第116話 友達と一つ目の目的
ライバルだと闘志を燃やしていた相手であるハイディに応援されてしまい、カタリーナは困惑の表情を浮かべながら頷いた。
「は、はい。頑張ります……」
「でもカタリーナ様って私なんかよりよっぽど可愛いし、絶対に選ばれる気がする。何か得意なことはあるの? あっ、冒険者として一緒に行動してるんだし戦えるとか」
「一応、戦いは得意です」
控えめにそう答えたカタリーナにフランツが口を挟む。カタリーナの戦闘力の高さは、一応ぐらいではないのだ。
「ハイディ、カタリーナは凄いぞ。その力の強さならば私以上だ。カタリーナならば、硬い素材を一撃で砕けるかもしれないな」
今までカタリーナへの興味が薄そうだったハイディだが、フランツの言葉を聞いて一気に瞳を輝かせた。ずいっとカタリーナの顔を覗き込むようにして、高揚した声で告げる。
「それ本当!?」
「え、は、はい。自前のナックルを装着すれば、そこそこの硬さの鉱石ぐらいなら砕けると思います」
さらに困惑を深めたような表情のカタリーナとは対照的に、ハイディの表情はどんどん輝いていく。
「もしよければ、いくつか鉱石を砕いてくれない!? 巨大な鉱石は少しずつハンマーやノミで割って使うんだけど、一気に細かくできたら凄くありがたくて!」
「わ、分かりました……」
「本当!? ありがとう!」
ライバルだと思っていた相手が応援してくれるどころか好意的な眼差しを向けてくるという現状に、カタリーナは貴族令嬢らしい笑みも忘れ、半ば呆然としていた。
そんな状況をほぼ正確に理解しているのだろうマリーアが、苦笑を浮かべつつ話に割り込む。
「わたしはマリーアです。よろしくお願いします。風魔法だけはフランツに負けません」
ハイディに最低限の興味を持ってもらえるようにだろうか、マリーアは簡潔にそう伝えた。するとフランツがさっそく補足をする。
「マリーアの風魔法は本当に凄いぞ。私はそのコントロールや威力など、さまざまな面で勝てない。風魔法で荷物を持ち運ぶ方法があるだろう? マリーアは手で支えることなく魔法だけで物を浮かべられるのだ」
その説明を聞いて、ハイディはマリーアの手もガシッと掴んだ。
「ぜひ仲良くなりたいな! その魔法は魔道具作製にも素材採取にも有用で、特に魔道具作製の効率がどれほど上がるのか……私の助手にならない?」
「それは、ごめんなさい」
マリーアが困ったような表情で断ると、ハイディは残念そうに眉根を下げる。しかしすぐに切り替えたのか、もう一度笑みを浮かべた。
「まあいっか、とにかく友達になろう。あっ、カタリーナもね。二人とも私のことはハイディって呼んで。敬語も全くいらないから」
二人の手を交互に握ってぶんぶんと上下に振るハイディに、カタリーナはまだ困惑したまま、マリーアは苦笑を浮かべて頷いた。
「分かりました……」
「分かったわ。よろしくね」
「うん! カタリーナはまだ固いよ? 強制はしないけど、身分とかは全く気にしなくていいからね」
敬語を崩せないカタリーナにハイディはそう告げ、自分の中で二人との挨拶は終わりとなったのか、次はグレータとルッツに視線を向けた。
「それで、そっちの二人は? フランツの仲間じゃないの?」
その言葉にフランツが二人の横に立ち、二人を手のひらで指し示す。
「実はこの二人を紹介することが、今日ここに来た目的の一つなんだ。こちらの女性がグレータ、とても優秀な魔道具師だ。そしてこちらはルッツ、グレータの弟子として同じ工房で働いている」
フランツに視線で促された二人は、ぎこちない動きで頭を下げた。
「あたしは、グレータです。この街で魔道具工房を開かせてもらってます」
「俺はルッツです。グレータさんのところで、その、修行中です」
「グレータとルッツだね。……それで、私は何をすればいいの?」
そう言って首を傾げたハイディに、フランツは本題を告げた。
「二人の、特にグレータの後ろ盾になって欲しいと思っているんだ。グレータは本当に優秀な魔道具師で、丁寧な上に正確で、さらに素早く作業をこなせる。グレータの才能が潰れないよう、ハイディの力を貸してくれないか? 才能が潰されるのは国の損失だからな」
フランツの言葉を聞いたハイディは、興味深げにグレータのことを見つめる。そして口角を上げながら、ポツリと呟いた。
「フランツがそこまで言うなんて楽しみだね〜。どうしようか……そうだ、二人にはちょっとした作業をしてもらおうかな。その結果を見て判断する。それでいい?」
ハイディの問いかけにグレータとルッツが何度も頷き、フランツも拒否しない。
「私としてはもちろん構わない。ハイディの基準に達しているのか、そこはシビアに見てくれ」
「もちろんだよ。じゃあ、何をやってもらおうかな〜。基本的な魔道具作製か、研究を少し引き継いでもらうか、素材の処理もいいね! あ、あの素材が――」
「ハイディ」
楽しげな笑みを浮かべながら指取り数えるハイディを、フランツは言葉で制して、ハイディの意識をこちらに戻した。
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