緒にパーティーに出て……! フランツがいれば、ルプタント商会は絶対に婚約打診を強行なんてできないでしょ? 私が一言フランツがいるからって言えば、婚約を諦めてくれるはず!」
ずいっと身を乗り出す形での頼みに、フランツは悩む。友人を助けたいし、この街のためにもルプタント商会の好きにさせない方が良いことは分かっているが、貴族社会の中でパートナーとしてパーティーに出席するという事実は案外重いのだ。
「一応確認するが、ハイディは私の婚約者になりたいわけではないのだな?」
「うん。むしろ面倒だから嫌だって思ってる。まあ、お父様が決めちゃったら、仕方がないかもしれないけど……」
「私もそこは同意見だ。トレンメル公爵と父上の決定に従いたい。だからこそ、安易にパーティーに出席しても良いのか悩んでいるのだ」
そこで二人とも口を閉じ、沈黙が場を支配したところで――思わぬ話の流れにわなわなと震えていたカタリーナが勢いよく立ち上がって言った。
「パ、パートナーとして出席なんてしたら、フランツ様が婚約者をハイディ様にお決めになったと世間に認知されますわ! ぜ、絶対にやめるべきです!」
慌てたカタリーナの忠告に、フランツは納得して頷く。
「やはりそうか。ハイディ、さすがにパーティーへの参加は……」
「うーん――あ、分かった!」
良いことを思いついたと言うように晴れやかな笑顔になったハイディは、カタリーナに視線を向けて言った。
「カタリーナも参加すればいいんじゃない!?」
〜あとがき〜
いつも読んでくださっている皆様、ありがとうございます。この度は嬉しい告知があります。
本作ですが――スニーカー文庫様からの刊行が決定いたしました!
発売日は12/27となります。
そしてそれに伴い、タイトルが『帝国最強の天才騎士、冒険者に憧れる』に変更となりました。これからはこちらで覚えていただけたら嬉しいです!
最強騎士フランツの冒険者旅を、書籍でも楽しんでいただけたらと思います。またいろいろと情報が公開されましたら告知させていただきますので、よろしくお願いいたします!
蒼井美紗
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